242.魔女様、さらなるアポ無し来客にてんやわんやします。というか、事前連絡という言葉を知らんのか、こいつらは
※こちらに「聖域草」との記述があります。以前の章で「聖域エリクサー」と表記していたものと同じものですが、魔族のエリクサーと区別がつきにくいため訂正させていただきます。
「エリクサーいる?」
イリスちゃんの手を引いてむかったのは、エリクサーの研究所である。
ふふふ、年も同じぐらいだし、仲良くなってくれるかも。
それに二人が並ぶところを見てみたい。
「おぉっ、ユオ殿!」
研究所に到着すると、エリクサーは今日も元気に研究にいそしんでいた。
ララが作ったという白衣がことのほか似合うのである。
「げげぇっ!? き、貴様は、ま、魔族!?」
しかし、エリクサーのそんな姿を見て、イリスちゃんは身構えるような態度をとる。
その顔には緊張が走り、明らかに魔族のエリクサーを警戒している様子。
あっちゃあ、そうか。
確かに魔族に会うのが初めての人だっているはずだよね。
もしかしたら、魔族は危険だとかいう先入観を持っているのかもしれない。
「大丈夫だよ、この子はすごくいい魔族だから。エリクサー、こちらはエルフのイリスちゃん、仲良くしてあげてね」
「そうか、イリス殿か! くふふ、わしらは魔族とはいえ腕っぷしは弱いぞ! 今は温泉の研究に夢中なのじゃ!」
「ぐ、ぐ、ぐむむ……、よ、よろしく頼む」
イリスちゃんは微妙な表情のまま、固まっている。
こんな時はこちらから一歩前に歩み出ることだ。
エリクサーは天真爛漫な笑顔で、イリスちゃんの手をとるとぶんぶんっと振る。
イリスちゃんはまだ緊張は解けてないみたいだけど、恐怖を感じているわけではないようだ。
はぁ、よかった。
「ユオ殿、新しい味が誕生したぞっ! 森のスパイスや葉っぱや様々なものを煮込んだクレイモア直伝のシロップ味じゃ!」
少しだけ空気がほぐれたのを感じたエリクサーは、さささっと飲み物を持ってくる。
それは黒に近いほどの褐色の液体であり、なんていうか、ちょっと毒々しい。
森のやばいものを煮込んだんじゃないでしょうね。
「これが美味しいのじゃ! くせになるぞぉっ!」
「ふぅむ……、本当だ! なんていうか、ちょっと薬っぽいけど美味しいかも!」
エリクサーに差し出された液体は、思いのほか飲みやすい物だった。
泡がしっかり入っていて飲み終わると、喉の奥がかぁーっとなるのもいい。
美味しいよ、これ。
「こ、これを飲めだと!? わらわが、魔族の作ったものを……? いや、それ以前に飲めるのかこれ?」
イリスちゃんはコップを持ったまま固まっていた。
そりゃそうだよね、こんな泡の入った飲み物知らないものね。
「大丈夫。ちょっとだけ、口に含んでみて、甘いから!」
「頑張るのじゃ! 最初はびっくりするけど、美味しいぞ!」
「ふむ……これは、うひぃいい、なかなか……」
私とエリクサーの励ましが効いたのか、イリスちゃんは飲み物に口をつける。
しかも、一口では収まらず、ぐいぐい飲むではないか。
おぉ、いい飲みっぷりである。
喉の奥がかぁっとなるだろうに。
「ふははは、本当に魔族を迎え入れているのだな。なるほど、恐れ入ったぞ」
飲み終わったイリスちゃんは何やら嬉しそうな顔をする。
相変わらず、ちょっと気取った物言いだけど、エリクサーのことを受け入れてくれたみたいだ。
ふぅ、よかった。
せっかくの美少女二人には仲良くしてもらいたいものね。
「そうそう、ユオ殿、さっきの飲み物にはあの聖域草も入っておるのじゃ」
