240.魔女様、村が街へと変わり大喜びします! しかし、案の定、あのお方がやってきたようです
「ご主人様、順調に進んでいるみたいですよ」
私とララは視察を行いながら、今後の展開について考えていくのが日課だ。
今、査察しているのは
ドワーフの国の王位継承権を賭けた素材戦から数週間後、私たちの村はこれまで以上の活気に包まれていた。
当初、計画していた、「古文書っぽい温泉街づくり」を実行に移したからである。
温泉リゾートの前に投資を行い、お土産や食べ物を扱うお店をどんどん建てていく予定なのである。
原資はたっぷりある。
なんせ、あの石ころが100億なんて鑑定を受けちゃったからね。
「にゃははは! これができたら、さらにがっぽがっぽやでぇええ!」
「にゃはは! うちのおかんを震え上がらせたるわ!」
メテオとクエイクの姉妹は建築現場から現れ、相変わらずずる賢い顔で笑う。
彼女たちは「次は闘技場でも作ったろか!」などと新しい計画も立てているようだ。
また余計なものを作りそうで怖いけど、彼女たちの実行力によってここまで来たと言ってもいい。
二人にはうちの村のエンジンとして頑張ってもらいたい。
「ユオ様、見てくれよこれっ! すげぇだろ!」
ドレスは私たちに気づくと、今日も元気に駆け寄ってくる。
手にはドワーフの国で開発されたという、最新式の工具をもって。
彼女は手に入れた工具がいかにすごいかを説明するけど、ちょっとよくわからない。
穴を誰でも簡単に開けられる魔導機械だそうだけど。
「それで、うちの国からまたまた移民団が到着したんだぜっ!」
今の私たちの村が勢いづいているのには理由がある。
それは友好国となったドワーフの国からどんどん移民団が到着していることだ。
移民の多くはドワーフで、しかも腕利きの職人たちだった。
と、なると、土木・建築の仕事がめちゃくちゃはかどってくれるわけである。
この間まで農民をやっていた村人たちとは年季の入り方が違うのだ。
ドレスがリーダーになってくれているから、段取りは丁寧だし、仕事も早い。
当初は1年は余裕でかかると目していた街づくりが、どんどん仕上がっていく。
そりゃあ、メテオじゃなくても笑っちゃうよね。
「それじゃ、ユオ様、次の区画に向かいましょう」
「そだね!」
私とララは日課の市街地の視察を続ける。
次の区画は冒険者がたくさん集まる、冒険者ギルドの周辺だ。
到着してわかるのは、冒険者たちの顔が明るいことだ。
素材の採集やダンジョンの探索など、仕事がたくさんあることが理由だろう。
素材戦のおかげで、ダンジョンが有名になったのも良かったらしい。
そして、そんな彼らのお楽しみと言える場所があるという。
「へい、らっしゃい! 魔女様の灼熱地獄ハンバーグなのだっ!」
そう、冒険者ギルドの訓練所に併設されたクレイモアのレストランである。
彼女が狩りに出かけない日は、朝から晩まで大行列。
クレイモアの美貌も相まって、冒険者の間では押しも押されぬ人気スポットになっているとのこと。
彼女のレストランには、もちろん、温泉街にも出店してもらう計画である。
うふふ、食べ歩きメニューとか作ってもらおうかな。
メニュー名だけは後で変えさせるけどね。
「おらぁっ! だらしねぇぞっ! もっと愛を込めろっ!」
そして、冒険者ギルドの一角から聞こえてきたのは、リリの声だ。
彼女の率いる癒し集団は冒険者ギルドにも治療院を開設した。
そのコンセプトは「愛死天流」らしく、入り口にでっかく書かれている。
癒しのことになると人が変わったようになるリリである。
きっと、すごい癒しを冒険者の皆さんに施しているのだろう。
それにしても、ぶぉんぶぉん、うるさいのは何故なんだろうか。
新しい回復魔法の術式なのかもしれないけど。
なんて言うか、魂が熱くなる音だね。
「ユオ様ぁぁあああ、大変なんですぅううう!」
冒険者ギルドに入ると、アリシアさんが泣きついてきた。
その理由はめちゃくちゃ忙しいのに、ギルド本部からの応援が少ないとのこと。
「朝から晩まで働いているのに、仕事が追いつかないんですよぉお!」
アリシアさんの美しいお顔もちょっと疲れ気味だ。
ふぅむ、確かに冒険者の数が増え過ぎてるよね。
私はララに頼んで、ギルド職員を現地採用してもらうように頼んでおく。
文字が読み書きできて、きちんとした人を採用してもらおう。
最近じゃ、サジタリアスなどの都市部からの移民の人もいるし、きっといい人材が見つかるだろう。
「甘いですよっ! そんなんじゃ、トカゲに傷一つつけられませんっ!」
冒険者の訓練所で教官を務めているのはハンナだ。
彼女はこの土地を訪れた、新米の冒険者たちを熱く指導している最中だった。
その指導は的確らしく、彼女の生徒はめきめきと腕を上げるとのこと。
しかし、ハンナよ、一つ言っておくことがある。
背中に『魔♨』の文字と記号の入った服を着るな!
♨のマークは魂を癒すものであって、戦うためのマークじゃないんだけど。
「大丈夫ですよ! メテオさんとライセンス契約してますからっ! ほらっ、売店で公式品が売ってますよ!」
ハンナは笑顔でそんなことを言ってるが、大丈夫じゃない気がする。
っていうか、ライセンス契約っていったい何!?
