233.リリアナ様、伝説の悪竜をシャゴォッ!?としてしまう。そして、謎現象が悪竜さんをあれしてしまいます、憐れ
「リリ様、ドラゴンが降りてきてるのだっ!」
シュガーショックが王都に向かって走る。
クレイモアが指し示した先には、赤茶色のドラゴンの姿があった。
それは王城に向かって口を大きく開け、今にも凶暴な攻撃をしかけようとしている。
ブレスと呼ばれる、極めて破壊力の高い攻撃だった。
「させるかよっ!」
リリアナはシュガーショックをジャンプさせると、そのまま王城の屋根伝いに国王のいる部屋へと飛び込む。
がっしゃあああああんっ!!
結果、謁見の間の大判の窓は粉々に割れ、大きな音を立てる。
それはまるでユオがサジタリアスの窓を破壊した時を彷彿させる動きだった。
「な、な、なにものじゃ、貴様らは!?」
突然の乱入者に覚悟を決めた国王たちも仰天してしまう。
なにせ巨大な白い狼にのって、少女たちが現れたのだ。
「“魔地天国温泉帝国”の“リリアナ”だよぅ……」
リリアナは目を白黒させる国王たちに名乗りを上げる。
彼女は国王をぎらりとにらみつけ、王都を救いたいという覚悟の強さを見せつける。
しかし、その眼光があまりにも鋭いため、国王以下は恐怖のあまり「ひひひ」と口から空気を漏らすのみだった。
「にゃははは! リリ様の護衛のクレイモア参上なのだっ!」
「魔女様の第一のいけにえ、ハンナもいますよっ!」
「えぇええ、これ、うちも自己紹介する流れなん!!? ……うちはただの荷物運びですぅうう」
それに続いて3人も名乗りをあげる。
クエイクは隠れていたかったが、その場のノリを無視できる性格ではない。
自分が安易な落ちに使われることに抵抗もあったが、致し方なしと腹をくくったのだった。
「な、な、何だ、お前たちは何しにきたのだぁっ!?」
とはいえ、いきなりの乱入者である。
窓を破壊して現れるなど、聖王国の刺客だと思われても仕方のない状況だった。
「話は後だ。てめぇら全員、皆癒しにしてやるぜっ!!」
しかし、竜の口から大量のブレスが噴出されるのは時間の問題である。
リリアナは話を聞くつもりはないようだ。
彼女は手のひらを合わせて祈りのポーズをとる。
「み、皆癒しだと……!?」
「皆殺しではなく!?」
「み、見ろ、光が集まってきたぞ!?」
謁見の間に淡いピンク色の光が充満し始める。
突然の空気感の変化に、ドワーフの国王も長老たちも目を見張る。
リリアナの姿だけを見ていれば、どこからどう見ても聖女そのものだったからだ。
彼女の横顔は美しく、神々しさすら感じさせる。
「人の命を奪うやつは、あたしが全員ぶっ殺す!」
リリアナはかっと目を見開く。
そして、矛盾したこと叫びながら、一気に桃色の光を周囲に発散させる。
それは邪悪なる勢力を排除する聖なる力そのものだった。
グォオオオオオオオオ!?
その光を浴びたドラゴンは突如苦しみ始める。
それどころか、ブレスを放出するのやめて王都の上空へと退避する始末だった。
リリアナの発した光は聖女にしか出せない、退魔の光だったのだ。
しかも、その光の力は魔物を退けるだけではない。
正しい心を持つものであれば、さらに身体強化の加護を受けることができる。
「おぉっ、めちゃくちゃやる気が出てきたのだっ!」
「体が軽いです! あいつを追いかけますよっ!」
クレイモアとハンナの二人の体に力がみなぎっていく。
彼女たちは目をらんらんと輝かせて、ドラゴンを追いかけるのだった。
もっとも、この二人が正しい心とやらを持っているのかは全くの謎であるが。
「くそぉおおお、何をしているっ! あんな城など早く焼き払えっ!」
ハマスは竜が攻撃を中止したことに腹を立てる。
伝説にうたわれたはずの竜が光を浴びた程度で苦しむはずがないからだ。
バズズは最新の召喚技術を使って呼び出した、聖王国の切り札と言ってもいいモンスターなのである。
こんなところで苦戦していいはずがないのだ。
グゴォオオオオ!!
竜はハマスの言葉に反応し、なんとか態勢を立て直す。
そして、王都の城に体当たりを食らわせようと飛び込んでくる。
その巨大な体で体当たりすれば、いかに堅牢なドワーフの城であっても、がれきの山にしてしまうはずだった。
その勢いにドワーフ王都の民は恐怖に顔を引きつらせる。
彼らの多くが今、自分の人生は終わるのだとぎゅっと目を閉じた。
しかし。
……シャゴォッ!!
けたたましい音を立てて、竜の目前にピンク色の光のドームが現れる。
ヴァルルッ! オオオン!!
