234.ラインハルト大王様の逆襲:辺境に追放された元・公爵だけど、最高の仲間たちと一緒に最強国家を作ります! 日ごろの『ありがとう』が認められて、やりがいのある仕事が舞い込んできました
————話は少しさかのぼる。
「な、なんだこの痩せた土地は!? どうなっておるのだ!?」
ここは元・リース王国北部のヤバス地方。
元・リース王国の重鎮だったラインハルト家は女王の前で独立を宣言し、この土地に王国を開いたのだった。
ラインハルト家の当主、ガガンはかつての取り巻きを多数従え、ヤバス地方に赴任してきたのだ。
「なんだこの街は、ひ、人がおらんぞっ!?」
「村の中まで魔獣があふれているではないかっ!」
とはいえ、実際に赴いてみると、彼らはヤバス地方の惨状に目を白黒させる。
とにかく人口が激減しているのだ。
村は荒れ果て、うち捨てられた農地には草しか生えていない状態だった。
それもこれも、ラインハルト家が長期間にわたって、ヤバス地方を放置していたツケが回ってきた形なのである。
「ぐのぉおおおお!? こんなもの、認めんぞぉおおお!!」
ガガンは城とは名ばかりの掘っ立て小屋で大きな声を張り上げる。
当初の予定ではミラージュが使っていたはずの屋敷を本拠に定めるはずだったのだ。
しかし、留守中に盗賊に襲われ、燃やされたとのこと。
つまり、このヤバス地方、村は荒れ果て、残っているのは犯罪者だけという状態だったのだ。
さらにモンスターも凶暴化し、手が付けられない状況。
しかも、リース王国の女王が凶悪犯をどんどんヤバス地方に流刑にしてくる。
彼女いわく、『人材のプレゼント』らしい。
さすがは女王、見かけとは全く異なり、性格が暗黒なのである。
「ガガン様、こんな最悪の土地であるとは聞いておりません! こんな場所で挽回するなど無理です!」
ガガンの取り巻きの中でも、比較的、頭の回る男が領地の惨状に声をあげる。
栄光の大地などいう話を聞いて来てみれば、全てが嘘だったのである。
ガガンの取り巻きの多くはリース王国での地位を捨てて、こちらに移ってきたのだ。
人生をかけた結果がこれかと嘆く者さえ現れる。
「黙れ! よいか、よく聞け! 『無理』というのは嘘吐きの言葉なのだっ! 途中で止めてしまうから無理になるのだっ! ラインハルト家には『365日24時間、死ぬまで働け』という言葉がある、それを実践するときなのだっ!!」
しかし、抗議の声はガガンには通じない。
彼は抗議や諫言、あるいはアドバイスと言ったものは全て素通りするようにできていたからだ。
非常に都合の良い精神をしており、それはもはや才能とでもいうべきものだった。
ガガンはとにかく「やる気」と「根性」と「愛国精神」でどうにかなると皆を説得する。
もちろん、上手くいく保証も確証もない。
あるのはただ、「自分ならやれるに違いない」という過度な思い込みだけなのである。
「おぉっ! その通りだ!」
「ガガン様に私はついていくぞっ!」
通常では考えられないことだが、ガガンの言葉に歓声が上がる。
ガガンの取り巻き達の中には大分、知能の低いものも多い。
彼らはガガンの言葉に乗せられて、むしろやる気を出してしまう。
「し、しかし、ですよ、ガガン様、この状況、どこからどう見ても危ないのでは!? このままでは兵士の給金さえ出せませんぞっ!?」
一部の者の熱狂とは裏腹に、やはり無理だと声をあげる者もいる。
それだけ冷静になれるのならば、なぜもっと早く目が覚めなかったのか不思議でならないが。
ここでも、ガガンはぴしゃりと言い放つのだ。
「たとえ無理なことだろうと、鼻血を出そうがブッ倒れようが、無理矢理にでも一週間やればそれは無理ではなくなるのだっ!」
ガガンは鼻息荒く、皆を鼓舞する。
その顔は上気し、赤くなっていた。
