251.魔女様、ついに禁断の大地武闘会をスタートさせます! 魔女様の領地とメテオの財産をかけた捨て身の戦いはいかに
「これより禁断の大地武闘会を開催します……」
ここは村の一角にできた大型の闘技場。
ドワーフのみなさんが大規模に改修してくれた建物だ。
そこにあふれるのは、観客たちの声。
それは純度100パーセントの熱狂というべきものだった。
つつがなく挨拶を終えた私は闘技場の東の門の方向に戻る。
そこにはハンナやクレイモアをはじめとして、出場予定者が控えていた。
私は出場するわけじゃないけど、監督として出場者と一緒にいるのだ。
うぅう、緊張するなぁ。
「大会進行のメテオとクエイクがルールを解説するでぇっ!」
「まず開催されるバトルは5回! それらの勝ち星が多い方が最終的な勝者となります」
「戦うのは泣く子も黙る凱旋盗と魔地天国温泉の勇士たち! ちなみにこの模様は大陸中にお届けされるでぇっ!」
「凱旋盗が勝ったら、禁断の大地の領地とうちの姉の資金は即没収! ユオ様が勝ったら、凱旋盗は解散! うちの姉がついに自己破産のピンチやぁああ!」
「……クエイク、リストにはあんたの財産も入っとるで?」
「にゃぎゃああああ!? 何してくれてんの、この猫女ぁあああ!」
メテオとクエイク姉妹によるやかましいアナウンスが響く。
場を和ませながら、ルールを説明する様子はさすがだ。
罰ゲームとして出場させてやろうかと思ったけど、アナウンサーじゃ難しいか。
観客からは姉妹を応援する歓声も聞こえる。
ふぅむ、二人とも人気あるんだなぁ。かわいいから当然だとは思うけど。
しかし、吞気に構えているわけにはいかないのだ。
私は今、猛烈に悩んでいた。
「魔女様、最初に戦う生贄は私でお願いしますっ!」
「なに言ってるのだ! あたしが出なきゃ始まらないのだよっ!」
「……みんな殺す」
「対人戦闘用にカスタムされた俺っちを忘れないでほしいでやんす!」
ご察しの通り、4人の出場者はもうすでに決まっている。
一人はハンナ、剣聖サンライズの孫であり、剣の狂気的な達人。
一人はクレイモア、白昼の剣聖であり、簡単に言えば破壊兵器。
もう一人はカルラ。なんでも凍らせちゃうすごい女の子。
そして最後は燃え吉。ご存じの通りの触手ぐにゃぐにゃの溶岩精霊。この間、地獄絵図を見せてくれたのは記憶に新しい。
これにリースの女王様であるイリスちゃんを加えた5人が私たちの出場者である。
正直、このうち一人でも五人抜きできる逸材ぞろいだとは思う。
しかし、あんのメテオのアホ、興業のために勝ち抜け方式のルールは採用していないとのこと。
つまり、それぞれ一回までしか戦えないのである。
うぅむ、誰を一番最初に出せばいいのか悩むなぁ。
「こうなったら最初に戦うやつを決めるために勝負するのだっ!」
「いいですねぇ、腕の一本ぐらいもらいますよ」
「……誰が相手でも殺す」
「ひぃいいいい、本末転倒でやんすよ。ちょっと待でやんすぅうう!」
私が誰を出すか迷っていると、血の気の多い連中がますますヒートアップ。
ハンナとクレイモアはともかくとして、カルラの静かな殺気が怖い。
化け物である燃え吉が一番まともなことを言っているのが悲しいよ。
あんたたち、ちょっとは譲り合う気持ちを持ちなさい!
はぁああ、こんなときに村長さんがいてくれたらなぁ。
彼ならば、びしっと監督してくれただろうに。
実をいうと、数日前、サジタリアス辺境伯に村長さんをこの戦いのために返してくれるように伝えたのだ。
しかし、村長さんはしばらく旅に出ていて、サジタリアスにいないのだそう。
あぁ、もうどこをほっつき歩いているのよ、村長さん!
まさか徘徊癖が始まっちゃったとかじゃないよね!?
