243.魔女様、狙う立場から狙われる立場にレベルアップする。迎え撃つは女王・剣聖・狂剣・氷の魔女・精霊2匹などのトンデモ布陣だ
「そ、それで何をしにいらっしゃったんですか?」
ここは温泉リゾートの一番いいお部屋。
いわゆるところの貴賓室である。
そのお部屋はかなり豪華な作りになっていて、豪華絢爛なしつらえがしてある。
「ユオよ、さっきまでの話し方でよいぞ」
「私もだ、下手な敬語は好まない」
イリスちゃん、改め、イリス女王はそう言って微笑む。
しかし、目は笑ってない。
さらには魔王様も笑顔で追い打ちをかけてくる。
「わらわは堅苦しいのは大嫌いだからな」
「同感」
仲が悪いはずなのにやたらと意気投合する二人である。
タメ口で話せって言われてもなぁ。
ぐぅっと言葉に詰まる私である。
とはいえ、私も一応は国家元首みたいな存在なのだ。
二人とフランクに話したって良いはず。
それに、イリスちゃんに感じていた感情は消えたわけじゃない。
相手が女王様だと分かったからって態度を変えるのもちょっとおかしい。
そもそも、二人とも古文書の民族衣装を着てるからね。
今やうちの温泉名物となったその衣装は、着るだけでリラックスの波動を放つのだ。
そういう意味では威厳や威圧感は5割ほど減退しているはず。
ええい、見る前に飛ぶしかないじゃん!
これからは女王様はイリスちゃん、魔王様はイシュタルさんでいくよ!
「で、えーと、イリスちゃんとイシュタルさん、二人とも何のご用なのかな?」
私は二人に改めて質問をする。
あえて、わざとらしくフレンドリーなタメ口で。
さぁ、この二人はなんて答えてくれるのだろうか。
この大陸の有力な国の二人が、なぜ、揃いも揃って同じ日に現れたのか。
まさか裏でつながっていて、私の街を破壊しに来たんじゃないでしょうね。
「わらわは禁断の大地を独立させた女の顔を見に来ただけだ」
イリス女王は相変わらず可愛い顔で、ふふふと含み笑いをする。
姿形は完全に年下なんだけど、言動は私なんかよりも遥かに大人っぽい。
ギャップがありすぎるんですけど。
「私は貴様を我が大魔王様に会わせようと思ってな。ふふふ」
一方、魔王イシュタルさんは相変わらず不敵な笑み。
その口から出てきたのはとんでもないことだった。
「はぁああ!? 大魔王!?」
「そうだ。いわば我々のトップだ。世界のトップと言ってもいいだろう」
驚きの隠せない私に魔王は涼しげな顔。
相変わらず凛々しいお顔でまつげが長い。
いやいや、いかん、いかん、見惚れている場合じゃないのだ。
この人、今、ものすごいこと言ってくれたよね!?
「イシュタル、つまり、お前たちは禁断の大地を魔族のものにすると言ってるのだな?」
私が反応するより早く、イリスちゃんがドスの利いた声を発する。
その声は私と一緒にいたときの高い声とは大違い。
まるで地の底から響いてくるような、脅しに近い声だった。
しかも、部屋の壁がぴしぴしぎしぎし、やたらときしむ。
「新たな火種を生むというのなら、ここを戦場に変えても良いのだぞ?」
イリスちゃんの髪の毛がふよふよと浮かび始め、彼女の後ろには白い光が溢れ始める。
「ふふふ、久方ぶりに見たぞ、まさしく白いバラだな。今夜はどれぐらい咲いてくれるだろうか」
対する魔王様はとても嬉しそうに笑う。
しかも、それだけじゃない。
彼女の背後にも黒紫色の光が溢れ始めているのだ。
こっちはまるで紫のバラ。
ちょっとぉおおお、何なのよ、この人たち!?
