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【WEB版】灼熱の魔女様の楽しい温泉領地経営 ~追放された公爵令嬢、災厄級のあたためスキルで世界最強の温泉帝国を築きます~【書籍化+コミカライズ】  作者: 海野アロイ
第13章 魔女様の強烈防衛戦! 禁断の大地が活性化してきたと思ったら、女王様、魔王様入り乱れて暴れます!
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259.魔女様、魔王イシュタル様のまさかの一人舞台にドキドキが止まらない

「試合開始やぁああ!」


 クエイクのアナウンスが闘技場にこだまする。

 こちらの出場者はカルラに代わって、魔王のイシュタルさん。

 ひぃい、どんなことが起こるやらだよ。

 そもそも、あの人、胸を貫かれていたはずなのに大丈夫なんだろうか?


「ふふん、心配するでない。あいつはそんなに弱くはない。……そんなに強くもないが」


 ハラハラする私の隣で、イリスちゃんはぽつりとつぶやく。

 私を安心させるためなのか、それとも自分を安心させるためなのか分からない。


 だけど、普通に考えたら魔王ってことは魔族の上に立つ人なのだ。強いに違いない。

 でも相手は吸血鬼って話なんだよねぇ。

 私も子供のころに、吸血鬼の本を読んだこともあるし、その怖さはわかっている。


 それにしても、あの吸血鬼の女の子、どうして太陽の光を浴びても大丈夫なんだろうか?

 闘技場の天井からは、今もお日様がさんさんと輝いているっていうのに。



「吸血鬼のアリアドネと、魔王のイシュタルの戦いやぁああ!」


「ひゃあっはっはっぁああ、人間どもよ、刮目してみぃやぁあああ!」


 メテオたちは開き直って観客たちを煽りに煽る。

 それにもかかわらず、観客たちはしぃんとしたままだ。


 そりゃそうだよね、だって魔族なんてほとんどの人が見たことないんだし。

 魔王に至っては、ほとんど伝説みたいなものだものね。



「○××○×○×?」


「○××○○××!」


 開始早々、二人は何かを話しているようだ。

 とはいえ、聞き取ることはできない。

 人間族の言葉ではない言語で話しているようだ。


「おしゃべりはこれで最後ねっ! 私の地獄蝙蝠で死んじゃいなさいねっ!」


 しばらくの問答が続いた後、吸血鬼の女の子は真っ赤な蝙蝠を何百体も作り出す。

 ひぃいい、絶対に関わりたくないやつである。


 対するイシュタルさんは腕を広げて、深く呼吸をし始める。

 

 目を閉じて、精神を集中させているようにも見える。

 だけど、隙だらけというか目の前に敵がいないかのような素振り。


 それにしても、元から大きいサイズのお胸部分がさらにはち切れんばかりである。

 品の悪い観客が鼻の下を伸ばしてそうな構図だよ。



「喰らうねっ! 行けっ、私のカワイイしもべたち!!」


 先手を打ったのは吸血鬼の女の子だった。

 彼女の声に反応して、一斉にイシュタルさんにとびかかる数百体の蝙蝠。

 魔法で出現させたものだろうけど、きぃきぃぎゃあぎゃあうるさい。


「イシュタルさん、大丈夫なのっ!?」


 私がびっくりしたのはイシュタルさんが回避どころか、防御さえしないってことだ。

 血に飢えた蝙蝠が彼女の周りにぎゅぎゅーっと貼りついているのである。

 これって血を吸われてミイラになるやつじゃん!?

 本で読んだことあるよ!



 メテオとクエイクに至っては、


「あぁあああ、決まりやぁあああ! 魔王さん、はい、死んだぁあ!」


「なんで魔王さんすぐ死んでしまうん?」


 などと、とびきり失礼な大絶叫。


 あんたら、いくらなんでも死んだ死んだ言いすぎでしょ!

 ちょっとはリスペクトしなさいよ!


「くくく、あっけないね。あんたみたいな、口だけの女、大嫌いだね! 洗礼血を飲んだ私は陽の光さえ平気なのねっ!」


 対する吸血鬼も口を開けての、大笑いである。

 たしかにこのままじゃ、魔王様、なんのために出てきたのかわかんないよ。

 ちょっとぉおおお。


 そう言えば、イリスちゃんはイシュタルさんをこう評していた。

 「強くもない」と。

 えぇえ、魔王なのにそんなんで大丈夫なの?

