249.メテオとララは凱旋盗と交渉をして、よからぬ計画を実行に移します。大丈夫なの?
——ユオがイリスを乗せて飛び去った、その次の日のこと。
「ひぃいいい、俺が悪かったぁあああ。何でも話すから助けてくれぇえええ!」
ここは泣く子も黙る禁断の大地。
その村の一室に縄で縛られた魔族の男が連れてこられた。
彼の表情は絶望に沈み、涙ながらに命乞いをしている。
「で、あんたがスパイやったんかぁ? ふふ、えぇ度胸やなぁ」
男が命乞いをしている相手は猫耳娘のメテオ、そして、メイド服のララである。
へにゃるんとした顔のメテオと無表情なララという対象的な二人は、ユオのいない間は村の全権を任される存在だ。
彼女たちの後ろには男を捕まえたハンナが控えていた。
「ご主人様の街を破壊したということは、ご主人様のお肌に傷をつけたということ。頭と胴を切り離してから懺悔して頂きましょう」
ララは冷酷極まりないことを眉毛一つも動かさずに伝える。
彼女は常にクールでちょっとのことでは動じない性格である。
だが、放火の件についてだけは怒っていた。
古文書の町の建築はユオの夢が本格的に動き始めた第一歩であり、それを邪魔されたのだ。
凱旋盗のスパイが捕まったと聞くと、否応なく血圧が上がる。
「ララさん、ここは一つ火あぶりにして、魔女様の街と同じ痛みを味あわせましょう!」
後ろから声をかけるのがハンナだ。
彼女は天使のような笑顔で、残忍極まる処刑法を提案する。
火あぶり、それは最も苛烈な刑罰の一つなのである。
もっとも、ララもハンナも本気で言っているわけではない。
あくまで敵の情報を引き出すための演技である。
「それじゃあ、火あぶりにしながら、ゆっくり真っ二つにしましょう」
「グッドアイデアですよ、ララさん!」
二人はとんでもなく残忍なことを言い出し、ふふふと含み笑いをする。
……演技ですよね?
ララさん、ハンナさん?
「ひぃいい!? 何でも話す、話すからぁああ!!?」
鬼気迫るララとハンナの表情に観念したのか、男は顔を青くして自分の知る限りの情報を話し始めるのだった。
「ふぅむ、なるほど……」
その情報のほとんどはユオが魔王から聞いていたものと一致していた。
しかし、凱旋盗の首領のもとに複数人の有力な幹部がいることなど、新しい情報を得ることができた。
魔王たちを襲ったのは、その幹部の一人だということは少なからず、二人を戦慄させる。
なんせリースの女王と魔王の二人を不意打ちとはいえ、一方的に攻撃する男が配下なのである。
凱旋盗の首領はさらに強力であることは想像に難くない。
メテオは口元に手を置いたまま、しばし、考える。
どうすれば一番、面白くて儲かるのか、と。
「ララさん、思い切ってこんな計画どうでっしゃろ……」
「えぇ!? そんなこと、ご主人様が何ていうか……反応は面白そうですけど」
「あぁ見えて結構ノリノリやったりするし、男装の時も……」
「確かに……。ふぅむ、いいですね! じゃ、その方向で……」
ララとメテオは得られた情報をもとに小声で何かを話し始める。
話し合う中で、二人の表情はころころ変わる。
しかし、数分もしないうちに、落ち着くところに落ち着いたようだ。
メテオとララはその後、何らかの書類を書き始める。
「スパイさん、あんたを釈放してもええで。その代わり、凱旋盗の首領さんにこれを渡してほしいんやけど?」
メテオはにんまぁと笑顔になって、書状を差し出す。
そこにはララの几帳面な文字で「凱旋盗の首領様へ」と書かれていた。
「それを渡すなら釈放してくれるというのか? あ、あんたの目がいちばん怖いんだが」
もっとも書状を差し出すメテオの瞳は笑ってはいない。
目の奥の鈍い光に男はさらなる恐怖を覚える。
直接的に危害を加えそうなララとハンナ以上に、猟奇的な冷たさを感じるのだった。
