245.魔女様、敵さんの残虐行為にキレそうでキレず、少しだけキレる
どっがああああああああんっ!
それは突然のことだった。
私達がならず者たちからの防衛計画を練っている最中に、とんでもなく大きな爆発音が聞こえてきたのだ。
屋敷の壁がきしきしと音をたてる。
「爆発だよね!?」
騒然となる私達である。
うちの街に爆発するようなものがあっただろうか。
そもそも、どこで!?
「ユ、ユオ様、まさかさっそく爆破したん?」
メテオはこの期に及んで軽口を叩く。
だけど、その顔はひきつっていて、明らかに緊急事態だって分かってる模様。
「遠隔で爆発なんかさせられないよっ! 見てこよう!」
私たちは急いで表へと出るのだった。
何が爆発したのかわからないけど、なんだかすごく嫌な予感がする。
「……はぇ? なにあれ」
屋敷の外に出た私は絶句してしまう。
私の街の空の一角が赤く燃えているのだ。
その方向は……新しい街を建築しているエリアだった。
「うっそやん……燃えてるやん……」
さすがのメテオも、もはや冗談すら言えない。
彼女は口をぽかんと開けて、そうつぶやくのみだった。
「ハンナ、クレイモア、急ぐよっ!」
嫌な予感が加速する。
私は二人に声をかけると、一気に屋敷の前を飛び立つ。
目の前に広がるのは赤々と燃える街並み。
人々の怒号と悲鳴が聞こえる。
嘘でしょ、嘘でしょ、嘘でしょぉおおおおっ!
せっかく何もかもが上手くいき始めた段階なのにぃいいいい!!
そんなふうに叫びたい気持ちを必死に抑えて、私は一直線に飛ぶのだった。
「火を消せぇええっ!」
「延焼させるなぁっ!」
現場につくなり目に入ってきたのは、ごうごうと燃え上がる建築現場。
私の、私たちの夢の街が燃えちゃってる。
現場を管理していたドワーフのみなさんが必死に火を食い止めようとしている。
だけど、火の勢いが強くて歯が立たない。
水を精一杯かけたところで、どうしようもない規模の大火事だ。
どうして!?
なんで、こんなことに!?
いや、そんなことより、怪我人は出ていないだろうか?
足ががくがくと震え、思考がぐるぐる回る。
「領主様ぁっ! ここは危険ですっ! 下手すりゃ向こうの街まで燃えます!」
ドワーフのおじさんが必死な声で駆け寄ってくる。
私は炎は効かないから危険ってことはない。
だけど、私じゃ役に立たない。
私はものを爆発させたり、燃やしたりぐらいしかできない。
自分の無力さに思いっきり腹が立ってくる。
「た、助けてくれっ!」
そうこうするうちに悲鳴が聞こえてくる。
ドワーフのお姉さんが木材の下敷きになっているようだ。
「ちいっ、今行くぞっ! くそっ、炎が……」
しかし、いくら勇猛果敢でも、燃え盛る炎のが邪魔で駆け寄ることはできない。
助けようにも助けられない。
事態は最悪の色を帯びようとしていた。
「今行くよっ!」
気がついたときには、私は彼女の方にかけだしていた。
燃え盛る木材は確かに熱そうだ。
だけど、私にとっては、まだまだ生ぬるい。
私は火の粉を振り払うことさえせず、ひたすら進む。
「もう少しだよっ!」
彼女の体には太い木材がのしかかっていた。
私の力じゃ持ち上がりそうにもないので熱視線で切断し、彼女を解放する。
「ひぃいいい!? 領主様!? 大丈夫なんですか!?」
私が彼女の手を取ってもどってくると、ドワーフのおじさんたちは目を丸くしているのだった。
ふぅ、とりあえず一人。
他に火事に巻き込まれた人はいないでしょうね?
「カルラさんっ、お願いしますっ!」
そうこうするうちに、ララたちが到着したようだ。
「……冷凍寒波」
カルラは燃え盛る家の前に立つと、相変わらずの冷凍能力で火を食い止めていく。
彼女の力はものすごい。
火事を延焼させることなく、なんとか鎮火することができたのだった。
その後、ドワーフの皆さんは一人ひとりを点呼する。
建築現場はほとんど全部燃えちゃったけど、幸運にも死者はゼロ。
私が助けた人も含めて、かすり傷程度ですんだとのこと。
「何が原因なんでしょうか。火の管理はしっかりされていたと思うんですが……」
焼け跡の焦げ臭い匂いがする中、ララは鋭い目つきで焼け跡を確認する。
夜が明けたら現場検証をしっかりしなきゃいけないよね。
それに、あの爆発音も何だったのか気になるし。
「ま、魔女様ぁあああ! 大変ですっ! 治療所にダークエルフの、あのっ、魔王の人が大怪我をして運び込まれましたぁっ!」
しかし、しかし。
私たちはそう簡単に夜明けを迎えることさえできないようだ。
治療所で働いているスタッフが大きな声をあげてやってくるではないか。
「魔王様が、大怪我!?」
火事だけでも頭がおかしくなりそうなのに、これまたトラブルの発生だ。
もしかしたら、火事と何らかの関係があるのかもしれない。
しかし、魔王であるイシュタルさんが大怪我するなんて信じられない。
あの人、殺しても死ななそうな貫禄があるって言うのに。
「ハンナ、クレイモア、とにかく街を巡回して! 私たちは治療所に行くからっ!」
私はイシュタルさんが運び込まれた治療所へ駆け出すのだった。
ハンナ、クレイモア、この場所を頼んだよ!