 実は頭脳でのし上がったタイプの人とか?


 

「……ユオ、よく見ておけ。イシュタルがなぜ唱撃(しょうげき)の魔王と呼ばれているのかを」 


「しょ、衝撃?」


 こんな状況でもイリスちゃんは平気な顔。

 一方的な虐殺ショーに辺りは静まり返り、観客たちはドン引きしているっていうのに。


「……あわれ……血に飢えた……野獣の愚者(アホたれ)どもよ……」


 歌が聞こえてきたのだ。

 それもとても美しい声の。


 いったい誰がこんな悲惨な場面で歌ってるんだろう!?

 私は辺りを見回すけど、すぐには分からない。


「ん? なんか、歌が聞こえてきたでぇえ?」


「めっちゃええ声やん……、歌詞はともかく」


 観客たちも当然、ざわざわし始める。

 だって、戦いの最中に誰かが歌を歌ってるんだよ。

 それも、こんな大きな闘技場全体に響くぐらいの声で。


「……我の歌を聞けぇ〜……忌々しい〜……鳥どものぉ鎮魂歌(レクイエム)〜」


 ぼだだだだだだだ………


 そして、私たちは信じられないものを目にする。

 イシュタルさんを覆っていた蝙蝠たちが闘技場の床に全部落っこちたのである。

 どれもこれもぴくりともせず、完全に沈黙しているようだ。


「な、何が起こってるね!? 起きるね! こら、起きろ、このおたんこなす!」


 吸血鬼はぎゃあぎゃあわめくものの、蝙蝠は微動だにしない。

 まるで不思議な力が働いているかのようだ。

 それにしても、おたんこなすって久しぶりに聞いた。


「……吸血鬼のぉおお少女……声がキンキンうる〜さい……偽りの赤き血(トマトジュース)……飲みほすがいいぃ……」


 イシュタルさんはというと、さっきからずっと歌っているのであった。

 そう、彼女こそがあの歌声の張本人なのだ。

 ひぇえええ、いい声!

 昔、王都で見た歌劇団の人みたいに麗しい!

 歌詞はともかくとして、まさしく彼女の一人舞台である。

 

「でぇええ、魔王さん、めっちゃ男前やん、惚れてまうわわああ!」


「比喩じゃなく輝いとるやん……」


 しかも、である。

 イシュタルさんは服さえ着替えているのだ。

 さきほどまでの胸元の開いた服ではなく、タキシードみたいなの着てる。シルクハットみたいなのもかぶっている。

 衣装にはラメが入っているのか、ターンをするとキラキラと光さえ発している。

 いつの間にかスポットライトみたいなのが当たり、まさに歌劇。


 イリスちゃんが言うには、イシュタルさんは吟遊詩人をしていたらしい。

 大賢者の弟子として歌で問題を解決する人物なのだという。

 しかし、私の知ってる吟遊詩人とはだいぶ違うよ。

 派手過ぎるというか、劇がかっているというか。


「うるさいねっ! 私の最大の必殺魔法、絶界魔法陣で仕留めてあげるねっ!」


 対する吸血鬼の女の子は手下がやられたことで激昂する。

 彼女の背後には真っ赤な魔法陣が現れ、今にもイシュタルさんに危ない魔法を発動させようとしている。


「ふん、愚かな吸血鬼だ、その程度でイシュタルに勝てるとでも思ったのか……」


 にもかかわらず、イリスちゃんは吐き捨てるようにそうつぶやく。

 彼女の顔はちょっとあきれている感じだったけど。


「……小粋な吸血鬼(じゃじゃうま)よ〜……眠るがいい……私の歌は……危ない薬(あぶないやく)のようにぃいいい……お前を包むぅうううう……我は血に染まるぅうう〜……」


「ええい、くだらない歌うのを止めるね! このインチキ魔王が! さっさと私と戦うねぇ、この……すぴぃいい」


 顔を真っ赤にしてわめいていたはずの吸血鬼の女の子は膝から崩れ落ちて眠ってしまったのだ。

 どうやらイシュタルさんの歌に誘われてしまったらしい。

 歌詞はともかく、すごい効き目だ。


「……すぴぃ、むにゃむにゃ、うち、正直、魚きらいや」


「……くかぁー、お姉ちゃん、お残しは許しまへんでぇええ」


 メテオとクエイクは座った姿勢のまま、ぐっすり眠っている。


 いや、違う。

 なんと観客の皆さんまでもが全員、眠っちゃっているのだ。


 なんていう破壊力!?


