24.魔女様、ドワーフも温泉リゾートに引き入れる
「すごいよ! あっしの麻痺ぎみだった足が治ってしまったじゃないか! どういう原理なんだい、あの温泉は!?」
温泉でわいわいわちゃわちゃの小一時間後、ドレスはほくほく顔で屋敷へと戻ってくることになった。
明らかに温泉の恩恵を受けたようで柔和な表情になっている。
肌もつやつやで、髪もより光沢を増している様子。
うーむ、普通にしていると彼女もかなりの美少女。
お風呂に一緒に入ってわかったけど、引き締まった筋肉美が眩しかった。
「ユオ様、あっしらも計画に混ぜてくだせぇ! いかにも怪しい猫娘もいるし、でたらめの投資詐欺だろうと踏んでいたんですわ!」
「気持ちはわかったけど、……怪しい猫娘って」
「そんなやつおったかいな? 誰やろうなぁ、それ?」
どうやらドレスは私以上にメテオのことを怪しんでいたようだ。
確かに彼女は口先だけは立つ詐欺師に見えなくはないかもしれない。
メテオは自分のことを言われているのがわからないのか、すっとぼけているのか。
ちなみにうちの村で猫耳のついているのは一人しかいない。
「とにかくっすよ! あっしは今、猛烈に感動しているっ!」
彼女はその後も、温泉の魅力を並べ立て、いかに自分と仲間の調子がよくなったのかなどについて力説する。
ドワーフの皆さんは完全に温泉のとりこになってしまったようだ。
こうなったら話は早い。
温泉リゾート計画を前進させるために、私たちはさっそく交渉の続きを行う。
彼らの仕事の内容についてきっちり詰めるのだ。
「……ユオ様、あっしらが参加するに当たって一つだけ条件があるんですがいいですかい?」
しかし、ここにおいてドレスが真剣な表情になる。
それは温泉に脳までやられた女の子の顔ではなかった。
「じょ、条件ですって……? いっとくけど、給金は現物支給だからね?」
普通に考えたら、給金がいくらになるかってことだろう。
もちろん、お金はない。
村人の寄付してくれたモンスターの素材を支給するぐらいしかできない。
メテオがいうには設計だけでも相当の額がかかるという話だった。
厚かましい話だけど、命の恩人なんだし相場の半額を分割払いで受けてほしいなぁ。
いや、25%引きでも嬉しいけど。
「温泉に入ることへの許可と村に滞在する場所、あとは食料を提供してくれれば給金なんかいらないよ」
「えっ、いらないの?」
「えぇ。だけど……」
「だけど……?」
ぐむむ、これはもっと過度な要求が来るんじゃないの?
私は思わず身構える。
「ユオ様が倒したボボギリを素材に使わせてくれないか! あれほどのものを使うことができたなら、この世界で職人に生まれてきたかいがあるってものなんだ。うちの親父の悲願でもあるし!」
「え、全然いいけど……」
神妙な面持ちで条件などと言い出すから何のことかと思ったら、まさかそんなことだとは!
そもそも、うちの村にはまともな建材が少ないのだ。
使えるものならなんでも使ってほしいし、経費の節約にもなるし、むしろこっちからお願いしたい。
「おぉおっ!! あんたに一生ついていくぜ! 天国の親父も喜んでらぁ!」
目をキラキラさせて喜びまくっているドレスは私にがばりと抱き付いてくる。
そんなにあのモンスターの素材を使うのが嬉しかったのだろうか。
それを見ていたメテオもララもガッツポーズをして、交渉の成立を祝うのだった。
「ぐはは、聞いたか、野郎ども! それじゃあ、さっそく設計に入ろうじゃないか! これまで作ったどんな城よりも素晴らしいものを作ってやるぞ!」
「おっしゃあああ!」
「トレントの野郎を切り離すぞぉ!」
お仲間のドワーフの皆さんも一緒に気炎を上げる。
彼らはトレントを解体するとか言って、その場からすぐに駆け出していく。
すっごい盛り上がってんじゃん。
思いがけない人材の流入にわくわくする私なのであった。
【魔女様の人材】
・ドレス・ドレスデン:女ドワーフ。小柄。神匠の称号を得るほどの若き天才職人。本職は大工だが、簡単な刀鍛冶や城づくりまで行うことができる。
・ドワーフ旅団:ドレスが率いるドワーフ族の旅団で構成人数5名。全員男。各地を転戦して、素材集めや加工に奔走している。
◇ ドレス、幻の素材に歓喜する
「まさか、この世界最高の素材を扱える日が来るとは!」
ドワーフ旅団のドレスは「大きすぎて邪魔」という理由で村の外に放置されていたトレントの体を眺めていた。
世界中の国々をまわってきた彼女の旅団だったが、その中でも最高と言えるのが今回の素材だった。
なんせ100年以上前からネームドモンスターだった生ける伝説のようなトレントなのである。
その体表は光沢があり、黒ミスリルのように光っている。
あらゆる状態変化に強く、炎も雷も有効打を与えることはできない伝説の魔物なのだ。
その素材はたとえ枝一本でさえも、かなりの高値で取引されるだろう。
そして何より、彼女の父親はこの巨大トレントの素材を求めて命を落としたのだ。
ドレスにとって、この素材を用いることができるのは金銭以上の価値があったと言える。
しかし、彼女はモンスターと交戦した際に、その力をまざまざと見せつけられることになった。
渾身の一撃をくれても、巨大な体にはヒビ一つ入らず、一切の魔法を受け付けない。
まさに歩く要塞だった。
だからこそ、素材としては最高。
これを用いれば、どんな攻撃であっても耐えられるだろう。
剣聖の放った斬撃さえ、耐えうるかもしれない。
……そういえば、あのやたらと強いじいさんと金髪娘はボボギリの硬い枝を落としていた。
うぅむ、見なかったことにしよう。
邪念をかきけすように、ドレスは頭をぶんぶんっとふる。
『もしかすると、あの黒髪の少女は灼熱の魔女なのかもしれない』
ドレスの頭の中にはそんな考えがどうしても浮かんでしまう。
灼熱の魔女とは世界中を炎で包み、焼き尽くす直前まで崩壊させた災厄の魔女のことだ。
ボボギリほどのモンスターを瞬殺できるものなど、人間社会にもいないはず。
しかし、村の領主のユオはどうみても善良であり、村を笑顔で包む存在だ。
そもそも自分にとっては素材を提供するパトロンでもあるのだ。
彼女の正体について詮索しても実利がないとドレスは考えた。
「団長、このトレント、すごいですぜ! まさに数百年に一度の素材です!」
部下のドワーフたちはすでに材料の切り出しに入りはじめている。
貴重な素材を雨ざらしにしておくことはできない。
そもそも、この辺境は禁断の大地。
モンスターの死骸を放置しておけば、別のモンスターをひきつけることもありうる。
「よぉし、最高の温泉を作ってやろうじゃないか」
父親の腕を引き継ぎ神匠とさえ呼ばれた自分の腕と最高の素材を組み合わせた世界にも類を見ないここだけの建物、奇跡の温泉リゾート。
ドレスはトレントの巨大な顔を眺めて、にやっと笑うのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「怪しい猫娘……!」
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