明らかに自分の言葉に酔っている状況である。
これまでならリース王国の女王が仕置きをしていたために収まっていたが、今ではどうしようもなくなっていた。
「おおぉっ! さすがはガガン様! おっしゃることの重さが違う!」
「よぉし、わしも兵士どもにさらなる残業をさせますぞっ! もちろん、無給だ!」
さらに悪いのはガガンの取り巻きの存在だ。
ガガンの名言を耳にした取り巻き達は、むしろ悪意の塊である「やる気」を奮い起こしてしまう。
彼らは誓うのだった。
無理やりに連れてきた部下たちをどうにかこうにか酷使して、自分たちの楽園を作ることを。
ここにブラック国家、超スーパーウルトラ神神神ラインハルトと最強勇猛諸侯連合国が誕生するのだった。
◇ 建国後、少し時は下って
「きひひひひ……、それでできれば、大王様にも我々の計画に参加していただければと思いまして」
ガガンはとある人物と宮殿で会談していた。
その人物とは聖王国の使いの人物であり、これまで何度となくラインハルト家と接触してきた男だった。
ちなみに宮殿とは「女神の涙」という希少な宝石を売り払って建築したもので、予算の割には派手派手しい外見をしていた。
その名も、ラインハルト聖光神竜宮殿である。
一部のものの心をとらえて離さない素晴らしい命名であり、少年心をくすぐる宮殿だった。
聖王国の使いの男は言う。
「大王さま、この度、禁断の大地のあの村の近くのダンジョンで、ドワーフどもの素材戦が行われるという話が入って来ました。我が聖王国では、それに乗じてダンジョンごと奪ってしまおうという計画しています」
そう、その計画とは、ユオの治める村のダンジョンを奪い取るというものだった。
もっともこれは、ドワーフ王国への侵略計画とセットになっているのは言うまでもない。
「こちらの計画に参加してくださいませんか? 前金はもちろんのこと、上手くいった暁にはダンジョンの一部権利を差し上げますぞ」
「ふぅむ、ユオの村のダンジョンはもとはと言えば、私の、ラインハルト家のものである。お前たちにそれをくれてやるとは片腹痛い……」
男の申し出に、ガガンは眉間にシワを寄せて、聖王国の男をにらみつける。
追放された身とはいえ、ガガンの魔力はいまだ健在だった。
その気になれば、目の前の男を消し炭に変えることなど造作もないことである。
「ひぃいいいっ、た、大変、申し訳ございません!! ただし、金はしっかりと用意させていただきますゆえ……」
聖王国の男は悲鳴を軽く上げると、震えながら机の上に金貨を積み始める。
その額、なんと1億ゼニー。
かなりの金額である。
ガガンの喉がごくりとなる。
これだけあれば、よりうまいものを食べ、酒を飲み、宮殿に離れを作るさえ可能だとガガンは考える。
……もっとも、そんな発想をするから金が身につかないのだが、彼は気づいていない。
「ふむ、よかろう。その話、受けようではないか」
「ははっ、ありがとうございます!!」
「マクシム、ルイス、ミラージュ、お前たち、大王子でこの計画に参加せよっ! もっとも手柄をあげたものに王位継承のチャンスをやろうではないかっ!」
ガガンは聖王国の男の計画に乗ると伝え、彼の息子3人を計画に参加させるという。
彼ら三人はガガンの「大王」という地位を継ぐ王子であることから、「大王子」と呼ばれていた。
ちなみにガガンが自分のことを大王と呼ばせているのは、リース王国の女王への当てつけである。
せめて呼称だけでも自分の方が上だと主張しているのだ。
この男、案外、姑息なのである。
「「「ははっ、この大王子軍団にお任せください!!」」」
通常ならば恥ずかしくなりそうな呼び名であるが、それをすんなり受け入れるところも彼の息子たちならではだ。
かくして、ガガンと聖王国共同の作戦の口火が切られる。