 私はというと、イリスちゃんが魔法で守ってくれているとのこと。

 ひょっとして、これを遠隔で見ている人もやばいんじゃないの?


「ふぅむ、その可能性もあるな。ともかく、あのやかましい猫人を起こさねば、イシュタルの勝ち名乗りさえできないぞ。まぁ、今のうちに凱旋盗を襲撃して血祭りにあげるのもいいとは思うが」 


 ニヤッと笑顔を浮かべて、やばいことをいうイリスちゃん。

 いやいや、それはできないよ。

 いくら無法者でもルールにのっとってやっつけるのが私たちのやり方なのだ。

 

 とはいえ、このまま全員眠ったままじゃ、どうしようもない。

 私はメテオたちを起こしに行く。



「にぎゃあああ!?」


「ふわりゃぁあ!?」


 ぐっすり眠っていた二人であるが、耳に息を吹きかけると起きてくれた。

 あぁよかった。

 あんまり幸せそうに寝てるので、二度と起きないかと思ったよ。



「メテオ、イシュタルさんが相手を眠らせたから、勝利のアナウンスしてあげて!」


「お、おん……、えぇ!? あの魔王の人、血だまりに転がっとるで!?」


 私は再び信じられないものを目にする。

 そう、イシュタルさんが真っ赤な血の海の中に転がり込んでいるのだ。

 しかも、まるで歌劇のように、真っ赤なバラが彼女の周囲に咲き誇っていた。


「あのバカダークエルフ、どうやら調子に乗って歌い過ぎて傷が開いたらしい……」 


 これにはイリスちゃんもあきれ顔である。


「血に染まりし衣装、しかし魔王は何度でも立ち上がるぅう」


 しかし、それでもイシュタルさんは立ち上がるのだった。

 口から血を流しているし、顔色だって悪い。


 だけど!


「勝者、魔王イシュタルさまぁああああ!」


「何か分からへんけど、強かったぁあああ!」


 メテオたちは観客たちを大声で起こすと、魔王様の勝利をアナウンス。

 つまり、相打ちってことである。

 

 ひぇええ、危なかったよ。

 最後の最後で相打ちになるところだったじゃん!

 とはいえ、一刻も早く医務室に運び込まなきゃやばい状態だよね。


「ふふふ、大音量で歌ったら傷が開いたらしいぞ」


「お前はあほか!」


 イシュタルさんは担架で運ばれつつ、衝撃の新事実を吐露する。

 思わず激しいツッコミを入れるイリスちゃん。

 そりゃそうだよ、まさかの自爆だったってことじゃん。

 

 魔王イシュタルさんの底知れぬパワーに圧倒されながらも、第三試合は終わるのだった。

 

 それにしても、イシュタルさんの最後の場面はなかなかにかっこよかった。

 悲劇の美男子が不慮の事故で最後を迎える場面みたいな、そんな感じで。

 

 ……まさか、王都で上演されている歌劇の演目ってイシュタルさんがモデルじゃないよね!?

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「コウモリは哺乳類では?」


「この魔王、どうやって着替えたんだ!?」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークやいいねもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 超時空シンデレラと思わせてからのジャイアンリサイタルだったでござる。 ・・・やっぱ致死性あるなぁ・・・
[良い点] 血の海に沈んじゃった魔王さん(ダメだこりゃ長さん風 [気になる点] 魔王さん、大正桜な帝都の歌劇団出か宝塚出かな?(笑)
[良い点] 意外や意外、支援寄りっぽい戦闘スタイルだったとは [一言] クエイク夢の中で最強の食堂のおばちゃんになってそう… そんでもってその息の吹き方は大概の人にWEEKポイントやー
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