265.魔女様、防衛戦を開始します! 魔導巨兵が来襲するも、メテオはやたらと煽ります。一方の凱旋盗は「まだ本気出してない」と頑固に主張しており……
「よぉっしゃ、イリスちゃんも勝ったことだし、うちらの勝ちだよねっ!」
イリスちゃんの勝利を最高に喜ぶ私たちである。
三勝一敗で、大将戦の必要もなくなったのだ。
しかし、ここで思いもよらないアナウンスが入る。
「さぁ、いよいよ最終決戦! 大会の特別ルールで、これに勝つと勝ち星三つやで!」
メテオがうっきうきの声でそんなことを言い出すではないか。
何なのよ、そのルール!?
ちょっと待ってよと、話が違うでしょと、私は思わず二人の席にダッシュしてしまう。
「そんなん言われても、ほら、ここに書いてあるやん? 大会のルールのところに」
詰め寄る私の前で、メテオはたじたじに『運営ルール』なる文書を見せてくる。
そこには小さな文字で「大将戦は勝ち星三つ」と書いてあるではないか。
「はぁああ!? それじゃ、次に負けたらアウトってこと!?」
「……せやな」
仕方ないみたいな顔をするメテオである。
せやな、じゃないでしょうが!
「まぁ、ユオ様ならいけるやろ? ほら、いつもみたいに邪魔な奴はみんな燃やしちゃえばええねん。な? 切り替えていこ」
メテオは一切の緊張感なく、そんなことを言う。
私は別に邪魔な奴を燃やした覚えなんかないんだけどなぁ。
あぁ、もう腹立つ!
しかし、ルールはルールである。
試合開始までにきちんとチェックしておかなかった私も悪い。
そんなこんなで大将戦まで戦う羽目になった私たちなのである。
◇
「出てくるのは誰だぁっ!」
「凱旋盗からはやっぱりあいつが現れたぁっ!」
メテオたちのやかましいアナウンスとともに、凱旋盗との戦いは最終戦へと移行する。
「うぉおおおおっ!」
観客たちはものすごい熱気で闘技場に歓声を送る。
ふぅむ、ものすごい熱気だ。
さて、最終戦の相手は誰だろうか。
凱旋盗からは顔を包帯でぐるぐる巻きにした人が現れる。
雰囲気からすると男の人っぽいと思う。立ち姿とか。
どんな人かは知らないけど、たぶん、街を燃やしてくれた親玉だろう。
よぉし、そうなら話が早い。
燃え吉にコテンパンにしてもらおうじゃないの。
相手は犯罪者でもあり、この際、触手攻撃でも背中ぱかりでも許してあげる。
私の顔をした人形に入るんじゃなきゃ何でもいいわ。
「ええぇっ、俺っちが行っていいんですか!? 大将戦でやんすよ?」
「ユオ様、思い切りがよすぎじゃねぇか?」
そんなわけで燃え吉にGOサインを送る私であるが、当の燃え吉とドレスはびっくりした様子。
まるで、私が出ないのが信じられないみたいな顔である。
皆の知っている通り、私は暴力反対の穏健派領主で通っているのだ。
あの包帯ぐるぐるの人を焦がしちゃったら悪評がたつでしょうよ。
それに、燃え吉なら負けるはずがないとも踏んでいるのである。
っていうか、どうやったらこんな化け物に勝つんだろうか。
「燃え吉、ユオ様、マジで戦わないつもりらしいぞ? どうする?」
「行けって言ってるなら行くしかないでやんすよ? 新しい魔石ボディも手に入ったでやんすし」
「そうだな、最後は変形して捨て身で敵につっこむっきゃないな」
「……嫌でやんすよ。貴様の心も一緒につれていくとか言って、精神を持ってかれるでやんす」
私がGoサインを出すも、ドレスと燃え吉はごちゃごちゃ話しあっている。
ええい、煮え切らない子たちである。
相手の人はもう出てきちゃっているのだし、お待たせするのは悪いんだけどなぁ。
「……くははははは! 茶番はここまでだ、愚か者どもが!!」
私が燃え吉たちをじれったく待っていると、凱旋盗の人が声をあげる。
その声はよく通るいい声だった。
「まもなく俺の手下どもによって、この村は壊滅する! 地獄の軍団、魔導巨兵によってなぁああ! 魔導巨兵は並のモンスターじゃない。アルテマゴーレムをモデルに開発された真の怪物。百年前の戦争の時のように、ここを更地に変えてやる」
それはまさかの不意打ち宣言だった。
あろうことか、あの男、この戦いの裏で兵隊みたいなのを村に仕向けていたらしい。
こっちは正々堂々と試合で勝負しようって思っていたのに、なんて奴!
