263.魔女様、イリス女王の攻勢に歓声を上げるも、敵の卑怯な反撃に絶句します。そして、いよいよ、防衛戦がスタート!?
「さぁ、死んでもらうぞ、魔族の若造!」
イリスちゃんの背後には大きなバラが咲き誇っていた。
それも普通のバラの花じゃない。
牙が生えているのだ。
その姿はまるでモンスターみたいで、ちょっとぞわぞわする。
こっちに向かってこないでしょうね。
「幼女になったのにめっちゃ強いいぃいいい!」
「悪夢みたいな波状攻撃やぁあああ!」
イリスちゃんの操る白いバラは物凄い勢いで攻撃をしかける。
対する、魔族の人は防戦一方。
それはまるで先ほどの構図をひっくり返したような状況だった。
しかし、戦いを眺めながら、私は少しだけ違和感があることに気づく。
そう、イリスちゃんの攻撃が少しだけワンパターンなのだ。
足や体のごく一部を狙っているかのように見えてしまう。
まるで何かを避けるかのような攻撃。
「やるじゃないかっ! でも、この杖がある限り、僕は負けないっ!!」
対する魔族の人は絶叫しながら応戦する。
彼は次々に魔法陣を生み出すものの、一向に疲れ知らずだ。
あの杖をかなり頼りにしているらしい。
キラキラと輝くあの杖は七彩晶か何かでできているのだろうか。
杖、ふぅむ、杖ねぇ……。
「もしかして……」
ここで私の脳裏には、あの日の会話が浮かんでくる。
◇
それはイリスちゃんの師匠、大賢者レミトトさんの塔に向かった時のこと。
私は魔法の使えなくなったイリスちゃんを乗せて、ぶぉおおんっと飛んでいた。
「……杖のみならず、魔力まで失ってしまうとは、私は女王失格だな」
旅の途中、イリスちゃんはぽつりと口を開いた。
それまでの彼女は自信に満ち溢れていたのに、かなりしんみりした口調だ。
彼女は泣く子も黙る大魔法使いである。
魔力を失ってしまったことにショックを受けているのだろう。
魔力に関しては大賢者のところで治るって言っていた。
だけど、気になるのは杖のことだ。
杖がそんなに大切なものなのだろうか?
「リースの女王には二つのものが必要なのだ。一つは圧倒的な魔力、そして、もう一つは七彩晶の杖、この二つがあって女王として成り立つのだよ」
ぽつりぽつりとした口調で、イリスちゃんはその杖について教えてくれる。
おぉ、そう言えば、学生時代に歴史の授業で歴代の女王陛下の肖像は必ず杖を持っていたのを見た気がする。
「その杖は母親の形見だったんだが、私の代で失われてしまったのだよ……」
イリスちゃんは口ごもりながら言葉を続ける。
大分、話したくない内容なんだろう。
お母さんの形見ってことは、個人的にもすごく大事なものだったんだろうな。
それを失くしちゃったってことは落胆する気持ちは大きいよね。
私だって空間袋をなくしちゃったら泣くよ、いつでも温泉に入れなくなるし。
こんな時に安易な言葉をかけられないっていうのはわかっている。
私の言葉程度で喪失感がなくなるわけがないこともわかっている。
だけど。
杖がないことで女王失格だなんて思ってほしくない。
私は彼女の頑張りを知ってるのだから。
「イリスちゃんは立派な女王様だよ。私だって元・リースの国民だからね。イリスちゃんがすごいって知ってるもの。それに、もしも、イリスちゃんがこのままでも、私が絶対に助けてあげるから」
私は彼女がリースの国を平和に保ってくれていることを知っていた。
事実、私が成長するまで大きな争いはなかったし、平和な時代を満喫できた。
王都は花の都と呼ばれ、大きく発展を遂げていた。
平和を維持するために、きっと私には想像もつかないような苦労がイリスちゃんにはあったんだろうと思う。
「な、生意気なことを言うな。わらわを乗せてくれた礼は言っておくが、魔力まで失うわけにはいかんのだ」
私の言葉を聞いたイリスちゃんは、そんな強がりを返してくる。
少しだけ元気を取り戻したのだろうか。
声のトーンが変わったのを感じる。
「……ユオ、すまなかったな。私の魔力第一主義のせいでお前にイバラの道を歩ませることになった。今さらの謝罪となってしまったが」
彼女のトーンは再びしんみりする。
しかも、である。
私への謝罪の言葉だったのだ。
これにはびっくりだよ。
「ふふふ、そうだね。今回の騒動が終わったら、魔力ゼロでも役に立つ人がいることも分かってほしいな」
「そうだな、肝に銘じておこう……」
「それに、追放されたことは恨んでなんかいないよ。たくさんの友達と出会えるきっかけになったし、温泉だって見つかったからね」
「ふふふ、お前はいつだって温泉だな」
イリスちゃんの声が明るくなったのを感じる私。
それから真っ暗な空の下を、私たちは ずーっと進み続けた。
彼女の心からの言葉を受けて、私の胸の中が温かくなっていくのを感じる。
私は飛びながら思ったのだ。
イリスちゃんも私の立派な友達だって。
そして、いつか、イリスちゃんの杖が見つかればいいなって。
◇
「もしかして、あれが!?」
ここで私の中であることがつながる。
彼女の戦っている相手の持っている杖、あれこそがイリスちゃんの探していた杖なんじゃないかって。
つまりはお母さんの形見であり、それなら大将戦に出ると言っていたイリスちゃんが第4試合に割り込んできたのもうなずける。
「イリス女王の一発一発が重い!!」
「いくら母親であっても、娘にはかなわんのかぁああっ!? うちらと同じやぁあああ!」
闘技場ではイリスちゃんが相手を追い詰めているようにも見える。
確かに彼女の放ついくつもの魔法、特に彼女が操っているあの禍々しいバラは並のものじゃない。
だけど、それでも分かるのだ。
あの魔族の人が杖でカバーしようとするとき、イリスちゃんの魔法の出力が落ちているのが。
逆に言うと、体を狙う時には、それこそ殺すつもりでやっているってことだろうけど。
「ラグナの操るディアナ様、ついに追い込まれたぁああっ!」
「やっぱり、母親は娘には敵わんっちゅう話やでぇえっ!」
幼児の姿になった彼女はそれこそ膨大な魔力を発揮。
いつもの子供の姿でも死ぬほどの殺気を放っているのに、今の姿だとまるで破壊の申し子みたい。
メテオたちのアナウンスの通り、対戦相手は完全に防戦一方。
それどころか、いくつかの魔法が通り始め、魔族の子は肩で息をしているようにも見える。
これなら、勝てる!?
