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【WEB版】灼熱の魔女様の楽しい温泉領地経営 ~追放された公爵令嬢、災厄級のあたためスキルで世界最強の温泉帝国を築きます~【書籍化+コミカライズ】  作者: 海野アロイ
第13章 魔女様の強烈防衛戦! 禁断の大地が活性化してきたと思ったら、女王様、魔王様入り乱れて暴れます!
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257.ハンナの覚醒、シレンの本領。そして、剣聖の歯車が回り始める

「†さらばだ†」


 ハンナが目を開けると、目の前にはシレンが迫っていた。

 真っ黒い剣は禍々しいオーラを発し、その切っ先は鋭い光を放つ。

 貫かれれば、即座に命を落とす、強烈な一撃。


 闘技場の誰もが息を飲み、ハンナの敗北を、ハンナの死そのものを意識する。

 気の弱い者は顔を背け、あるいは天を仰ぎ、これから起こるであろう惨劇に歯を食いしばる。


 それでもハンナは感じる。

 自分の胸の奥の方に光が湧き出てくるのを。


「負けませんっ!」


 ハンナはぐにゃりと体を曲げると、ぎりぎりのところでシレンの剣をかわす。

 彼女はさらに後ろに大きくジャンプし、シレンの追撃を阻止することに成功する。


 驚くほどに体が軽い。

 奥歯に仕込んだ薬を服用したとき以上に。


 ハンナは自分の体の変化に気づき始めていた。

 確かに貫かれた脚は痛い。

 しかし、心は晴れ晴れとしていた。

 その陽気さは彼女の神経を極限まで研ぎ澄まさせる。



「避けたぁああっ! シレンの一撃を紙一重でぇえええ!」


「神技やん、すごいでぇえっ!」


 ハンナのまさかの奮戦に闘技場は大きく盛り上がる。


 しかし、ハンナが安心できる状況ではない。

 黒尽くめの騎士のあの空間を飛ばして影の中に現れる攻撃には対応できないからだ。

 自分にはサンライズほどのカウンター能力もなく、経験もない。


 先を取られれば負ける。


 せめて、影がなくなれば……。

 

 ハンナは奥歯をぎりりと噛む。


「影が……なくなれば……?」


 彼女の頭の中にシレンへの対応策が浮かんでくる。

 それができるのか、ハンナにはわからない。


 だけど、できる気がするのだ。

 先程の暗闇の中で見た朝焼けの光が、そう囁いているように思えた。

 

「黒尽くめのおじさんっ! 聖なる光を喰らいなさいっ!」


 ハンナは片手剣を高く掲げて、大きな声で叫ぶ。


 すると、彼女の体からまばゆい光が溢れ出るではないか。

 それは聖女の放つ暖色系の光とも異なる、無色透明なまっさらな光だった。

 

「なっ、なんやぁ!? 光っとるでぇええ!?」


「うわっ、まぶしすぎてよう見えへんでぇえ?」


 これにはメテオもクエイクも、そして観客たちも困惑してしまう。


 そして、この事態に焦りを感じたのはシレンだった。

 ハンナの足元には一切の影が消えていた。

 結果、業断のスキルである影からの攻撃を使えなくなってしまったからだ。


「さぁっ、いっきますよぉおおお! 朝焼けの光(モーニンググローリー)!!」


 ハンナは即座に浮かんできた技の名前を叫びながら、シレンに突進する。

 彼女の姿は光り輝き、通常の視力では捉えることができない。


 メテオとクエイクはどこから取り出したのか、太陽が眩しいときにはめるメガネを着用して観戦にあたる。


「†ぐぅッ!?†」


 そして、光によって目眩ましを受けたシレンは脇腹に一撃をもらう。

 もっとも胸の真ん中を貫くはずだったのを避けられたのだが。


「†貴様、なぜ、呪いが効かぬっ!?†」


 攻撃を受けたシレンは眉間にシワを寄せる。


 それもそのはず、ハンナは彼の魔剣によって呪いを受けていたはずなのだ。

 精神が侵され、立っているのもやっとの状態になるはず。


 しかし、今のハンナは機敏に行動し、あろうことか口元に笑みさえ浮かべている。


「ふふんっ、私に呪いは効きませんよ! さぁ、悪いけどやっつけさせてもらいます!」


 びしっとポーズを取るハンナ。

 彼女は戦闘を楽しんでいた。

 これまでと同じように、いや、これまで以上に純粋に戦闘に向き合い楽しんでいた。


「楽しいですねぇ!」


 彼女の内側に湧いてくる好奇心と成長の快感が、彼女を自然に笑わせるのだ。

 そして、笑うことによって彼女の神経はより研ぎ澄まされ、その剣はなお一層早くなっていく。


 一方、そのころ、観客たちはハンナの行動に顔をひきつらせる。

 戦闘中に嬉しそうに笑うなど、正気の沙汰とは思えないからだ。



「†なるほど、影を封じ、我が呪いを封じるとはな……†」


 がががががががっと攻撃を受け流しながら、シレンはそれでも倒れない。

 彼は必要最低限の動きでハンナの攻撃をいなし、彼もまた口元に笑みを浮かべる。


 このシレンという男もまた、戦闘狂なのであった。


「†いいだろう、俺の最強伝説を支える礎になるがいい†」

 

