261.第四試合、よりにもよってあのお方が出てくる
「波乱の展開やでぇええ! 今のところ、禁断の大地側が二勝一敗でリードやでぇええ!」
「運命を決める第四試合、次に出るのは誰やぁああ!」
誰も見ていない間に決着がついてしまった第三試合にも関わらず、闘技場は歓声に包まれていた。
それもこれも、メテオとクエイクの煽りによるものであり、彼女たちのアナウンスは非常に優れていたと言わざるを得ない。
もっとも、メテオもクエイクも内心、冷や冷やしていたのだが。
そして、次の第四試合が始まる。
ここで勝利すれば、禁断の大地側は三勝である。
つまりは勝利であり、戦いに勝つことができると踏んでおり、決して落とせない戦いだった。
「おぉっとぉおおおお! 凱旋盗からは魔法使いっぽい兄ちゃんが出てきたでぇっ!」
「顔はめっちゃええやん! 顔は!」
現れるのはすらっとした体格の魔族の男だ。
もっとも顔立ちからすると、少年と言ってもいい年齢に見える。
彼は七色に輝く杖を持ち、にこやかな笑みを浮かべていた。
銀色の髪がサラサラと揺れ、これには闘技場の女性達もうっとりである。
「よぉっしゃ、あんの野郎、なんだかムカつくでやんす! ぎったぎたにするでやんす!」
「その意気だぜ、燃え吉! あっしも顔のいいだけの男にはこりごりしてるんだ! やっちまえ! 」
対するユオの陣営は燃え吉がウォーミングアップを始めていた。
セコンドにつくのはその精霊のボディを作ったドレスである。
裏方にいて放送局のエンジニアをしていた彼女であったが、燃え吉の出番ということで急遽現れたのだった。
「くかかかっ! 今日のあっしはよくキレるっすよぉお!」
歯をカチカチと鳴らして不敵に笑う燃え吉である。
七彩晶を素材にすることで燃え吉のボディはさらに充実し、現在はZ燃え吉にまで拡張されていた。
なんと今度の燃え吉は追加パーツなしに変形し、ユオの高熱にもある程度耐えられる設計である。
将来的には分離・合体するものまでドレスは構想しているようだ。
「えぇ〜、なんか正統派っぽい人に燃え吉をぶつけるなんて悪いなぁ」
ユオは燃え吉を顔のいい男にぶつけるのを躊躇する。
先日のユリウスとの戦いが地獄絵図になったのは記憶に新しい。
だが、ドレスは「何を言ってるんですか! 顔が無駄にいい奴っていうのは、おかしいことが多いんです!」などとユオに食ってかかる。
ユリウスの一件は、ドレスに深い傷をもたらしたようである。
「あの杖は……」
一方、リースの女王イリスは闘技場に現れた男の持つ杖を見て、奥歯をぎりっと噛みしめる。
その男の持っている杖に感情を動かされたようだ。
「ユオ、奴はわらわが相手をしなければならないようだ。それに、これに勝利すればどのみち、終わるのだろう」
「や、やんすぅううう!?」
イリスはそう言うと、文字通り、闘技場へ飛んでいくのだった。
彼女の顔はいつもように邪悪な笑みが浮かんでおり余裕を感じさせる。
「絶対に勝ってね! 万が一、負けたら燃え吉が大将になるんだから!」
ユオはイリスに力強く応援の声をかける。
もっとも、自分が戦いたくない一心での応援である。
この女、決勝で自分が出ていくつもりは一切ないようである。
◇
「魔地天国温泉帝国からは泣く子も黙る白薔薇! リース王国の女王、イリス・リウス・エラスムス様ぁああ!!!」
「でぇえええ、本名名乗っちゃってええのん? ええと、対する凱旋盗は魔族のラグナ様やでぇええ!」
闘技場にイリスが立つと、メテオとクエイクは拡声魔道具にかじりついて声を出す。
なんせ、本大会で一番の有名人の登場なのだ。
国賓であり、大陸の権力者であり、失礼な態度はあとで怒られることになるだろう。
しかし、彼女にとっては儲けることが一番だいじだ。
そのためには盛り上げないわけにはいかない。
「イリス様は知っての通り、リース王国最強の魔法の使い手! かつて剣聖のサンライズと悪竜を撃退し、数々の魔物を沈めた凄腕の魔法使い! 危険度SS級! ほとんど人外!」
「そんなん相手にするほうが気の毒やでぇええ。でもでも、ラグナ様だって負けてへんでぇ! 第二魔王のもとで腕を磨いたネクロマンサーっちゅう話やぁああ!」
二人の声に合わせて、観客たちは大歓声を浴びせる。
前評判もあり、賭けのオッズは圧倒的にイリスに有利と出ていた。
とはいえ、魔王のイシュタルが吸血鬼に引き分けに終わってしまったことからしても、前評判だけでは結果がわからないことも事実だ。
観客たちは固唾を飲んで、試合開始を待つのだった。
「……ラグナといったな。お前、その杖が誰のものか知っているのか? 今、わらわにそれを渡すというなら痛い目に逢わなくて済むのだが、どうだ?」
イリスは魔族の男に微笑みかける。
とはいえ、その口調は威圧そのもの。
言っていることは挑発しているのと、ほとんど変わらない内容だ。
「嫌だね。これは僕が手に入れたものだ。それに、これはあなたのものじゃない。僕の言っている意味は分かるよね? おチビさん」
対するラグナも同じように微笑みを返す。
こちらもなかなかの挑発スキルを持っているようで、女王の額に一瞬だけ青筋が立つ。
イリスは普段から敬われて生活しているため、煽り耐性が極端に低かった。
「交渉は決裂か。泣きべそをかくなよ、小僧」
イリスはラグナをきぃっと睨みつけるのだった。
その眼光は鋭く、人を殺すことができそうなほどの威圧感をもたらす。