これはラインハルト家の逆襲の始まりとでも言えるものだった。
◇ 素材戦当日のラインハルト家の皆さんのご様子
「ははは! 兄上、あれが例のダンジョンですよっ! 見てくださいよ、連中、今から襲われるとも知らずにのんきなものです」
「全くです。さっさとぶっ壊してしまいましょう!」
三人の王子と聖王国の軍勢は隠ぺい魔法を使って、ダンジョンを見下ろす位置に陣を構える。
ダンジョンは切り立った崖の下にあり、そこではドワーフやユオの村人が集まって何かをしている様子だった。
警備兵はいるようだが、村人同然の姿をしており、それほど脅威には思えない。
指示さえ下ればすぐに攻め落とせるはずだ。
「ぐふふ、しばし、お待ち下されい」
実行部隊の司令官は聖王国の男だった。
彼は襲撃のタイミングを計りながら、ドワーフたちの様子を観察していた。
計画では彼の上官であるハマスという聖王国の将軍が合図をしてくる手はずになっていた。
その合図とはすなわちドワーフ王国の崩壊である。
聖王国の男はドワーフたちの絶望を想像すると、心が晴れやかになるのを感じるのだった。
………しかし、起きたことは予想だにしていないことだった。
「ぎゃぁあああ、ば、化け物だぁあああ!」
「止めろ、こっちに来るなぁ、参りましたぁああ!」
わんわんわんわぉおおーん!!!
「パズズが、私のパズズが跳ね返されたぁああ!?」
ハマスの魔道具を物陰に設置し、ドワーフの連中に王国の様子を実況中継して見せるところまでは計画通りだった。
しかし、ハマスの率いるモンスター軍団が壊滅させられたのである。
それだけではない、彼女の虎の子だった悪竜パズズさえ攻めあぐねている。
この状況で攻め込んでしまっては計画は中途半端なものになってしまう。
ハマスから攻撃命令が出ていない以上、聖王国の男は攻撃を待機することにした。
「どうした!? まだ出ないのか!?」
しかし、出撃を準備していたラインハルトの三人は聖王国の司令官をせき立てる。
彼らは自分の強さを存分に見せつけ、自身の王位継承を有利に進めたいと考えていた。
彼らにとって禁断の大地の村人やドワーフなど烏合の衆にしかすぎない。
それに彼らは聖王国から最新の武器を貸与されていた。
その力を使えば、多大な被害を与えられるはずだ。
まさに無双を約束されているわけであり、なかなかに興奮する状態なのだった。
「そうですよ! 三大王子様の援軍に加え、こちらにはアレもありますし、失敗することなどありえません!」
「我々の力を見せつけてやりましょう!」
聖王国の兵士たちも楽観的なムードだ。
彼らの背後には大型の魔獣が控え、さらにはいくつかの召喚獣を呼び出す手はずになっている。
それも並の召喚獣ではない。
過剰ともいえるほど強力な召喚獣なのだ。
前回、村を襲った時には正体不明の化け物にしてやられたが、今はその姿は見えない。
素人同然の村人を退けて、ダンジョンを奪い取ることなど、造作もないことのように思えた。
「ふはははっ! 確かにその通りだ! 私としたことが臆病風に吹かれたようだな」
ラインハルトの三大王子と部下からの突き上げによって、司令官の男は出撃を決断する。
1時間もあればダンジョンを制圧することができるはずだ。
その後はうまい酒でも飲んでやろうと、司令官の男はにやりと笑う。
しかし、その決断は致命的な過ちだったことを彼らは思い知ることになる。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「日頃の『ありがとう』はどこに……!?」
「作者、ラインハルト家をかくときが一番楽しそうだな……」
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