「こんな美少女捕まえて目が怖いはひどいわぁ。……まぁ、ここで胴体と今生のお別れをするんやったら別にええけど。もしくは腸でちょうちょ結びでもしてもらいます?」
「わ、わかったぁああ! お前の言うことを聞こうじゃないか!」
スパイの男は涙目になって、メテオの依頼を受けるのだった。
男はメテオから書状を受け取り、こっそりと村を出ていく。
その身のこなしは明らかに尋常のものではなく一瞬で建物の闇の中に消えていく。
ハンナでなければ見逃していただろう。
「さぁて、どう出るでしょうね?」
男が去っていった様子を眺めて、ララがぽつりとつぶやく。
あのスパイが首領に手紙を渡せるかどうか、そして、彼女たちの手紙に応じてくれるかどうか。
一種の賭けかもしれないな、とララは思う。
「まぁ、天運が味方してくれると思いますわ。きっちり」
メテオは含み笑いをしながら、そう返事をする。
そう、彼女には確信があったのだ。
相手に悪意があればあるほど、こちらの言葉に応えてくれるという確信が。
◇
「あんたの提案、なかなか面白かったぜ? 何でもありだなんて、ボスは大笑いしていたよ」
スパイの男を解放したの日の夕方のことだ。
温泉リゾートの一室に顔を包帯でぐるぐる巻きにした男が現れる。
彼は凱旋盗の首領の片腕とだけ名乗るも、素性はよくわからない。
身長はそれほど高くもなく、声は少年のように高い。
しかし、一つだけ確信できることは尋常のものではないということ。
リゾートの一室に音もなく入り込み、メテオがふと気がついた時には椅子に座っていたのだから。
「せやろ? どうせならおもろいほうがええもんなぁ」
「まったくだぜ、猫人の女! あんたと気が合いそうだ。うちの団員になるなら幹部に推薦してやるぜ?」
その場にいるのはメテオとララの二人。
そして、その背後にクレイモアとハンナが控えていた。
クレイモアとハンナは殺気を押し殺しているとはいえ、村の二大戦力である。
どんなに上位の冒険者であっても彼女たちに睨まれれば生きた心地はしない。
しかし、この男は二人の視線をいくら浴びても飄々とした態度を変えなかった。
むしろ、そんな状況を楽しんでいるかのようにさえ見える。
「いやぁ、スカウトされるなんて嬉しいわぁ。でも、今んところユオ様がナンバーワンやからなぁ」
「そうかい、そりゃあ残念だ」
「……ほんで、うちら火事場の片付けとかせなあかんから、あんたと世間話してる暇はないねん。こっちの提案を受けるんか、受けないんかはっきり聞かせんかい、あぁ?」
メテオはにこやかな表情から一転、凄みの効いた声を出す。
かわいらしい風貌とは裏腹に、強い軸と根性を持っている人物である。
そして、何より彼女はピンチ時の交渉に強かった。
普通の商人なら斬り殺されかねない相手を目の前に脅し文句をいうことはできない。
しかし、メテオは違った。
なだめ、すかし、あるいは脅し、自分の要求を伝えていくのだ。
「……いくつか条件はあるが、受けてやってもいい、との話だ」
空気が変わったことに気づいた男は、少しだけ声を低くする。
そして、指を3本たてて、条件を読み上げる。
「まず、殺した方が負けっていうのはナシだ。俺らは盗賊だ、殺さずには戦えない。次に、大会まで10日も待つことはできない。最大に譲歩しても開催は5日後だ。そして、最後の条件。リースの女王をこれに出させろ」
メテオは心の中で「ほぉ」と驚きの声をあげる。
想像以上に冷静にこちらの提案を吟味した様子がうかがえたからだ。
つまり、敵にとってもこの提案は非常に美味しいということである。
「リースの女王様を?」
「あぁ、それは譲れないらしいぜ」
彼女にとって一番意外な条件は、リースの女王を計画に巻きこめというものだった。
おそらく、最後に出してきたこの条件こそが最も重要なものなのだろうと予想がつく。
凱旋盗が彼女に執着する理由があるのだろうか?
それとも別に狙いがあるのだろうか?