「ま、魔導巨兵だって!?」
「し、知っているの!? ドレス!?」
「魔王大戦の時に開発された魔力で動く巨人ですわ。街を踏み潰すために開発されたと聞いたことがありやすぜ。こりゃあ素材王の名にかけて、手に入れなきゃなんねぇぜっ!」
「欲しいんだ……?」
ドレスは目をキラキラさせながら、モンスターの背景を教えてくれる。
普通に考えて凶悪そうなやつなのだが、やたらと興奮している。
あわよくばここを抜け出して、素材採集に出て行きそうな雰囲気。
「おぉっとぉおおっ! おもろいこと言うてくれてるでぇ! 魔導巨兵と言いましたっけなぁ?」
「ええぇ、そりゃ大変ですわ! ほな、現場のララさんとアリシアさんにつなげてみましょ!」
驚き焦る私とは対照的に、メテオとクエイクは待ってましたとばかりにまくし立てる。
彼女が合図をすると、闘技場の上に大きなスクリーンが現れ、映像が流れ始める。
今さらだけど、この技術、すごいよね。どうなってんのよ。
「はい、皆様、こんにちは。ララです。まずはアリシアお姉さんの本日のお天気からどうぞ」
「ほ、本当にやるんですか!? 敵が近づいてますけど。……きょ、今日の村の天気は晴れのち曇り。い、今はすっきりと晴れ渡っていますが、ご、午後は雲が少しずつ出て、きゃあっ、来てます! こっちに来てますよっ」
そこに映っているのは、ララとアリシアさんの姿だった。
ララが促すと、アリシアさんは引きつった顔で天気の話を始めるではないか。
一方のララは表情ひとつ変えずなのが、逆に怖い。
「さぁ、こちらに見えるのが凱旋盗のご自慢の魔導巨兵。魔王大戦の際に活躍した魔力で動くモンスターです。うわぁ、大きいですねぇ。強そうです。目をぎらつかせて恐ろしい顔をしています」
そう。彼女の後ろ側には煙を吹き出しながらでっかい巨人みたいなのが歩いてきているのだ。
まさしく岩の巨人といった外見で、ひぇええ、やだなぁ、あれ。
しかし、ララはどうして冷静でいられるのよ。
早く逃げなきゃ潰されちゃうでしょ!?
アリシアさん、顔が青くなってるじゃん!
「それじゃ、クレイモアさん、カルラさん、エリクサーさん、やっちゃってください!」
ララは冷静そのものという口調だった。
彼女はひと呼吸入れると、その場にいる三人に合図を送る。
クレイモアとカルラはわかるけど、エリクサーまでいるの!?
あの子、魔族とはいえ、戦いが向いているタイプとは思えないんだけど。
「よぉしきたっ!」
「……殺す」
「お、おっし、たのまれたのじゃ!」
事前に打ち合わせでもしていたのか、三人は勢いよく返事をする。
「怒れる森の木々たちよ! 無礼な侵入者を縛り上げるのじゃっ! ただでは潰されないのじゃぞっ!」
一番最初に動いたのはエリクサーだった。
彼女が合図を送ると、巨人たちの足に植物が一気に絡んでいく。
うぐごぁあああ!?
