247.魔女様、女王様の師匠の住む塔にカチコミをかける。よい子は一階からきちんと登ろうね、ズルはダメだよ
「ユオよ、見えてきたぞっ!」
私たちの街を離れて、どれぐらいたっただろうか。
まるで地の果てみたいなところに、それはあった。
「あ、あれって何? 塔?」
私の目に飛び込んできたのは塔だった。
しかも尋常な高さの塔じゃない。
エリクサーの村にあった世界樹と同じぐらい高い。
どちらかというとひょろひょろした感じで、どうやって自立しているのか謎だ。
「よし、降りて上を目指すぞ。わらわの師匠はその最上階にいるはずだ」
イリスちゃんの指示に従って、とりあえず地面に降りる。
「こ、これに今から登れっていうの?」
見上げるとそれは絶望的な高さだった。
飛んでいるときは気づかなかったけど、登るのを考えただけで筋肉痛がやばそう。
イリスちゃんに魔法でどうにかできないのか尋ねると、彼女は黙って首を横に振る。
「そうだ。この塔の壁には一流の魔法防御がしてある。今のわらわたちでは地道に登るしかあるまいて」
「ええぇええ……」
イリスちゃんの説明ではこの塔には様々な仕掛けがあって、それを攻略してはじめて最上階に行けるとのことだ。
とはいえ、イシュタルさんが苦しんでいるわけだし、そんな悠長なことを言っている場合じゃない気がする。
はっきり言って、この塔を登って降りてくるだけで十日はかかりそう。
言っとくけど、私、運動能力はそこまで高くないからね。
クレイモアとかハンナみたいな化け物じゃないし。
「よぉし、イリスちゃん、いっくよぉおお!」
「ちょっと、ユオ! 人の話を聞けっ!」
そんなわけで私はイリスちゃんをお姫様抱っこして飛んでみることにした。
熱による飛行にもだいぶ慣れてきて、今では自由自在に動けるようになったっていうのも大きい。
目指すは最上階。
ずるいとか言われるかもだけど、せっかく飛べるんだしショートカットも大事だよね。
雲の中を突っ切って、どんどん進むよっ!
しかし、下だけは絶対見ないようにしなきゃ。怖いし。
ういいいいいいん、ういいいいいん……
最上階が見えてきたっていうタイミングで、変な音が辺りに鳴り響く。
まるでドワーフの王都にあった魔法の道具が作動するときみたいな音。
「ひ、ひぃいい、やばいぞ。見つかった」
イリスちゃんはお姫様抱っこされたまま、悲鳴にも似た声をあげる。
ん? 誰に見つかったって?
「警告スル。10秒以内に立ち去らない場合には撃ち落トス」
辺りにヘンテコな声が響く。
人間の声とは明らかに異質な響きだった。
しかも、言っていることが穏やかじゃない。
この高さから撃ち落とすだからね。
とは言え、相手はイリスちゃんのお師匠様なんでしょ。
ってことは知り合いのはずだし、話せばわかってくれるはず。
「あのぉ、イリスちゃんとイシュタルさんが大変なことになったんで、やってきたんです! 私は敵じゃありません!」
16歳の無力な女の子による必死の懇願というやつである。
これなら相手も攻撃なんてしてこないだろう。
「警告終了。攻撃を開始しマス」
しかし、相手は感情をほとんど感じさせない声で非情な宣告。
がががががが……
次の瞬間には壁に穴が開いて、細長い筒が私たちの方向に向けられる。
あれ、これってどこかで見たような。
「ほぉら、言わんこっちゃない! あんのクソばばあは人の話を聞かんのだっ! 魔法が使える時のわらわならともかく、お主では無理だ!」
イリスちゃんが言い終わらないうちに、筒から光の玉が放出される。
ばばばばっと大量の光の玉がこちらに飛んできた。
その数は10じゃきかない。
あわわ、何なのよ、これ。
「避けろっ! 当たったら死ぬぞっ!」
「そんなこと言われてもぉおおおおっ!?」
光の玉はかなりのスピードでこちらに向かって飛んでくる。
しかも、直線的に飛ぶだけじゃない。
明らかにこちらの動きを追いかけてくるような動き。
「やばっ……」
そして、気がついた時には私は四方八方を光の玉に囲まれているのだった。
目の前に迫る光の玉は何かの魔法だろうか。
ひょっとして、これが私の最期なのぉおおおお!?