「えぇっ、本当!? あれって副作用が強いって話だけど大丈夫なの?」
「ふふふ、やっとのことで安全なエキスを作ることができたのだぞ」
「エリクサー、すごいじゃん! さすがだね!」
空気が和んだところで、エリクサーが嬉しそうに種明かしをしてくれる。
聖域草とは、以前の流行病のときに活躍した薬草のことだ。
副作用がきついということで、エリクサーにもっと安全なものはできないか相談していたのだ。
しかし、まさか飲み物にまで入れてしまうなんて……。
まぁ、安全そうだし、今のところ体に変化はないしOKとしようかな。
「うふふ、わしに与えられた仕事じゃからの。まぁ、あの1つ目の精霊がえぐ味を取るのを手伝ってくれたのも大きいのじゃ。聖域草の丸薬もできたのじゃぞ」
エリクサーは得意げに胸をはり、黄色い丸薬を見せてくれた。
これがあればいろんな病気も治るらしい。
なるほど、虹にょはこういう場面でも活躍してくれたのか。
あの子をスカウトして正解だったなぁ。
「聖域草を無害化しただと……」
私達の会話を聞きながら、イリスちゃんは口元に手を当てて考えている様子。
その目つきはまるで大人のように鋭い。
ふぅむ、そんな表情もできるんだなぁと感心する私なのであった。
◇
「この温泉というものはなかなか、よいものだな。わらわはこの街を気に入ったぞ」
その後も街をぐるぐる回って、夕方である。
私たちは再び、温泉に入っていた。
今回も人払いをお願いしたわけじゃないのに、どういうわけか人がいない。
貸し切り状態でぜいたくな温泉を味わっているのである。
「気に入ってもらえてよかったよ」
初めてのエルフのお客様だったけど、気に入ってもらえて何より。
エリクサーとも仲良くしてくれたし。
他のみんなにも紹介したいんだけど、どういうわけか姿が見えない。
そういえば、ララでさえも朝に言葉を二言三言交わしたぐらいだ。
何かあったらすぐに飛んでくるメテオもいないし、良からぬことを考えてるんじゃなきゃいいけど。
さぁ、明日はどうしようかな。
そう言えば、ララがダンジョンの周りに新しい村を作りたいとか言っていた気がする。
確かにあちらにも温泉が湧くみたいだし、聖域草の状態も見ておきたいし。
ちょっと遠出して、視察に行ってみようかな?
そんなことを考えているときのことだった。
「ふむ、ここにいたのか、灼熱よ」
脱衣所の方から、現れたのだ。
紫色がかった銀色の長い髪の毛、切れ長の瞳、褐色の肌。
そう、忘れもしない、あのダークエルフの魔王様である。
宝石のように美しい褐色の肌。
そして、クレイモア並にダイナマイトなボディをひっさげて。
タオルで隠す素振りなど一切なし。
そりゃあ、そうでしょうよ、こんな神がかってるんですし。
「でぇえええええええ!? な、何でここに!?」
もちろん、驚きの声を上げる私。
驚きすぎて、場合によっては温泉で溺れかねないよ。
「いつでも来てくれと言われたのでな。おぉっ、姉上もいらっしゃるとは……奇遇だな」
褐色ダークエルフお姉さま魔王はにこっと男前な笑みを浮かべる。
うひぃ、美しい。
そりゃあ、たしかにいつでも来てくださいとは言ったけど、本当に来るだなんて聞いてない!
……ん、姉上?
誰が?
ここには人畜無害な美少女二人しかいないんだけど。
「……お前か、イシュタル。こんなところで会いたくはなかったな」
ざばぁっと立ち上がるのは、イリスちゃん、その人。
は?
どうして、普通に話してるの?
