26.魔女様の<<魔地天国温泉リゾート>>がついに完成する
「本日は温泉リゾート『魔女様に逆らうやつは地獄行き、仲間は天国送りの湯、略して魔地天国の湯』の開業を宣言させていただきます」
ドワーフのドレスたちが建築を始めて数週間。
ついに私たちの温泉施設は完成の日の目をみることになった。
正直言って、早すぎる。
予定では数か月かかるところだったのに、村人たちがやたらと張り切ってくれたのだ。
それにしても、正式名称が長すぎる。
地獄行きとか天国送りとか、不吉な感じもするし、いつかゼッタイ変えてやるのだ。
「いよいよですね、ご主人様!」
普段はあまり感情を表に出さないララも今日は心なしかワクワクした表情だ。
そう、いよいよなのである。
この温泉を使って冒険者を呼び込み、ゆくゆくは豊かな街をつくろうっていう腹づもりなのだから。
新しくできた温泉施設は村の一番北側の空き地に作った。そこはちょっとした高台になっており、遠くからでも確認できるようにしてある。
この辺りは何もないから、冒険者のみなさんが迷わないように目印の意味も込めてある。
「さぁ、いよいよ、お披露目やでぇ! みんなぁ、温泉がみたいかぁーっ!?」
「うぉおお! みたいぞぉっ!」
「みたいーっ!」
メテオがもったいぶった声で村人を煽りに煽ると村人がさらに歓声をあげる。
さぁて、どんなものができたのだろうか。
実をいうと私は工事の後半からは村の運営や法律作りが忙しくて内見がおろそかになっていた。
「我々の愛する領主様、ユオ様に除幕式をやってもらうでぇっ!」
温泉施設には幕が張られていて、私がそれを降ろすことによって村のみんなにお披露目されることになっている。
わくわくするけど緊張の一瞬なのだ。
「おぉーっ! 魔女様!」
「魔女様、大好きです!」
「魔女様、一生、ついていきます!」
「いけにえにされたぁーい!」
メテオが煽ってくれたおかげで村人から声が上がる。
特にハンナはぴょんぴょん飛びながら声援をあげる。
喜んでくれるのは嬉しいけど、誰もいけにえにはしない。
「それじゃあ、みんな、いくでぇ! さん、にぃ、いち!」
メテオの威勢のいいカウントダウンにあわせて、私は施設を覆う幕を引っ張る。
すると、わずかな力で幕は落ちて、温泉はその全容を表すのだった……!
「うぉおおおお!」
「す、すごぉおい!」
村人たちが現れた施設に大きな声をあげる。
そこにあったのは黒光りする木の板と石を組み合わせた建造物で、私のおじいさまの古文書とそっくりなデザインの建物だった。
窓の部分や屋根の再現はまだ甘いけれど、それでも十分、合格点!
異世界から出てきたような建物に村人のみんなも驚きを隠せない。
ララもメテオもハンナも村長も大歓声をあげて喜んでくれている。
設計したドレスは自分の仕事を誇るようにふんすと鼻息を荒くする。
「……ひぃいいえええ、これって、まさか!?」
しかし、一人だけ腑に落ちない顔をしているものがいる。
私だ。
私なのだ。
私の顔だけはひきつっているのである。
その理由は簡単で、あのトレントの顔部分が施設の入り口に使われているのである。
つまり、簡単に言うとだね。
温泉施設にはいるためにはトレントの巨大な口から入っていくっていう寸法なのだ。
アホか!
「これじゃ、まるっきりお化け屋敷じゃん! どういうセンスしてんのよ!」
いくら最高の素材だからって、モンスターの顔をそのまま使うなんてどうかしている。
そもそも、温泉は癒しと回復の場所なのだ。
これじゃあ、お化け屋敷のデザインだし、みんながびびっちゃうじゃん。
「サイコーですね、これ! 魔女様のお力が一目瞭然ですよ! 逆らうやつは容赦しないのがよくわかります! 魔女様、バンザイ!」
「さすがはわしらの魔女様じゃ。皆の衆、このトレントこそキャッスルクラッシャーと呼ばれた伝説の化け物なのじゃぞ! 魔女様はそれを素手で爆破したのじゃ!」
「この門はいわば魔女様最強の証なのです! まさに魔女様に逆らうやつは地獄行き!」
「仲間だったら天国送りじゃああ!」
ハンナと村長の迷コンビがこのとんでもデザインに変な味付けをしてくれる。
そいつを倒したのは事実だけど、私は魔女じゃないし、ただ木は熱に弱いだけだし。
不思議なことにうちの村人はびびってない。
だけど、常識を持った一般人は恐怖でのたうち回ること間違いなしのデザインだ。
子供だったら絶対に泣き叫ぶと思う。
「どうですか、最高でしょう! ユオ様が伝説に名高い灼熱の魔女と聞いて、急いでこしらえたんです!」
「やはり魔女様には威厳ある建物が必要ですよね。私たちも誇らしいです!」
ドワーフのドレスたちは得意げな様子でガッツポーズをする。
その満面の笑みはまぶしいぐらい、にっこりしている。
うぅう、褒めてもらいたいオーラが尋常じゃないらしいぞ……。
村人たちは「すげぇ」「すごいのぉ」「すごいわぁ」の三拍子。
誰か一人ぐらい、正直に「怖い」って言ってくれた方が気が楽になるんだけど。
あんたたちの審美眼はどうなってんのよ。
こんなのゼッタイ認めない!
心の中で血の涙を流して叫ぶ私なのだが、村の99%(私以外)が大喜びしている以上、事を荒立てるのはまずい。
後日、こっそり改修してもらおう。
うん、そうしよう。
絶対にそうする。
なんなら爆破しよう。
いや、蒸発させちゃうのもいいかもしれない。
私はこっそりそう決意したのだった。
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