「ひぎゃあああ!?」
イリスちゃんの大声が辺りに響きわたる。
どどっどどどどどどっどど
凄まじい爆裂音。
私の目の前は無数の光で覆われていた。
だが、しかし、痛くも痒くもないのだ。
ふぅむ、熱鎧を発生させているからだろうか。
「し、信じられん……」
イリスちゃんは、呆然とした表情。
それもそのはず、彼女にもこの熱鎧の能力を分けているのだ。
とはいえ、次から次へと現れる光の玉に大歓迎されているわけには行かないのだ。
さっさと塔の中に入ってお師匠様とやらと交渉しなければいけない。
「それじゃっ、飛び込んじゃおうっ!」
「えぇっ、ちょっと待った、待つのだぁああああ!?」
私はイリスちゃんを抱っこしたまま、塔の壁に一直線に飛ぶ。
今、私たちは熱の塊になっているわけで、壁ぐらいなら突破できるはず。
壊しちゃっても緊急事態だから、仕方ないよね。あとで補償はちゃんとするから!
どぶん……
壁の中に突入した時はとても不思議な感覚だった。
まるで水の中に潜った時のような、そんな感覚。
外の音が変な感じに聞こえる。
どうやら、相当に厚い壁だったようだ。
「つ、着いた……。信じられん」
どぶんっと壁を抜けると、今度は大広間みたいなところに到着した。
石畳が広がっており、ちょっとしたパーティでもできそうなほど広い。
不思議なことに、私が突入してきたはずの壁には傷一つついていなかった。
ふぅ、よかった、壊さなくて。
ひょっとしたら、あちらもイリスちゃんに気づいて歓迎してくれたのかもしれない。
さぁて、お師匠様に理由を話すよ!
ぎぎ、ぎぎ、ぎぎ、ぎぎ……
どんな人が出てくるんだろうと思っていたら、またぞろ変なものが現れる。
それはまるで金属でできた人形のような、へんてこなものだった。
大きさは3メートルぐらいで、両腕に剣を持っている。
数は5体ほど。
ふぅむ、何コイツ?
「ちぃっ、アルテマゴーレムまで出しよって、あんのクソババア……」
「ゴーレム!?」
イリスちゃんがちぃっと舌打ちをする。
一方の私はゴーレムなんてものを生まれて初めて見たわけで、ちょっぴり興奮する。
だって、ゴーレムだよ、おとぎ話じゃなかったんだ!
ドレスが見たのなら、もっともっと興奮するだろう。
「異物を排除スル」
しかし、ぼんやり眺めているわけにはいかなかった。
そのうちの一体がこちらに向かって斬りこんできたのだ。
その剣は鋭く、話せばわかるなどと言ってる場合じゃない。
そもそも、お師匠様とやらは何で私たちを攻撃してくるわけ!?
「えいっ!」
私はとりあえず熱視線を出して、相手の腕を斬り落とす。
次の瞬間には、どがたんっと音を立てて床に落ちるゴーレムの腕。
しかし、しかし。
ゴーレムは、ずずずっと音をたてると腕を元通りにしてしまうのだ。
なんてやつ、まるで燃え吉みたい。
「ユオよ、あいつらはただ攻撃しても死なぬ。自動で回復する古の化け物だ。しかも、復活すればするほど強くなる。あの胸元にあるゴーレムの文字をどうにかして消すのだ。さすれば石の塊になるはず!」
イリスちゃんはさすがに物知りだ。
なるほど、あのゴーレムの文字を消せばいいのね。
しかしだよ、私の能力でどうすれば消せるだろうか?
消す、消す、消す………。
「あ、そっか」
ここで私はグッドアイデアを思いつく。
何も文字だけを消す必要はないのだ。
「えいやっ、とぉっ、てぇえええい!」
私は複数の熱の円を次々に発生させると、ゴーレムに飛ばす。
なんせ相手の動きは遅いのだ。
いくら熱円が遅いとはいえ、大きい的を狙うのは簡単だった。
ひぷしゅんっ、ひぷしゅんっ、ひぷしゅんっ、ひぷしゅんっ、ひぷしゅんっ。
ちょっとだけ可愛い音を立てて、ゴーレムは全部消える。
おそらくは塵も残さず。
そう、文字を消すなんて私の能力では不可能なのである。
だったら、その存在自体を消すしかないよね。
うん。
「な、な、な、何だ今のはぁぁあああ!? アルテマゴーレムだぞ、古代魔法の叡智だぞ!?」
せっかく助かったというのに、イリスちゃんは頭を抱えて何かをわめいている。
ふぅむ、実はゴーレム好きだったのだろうか。
そうだったとすれば、悪いことをしたかもしれない。
あるいは、貴重なものだったのかもしれない。
一体ぐらい持って帰れば、ドレスが大喜びしただろうなぁ。
今さらながら相手の希少性に気づき、後悔する私なのであった。
「……イリス、お前、とんでもない化け物を連れてきたね」
そして、床の中央から現れたのは、エルフの女の子だった。
……ふむ、この子がお師匠様?
【魔女様の発揮した能力】
熱鎧:魔法攻撃から身を守ることができるように進化した熱鎧。油断さえしていなければ、大概の魔法をその術式から燃やすことができる。原理はほぼほぼ不明。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「確かに文字は消えたな……」
「自分の知ってるゴーレムの倒し方と違うんすけど……」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークやいいねもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。