しかし、私の中にまだ何かのしこりを感じる。
あの魔族の人は何かを隠しているような、そんな予感がしているのだ。
「いいねぇ、イリス! やっと僕の本気を引き出してくれたよっ! 喰らえ、禁忌魔法をっ! 【貪欲に喰らう黒真珠】!!」
魔族の男の子の声が響くと、どぉんっという音ととに、赤黒いバラのつぼみが現れる。
それはただのバラではない。
イリスちゃんが発生させた、真っ白いバラの化け物にそっくりなのだ。
しかも、その大きさは数倍の大きさで、闘技場をはみ出そうなほど!
あまりの不気味さに悲鳴をあげる観客さえ現れる。
「こいつは全てを喰らいつくすまで止まらないぞっ! いけっ!」
赤いバラがゆっくりと花弁を開くと、そこに現れたのはトカゲか何かの顔だった。
バラの花弁を首周りにくっつけたオオトカゲみたいな感じ。
ひぃい、びっくり、趣味悪い!
「なんか分からへんけど、めっちゃ強そうなのでたぁああっ!」
「バラトカゲにイリス女王、どうでるんやぁあああっ!」
闘技場に緊張が走る。
と、思いきや……。
ずぅううううううううん………
魔族の男の子の背後に控えていた化け物は闘技場の床に沈んでしまうのだった。
「なぁあああっ!? 何だとぉっ、どうしてっ!?」
これには驚き焦る、魔族の人。
しかし、私は見ていたのだ、イリスちゃんが分裂して化け物を攻撃したのを。
彼女はあのレミトトさんが使っていた分身のような技を使って仕留めてしまったのだ。
「降参するなら、今のうちだ、これ以上は……わかるな?」
「くそがぁああっ!!」
イリスちゃんは相手のとっておきの魔法を潰し、圧倒的な力を見せつけて降参を促す。
相手がお母さんの姿をしているからか、最後の情けをかけてあげたのだろう。
「黙れぇえええええっ! それなら見せてやるよおっ! とっておきをっ!」
しかし、彼はそれを拒絶すると、闘技場の上に浮かんで何かの魔法の詠唱を始める。
彼の後ろには真っ赤な魔方陣が浮かびあがる。
それは最初に見たものよりも、はるかに大きいものだった。
「七彩晶の杖よっ、この場にいる全ての命に死の宣告をっ! 【枯死の花葬】」
彼が魔法の詠唱を終えると、魔法陣から赤黒い腕が現れる。
そして、その腕はこの闘技場全体に伸びると、赤黒いバラの花弁をまき散らすのだ。
バラがひらひらと舞う様子は美しい景色にも見える。
だけど、何ていうか、かなり不気味だ。
「その花びらに触るな!」
イリスちゃんは絶叫し、その声に反応した燃え吉は舞い落ちる花弁に火を噴きかける
しかし、時はもうすでに遅し、
「な、なんだぁっ、俺の頭の上に花が浮かんでる!?」
「何よ、この花、消えないっ!?」
観客席から悲鳴がし始めるではないか。
振り返ってみると、何人もの観客の上にバラの花が浮かんでいる。
それも、数人どころの騒ぎじゃない。
何十人、いや、何百人規模だ。
な、何あれ!?
「くはははは! これぞ壊滅のディアナが得意とした、滅びの薔薇魔法! このバラの花びらが落ちるころには、皆、死んでしまうのさっ!」
ラグナは嬉しそうに解説をする。
それも、尋常じゃなく危険な魔法の解説を。
バラの花びらで死へのカウントダウンをするってことでしょ!?
趣味悪すぎじゃんっ!
観客を人質にとっているわけでイリスちゃんに勝ち目はない。
このままじゃ死屍累々の大惨事が起きてしまうわけで。
「イリスちゃん、大丈夫だから棄権して! 私が何とかしてあげるからっ!」
叫びに叫ぶ私である。
こうなったら、あの魔族の男の子に魔法を解除してもらうしかない。
ちょっと気絶させてでも、ちょっと熱であぶってでも、解除してもらおう。
◇ クレイモアたち、防衛戦にワクワクします
「くふふふ、いい感じのが来たのだぞ?」
「……さっさと凍死させよう?」
「まだ駄目です! ぎりぎりまでひきつけてくださいっ!」
一方、その頃、クレイモアたちは笑みを浮かべていた。
遠くからこちらに巨人が近寄ってきたのだ。
それもサイクロプスの二倍ほどもある大型の巨人だ。
ララはそれすらも陽動かもしれないと、クレイモアとカルラを待機させる。
彼女はゆっくりと近づいてくる敵を眺めながら、ごくりと喉を鳴らすのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「魔女様、殺る気なんじゃないの?」
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