 彼は構えを解き、ガントレットと呼ばれる手首用の黒い鎧を外す。

 それを放り投げると、すどぉっなどという音ともに闘技場の床に砂埃を立てる。


 その防具は明らかに尋常の重さではないことが見て取れる。

 

「おぉーっ、なんかこれ見たことある、かっこええやつやでぇええ!」


「シレンのちょっと本気出してやるかモードきたぁあああ!」


 メテオとクエイクはシレンの挙動をすぐさま解したようだ。

 彼女たちの言う通り、シレンはまだ本気を出したわけではなかった。

 彼を覆う黒尽くめの鎧はただの飾りではなかったのだ。


 もっとも、シレンがガントレットを外したのは、「ただ、それをしたかった」だけである。

 この男の美学は相当、研ぎすまれているのだ。


「えぇええ、うっそぉお。英雄伝説で読んだことある! なにあれかっこいい!」


 重い防具を外して本気になる様子にはユオも大興奮である。

 そう、彼女もまた心の中に14歳(あつきほのお)を抱える人間なのだ。



「ふんっ、そんなものを外したところで私のスピードには叶いませんよ! 魔女様親衛隊の名においてあなたを成敗します!」


 とはいえ、ハンナが優勢なことは間違いない。

 彼女は体から強烈な光を放ち始め、一切の影をなくす。

 その状態で稲妻のような斬撃を繰り出せるのだ。


 シレンの影からの攻撃を封じた今、一方的に攻め立てるだけで勝てるはずだ。



「‡業断(カルマブレイク) -深淵の無慈悲な時間(ルースレスタイム)-‡」


 一方のシレンはさきほどの技のように姿を消すわけではない。


 しかし、彼は何もない空間に対して鋭い斬撃を放つ。

 二度、三度となく、色々な角度の素振り。

 びゅんびゅんと風切り音が響き、その剣の腕が常軌を逸したものであることは誰もがわかった。


「†もし、お前が暁だと言うのなら、この技をかわしてみせろ†」


 だが、それに何の意味があるのかわからない。

 傍から見ていれば試合中に本気の素振りをしているようにしか見えないのだ。

 ハンナを威嚇しているわけでもない。

 何をしているのかわからず、観客たちは首をかしげる。



「おぉっとおぉお? シレンのおっさん、素振りでもしてるんかぁ?」


「試合中やでぇえええ?」


 メテオとクエイクのあおりも当然の話であり、観客たちの一部は罵声を上げ始める。

 ピンチを脱したハンナを愚弄するかのような行為にさえ映った。


「素振りじゃ私を殺せませんよっ! とどめですっ!」


 シレンの出方をしばらく伺っていたハンナであるが、ここにおいて最大加速の最大攻撃に踏み切る。

 彼女は強がっていたが、その脚は万全ではない。

 これ以上、試合を長引かせることはできなかった。


「どおぉりゃあああっ!!」


 彼女は一本の光の直線となってシレンへと迫る!

 

 誰もがシレンの負けを確信したこの場面であるが、凱旋盗の首領だけは笑みを浮かべていた。



 ザシュッ……



「う、うそ……」


 そして、闘技場の床に転がっていたのはハンナだった。

 彼女は背中を斬りつけられ、剣を落としてしまう。

 完全に不意を疲れた一撃だった。


「でぇええええ、ハンナが倒れとるがな!?」


「何が起こってんねん、これ!?」


 どうして高速のハンナが斬られているのか、それは観客たちにもわからなかった。

 しかし、目の前の光景は紛うことなき真実である。

 一瞬での決着に観客たちは大声を上げる。


「†ハンナよ、負けを認めるがいい。お前はまだ若い†」


 シレンは剣をハンナの喉元にあて、降参を促す。

 致命傷とは言えないが、戦闘不能であることは確かだ。

 失血を放っておけば戦士としての未来にもかかわるだろう。


「だ、誰が負けを認めるもんですかっ!」


 しかし、ハンナは自分の負けを認めることはできなかった。

 それは若さゆえの蛮勇なのか、あるいはやっと開花した剣聖としての意地なのか、どちらにせよ無謀であることには変わりがなかった。


「†そうか……、ならば眠るがいい……†」


 その言葉を聞いたシレンは剣を振り上げる。

 首を跳ねる動作にも見え、観客たちは息を呑む。


 もっともシレンは気絶させようとしただけだったのだが。


「ハンナ、もう、負けでいいよっ! 降参しなさい!」


 ユオがそう叫んで闘技場に入ろうとする。

 その刹那、事件が起こった。



 ばぁありぃいいいいいんッッッ!!!