しかも、戦場に変えるとかとんでもない事を言ってるし。
「暴れるなら、どこかの荒野でやってもらいますよ?」
私は慌てて、二人に牽制を入れる。
私の言うことなんか聞いてくれるかわからないけど、そうでもしなきゃ生きた心地がしない。
「ふふふ、冗談だ」
魔王は相変わらず男前なお顔でふふっと笑う。
瞬時に彼女の紫色のオーラはふっと消える。
「ふん、それならば、そういうことにしておいてやろう。私も冗談は大好きだ」
イリス様は一応、機嫌を直したらしく、魔力の解放を停止させる。
ふぅ、この人はこの人で危険人物だよね。
冗談とか言ってるけど、普通の人には通じないと思う。
「で、本当の目的というのは?」
私は仕切り直すかのように、魔王の目を見て質問を繰り返す。
今度こそ冗談抜きでちゃんと話してほしいのだけど。
「……灼熱よ、凱旋盗という連中を知っているか?」
「がいせんと?」
「凱旋盗だ」
イシュタルさんはそれだけ言うと、私の目をじっと見つめてくる。
吸い込まれそうになるようなキレイな瞳である。
しかし、私はそんなもの心当たりはない。
魔族の知り合いなんてエリクサーぐらいしかいないし。
「凱旋盗だと? その首領はわらわたちが殺したはずだ。首をはねたというのに、まさか生きていたというのか?」
首を振る私に代わって口を開いたのが、イリスちゃんだった。
彼女の口からはかなり物騒なワードが飛び出す。
「生き返ったというのが正しい。それも大幅に強くなって復活した」
「復活だと? 魔族とは言え、そんな簡単に……」
イリスちゃんとイシュタルさんは眉間にシワを寄せて、なにやら話し込み始める。
途中途中で彼女たちの思い出話も入るので、完全には理解できない。
彼女たちの話をまとめると以下の通り。
魔族の中には、国家に属さないならず者がたくさんいる。
その筆頭の一つが凱旋盗という犯罪者集団。
彼らは名前のとおり、ものをばんばん盗む。
狙ったものは必ず盗み、そのターゲットは人間だろうが、魔族だろうがお構いなし。
そして、盗むだけではなく街の破壊や殺人といった、悪行だって平気で行う。
はっきり言って絶対に関わり合いになりたくない犯罪者集団なのだ。
しかも、今では人間の無法者も加入してパワーアップ。
とまぁ、そういう話なのである。
早い話が極悪な盗賊みたいな奴らってことらしい。
ふぅむ、そういう類なら人間にもいるけどなぁ。
うちの父が独立したヤバス地方なんて盗賊の巣窟だったはず。
「いや、ただの盗賊と一緒にしてはならん。やつらはほとんど国みたいなものだ。今では第三魔王様が弱体化したため、大きな勢力になっている」
イシュタルさんはふぅっとため息をつく。
そこで私は合点がいく。
つまり、この人は私に第三魔王とやらを助けてほしいって言ってるのかな?
ふぅむ、魔族とは言え、高齢者を助けるのは私の信条に一致するところだ。
温泉を持っていけば復活したりして。
「しかるに、灼熱、お前は先日、七彩魔晶を手に入れたと聞いたぞ」
イシュタルさんは私の方を向き直る。
それから先日の素材戦で手に入れた宝石のことについて尋ねてくる。
「七彩魔晶ですか? 確かに偶然拾っちゃいましたけど」
私は素直に返事をする。
ちなみに七彩魔晶は私の空間袋に入っている。
ドレスにあげるって言ったんだけど、受け取ってくれなかった。
メテオに渡そうかとも思ったんだけど、なんだか怖いのでやめた。
「それを、狙っているらしいのだ。凱旋盗が」
「はい? でぇえええええ!?」
イシュタルさんの言葉に文字通りのけぞる私である。
今の今まで村を襲ってくる奴らはいた。
だけど、魔物がメインで犯罪者っていうのはいなかった気がする。
「復活した凱旋盗の首領は得体の知れない男だ。奴の集めた無法者どもも、尋常のものではない。我が城の精鋭を振り切るほどの腕を持っている」
イシュタルさんはそう言うと、つい先日、その盗賊団に被害にあったことを教えてくれる。
彼女自体は留守だったそうだが、城の宝物庫を荒らされたそうだ。
「ふふん、盗賊団など片腕で十分だ。第一魔王の城兵も大したことがないのではないか?」
「私の代わりに姉上が魔王になってくれれば、そんなことにはならないのだがな。向いているし」
「……イシュタル、お前、死ぬか?」
ちょっとした会話なのに、相変わらずばっちばちの火花を散らす二人。
イシュタルさんの話によると、その盗賊団、性格も非常に悪いらしい。
うぅうう、嫌だなぁ。
関わり合いになりたくないなぁ。
そんなことなら、あんな石ころ拾わなきゃよかった。