数秒もしないうちに、モンスターは歩みを止めるのだった。
そういえば、禁断の大地の森の木々はそもそも硬くて加工しにくい。
それらがモンスターに絡みつけば頑丈な鎖になるのだった。
しかし、これだけじゃ足止めをしただけだよね。
あんなに大きいのを倒せるんだろうか?
「……凍れ」
そして、第二陣がカルラ。
彼女は動けなくなった巨人の足を一気に凍らせてしまう。
相変わらずの無表情で、えげつないことをしてくれる。
「恐々打破っ!」
最後はクレイモアの攻撃だ。
彼女は高くジャンプすると、凍ってしまった巨人を一気にぶったたく!
どっがぁああああんっ!
その威力たるやすさまじく、一発で四肢がバラバラになるのだった。
な、なんつぅ、連携攻撃。
特にエリクサーの足止めはめちゃくちゃ効いてるじゃん!
彼女の植物操作の能力が思った以上に強力だった。
「げげぇっ!? クレイモアの野郎、何も木っ端微塵にする必要はねぇだろうがよっ! ユオ様、あっしは注意してくるぜっ!」
怪物が破壊されるのを見て、ドレスは居ても立っても居られない様子。
彼女は目の色をかえて外に飛び出していくのだった。
あんなに凶悪そうな魔物でも、彼女にとっては素材にしか過ぎないのだろうか。
あの子、でっかい大木と戦っていた時から何も変わらないなぁ。
「うわぁ、弱いやん。ダサすぎやで、魔導巨兵。まさか、もう終わり? 真の実力はこんなんじゃあらへんよなぁ?」
「お姉ちゃん、それはさすがに失礼やろ? 泣く子も黙る魔導巨兵様やで? うちらは黙らへんけど」
クレイモアたちの大活躍を受けて、メテオたちは煽りに煽る。
聞いているこっちは面白おかしいが、あの二人、どんだけ火に油を注げば気が済むんだろう。
しかし、たくさんいた巨人たちもクレイモアたちによってばんばん倒されている。
交戦という文字すらふさわしくなく、一方的な蹂躙とでも言うべき戦いだ。
凱旋盗の人もこれで少しは懲りてくれないかなぁ。
謝るなら今のうちだと思うけど。
「ふははは! これで終わりだと!? 頭が弱すぎて腹が痛いぜっ! いいか、お前らが必死になって倒した魔導巨兵は囮なんだよっ! お前たちはもうすぐ黄金蟲ギギラスの鱗粉に触れて死ぬことになるのだっ!」
しかし、凱旋盗の人も煽りには強かった。
むしろ、さらなる奥の手があるとか言って、煽り返す始末である。
「な、なんやってー! 黄金蟲やと!?」
「そりゃあ何ちゅう……高級素材……、いや、おっそろしいやつが出てきたで」
「せやなぁ、おいくら万ゼニーぐらいの価値になるんやろうなぁ。あぁっ、ドレスが抜け駆けしてるやんっ! ずるいでほんま」
凱旋盗の人にさらに煽り返す猫人姉妹。
これ、チキンレースみたいにどっちかが破滅するまで終わらないとかじゃないよね?
「ははは、何度でもほざくがいい! ギギラスの鱗粉は回避不能! お前らは全員、ここで死ぬのだ!」
メテオと凱旋盗の口喧嘩バトルは続く。
それにしても、である。
奴は嫌な言葉を口にした。
そう、黄金蟲という言葉である。
過去にも何度かやっつけたけど、できるだけ相手にしたくないモンスターだよね。
鱗粉という言葉から考えるに、大きな蝶とか蛾みたいな化け物だろうか。
それでも、嫌だなぁって思うけど、カサカサしてるのよりはましかな。
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「前回までのしんみりムードどこ行ったよ!?」
「脱いだら女神のお天気お姉さん……」
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