252.クレイモア、思わぬ強敵に苦戦するも最後は盗賊仕込みのあの技で大暴れ! と思いきや
「クレイモアよ、嫌でも俺のことを思い出させてやるぜっ!」
闘技場の中央に出てきたシモンズは含み笑いをする。
精悍な顔立ちに髭を生やした色気のある男だった。
闘技場の女性観客の中にはシモンズを応援するものもちらほら。
彼らは禁断の大地がどうなるかよりも、目の前の一戦がどうなるかに関心があるようだ。
「あたし、倒した奴のことはいちいち覚えてないのだ。こう見えて、過去のことは引きずらない女なのだよ!」
対するクレイモアは明るい表情を崩さない。
こう見えても何も、彼女は100%陽気な女である。
過去のことなど気にするはずもなかったし、そんないたわりの心をもっていたら豪快に剣を振るうことはできなかっただろう。
「ほざけっ」
シモンズはぎりりと歯噛みし、クレイモアをにらみつける。
二人はじりじりと間合いを詰める。
闘技場の空気が張りつめ、観客たちは息を飲む。
そして、その均衡を打ち破ったのはクレイモアだった。
「それじゃあ、悪いけどサヨナラなのだよっ!」
クレイモアは身長ほどもある巨大な剣を振りかぶると、そのままシモンズに突撃する。
その動きはもはや風と呼べるほど早く、もはや並の剣士では太刀打ちできない。
対するシモンズは未だに剣を抜くことさえない。
それでもクレイモアは一切の躊躇なく、敵に斬りこんでいく。
彼女は殺すことを目的としていないため、刃のついていない部分で叩くことにした。
「あぁーっ、いきなり終わったぁあああ!」
「もっと頑張って欲しかったぁああ!」
メテオとクエイクの放映料を気にしたアナウンスが響く。
味方であることは確かだが、今の彼女たちは儲けることしか考えていない。
観客たちもクレイモアの大剣がシモンズを叩きのめしたと確信した。
しかし。
それは、クレイモアの豪剣を受け止めていた。
シモンズの後ろに真っ黒い空間ができており、そこから何本かの触手が現れたのだ。
そのうち一本はクレイモアの剣を受け止め、がっちり握って放さない。
「な、な、なんやあれぇええええ! モンスター召喚なんてありなんかい?!」
「化け物でましたけどぉおおおお!」
闘技場の中央の真っ黒い異空間から現れたのは、巨大なイカ型のモンスター、テンタクルスだった。
うねうねと触手をうねらせる、海に生息するはずの禍々しいモンスターである。
「くっ!」
クレイモアは剣を回転させると、そのモンスターから離れる。
基本的に押せ押せの戦略しかない彼女であるが、距離を取った方がいいと判断したのだ。
「あんたのことは思い出したぞっ! 南洋で船を沈めようとしていた男なのだ!」
クレイモアはここにおいて、やっとシモンズが誰だったかを思い出した。
元S級冒険者のシモンズ、彼は凄腕のモンスターテイマーだった。
しかし、モンスターを使って船団を襲い、その宝を回収していたことが発覚。
ザスーラ首相の依頼でクレイモアとシルビアが派遣され、あえなく倒されたのだった。
しかし、彼は護送中に逃げ出し、そのまま行方をくらませ、賞金首になっていた。
「ふはははは、やっと思い出したか! お前さえいなければシルビア様にプロポーズをするはずだったんだ! 船を襲った金で指輪を買うはずだったんだ!」
ぬらぬらと触手を動かすモンスターを背景にやたらと饒舌になるシモンズ。
お察しの通り、彼はシルビアに一目ぼれをしていた。
シルビアの美貌に夢中になっていたのだ。
だが、彼は知らない。
シルビアが魔力を通じて肉体を大幅に盛っていたことなど。
「そうだったのだ、いきなりシルビアに結婚してくれって迫ってたアホなのだ! にゃはは、盛大に振られて氷漬けになってたのに!」
戦闘中にも関わらず、クレイモアは本当に嬉しそうに笑う。
彼女は別に他人の不幸が好きなわけではない。
ただ、面白ければなんでもいいという、子供そのものなのである。
「ほざけっ、俺はもはやお前らでは太刀打ちできん領域に至ったのだっ! 俺の力を見せつけて、シルビアに再度、結婚を申し込む! いけぇっ、テンタクルス!!」
シモンズは大声で叫ぶと、10本以上の触手をクレイモアに差し向ける。
その触手は伸縮自在でクレイモアの死角から攻撃をしかけてくる。
「あぁっ、やっちまったでやんすぅうう! あいつ、あっしと戦うべき相手だったでやんす! くぅっ、触手対決だったら良かったのに」
触手で戦うシモンズを見て、燃え吉は残念そう叫ぶ。
たしかに、燃え吉の好敵手になりそうなほどの怒涛の攻撃である。
しかし、それでもクレイモアは崩れない。
彼女は攻撃をすべて受け流し、一切の傷を受けない。
「一度戦った相手なんて、お話にならないのだよっ! 即断即決!」
彼女は伸びてくる触手の間合いを見切り、大剣で水平斬りを敢行。
次の瞬間には全ての触手が闘技場の床に落ちるのだった。
「おぉおお!! さっすがは剣聖のクレイモア! うねうね攻撃を一網打尽! イカ焼きにしたれっ!」
「しつこいイカ野郎もここまでやぁっ! なんであれで勝てる思ったんか謎や! うちもイカ焼きは好きやっ!」
クレイモアの決定的な攻撃にヒートアップする会場。
ちなみにクエイクの方がよっぽど口が悪いのは言うまでもない。
「くははは、これで終わりだと? 凱旋盗に入ったことで、俺のテンタクルスはより強力になったのだ!」
自慢のモンスターの足が切り落とされたというのに、シモンズは一切臆さない。
彼は高笑いをすると、何かを見せつけるように掲げる。
「あ、あれは……」
「どっかで見たことある奴でやんす……」
これに反応したのは、ドレスと燃え吉だった。
そう、それは魔石だった。
シモンズは魔石を懐から取り出すと、テンタクルスの額に埋め込んだのだ。
グォオオオオオ!!