ドレスのスピーチには感動したけどさぁ。
「奴らがこの街を狙うというのなら、わらわが相手になろう。今度こそ、細切れにして灰にして無音の暗闇の中に沈めてやる。永遠の苦しみの中で、生まれてきたことを後悔させてやる。ふふふふふふっ」
イリスちゃんはふふんと胸をはる。
容姿は相変わらず可愛いけど、話している内容がじわじわ怖い。
イシュタルさんの言う通り、この人のほうが魔王に向いているのかもしれない。
「よいか、ユオ、敵は国さえ滅ぼす盗賊団だ。お前がいくら個として強くても、周りを守りきれるかというと話は違う。それを忘れるな」
自信満々のイリスちゃんと違って、魔王イシュタルさんの表情は晴れないまま。
彼女は私の目を見て、いつになく真剣な表情。
だけど、一つだけ言えることは、イシュタルさんは私達の街を心から心配してくれているってことだ。
それはそれで、とてもありがたく思えた。
◇
「なるほど。その情報が確かならば、すぐさま警備を強化しなければいけませんね」
その後、離席した私はララたちと合流。
とりいそぎ、この街の防衛計画を練ることにした。
敵は神出鬼没の盗賊だとのことなので、気を緩めることはできない。
「まったくですよ。身の程知らずの賊共を消し炭にしてあげましょう、ご主人さまが」
「いや、そこまではしないよ?」
いくら盗賊だからって消し炭に変えることはしないよ。
私は人を殺めるつもりはないからね。
「魔女様をお守りできるなんて、親衛隊隊長として最高の名誉ですっ! 早く盗賊が出てきてほしいですねっ」
議論の結果、私の護衛としてはハンナがそばにいることになった。
お仕事に前向きなのは良いんだけど、親衛隊なんて作った覚えはない。
私の街、いつの間に変な組織ができちゃったりしてないよね?
「それにしても、世界最悪の犯罪者組織に狙われるなんて、さすがは魔女様やわ」
「狙う立場から、狙われる立場に成長したんやな。うちらでは真似できへんわぁ」
メテオとクエイクの姉妹は、余裕ぶって笑っているが、笑いごとじゃない。
誰が好き好んで狙われたいのだろうか。
「とにかく怪しいやつは片っ端からぶっ飛ばせば良いのだな! くふふ、三枚におろして塩をふってやるのだっ」
「私も加勢するぜっ! 七彩魔晶を盗むだなんて、不届き者はタコ殴りだ」
クレイモアは笑顔で犯罪調理師みたいなことを言い、ドレスもそれに合わせる。
「くかかか! 俺っちもやるでやんすよ! 溶岩の海に沈めてやるでやんす!」
「わたくしも負けませんですわ! 溜まった毒を吐き出してやるですわ!」
ドレスの肩に乗った燃え吉と、メテオの肩に乗った虹ぃにょがやたらと意気込む。
溶岩の海とか、溜まった毒とか、街を破壊するつもりかこいつらは。
「……盗賊でかき氷をつくる」
カルラは相変わらずの無表情である。
しかし、口をついて出てくるのは、物騒の一言。
あくまでも比喩だと願いたいけど。
うちの人材はみんないい子ばっかりだけど、危険すぎる。
今から思えば、村長さんだけが正統派の人材だった気がするよ。
村長さん、早く帰ってきてくれないかなぁ。
「わ、わ、私は基本的に何もできないです……」
リリは相変わらず八の字眉毛で悲鳴をあげる。
庇護欲をくすぐること間違いなしである。
だけど、それが正常な反応だろう。
どこの世界に盗賊に狙われると聞いて、喜ぶ人間がいるのだろうか。
ハンナとクレイモア?
あの子達は……特別枠だから。
「禁断の大地に入れるルートは限られていますから、ひとまずは検問の強化ですね。ハンターさんに頼んで、ダンジョンの周りも警戒するようにします」
「えぇ、冒険者ギルドでも臨時の仕事を発注します。しばらくは24時間体制で警備をしましょう」
ララとアリシアさんは、緊張感のある表情だ。
さすがは仕事のできるお姉さま二人組。
まずは定石通りに警備を強化する。
怪しい動きがあればクレイモアとハンナに動いて貰う。
強い盗賊とは言え、彼女たちに勝てるとは思えないし。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「なんで次から次へと異常者に狙われるんだ……?」
と思ったら
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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
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