235.魔女様、突然の乱入者を新技で追っ払います。三兄弟さん、お仕事、お疲れさまでした
「クレイモアたち、すごいじゃん!」
それは圧巻の光景だった。
クレイモアとハンナが空飛ぶ台のようなものに乗って、巨大トビトカゲを追い詰めていたのだ。
画面からはハマスさんの「負けるなぁああ! なにやっとるかぁああ!」などの絶叫が聞こえる。
だが、あの二人は容赦しない。
ひょっとすると追い返すことができるんじゃないの?
そんな風に少しだけ希望が見えてきたときだった。
こちらの会場にも動きがあったのだ。
「くはははは! 何を見入っておるか、愚かものどもよ! そのダンジョンは我々、聖王国が頂いてやるっ!」
ダンジョンを囲う崖のほうから、大きな声がしたのだ。
振り返ってみると、巨大な怪物の影と、数十人の兵士の姿。
しかも、ご丁寧に名乗りを上げて、自分たちが何者か教えてくれるではないか。
なんて親切な奴ら。
「ファイアワームどもよっ! ドワーフと田舎者どもを消し炭に変えよっ!」
やつらの後ろに現れたのは、巨大な……イモムシ的な怪物だった。ひぃいいい。
しかも、どうやら口から火を噴く性質があるらしく、こちらに火球を飛ばしてくる。
「みんな、避難やでぇっ! 素材戦の結果発表は一旦、休止やぁああ!」
メテオの悲鳴が響き、非戦闘員の皆さんはとりあえず火球が当たりにくい場所に移動する。
あたりがどかんどかんと火の海に代わり、せっかくの特設会場が燃え始める。
なんて奴ら!
人の大事な式典を邪魔するなんて。
しかも、ハンナやクレイモアたちの活躍を見終わらないうちに、である。
せめてドラゴンをやっつけるまで見せてくれないとモヤモヤしちゃうじゃん。
「ちっきしょう、崖の上じゃ攻撃が届かねぇ!」
「あっちから登ってやっつけるぞ!」
とはいえ、地の利は向こう側にあるらしく、こちらからできる攻撃は限定的だ。
クレイモアやハンナがいれば、人外めいた力で崖を登って攻撃してくれるんだけど。
そもそも、素材戦の参加者のほとんどは精も根も疲れ切ってしまっているのだ。
今から戦うことができるのは、うちの村のハンターさんたちぐらいだろう。
後は、誰かいないだろうか。
「カルラ!? 何してんの?」
「……お茶」
辺りを見回すと、カルラだけが平然とお茶を飲んでいることに気づく。
ぽつんと座っている様はかわいいけど、燃え盛る炎の中なのでかなり異様。
彼女は冷気を扱うから、炎など平気なのだろう。
だったら、その力を借りなきゃ損だよね。
「カルラは、この火をお願い! 私はあいつらをやっつけてくるから!」
よくよく考えれば、私の能力は火炎を増大することはできても消すことはできない。
でも、カルラならなんとかできるはず!
「……ん、大丈夫」
彼女は軽く握りこぶしを掲げて、OKのサイン。
無表情すぎてちょっと心配になるけど、やってくれるだろう。
「えいやっ!」
私は熱を足元に意識し、体をふわっと空中に浮遊させる。
そして、攻撃を仕掛けてくる連中のところに行くのだった。
うーむ、スカートから熱を出すわけじゃないからちょっと制御が難しいなぁ。
この間みたいに素早く動けないというか。
「な、な、なんだ、あいつ!? 浮いてるぞっ!?」
「ええい、撃て撃て、撃ち落とせっ!」
敵の人たちの慌てる声。
私がふよふよ浮かんで近づいてくるのに気づいたらしい。
彼らはモンスターを操って私に火球を飛ばす。
ばすん、ばすん、ばすん………
私は避けるのが面倒くさいという理由で、火球をそのまま喰らいながら上昇する。
だって、熱くないし。
ちょっと焦げ臭いけど。
「ひ、ひぃいいいい、何だアイツ!?」
「ば、化け物だぁああ!?」
情けない声をあげる敵の皆さん。
火を吐くモンスターを操ってるくせに私を化け物扱いなんていい根性してるわね。
「お前たち、よくも邪魔をしてくれたな! この騎士ユア・タリーが許さないぞっ!」
私は男前に見栄をきる。
あくまでドレスの騎士のユア・タリーとして。
それからモンスターに向かって熱視線を放つ。
ぶしゅっぺぺぺぺ……などという音を立てて、両断される巨大なイモムシの群れ。
あぁ、やだ、もう。
直視したくない。
「ひ、ひぃいいい!? 三大王子様、お願いしますぅうううう!」
しかし、敵にも切り札的な人達がいたらしい。
全身を甲冑に包んだ屈強そうな男の人が三人現れたのだ。
彼らの甲冑はどこかで見たことがある気がする。
「わははは! これこそが最新式の魔石兵装!」
「我々、三兄弟の前に敵はいないぞっ!」
「ユア・タリー、相手にとって不足なし! 貴様の命、もらい受けるっ!」
そう、彼らはあのルドルフさんと同じ技術の鎧を着こんでいたのだ。
道理でなんかモンスターっぽいと思った。
三兄弟だなんてどうでもいいけど、一言いいたい。
わたし、それ、もう、見たから!