 ガラスが割れるような音が闘技場に響く。


 虹ぃにょが築いた透明の障壁を砕き、闘技場に乱入する男が現れたのだ。

 彼はシレンに体当たりを食らわせると、ハンナを確保する。


「はぁはぁ、シレン、そこまでじゃ……。はぁはぁ、走ってくるのは骨が折れたわい、老骨だけに」


 そこに現れたのは、剣聖のサンライズだった。

 ユオの村の村長であり、今ではサジタリアス騎士団の顧問を務める男である。


 彼はしばらく調査のために大陸を放浪していたのだが、ユオたちの戦いを聞きつけ、走って帰ってきたのだ。



「お、おじいちゃん!?」


「村長さん!?」


「サンライズ!?」


 これにはハンナもユオもイリスもびっくりである。

 もちろん、観客たちはいわずもがなである。


「ハンナ、よくやった。お前は自慢の孫じゃ。……シレン、お主は本当のバカタレじゃのぉ」

 

 サンライズはハンナを慈しむようになでてやる。

 一方、シレンには鋭い瞳を向ける。

 彼の口ぶりからして、サンライズはシレンを知っているようだ。


「†……ふん、誰だ、貴様は? 俺と会ったことがあるのか?†」


 その殺気に反応したのか、シレンは構えを取る。

 一方のシレンはサンライズのことなど知らないといった素振り。


「ふむ……、やはり盗まれておるのか……」


「†老人とは言え、斬るぞ?†」


 なんとなく噛み合わない二人。

 緊迫した空気が流れ、いつ斬り合いが始まってもおかしくはない状態。

 しかし、その緊張を破るのは、メテオとクエイクの声だった。



「あぁーっと、残念! サンライズさんの乱入は反則やぁああ!」


「孫思いの行動は立派やけど、ハンナの負けが決まってもうたぁああ!」


 ハンナとシレンはあくまで試合中であり、サンライズの乱入はルール違反とみなされてしまうのだった。


「……孫を助けたんなら仕方ねぇか」


「……まぁ、どうせ、ハンナの負けは確定してたからな」


 メテオとクエイクの大声はあっけにとられていた観客たちをなんとか落ち着かせることに成功する。

 本来であればサンライズの行動は非難され、勝ちを敢えて譲ったのではないかと疑われてもおかしくはない。

 しかし、メテオたちはあくまでも「孫を思っての行動である」と説明し、故意ではないと観客に理解してもらったのだった。

 


「さぁああああっ、お次に戦うのは誰やぁあああ!?」


「勝ち星は1対1で、ますますわからなくなってきたでぇええ!」


 メテオたちのあおりを受けて、観客たちはさらに大歓声を上げる。

 勝負の行方はまだまだ誰にもわからなかった。



「シレンのやつ、きっちり約束を果たしたじゃねぇか!」


 一方、凱旋盗の陣営は勝利を祝っていた。

 もっとも声を上げるのは、くだんの賑やかな男だけであるが。


(剣聖が四人もそろったか……。そろそろ、準備しないとまずいな……)


 彼は相変わらずの笑顔で闘技場を眺める。

 しかし、その腹のうちにはどす黒いものが渦巻いているのだった。 



◇ ユオ様、サンライズと久しぶりの再会を喜ぶ?


「魔女様、お久しぶりです、はぁはぁ、なんとか間に合いましたですじゃ」


「村長さんっ、元気そう……なのかな? 息上がってるけど、大丈夫?」


「そっ、それが、ごほごほ、ドワーフの国から走って来たんですじゃ昨日から」


「はぁあああ!? 昨日から!? シュガーショックでさえ1日かかるのに!?」


「えぇ、試合について知ったのが昨日でしたので、ごほっ、くかっ、がはっ。ちょっくら寝させてもらいますじゃ……」


 村長さんとの再会を喜ぼうと思ったが、それどころじゃなかった。

 サンライズの顔には死相が浮かび、明らかに疲労困憊といった様相なのだ。

 村長さんはハンナが医務室に運ばれていくのを確認すると、そのままバタリと倒れてしまう。


 ドワーフの国から走って帰ってくるなど、人間のできる行為じゃないよね?

 いくら剣聖だからって、大丈夫なの?


 村長さんが峠を迎えないか、非常に心配な私なのであった。


「ふぅ、一勝一敗か……」


 私は闘技場をまっすぐに見つめる。

 次こそは勝利しなければならないと決意しながら。


 戦えるのは、カルラ・燃え吉・イリスちゃん。

 

 よぉし、次は誰に行ってもらおうかな。


 大穴で村長さん?


 さすがに、どうだろ?

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「業断って反則過ぎないか?」


「魔女様、戦わない気、満々やなぁ……」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークやいいねもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] そうか、魔女さまは熱き焔(厨2)が残っていたか。 俺はつまらない(現実的な)大人になっちまったよ。
[一言] 相変わらずハイスペック超人な村長さん…
[一言] 大穴どころかラスボスを忘れてないか、魔女様?
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