262.イリス、母親の杖を手に入れるために頑張ります! でも、ちょっとだけキレちゃったみたいです!
「貴様、その杖をどこで手に入れたぁあああっ!?」
イリスは目の前の男が持っている、その杖に見覚えがあった。
いや、あるどころの騒ぎではない。
その杖こそが彼女がずっと探し求めていた、母親の形見だったのだ。
突然の幸運に彼女の心が震える。
絶対にあれを取り返さなければならないとイリスは誓う。
「教えないよ? 知りたければ僕を倒してみればっ?」
なぜラグナがそれを持っているかは分からない。
彼はイリスの問いかけに答えるつもりもないようだ。
彼女の脳裏に一瞬だけ、彼が母親の死と関係しているのではという考えが浮かぶ。
しかし、言動から判断して、あの魔族は若い。
その線は薄いだろうとイリスは結論付ける。
そうであれば、誰が?
凱旋盗が?
それとも、この男の属していた第二魔王が?
「君には考え事をしている暇はないよっ! 本当の赤薔薇の力を教えてあげるっ! 僕の七彩晶の杖でねっ! いでよっ、破壊槍の薔薇!」
ラグナが杖を振り下ろすと、彼の周りに複数の赤い薔薇魔法陣が発生。
さらには、猛烈な光線が現れると槍状に変化し、イリスに一直線に向かっていく。
その大きさはイリスの先ほどの魔法よりも、遥かに大きい。
観客たちであっても、ラグナの魔法が強力であることを理解できた。
「くそがぁああああ!!」
イリスは白薔薇魔法陣を防御に用い、なんとか魔法を防ぐ。
しかし、反撃しようとも、とめどなく発生する魔法に手も足も出ない様相だ。
また、ラグナがイリスの母親の姿を取っているのも厄介だった。
偽物だとわかっているにもかかわらず、攻撃のための反応速度が遅くなる。
こんな経験はイリスにとって初めてだった。
「僕はモノの残留思念を具現化できる! この最強の杖を手に入れた僕は無敵だぁああ! 世界で一番、強く、美しいぃいいい!」
ラグナは畳み掛けるようにして魔法を発動。
それもこれも、彼の持つ【思念死者蘇生】という稀有なスキルによるものだった。
それは物に宿る死者の思念を現実世界に復活させることのできる能力だった。
彼の手の中にある杖と彼の能力が掛け合わされた結果、膨大な魔力を発揮できる化け物が生まれたのだ。
「貴様、これ以上喋るなぁっ! 殺してやるぞぉおおおっ!」
イリスは亡くなった母親を冒涜するようなラグナに怒りを爆発させる。
自分が世界で一番尊敬している人物を呼び出し、あろうことか娘である自分との戦いで使っているのだ。
あってはならないことであり、即刻、止めさせなければならない。
彼女は魔法陣を次々と発生させ、偽りの母親を消し飛ばそうとする。
しかし、彼女はもしも杖を破壊してしまったらどうなるのかと躊躇してしまう。
(無傷で取り返さなければならぬのか……)
あの杖は七彩晶で作られた希少な魔法宝具であり、替えは効かない。
破壊してしまっては取り返しのつかないことになるのだ。
イリスは敵の武器を守りながら戦うという、厄介な状況に追い込まれてしまったのだ。
「甘いよっ! さぁ、思い知るがいい!!」
さらに言えば、魔法の連射能力では彼女の母親の方が何倍も優れていた。
ラグナは破壊光線を次から次へとイリスに飛ばし続ける。
イリスは反撃をしようにも、迫りくる赤い光線を弾くだけで精一杯だ。
「おおっと今、情報が入ってきたでぇええ! ラグナの化けているのは先代のリース王国の女王ディアナ様! 百年戦争の英雄、壊滅の赤薔薇やそうです」
「ええと、その攻撃は残虐極まるものの、リース王国の守護者として数々の戦場で武勲をたてた人物。……血は争えませんなぁ」
ラグナの攻勢に観客たちは歓声を上げることができない。
彼らは気づいたのだ、魔族のもつ魔法の恐ろしさを。
ラグナの魔法が自分たちに向いたら即死するのではないか。
もしかしたら、自分たちは戦争を目の当たりにしているのではないか。
もはやこれは見せ物ではないと恐怖で震えるものさえ現れる。
「くはははは! 弱い、弱すぎるよっ! そして、僕はなんて美しいんだっ!」
ラグナは大量の魔法を放つも、一向に疲れを見せない。
彼の魔力はすべて七彩晶の杖からもたらされていたからだ。
その杖はイリスの母親、ディアナが持っていたもので、その中には膨大な魔力が蓄積されていた。
つまり、現在の技術ではもはや作ることのできない古代の魔法宝具を、百年前の大戦で活躍した英雄を復活させて使わせているのである。
もしも、ラグナがその気になれば、人間の都市一つすぐにでも落とせるほどの力を持っているのだ。
「イリス様、手も足も出ないのかぁああっ!?」
「やばいで、これっ! 人類の危機とちゃうのぉおおお!?」
観客の多くが、イリスはこのまま力押しの攻撃に負けて、敗北すると予想していた。
攻撃を撃てない状況では勝ち目など見つかりようがない。
そして、それは魔族の脅威にさらされるということでもある。
観客はもはや歓声をあげることさえできない。
「イリスちゃん、頑張れっ!」
「まだまだでやんすっ!」
「頑張ってくれよぉっ!」
それでもユオたちは大きな声で応援する。
例え、劣勢だとしてもイリスなら何かをしてくれると思ったからだ。
「とどめだぁああっ!」
ラグナは特大の魔法槍をイリスに飛ばす。
それはあまりにも大きく、ただでさえ防御するのに精一杯のイリスに対応できるとは思えない。
英雄と目されていた女王のあっけない最期に観客たちは目をぎゅっと閉じる。
その時だった。
「白銀死の薔薇!!」
がっしゃああああんっ!