しかし、ラグナはそれを鼻で笑ってあしらうのだった。
「試合開始ぃいいいい!」
メテオの絶叫とともに先手を打ったのは、イリスだった。
彼女は白薔薇の文様の魔法陣を発生させる。
「おぉっとぉ! これが噂に名高い、白薔薇魔法陣!」
「これをみた奴は死ぬといわれてるやつやぁああ! うちらもちょっと危険やでぇええ!」
前知識をいれたメテオとクエイクは見事な連携解説。
彼女たちの言う通り、イリスの出現させた白薔薇文様の魔法陣は異様といってもいい術式だった。
通常、魔法陣というものは魔法を詠唱した際にしか現れない。
しかし、イリスのそれは彼女の膨大な魔力によって常に現れているのだ。
つまり、常時、魔法を発動させることが可能であり、実際に強烈無比な攻撃魔法を発生させる。
イリスがサンライズとの旅を通じて、大陸中の脅威を排除したことは広く知られており、観客たちもかつての英雄がどんな魔法を使うのかとワクワクしていた。
「後悔しながら灰になるがいい!」
イリスは攻撃魔法【灰塵の宴】を発動。
彼女が魔方陣に意識を送ると、魔法陣の中に複数の光線が渦巻いていく。
それは一直線にラグナへと向かう。
一撃一撃が魔物を貫くほどの強さの光線である。
直撃すれば、消し飛ぶことは容易に予想された。
「あわわわわ、殺すつもりの魔法じゃん……」
ユオはイリスの発生させた魔法に驚きを隠せない。
さきほどのピースフルな魔王の戦いとは何もかもが違う。
しかも、すぐに決着がつきそうな勢いである。
女王の圧倒的な力によって。
どがぁああああっん!
魔法が直撃すると、爆音と爆風がまい起こり、観客たちは歓声をあげる。
イリスの魔法の威力によって、闘技場の床が削れ、砂煙が舞う。
「き、決まってもうたぁああ!」
「ちょ、直撃やん!?」
猫人姉妹含めて、誰もがラグナの命はないものと思っていた。
煙の向こうには何も残っていないだろうと皆が微妙な顔をする。
しかし。
イリスをめがけて、複数の光線が向かっていく。
それはイリスの放ったものにそっくりで、まるで魔法が跳ね返ったかのように見えた。
もっとも、その光線の色は真紅だったが。
「憐れだな、白薔薇の女王! あんたはこの杖に敗れるのさ!」
煙が吹き飛ぶと、そこに現れたのはエルフだった。
イリスそっくりの顔立ちをしているが、少しだけ大人びている。
体つきもイリスよりは身長が高い。
「ぇええええ!? どういうこと、さっきまでの美少年はどこいったん!?」
「ラグナ様、エルフだったん!?」
観客たちは驚きを隠せない。
なぜなら、さきほどまで闘技場にいたはずのラグナがいなくなっているからだ。
「クズ男が……」
対するイリスは険しい顔で、闘技場に現れたエルフをにらみつける。
その顔はこれまでに見せてきた、どんな表情よりも怒りに満ちたものだった。
「ふはははは! 何を怒ってるんだい、イリス! 自分の母親の顔を忘れたか!」
闘技場のエルフは高笑いをする。
そして、その声を聞いた観衆はやっと理解するのだ。
ラグナがエルフに化けていると。
それも、イリスの母親の姿に。
「な、なんかわからんけど、ラグナがイリス女王のお母さんになってもうたでぇええ!」
「ひぃいい、おかんの姿になって戦うとかきっついわぁ! 卑怯やで、そんなん!」
「まぁ、うちなら躊躇なく殴れるけども!」
「あ、よぉ考えたら、うちもいけるわ! それはともかく、ラグナのこれはえげつないでぇええ!」
状況を理解したメテオたちは口々に抗議の声をあげる。
自分の肉親を傷つけるように仕向けるなど、正々堂々とした戦いとはいいがたい。
「ははは、勝負にタブーなどない! それに僕のこの姿をみてくれよっ! 先代のリースの女王、赤薔薇になったんだ! 僕は、美しい! そこのちっぽけなエルフよりも!」
とはいえ、ラグナには非難の声など一切聞こえていない。
彼は自分がエルフの美女になっていることに、大きく、それはそれはとても大きく興奮していた。
「……あ、新手の変態だぜ、あいつ」
「……ひぃいい、戦わなくてよかったでやんすぅうう」
勘のいいドレスと燃え吉は同時に悲鳴を上げる。
そう、彼女たちの予感の通り、ラグナは美しい女性に化けることで魔力を増す男だったのだ。
「僕は自分の体を依り代に、この杖に備わった霊魂をおろすことができるんだっ! その意味が分かるだろ、イリス! 君は僕には勝てない!」
ラグナは挑発するかのようにイリスを指さし得意げに笑う。
普段のイリスであれば、ラグナの言葉になど耳を貸さず攻撃を続行するだろう。
しかし、今は違った。
彼女の心は揺れ動いていたのだ。
もしも、彼の言っていることが本当であれば、イリスは自分の母親と魔法対決をしなければならない。
しかも、あの杖を持っているころの最凶の魔法使いと言われた母親と。
「ええええ、せっかくの美少年枠がぁあああ」
一方、そのころ、ラグナの変身にユオは心底がっかりした顔をする。
ユリウスをはじめとして、顔がいい男どもはどうしてそういう方向に行くのか。
どうして自分の素材を大切にしないのか。
天をも呪いたい気分だった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「かわいいエルフになりたい欲求、誰だってもっているよねっ!」
「フレアさん、どんまい……」
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