メテオは笑顔のままで考えるが結論は出ない。
とはいえ、この程度の譲歩で済むなら、お買い得と判断する。
リースの女王は好戦的なことで知られている。
もしも、その呪いが解けたなら、今回の計画に参加するに決まっているのだ。
「……あっちゃあ、10日の延期は無理? せめて1週間の延期でもええぇんやけどなぁ。うちの可愛い顔に免じて話を通してくれへん?」
メテオは眉毛を八の字にして、困った困ったと言い募る。
だが、男は静かに首を横に振るのみだった。
男のつれない態度にメテオはふぅとため息をつく。
「ええで。それじゃあ今日から5日後、うちらの精鋭が闘技場でおもてなしするさかい」
とはいえ、メテオとしては「それ」の開催を5日後にできただけでも大きかった。
当初の3日後という村の明け渡し期限からすると、大きな進歩である。
「メテオといったな、あんたはこっち側だと思うんだけどなぁ。盗賊稼業もいいもんだぜ? 欲しいものは何でも手に入るし、一度やったら病みつきだぜ?」
男は執拗にメテオを盗賊団に勧誘しようとする。
彼はメテオの度胸や軸の強さに感心していたのだった。
この獣人であれば自分たちの組織をもっと大きくできるだろうとさえ思える。
この猫耳の商人はかつて聞いたことのある、【悪商】のスキル保持者のような振る舞いだからだ。
そして、その獣人を心酔させているユオという存在に少なからず関心を抱くのだった。
「……お兄さん、ぶぶ漬けでもどうどす?」
とはいえ、メテオはそんな勧誘など一顧だにしない。
彼女は立て板に水とばかりに男の提案をシャットアウトするのだった。
◇
「ララさんからみんなにお話があります。……ララさん、お願いするでぇ!」
凱旋盗の男が去った後、メテオとララは大急ぎで仕事を開始する。
彼女たちは村人を広場に呼び寄せると、大声で演説を開始するのだった。
「皆さん、このたび、ユオ様は第一回禁断の大地武闘会を開催します!」
「禁断の大地武闘会!!?」
「諸君、自らの道を拓くため、禁断の大地のための政治を手に入れるために、あと一息、諸君らの力をユオ様に貸してください! 我々の愛する帝王ユオ様に最高の舞台を用意しましょう! 村を燃やした無法者に鉄槌を!」
「うぉおおおおお!」
以前、ミラージュに襲われた時もそうであったが、ララにはアジテーションの能力があった。
彼女は言葉一つで村の住民たちを結束させ、熱狂の渦へといざなう。
彼女は村人をいくつかのグループに分けると今回の仕事内容を説明し、それぞれに作業を割り振っていく。
「ドワーフの皆さんはとにかく闘技場の整備をお願いします! 客席をガンガン作っちゃってください!」
「任されたっ!」
凱旋盗に建築現場を燃やされていたドワーフたちであるが、メテオの言葉によって奮起する。
彼らが向かうのは、冒険者たちが訓練をする闘技場と呼ばれる建築だった。
メテオたちはその闘技場に観客席をつけるように伝えるのだった。
「クエイクはうちのおかんと相談して、運営の協力を取り付けて! できたらスタッフを回してもらい」
「分かった! にゃはは、おかんのことやし絶対に乗ってくるわ!」
クエイクには大急ぎで母親のフレアのもとに行くようにと指示を出す。
ザスーラ連合国で大きな商会を持っているフレアならば、彼女たちのプロジェクトの運営を首尾よく回してくれるだろう。
「ドレスはあの聖王国の女が使っていた、映像を飛ばす魔道具を作ってほしいねん! 期限4日で」
「でぇええ!? 4日って、うっそだろぉお!?」
そして、ドレスに与えられたのは映像の配信を行うための魔道具だ。
その魔道具自体はドワーフ王国で回収されており、一応の原理を知ることはできた。
しかし、理屈を知っているというのと作れるというのは大きく異なる。
そもそも材料の入手さえできるかどうかわからない。
「金に糸目はつけへんで? 七彩晶でも、女神の涙でも、金節鉱でも使ってもええから」
「わかったぜっ! やってやらぁああ!」
メテオは渋るドレスの前にとびきりの条件をつきだす。
それは村の倉庫に格納されている高級素材の使用許可だった。
ここまで言われれば、ドレスに断るという選択肢はない。
「よぉし、燃え吉、虹ぃにょ、手伝ってくれよな」
「ひぃいいい、やるでやんすぅうう!」
「わけがわかんないけど頑張るですわっ!」
ドレスはユオのために、自分たちの国のために、挑戦することを決意する。
燃え吉も虹ぃにょも何が起きているのかと目を白黒させるばかりであったが。
かくして、メテオたちの企みが怒涛の勢いでスタートするのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「第2回もやるつもりなんすかね」
「ドレスはいっつも無茶ぶりされてんな……」
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