真っ白いバラがラグナの赤薔薇魔法陣を貫き、粉々に破壊する。
さらにはガラスの割れるような音が次々と響き、ラグナの魔法陣がすべて消え失せてしまうではないか。
「なぁあああっ!?」
ラグナは驚きを隠せない。
防戦一方に抑え込んでいるはずなのに。
何が起こっているのか彼にはわからなかった。
「ガキが……なめてると……つぶすぞ?」
爆風の中、現れたのはエルフだった。
しかし、その姿はさきほどまでいたイリスの姿ではない。
彼女は通常、10歳前後の少女の姿をしているのだが、今の彼女はさらに幼かった。
「おぉっとぉおおおお! どういうことや、女王陛下も変身したでぇええ!?」
「ほ、ほんまや! もっとちびっ子になってる!」
観客たちはイリスの変化に大きく目を見開く。
しかも、である。
明らかに幼くなっているイリスから、膨大な魔力が放出されているのだ。
彼女の周りに白いバラのしげみが生まれ、闘技場の床を占領していく。
白いバラはうねうねと踊り、その様子はまるで竜型モンスターのヒドラのようだった。
「貴様には死んでもらうぞ?」
イリスは禍々しいほどに美しいバラを召喚。
そのバラは死神のバラと呼ばれ、敵意を向けているもの全てを食い尽くす。
「ふふふ、子供になっちゃってどうしたの? そんなもので僕に勝てるとでも!?」
しかし、ラグナはひるまない。
彼の持つ杖にはまだまだ膨大な魔力が蓄積されており、魔法勝負で負けるはずがなかった。
「赤薔薇の精よっ! 敵をズタズタ切り刻めっ! 【精霊の代償】」
ラグナは巨大な赤いバラを出現させる。
その花弁一つ一つを飛ばし、相手を切り刻む魔法である。
発動すれば、数千の刃がイリスを襲うだろう。
「甘いわっ!」
しかし、イリスの白いバラにはまるで猛獣のような牙が生えていた。
それは猛烈な速度で伸びると、赤いバラに食らいつく。
結果、ラグナの魔法は本格的に発動する前に崩れ去るのだった。
「つ、強い……」
「さすがはイリス様だぁああああ!」
これまで魔族の圧倒的な力におののいていた観衆たちは大声で歓声を浴びせる。
まるで救い主が現れたかのような気持ちだった。
「イリス様がどうして幼女化したのか情報がはいったでぇえ! 特定のエルフは魔法を使う際に、もっとも適した姿になれるんやそうですっ!」
「すっごいやん、それ!」
「イリス様の場合には第二形態があれやそうですっ! ちょっと性格が粗暴になるかもっ!」
「変身する化け物みたいに言うなっ!」
メテオとクエイクの迫真の解説に観客たちは大きくうなずく。
なるほど、あの変身には意味があったのだと。
そして、イリスは猛烈にラグナを攻め立て始める。
まだ致命傷を与えるには至らないが、先ほどまでの劣勢が嘘のようだ。
先ほどまで黙り込んでいた観客たちは、イリスの雄姿に歓声を送るのだった。
「ひぇええ、イリスちゃん、あの大賢者さんにそっくり……」
一方、ユオはイリスの姿に、あの大賢者レミトトの姿を重ね合わせる。
もっとも、レミトトはイリスのように殺気たっぷりのオーラを発してはいなかったが。
彼女は精一杯の声でイリスに声援を送るのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「幼女化して強くなる?」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークやいいねもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。