「えいっ!」
私はあちらの兵士全体に対して、熱失神の波を繰り出す。
ダンジョンだと仲間も攻撃しちゃうから手加減してたけど、今なら大丈夫。
一人一人を相手にしてる必要なんかないわけで。
「ふぐごっ……」
兵士の皆さんはバタバタと失神してくれるわけである。
もちろん、三兄弟もあっけなく。
この人たち、何しに出てきたんだろう?
「ぐ、くそぉおおお、こうなったら奥の手だ! 出でよ、黄金蟲の群小のベゼルブブ!」
しかし、熱失神をなんとかこらえ切った人もいた。
先ほどから大声を張り上げている、聖王国のおじさんだ。
彼は懐から巻物を取り出し、叫ぶではないか。
私の聞きたくなかった、おうごんちゅう、とかいう言葉を。
刹那!
彼の巻物は光り輝き、空中に巨大な虫が出現する。
一言で言うと、大きなハエ。
普通の人の家ぐらいある、大きなハエで金色に輝いている。
あわわわ、やだもぉ。
「くははは! そいつはただのハエではないっ! 魔王大戦の際に、甚大な被害をもたらした闇の眷属だっ! ベゼルブブ、やれぇっ!」
さきほどの男の人が大きな声をあげたので身構える私。
何か攻撃が来るのかと思ったら、巨大なハエは手をこすり始める。
続いて、眼のあたりをこすりこすり。
……どこからどう見ても、普通のハエである。大きいけど。
しかし、数秒後、私は後悔することになる。
奴が出現した瞬間に攻撃しなかったことを。
ぶびびびびびびび
耳障りな音と共に、奴が猛烈な勢いでコバエを発生させたのだ。
その数、おそらく100以上。
「ユア様、お気を付けください! キッチンにいるコバエはギンバエの10倍、厄介ですよっ!」
下の方からララの声が響いてくる。
なるほど、さすがはララ。
コバエは家事の天敵というわけらしい。
しかもだよ、こいつはただのコバエじゃない。
私の頭ほどの大きさなのだ。十分に大きい。
そいつらがこちらに向かって、ばばばばっと飛んでくる。
うわぁああああ、やだぁ、もぉおおお!!
そりゃあ、油断しちゃいけないって知ってるから熱鎧は発生させてますよ。
向こうからぶつかって来れば、やっつけられるのは分かるよ。
だけど、自分から率先して触りたくない。
それにあんなのに体を囲まれるとか、最悪!
「あれ?」
私は熱視線を飛ばすも、意外なことが起こる。
なんと動きが速くてかわされてしまうのだ。
ええい、かくなる上は熱円で一挙に燃やし尽くすか?
でも、熱円はあんまり動きが速くないしなぁ。
「くはははは! 無駄だ! ベゼルブブのスピードは黄金蟲第一! いかに貴様の技が甚大でも相手にならんわっ!」
聖王国のおじさんは気分よく大きな声を張り上げる。
なるほどスピード自慢ってわけね。
しかも、空中でささっと進路方向を変えるから、熱視線が当たらないのだ。
私はハエから距離を取って、少しだけ考える。
どうすれば、あの嫌なコバエ軍団をやっつけられるだろうか?