「じゃんけんで決めなさい」
しょうがないので、私は4人にじゃんけんで決めるように伝える。
運も実力のうちって言うし、初戦はラッキーな人に任せたい。
ハンナが「殴っていい方のじゃんけんですか?」と聞いてきたが、もちろん、「殴らないやつ」と伝えておく。
第一、私は殴る方のじゃんけんは知らない。
「よぉっしゃあああ! あたしの勝ちなのだっ!」
そして一番最初の出場者はクレイモアに決定する。
彼女はじゃんけんでパーしか出さなかったのだが、皆、それを見抜くことができなかったようだ。
「にゃははは、ひっさびさの対人戦闘なのだっ! 最近、化け物相手だったから嬉しい」
かくして、第一試合はクレイモアの戦いとなる。
さぁ、どうなるか。
ふぅっと私は大きく息を吐く。
クレイモアは尋常じゃない力の持ち主だし、こっちに来てからもめきめきと腕を上げてきている。
ドワーフの国でも大暴れしてくれたし、彼女が負けることなんて微塵も考えられないよ。
とはいえ、相手は凶悪なテロリスト集団なのである。
やっぱり一抹の不安というのが頭の片隅に去来するものだ。
いざとなったら反則負けになってでも、試合を止めるからと私は彼女たちに伝えている。
この領地も温泉も大事だけど、命以上に大事なものがあるわけじゃないからね。
潔く死ぬなんて真似は絶対にさせない。
「東の門からはクレイモア・ウインターが登場やぁあああっ! サジタリアス出身の白昼の剣聖! 大迫力のボディから繰り出される圧倒的な剣撃で、打ち倒してきた化け物は数知れず!」
「お料理界の最終兵器! 得意な料理はハンバーグやぁああああっ!」
「クレイモアのハンバーグ亭はお手頃価格で肉厚ジューシーなハンバーグが名物っ! お口の中が宝石箱やぁああ!」
メテオとクエイクのやかましいアナウンスが城内に響き渡る。
そこまで解説する必要あるのだろうか。
「でっかぁあああい、説明不要!」とかでいいんじゃないだろうか。
「クレイモアだっ! すごいぞっ!」
「ハンバーグ、おいしいぞぉおおお!」
観客たちは大歓声をもって、彼女を迎えるのだった。
凄まじい大音声で鼓膜がびりびりと痛む。
普通、剣聖が戦うところなんてお目にかかれないわけで、興奮するのは理解できるけど。
しかし、ちょいちょい広告を挟むのは何なんだろうか。
そりゃあ、大陸中にアピールしたい気持ちはわかるけどさぁ。
さぁ、相手は誰が出てくるだろうか?
クレイモアと相性のいい相手だと嬉しいけど。
「誰でもいいからかかってくるのだよっ! あたしは優しいから、全身の骨を折って、皿洗いの手伝いぐらいにしといてやるのだっ」
クレイモアは私たちの敵である、凱旋盗の方向を見て大きな声で叫ぶ。
優しいんだか何だか分からないけど、彼女なりに村を燃やされたことを怒っているのだろう。
「俺が相手だ」
闘技場に現れたのは、精悍な顔立ちをした男の人だった。
腰に剣を差しているあたり、剣士なのだろうか。
凱旋盗は魔族の集団だって聞いたけれど、角も生えていないし人間っぽくも見える。
「凱旋盗の一人目は、げぇえええっ、なんでこんなんがここにおるん? 全国放送して大丈夫なん!?」
「だってぇ、相手は無法者やで? そんなもんやろ?」
相手の紹介をしようとしたメテオたちであるが、なんやかんや揉めているようだ。
あの男の素性に問題でもあるのだろうか。
「ええいもう、しゃあないわなっ。凱旋盗の一人目は闇縫いのシモンズ! 元S級冒険者にして、現S級賞金首のシモンズやぁああああ!」
「は? S級賞金首?」
まさかの人物紹介にびっくりしてしまう私。
賞金首ってあれでしょ、色んな国から追われている犯罪者。
凱旋盗って、そういうやつらを仲間に引き入れているってわけ!?
そんな困惑をよそに観客たちは大歓声をあげる。
「クレイモア、久しぶりだな。会いたかったぜ……」
賞金首のおじさんはクレイモアに剣を突き出して何やら話しかけているようだ。
どうも過去に何らかの因縁があったらしい。
「……誰だっけ?」
対するクレイモアは首をかしげて不思議そうな顔をする。
嫌味とかじゃなくて完全に覚えてないって顔である。
あぁ、クレイモアのばか。
こういう時は覚えてなくても、意味深にうなずいてあげればいいのに。
そういう優しさってすごく大事なんだよ?
「ふふふ、思い出させてやるぜ。絶望とともになぁ……」
おじさんはなかなかの人格者だった。
彼は口元ににやりと笑みを浮かべ、含み笑いをする。
それはどこかで見たことのあるような、とても邪悪な笑みだった。
「白昼の剣聖が賞金首を叩きのめすかっ、それとも賞金首が剣聖を仕留めるかっ! 注目の勝負やでぇえ!」
「ちなみに観客席の周りには虹ぃにょが障壁を張ってるから、大丈夫や、たぶん!」
「うぉおおおおおお! クレイモア!」
「剣聖、ぶった切ってくれぇええええ!」
メテオとクエイクの煽りとともに、会場は一気にヒートアップ。
うぅむ、確かにすごい熱気。
儲かるって言ってたのも分かる気がする。
「クレイモア、油断しちゃダメだよ!」
私は構えを取るクレイモアに声をかける。
そして、次の瞬間、運命のゴングがならされるのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「殴る方のじゃんけん……」
「村のアピールもしっかりやってるぜ」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークやいいねもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。