相手は魔王様なんだよ。
もっとこう、「ひぃいいい」とかのけぞってもいいはず。
「まさかとは思うが、灼熱よ、姉上に気づいておらぬのか? そのハーフエルフはリース王国のイリス女王であるぞ」
魔王様はびしっとイリスちゃんを指差す。
相変わらず演技がかった人物である。
いや、問題なのはそこじゃない。
今、この魔王様は言ったのだ。
イリスちゃんは、リース王国の女王だって。
「でぇえええええ!? うっそぉおおお!? 冗談でしょ?」
私が目を丸くしてイリスちゃんに向き直る。
すると彼女はぽつりと言ったのだ。
「……今ごろ気づいたのか、お前は」
彼女の顔には老獪ささえ漂い、声も先程までより少し低い。
何より魔力を解放したのか、威圧感がすごい。
卒倒しそうである。
いや、倒れたほうがまだましだ。
あわわ、私ったらリース王国の女王様になんたることを。
だって、女王様の顔なんて覚えてなかったし、遠くからしか見たことなかったし。
いや、待てよ。
よくよく考えたら、ここは私の国だ。
皇帝として開き直って、この二人組みをもてなすしかない!
「イシュタル、ここであったが数十年目。そろそろ決着をつけようではないか」
「姉上と手合わせできるなら本望だ。いつでも受けようではないか」
私が破れかぶれの決断を下そうとしていると、二人はなにやら一触即発の雰囲気。
温泉のお湯が波打ち、どこからともなく地鳴りのような音が聞こえる。
リース王国は知ってのとおり、魔族と喧嘩をしている国である。
そして、魔王様は簡単に言えば魔族のトップ。
ケンカが起きないほうがおかしい事態だ。
しかし、この二人を暴れさせたら、うちの街が終わっちゃうでしょ!?
「私の街はケンカは禁止です! お二人とも落ち着いてください!」
勇気を振り絞って、二人を止める私なのである。
うぅう、さっきから私たちは全裸で何をやってるんだろう。
それにしても、この二人、どうしてアポ無しでやってくるのよ!?
◇ 一方、その頃、ララたちは
「あれ、リースの女王やろ? くわばらくわばらやでぇ」
「とにかく、ご主人さまにお任せするしかないでしょうね」
「なるほど、トップ会談というやつやな」
ララとメテオは入浴しているユオたちを眺めて、ひそひそと話し合う。
彼女たちは今、不測の事態に直面していた。
臨機応変にいろんなことに対応できる彼女たちである。
過去には魔物や軍隊から村を守るなど、腕も度胸も身に着けたつもりだった。
しかし、今、とんでもないことが起きているのだ。
それはリース王国の女王がこの街を訪れていることだ。
御付の者さえおらず、おそらくは単独で。
リース王国の女王はただの為政者ではない。
強大な魔法を使う、実力者でもある。
その気になれば、この街ごと破壊することさえできるだろう。
下手にちょっかいを出すのは非常に危険な人物だと言える。
そこで、彼女たちが下した決断は、ユオに任せること。
ユオならば、女王をどうにか懐柔してくれると睨んだのだ。
早い話が丸投げであるが、それぐらいしか解決策が見つからなかった。
しかし、ユオはリース王国の女王をただのエルフと勘違いし、街を一緒に巡るなどはしゃぐ始末。
それはそれですごいことなのだが、どうなることやらと二人は顔を見合わせる。
「ここがおんせんか……、ふむ、服を脱げとは酔狂な」
そんな二人の横を背の高い、黒ずくめの女が通り過ぎる。
彼女はいそいそと服を脱ぐと、そのまま露天風呂の方に出ていってしまう。
「今のって……」
「うっそやん……」
ララとメテオはその様子をぽかんとした表情で見守るのだった。
【魔女様が手に入れたもの】
聖域草の丸薬:エリクサーおよび虹の精霊が開発した特効薬。先日までの副作用の強い白い丸薬とは異なり、毒性を大分打ち消すことに成功。製薬事業も重要な産業になっていく。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「怪しい葉っぱ味の炭酸水……?」
「なんつぅ迷惑客……」
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