刹那、地響きのような絶叫が闘技場に響き渡る。
「あいつらモンスターを魔石改造してるぞっ!? 人工の魔石喰いだぜ、ありゃあ」
ドレスは額に汗を流し、何が起きているかを解説する。
通常、モンスターは他から魔石を取り入れることはできない。
魔石には一つ一つ波長があり、それを自分のエネルギーとして消化することができないからだ。
しかし、モンスターを改造することによってそれが可能になるのではないか?
そう考えて研究開発を進めたものがいた。
モンスターとの共存をうたう聖王国である。
「凱旋盗の野郎、聖王国とも関係しているってことか!?」
ドレスは自分の祖国の敵ともいえる存在が、ここにも影を落としたことに驚きを隠せない。
それはつまり、聖王国が悪辣な魔族とも手を組んでいるということだからだ。
「くはははは! これぞ、魔石武装だっ! このテンタクルスは一筋縄ではいかんぞぉおおおっ! やれっ!」
刹那、複数の触手がクレイモアに襲い掛かる。
先ほど以上の速さと強靭さで。
「おわわっ!?」
クレイモアは剣で弾いたつもりだったが、粘液で滑ってしまい効果的な攻撃も防御もできない。
しまいには触手の一本に捕まってしまうのだった。
一瞬の油断が生んだピンチだった。
「うぐぐぐ!?」
ぎりぎりと締めあげられ、呼吸すら難しい。
並の冒険者ならそれだけで絶命するような力である。
ばきばきっと音を立てて、クレイモアの鎧が粉砕されていく。
クレイモアの肢体が少しずつ顕わになり、観客たちは息をのむのだった。
「あぁーっ、クレイモアが触手に捕まって鎧が割られたぁあ! 初っ端からこんな戦いで素晴らしい! おじさん、お兄さん、大喜び! どっち応援すればええんやー!!?」
「あんた情緒どないなっとんねん! めちゃくちゃやん!」
クレイモアの劣勢にメテオが絶叫する。
その叫びはクレイモアの劣勢を応援したい気持ちと、映像的には非常においしいと思ってしまう二つの気持ちに支配されていた。
この女、根っからの商売人なのである。
「どぉおおおおりゃあああああっ!」
しかし、クレイモアもただの剣士ではない。
全身凶器の剣聖なのだ。
「確かに強いけど木のでかい化け物ほどじゃないのだぞっ!」
ばつんっと音を立てて、彼女は触手の拘束をほどく。
その鎧はなんとかまだ無事であるが、太ももや腹部などは壊れてしまっていた。
胸当てはついているものの、あと一押しで顕わになりそうな胸元。
ぬらぬらと粘液まみれの体。
「シモンズ、けしからんぞぉおおお!」
「もっとやれぇええ!」
図らずも色っぽい様相になってしまい、観客たちはシモンズに大声援を送る。
カップルで観覧していたものたちは、否応なく男が鼻の下を伸ばし、殴られることになる。
「ふははは、いくら逃げても無駄だっ! 俺のテンタクルスには敵わない! お前の剣は粘液で滑って満足に握ることさえできないだろう!」
シモンズは大声で笑う。
確かにクレイモアは自慢の大剣を構えることさえできなかった。
剣聖から剣を奪えば、ただの凡人である。
シモンズはそう踏んだのだ。
だが、違った。
「あたしの新しい技を見せてやるのだっ!」
クレイモアは迫りくるテンタクルスの前で身構える。
それはまるで遥か東国の拳を武器に戦う戦士のような構えだった。
「爆裂拳!」
どぐぉおおおおおんん!!!
そして、クレイモアの拳と共に現れたのは、大きな大きな炎だった。
彼女の拳はあまりに速い拳速をもって大量の摩擦熱を獲得。
魔物の触手と粘液をまとめて燃焼させるに至ったのだ。
「熱い拳で消毒してやるのだ!」
クレイモアは追撃を行い、モンスターを燃える拳でタコ殴りにする。
ちなみに、この技はクレイモアがとある元盗賊から習った技である。
もっとも盗賊のそれは炎など出てこない、全くの別物だったが。
「クレイモアが突然の反撃!」
「触手野郎を粉砕だぁああ!」
剣を奪われたかに思えたクレイモアの逆襲に、観客たちは大きな声援を送る。
邪悪なモンスターはみるみるうちに手足を失い、数秒後には沈黙する。
手持ちのモンスターをやられた以上、シモンズに勝ち目があるようには思えない。
誰もが、クレイモアの勝利を確信した時だった。
「誰が手持ちのモンスターは一体だけだと言った?」
シモンズの低い声が闘技場に響き渡る。
それは観客たちの声をかき消すほど、不気味な響きを持っていた。
グルルルル……
そして、ぬらりとソレは現れた。
真っ黒な、真っ黒な狼が。
それはまるでユオの連れている、聖獣シュガーショックのような姿をしていた。
◇ ユオ様視点
ひぃいいいい、絶対ヤダ、ヤダ、あんな変態と絶対に戦いたくないいいいい!
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「続きが気になる、読みたい!」
「メテオの気持ちわからんでもない」
「クレイモアがキャストオフしないでよかったぁぁ」
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