◇
「とりあえず、止血だけは急いでやりますぅうっ!」
「止血剤と回復薬を持ってきたのじゃっ!」
治療所に到着すると、リリとエリクサーの二人が必死に看護にあたっているところだった。
「……くふふふふ、灼熱か。情けないところを見せてしまったな」
手当を受けるイシュタルさんはベッドに横たわっていた。
相変わらず不敵な笑みを浮かべているけれど、見るも無惨な状況だった。
胸元に大きな傷口があるらしく、赤く染まった包帯が痛々しい。
「とっさに内臓の位置をずらしたが、なかなかに痛いぞ」
イシュタルさんはさらっととんでもないことを言っているが、今はそれに突っ込んでいる場合じゃない。
彼女の顔色は悪く、明らかに弱まっていっているのだ。
「姉上、わかっていると思うが、これは呪いだ。あの剣には禁忌の呪いがついていたようだ」
イシュタルさんはとても辛そうに低い声で話す。
呪い?
誰かに切られて、呪いにかけられたってこと?
「これを見よ……」
彼女がなにかの魔法を唱えた瞬間、私たちは信じられないものを目にする。
それは蛇だった。
なんと、彼女の胸の中央にある傷口から真っ黒な蛇がゆらりと這い出てきたのだ。
「ひぃいいいいいい!? これが呪い!?」
これにはびっくり仰天してしまう私である。
まさか蛇の形をした呪いがあるなんて。
蛇自体が苦手なわけじゃないけど、あまりにも毒々しくて背筋がぞわぞわしてくる。
「見事にやられたな、姉上」
イシュタルさんは先程からしきりにイリスちゃんに話しかける。
イリスちゃんはずーっと黙っていて、憮然とした表情。
ま、まさか、ケンカで魔王様をぶっ刺したわけじゃないよね!?
「残念ながら、わらわではない。……年はとりたくないものだな。わらわもやられてしまったぞ。ぐ……」
イリスちゃんはこちらに向き直り、ふぅっとため息を吐く。
顔色は悪く、明らかに、いつもの自信に溢れた表情ではなかった。
そして、その理由を見て絶句する私達なのである。
ゆらりと、イリスちゃんからも黒い蛇が立ち上ったのだ。
「えぇええ、イリスちゃんも呪われているわけ!?」
「そのようだな。イシュタルほど強くは入っていないが、どうやら魔法の一部が使えないらしい……」
まさかの事態だった。
イリスちゃんも呪われてしまっていたのだ。
「実は……」
彼女の話によると、爆発音を聞いたあとに黒尽くめの剣士に襲われたとのこと。
相当の手練でイシュタルさんはイリスちゃんをかばって負傷したとのことだった。
襲ってきた剣士に見覚えはなく、おそらく街の人間ではない、とのこと。
「ぐぅぅぅぅっ、灼熱よ。これが凱旋盗だ。奴らが来たらしいぞ」
「しゃ、喋らないでください! 呪いが傷口からはみ出ますよっ!」
イシュタルさんはうめき声をあげながら、必死の表情。
リリたちもまた必死にそれを看病する。
「凱旋盗ですって……」
それはつい先程、イシュタルさんに警告されたならず者集団の名前だった。
信じられない。
こんなにも早く襲撃してくるなんて。
しかも、私の新しい街を燃やしてくれただけじゃなくて、お客様を襲うなんて。
怒りがふつふつと湧いてくる。
いくら温厚な私でも怒っていい場面だよね、これ。
私の内側に大きな熱が湧き出てきて、この身を焦がすような衝動を感じる。
不届き者をやっつけないと気がすまないというか。
「ひぃいいい、あかんでぇ、ユオ様!? 八つ当たりしたら街がもっと燃えるで!」
メテオが必死な顔で私を諫めてくれたので、なんとか自分を保っていられる私なのであった。
だけど、こんなこと許されないでしょ!?
人の頑張りを何だと思ってるわけ!?
「魔女様ぁあああ! 村にこんなものが撒かれていました!」
ばぁあんっと扉が開けられて、飛び込んできたのはハンナだった。
彼女は手に紙をもっており、そこにはこう書かれていた。
『3日後、この土地をもらう。領民の命が惜しければ、出て行け。 凱旋盗シュラ』
それは完全な脅迫文だった。
差出人はイシュタルさんの言ったとおり、凱旋盗。
その内容は単純明快。
七彩魔晶どころではない。
この土地ごと譲れと言っているのだ。
私達が必死になって開拓してきたこの、土地を。
私達が汗水垂らして発展させてきたこの街を出て行けと言っているのだ。
私は無法者の過剰な要求に、それまで平静を保っていた心の糸がぷつりと切れそうになるのを感じた。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「黒尽くめの剣士、けっこう、強そう……」
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