純粋なスピードだけなら熱視線だって負けちゃいないはずだけど。
……そうだ、操ればいいんだ!
私の熱視線はこれまでずーっと直線的な動きしかできなかった。
でも、よくよく考えたら、敵を追いかけてもいいはず。
相手のもっている熱に反応して進路方向を調整するというか、そんなイメージだ。
「やれぇえええっ! 食いつくせぇっ!」
聖王国のおじさんの声が響き、コバエたちが私を取り囲む。
さぁ、ここでやらなきゃおしまいだよ。
私は一旦、目を閉じて、ふぅっと息を吐く。
頭の中で詳細にイメージするのだ。
私の放った熱視線がコバエを追いかけて貫く様子を。
「ぎゃははは! 目など閉じて、臆したか!」
嫌味な声が響くけど、とりあえず、無視。
あんたにちょっと面白いもの、見せてあげるわ!
「えいやっ!」
私は目をかっと見開き、熱視線を発生させる。
すると、二つの瞳から放たれたそれは、空中をぐんぐんっと曲がってコバエを貫いた。
しかもどういうわけかコバエは爆発!!
「なぁっ!? 曲がったぁあああ!?」
おじさんは、いい感じの驚きの声を出す。
だけど、これはただ曲がるだけじゃないのよ。
「喰らえっ!」
私はさらに熱視線を連射!
目をぱちぱちすると、ひゅんひゅんっと勝手に出てくる。
ぼぼん、ぼぼん、ぼぼぼぼぼぼ!!!
コバエは複数の熱視線に貫かれ、どんどん爆発!
空中に煙の塊を作っていくのだった。
「なぜ当たるのだっ!? 何が起こっている!?」
聖王国のおじさんのわめきたてる声などお構いなし。
私の熱視線はいくらコバエが逃げても、避けても、熱に反応してくいっと曲がるのだ。
勝手に追いかけてくるんじゃ敵わないでしょ。
さぁ、大人しく降伏してもらいましょうか。
「なぁあああああ!?」
数十秒後には、全てのコバエを撃ち落とした私なのであった。
ふぅ、なんだかちょっと目が疲れた。
この技を撃ちすぎると、目が乾くのかもしれない。
「て、撤退だぁあああ!」
しかし、敵の人たちは全然懲りてないらしい。
彼らは大きなハエに乗りこむと、一目散に逃げていくではないか。
降伏する時間を与えたのが間違いだった。
「させるかぁっ!」
私は腰にささっている模造刀を抜いて、ハエにびしっと振りかざす。
私の予感では、その先端から熱の塊が飛び出すはずだった。
しかし、やっぱり口から、である。
それは、ぼぼぼっ、などと音を立てて空中に赤い帯を作る。あわわ。
追尾する熱視線の射程は超えているので、しょうがない。
私は遠くにいる相手にも届くようにと、思いっきり放つのだった。
数発だけ放つと一発は命中!
光り輝くハエは森に落下。
私の勘だと乗りこんだ人たちの命に別状はない、はず。
正直、この技は使いたくないなぁ。
見られてないか心配だし。
でもまぁ、私は空中にいるし距離があるから大丈夫だよね。
「ユア様の大手柄ぁあああ! ほら、すごいっしょ、うちの騎士のユア様はぁあ!」
「なに言ってんだ! あれはあっしの騎士だぞ!?」
「聞き捨てなりませんね、私が正妻ですよ?」
「…………凍る?」
下の方では私の活躍を見ていた、みんなが歓声を上げていた。
カルラたちが協力して火は消してあるみたいだし、一応、一件落着というわけなのだ。
【魔女様の発揮した能力】
熱視線 (自動追尾):通常、直線的にしか飛ばない熱視線であるが、相手の熱に反応して勝手に追いかけるスキル。速度や貫通力はそのままだが、射程は短くなってしまう。今回爆発した理由は謎。ちょっとだけドライアイになる。即死技。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「熱視線サーカスできるかも……」
と思ったら
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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
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