260.「俺はすべてを盗み出す、狙うはあの灼熱の魔女だ!」などと凱旋盗のシュラちゃんは供述しており……
俺の名前はシュラ。
凱旋盗の首領をやっている。
下級魔族の孤児に生まれた俺は、幼いころに気づいたことがある。
この世は奪ったもん勝ちだということだ。
魔王は上級魔族から奪い、上級魔族は下級魔族から奪う。
強いものが弱いものから奪うのだ。
俺たちはこびへつらいながら時間と金と労働を奪ってくださいと差し出すのだ。
俺はそんな状況に我慢ができなかった。
奪われるぐらいなら、奪う側に回ってやる。
腹を空かせながら、いつだってそう願っていた。
盗むことに特化した空盗のスキルを得た俺はそう誓った。
そして、それから先は盗賊仲間を集め、世界中の宝を盗んで回った。
しかし、そんな俺を討伐しに現れた人間が現れた。
剣聖のサンライズと、リースの女王のイリスだ。
やつらは俺の率いる軍団を襲撃し、ついに俺の首をはねてしまう。
「……悲しい奴だ」
死に際にサンライズはそう言った。
悲しいだと?
この俺が?
もう世界中のものを盗み終わって、あきあきしていたのだ。
別に殺されても、俺の心は動かない。
遠ざかっていく意識の中で、俺はサンライズに悪態をついた。
しかし、俺は再び目を開けることになる。
俺を生き返らせる男が現れたのだ。
世界中を旅してきたが、不気味な男だった。
顔に精気はなく、まるで操り人形のような顔をしていた。
そいつは名前を名乗らないまま、俺にこう言った。
今いるのは俺が死んでから数十年後の世界だと。
そして、「これから数か月後、灼熱の魔女を名乗る女が現れる。その女の能力を奪え」と付け加える。
「能力を奪えだと?」
男の言葉を鼻で笑う。
そんなことができるはずがない。
俺ができるのは、物を盗むだけだ。
「今のお前は能力も、記憶も、盗み出すことができる。せいぜい、魔王様に礼を言うんだな」
男はそれだけ言うと、俺の前から姿を消す。
まるで煙が掻き消えるかのように、一切の気配なく。
去り際に奴は魔王とはっきりと伝える。
俺たち魔族の世界には魔王を自称できるものは三人しかいないはずだ。
いったい、誰が俺を復活させたのか、その時はわからなかったが。
もっとも、俺はそいつの指示に従うつもりはなかった。
せっかく生き返ったんだ、やりたいようになるだけだ。
魔王に恩義を感じることもない。
むしろ、宝を狙って盗みに入ってやろうかとさえ思う。
それに、俺が本当に記憶や能力まで盗めるのかどうか、試したくてうずうずしていたのだ。
数日後、俺は自分に芽生えた新しい能力に狂喜する。
俺は盗むことができたのだ。
俺のことをバカにしてきた上級魔族どもの魔法や剣の能力でさえも!
格段に強くなった俺は、いくつもの国を襲い、強者からスキルを盗み続けた。
より強くなっていく自分に歓喜していた。
スキルだけじゃない。
記憶を盗み出すことで、そいつの経験をも身に着けることができるのだ。
もっとも、完全に盗み出すには条件がある。
だが、盗めるなら盗むのが俺のやり方だ。
そして、数か月後、俺は噂を耳にすることになる。
脆弱なはずの人間がベラリスという上級魔族を倒してしまったことを。
さらには魔族さえ領有することのできなかった禁断の大地に国を建ててしまったことを。
その女の髪には赤い筋が浮かび上がっていたらしく、それはかつての灼熱の魔女をほうふつとさせた。
「灼熱の魔女の再来だとよ……」
「災厄の時代が始まるのか?」
魔族たちとはいえ、灼熱の魔女の噂の前では口々に怯えたような声を出す。
それもそのはず、灼熱の魔女とは数百年前に現れた魔族の領土さえも焼いたという化け物だ。
災厄とは人間だろうが魔族だろうが、お構いましに全ての命を奪っていく存在。
究極の収奪者。
この時、俺は強烈な渇きを感じた。
その能力が欲しい。
心からそう思った。
それさえあれば、盗むことができる、この世界の全てを。
この世界の命を、輝きを、盗むことができる。
これまで神の存在なんてものを信じていない俺だったが、ここにおいて初めて自覚した。
そう、俺は神に愛されている。
こんなチャンスを与えてくれたのだ、そうに違いない。
そして、俺は禁断の大地に赴く。
この土地に来たのは二度目だ。
一度目は公爵のじじいの別荘から金目のものを盗むためだった。
その時はみすぼらしい村しかなかった。
しかし、今はどうだ。
レンガで舗装された街並みに、異世界のような風景。
無性に腹が立った。
全てを奪えるはずの力を持っているものが、こんなところで遊んでいることが。
その女にはふさわしくないと確信できた。
俺は仲間を集め、そいつの街を襲撃することにした。
あるものには剣を与え、あるものには魔獣を与え、あるものには血を、そして、あるものには杖を与えた。
どれもこれも、俺が過去に盗み出した希少な逸品だ。
やつらはそれを受け取る代わりに、俺のコマとして働くことを誓うのだった。
俺が剣を与えた男には、リースの女王を殺すように伝えた。
しかし、妨害が入って、魔王の方を攻撃したらしい。
本当に使えない奴だ。
襲撃を終えた俺は、敢えて、人間どもと交渉することにした。
交渉人はあくどい顔をした猫人。
なぜ、そんな面倒くさいことをしたのかって?
お遊びに付きあってやることで、本当の絶望を教えてやろうと思ったのだ。
勝てると期待してから敗北する方が心を破壊することを俺は知っているからだ。
試合の途中、かつての俺の首をはねたサンライズが現れた。
白髪の老人になっていて、その動きは遅く、かつてのような強さは感じられない。
驚いたことに、俺の心は奴の顔を見てもたぎらなかった。
剣技を盗んでやろうとさえ思わなくなっていた。
おそらくはリースの女王を見てもそうだろう。
俺は灼熱の魔女の能力以外、興味を失っているのだ。
「頃合いだな……」
魔王が役立たずの吸血鬼を圧倒した頃合いで、手下に連絡して黄金蟲と魔導巨兵を発動させる準備を始める。
百年前の魔王大戦の時に人間どもの国の一つを落とした、悪夢の軍団だ。
次の試合が終わる時には、奴らは本当の絶望を知るだろう。
お遊びは終わりだ。
ぶっ壊してやる、この街も。
ぶっ壊してやる、お前たちの友情ごっこも。
俺は奪い去るのだ。
俺にふさわしい能力を。
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