絶対にメテオに騙されてるし、いかにも偽物臭いと思うんだけど。
「……まぁ、いいわ。次に行くわよ」
「次は研究棟ですね」
冒険者ギルドを後にした私たちは村の比較的静かなエリアに向かう。
ここら辺は新しく開拓した場所で、まだまだのどかな空気が残っている。
「おぉっ! ユオ殿、よく来たな!」
ここで働いているのは、魔族のエリクサーである。
植物に詳しい彼女はこの場所で、禁断の大地の素材の活用について研究してくれているのだ。
小さい体で実は働き者なのである。
うふふ、今日もかわいい。
私はとりあえず彼女の髪の毛を撫でてあげる。ふひひ。
「うしし、ちょうど例のあれができたぞっ! カルラ殿、持ってきてくれい!」
そして、エリクサーが見せてきたのが、緑がかった透明の液体である。
ガラスの器に入れられたその液体はふつふつと銀色の泡を生み出していた。
カルラはエリクサーのところで研究に参加しているらしく、相変わらずの無表情で私にそれを渡してくれる。
「こ、これってまさか!?」
ガラスの表面を触った私は驚いてしまう。
しっかり、冷たいのだ。
そう、明らかに冷えている。
「そのまさか、なのじゃ!」
エリクサーがドヤ顔でふんすと鼻を鳴らす。
その言葉を聞いた私は居ても立っても居られず、その液体に口をつける。
「んんん〜〜〜〜!」
その液体をふくんだ瞬間、口の中をしゅわしゅわが刺激し、喉の奥を駆け抜ける!
言葉にならない快感!
しかも、甘くてフルーティ!
「うふふ、クレイモアに頼んでシロップを作ってもらったのじゃ! 緑色なのがかっこいいじゃろう。そして、冷却してくれたのはカルラ殿じゃな!」
「……頑張った」
エリクサーはとても嬉しそうに、この奇跡の飲み物の誕生秘話を教えてくれる。
ふぅむ、この間、生温い温泉水を飲んだときよりも遥か上の衝撃だよ!
「カルラ、えらいよ! よく頑張ったね!」
そして、何はともあれ、最大の功労者はカルラだ。
彼女の冷却スキルによって、とびきりの飲み物が生まれたのだから。
うふふ、これを温泉上がりに飲んだらどうなるだろうか。
今から楽しみでしょうがないよ。
これを商売にしたら、大人気になること間違いなしだよね。
メテオなんて、卒倒するんじゃないかしら。うひひ。
エリクサーにも、カルラにも臨時ボーナスを出そう。
「…………こ、こ、これからも、頑張る、ずび」
喜びのあまり、カルラにハグをすると、相変わらず殊勝な物言いだ。
しかし、彼女はたまに鼻血を出す持病を持っているらしい。
血管が切れやすい体質なのかもしれないけど、無理だけはしないようにしてほしい。
「カルラ様はクエイク様と組んで物流にも貢献されていますからね。本当に得難い人材ですよ」
エリクサーのところを出ると、ララが最近のカルラの活躍について教えてくれる。
どういう原理なのか知らないけど、カルラとクエイクが協力して、うちの村とサジタリアスに氷の通路を作っているとのこと。
簡単に言えば、氷の上をつるつるつるーっと滑らせて、物を運ぶという話だ。
というか、実際に木材を運んでいるところだという。
ひぇええ、そういうことができるのか。
すごいなぁ、カルラの能力って。
ドワーフの職人さんたちだけじゃなく、様々な物流があってのまちづくりだものなぁ。
これ以外にも、市民のひとたちはみんな頑張っている。
本当に一人一人の協力があってこそ、領地って成り立つのだなぁっと感じるのだった。
◇
「今日もお疲れ様! いい感じだね!」
そして、最後の視察は温泉リゾートである。
活気に満ち溢れ、裕福そうなお客様もちらほら。
掃除も隅々までできているし、申し分なさそう。
ぐるりと回った私は温泉まで入ってしまうことにした。
「うひぃ、最高でありますのぉ」
今日も最高のお湯であり、泉質は最高。
お肌もすべすべ。
やっぱり温泉は最高である。
それにもかかわらず、私はこの温泉リゾートに新たな名物はできないかと考え始めていた。
今の温泉はしっかり癒されるのだけど、なんかこう、しゃっきりするというか。
そういう類いの名物を作りたいと思っているのだ。
常に上を目指す女、それが私なのである。
温泉に浸かりながら考えていると、周囲の雰囲気がおかしいことに気づく。
人払いをお願いしたわけじゃないのに、誰も人がいない。
ララはアリシアさんとの打ち合わせでいなくなったので、一人での入浴である。
私が入っているからと言って、遠慮しなくていいって言ってるんだけどなぁ。
ふぅむ、これはこれで贅沢で、いい感じ……。
頭にタオルを乗せて、ふぅっと息を吐いた時だった。
「ふむ、これがおんせん、というやつか」
湯けむりの中から現れたのはエルフの女の子だった。
真っ白い肌をした、白に近い銀髪。
その姿はまるで神様の生まれ変わりのように、私の目には映ったのだ。
【魔女様の手に入れたもの】
炭酸泉ジュース:炭酸入りの温泉を元にエリクサー・クレイモア・カルラの3人で開発した、炭酸入り飲料。緑色のものは、ちょっぴりメロンぽい味がする。炭酸泉の微炭酸な感じがとてもよい。現状では瓶詰加工がうまくいかないため、その場で作って飲ませるしかできない。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「ハンナ、絶対に騙されてる……」
「エルフの美少女? あの人!?」
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