そして、何かが爆発するような音と共に、竜の体当たりははじき返されるのだった。
まさに奇跡ともいえる状態である。
リリアナのもつ「邪悪なものから皆を守りたい」という清い気持ちが奇跡を起こした瞬間だった。
桃色の光は都市全体を包み、その内側にいる人々の心と体に働きかける。
さきほどまでの絶望が嘘のように消え、体が軽くなっていくのを感じる。
後年、このことは爆音聖女の伝説として語り継がれることになる。
「くそぉっ、何がどうなっている!? どうしてザコどものくせに、こうまで持ちこたえる!?」
ハマスの額に焦りの汗がにじむ。
モンスターの大群をもってしても、伝説の竜をもってしても、ドワーフの城が落とせない。
それもこれも、あの奇妙な旗をもって現れた少女たちが引き起こしたことだった。
「ハマス様、我々は負けたわけではありませんっ! パズズはまだ健在です!」
「ふふふ、何を焦っているんだ、私は。奴らは所詮は守ることしかできないではないか!」
しかし、ハマスは彼女の側近の言葉に、何とか平静を取り戻す。
そう、いくら攻撃を無効化できるからと言って、この巨大なドラゴンを撃退できるわけではない。
ドワーフたちにできるのはあくまでも守りにしか過ぎないのだ。
あちら側の援軍が来るまでに数時間はある。
それに、援軍が来たところで打つ手はない。
ハマスはにやりと含み笑いを浮かべ、敵が集中力を欠いた隙に一気に畳みかけることにした。
彼女はなんとか無事に残った部隊を再編成し、一撃必殺の攻撃に出ることにしたのだ。
◇
「ぐむむ、いくらジャンプしても届かないのだ」
一方、そのころ。
クレイモアたちは城壁からドラゴンに向かってジャンプをしていた。
しかし、いくらリリアナの加護があるとはいえ、上空高く飛んでいる竜に近づくことはできない。
ユオという例外はいるものの、魔法なしで空を飛ぶことは人間にはできない。
できるとすれば、飛行魔法という超高難易度の魔法を修めるしかないのだ。
かつてサンライズがこの悪竜を打ち倒すことができたのは、彼をリース王国の女王が補助してくれたからなのだ。
空を飛ぶ魔物に対して、人間はまだまだ無力なのだと言える。
「降りてきたら、ぎったぎたにしてやるのだ」
「ムカつきますねぇ……」
クレイモアとハンナは上空をにらみつけるのだった。
「お若いの、ちょっとすまんがこれに乗ってみんか?」
その時だった、ドワーフの国王が二人に声をかける。
彼はクエイクから事情を聴いて、4人が魔地天国温泉帝国からの援軍であることを理解していた。
彼の後ろには見たこともない、物体が置かれていた。
それはまるで海にいるエイのような形をしているが、真っ赤な色をしていた。
かなり目立つ色合いで戦場にはふさわしくない。
「これに乗る?」
「なんでですか?」
もちろん、訳の分からない二人である。
「ふふふ、これぞ、フミダイYS! わしらドワーフの汗と涙の結晶なのじゃ! いいか……」
国王は二人に、その奇妙なものについて説明を始める。
「でぇえええ!? これで飛べる!?」
「そぉいうのでいいんですよ!」
そう、この平べったいものは、空を飛ぶための試作兵器だったのだ。
ユリウス、イリーナという天才が開発し、もしもの時のためにとっておいたのだ。
ドワーフ王はこれを使って、自分自身で最後の突撃を行うつもりだった。
しかし、彼はこの二人の少女に国の命運を託すことに決めた。
二人はかつての剣聖サンライズのように、窮地に追い込まれても諦めない芯の強さを持っていたからである。
この二人なら王国の危機を救ってくれると見込んだのだ。
「にゃははは! これに乗ってぐいーんとやって、しゅばっなのだ」
「ふむふむ、いわば空飛ぶ踏み台ですね」
最新兵器を案内された、二人は空を飛ぶことに一切の迷いがない。
疑いすらしない。
それどころか、操作方法についてすら聞こうとしない。
「クレイモア、出る!」
「ハンナ! 行きますよ!」
二人は踏み台に魔力を込めて、ばびゅんっと飛び立ってしまうではないか。
初めて乗りこんだ機体にもかかわらず、たぐいまれな戦闘センスによって操作出来てしまうのだった。
「なぁあんじゃとぉおおお!?」
これには国王もびっくりしてしまう。
彼は操作方法を教えて感謝されようと思っていたのだが、その魂胆は簡単に覆される。
あまりにも規格外な二人なのである。
ぎゃおおおおおおおおおおおん……
そこから先の戦闘は虐殺に近いものだった。
飛行力を手にした二つの暴力にとって、巨大な的ほど狙いやすいものはない。
二人は最高速度で突撃し、ドラゴンの重い体を押し返す。
さらには敵の翼の付け根を徹底的に狙うというクレバーな戦い方を見せる。
体の近くを張り付くように飛ぶことで、ブレスを撃たせる隙すら与えない。
二人は戦闘中のみ知能指数が上がったかのようなふるまいをするのだった。
「何をしてるんだ! そんな小バエなど撃ち落とせっ!」
ハマスは青筋を浮かべて怒鳴る。
それでも、二人の猛攻にみるみるうちに竜は弱体化していく。
伝説の竜ともいわれた悪竜パズズが、あっけなくボロボロになっていくのだった。
「ば、化け物どもめぇえええええ! く、くそぉおおお、こんなところでパズズを失うわけにはいかんっ! ええい、総員退避だっ!」
戦況を見守っていたハマスの顔はどんどん悪化していく。
絶対に負けるわけがないと踏んでいた悪竜パズズが押されつつあるからだ。
パズズは世界征服のための主戦力であり、こんなところで失うことはできない。
ドワーフ王国の征服以上の価値があるともいえる。
彼女は歯噛みをしながら苦渋の決断を下すのだった。
ハマスは竜を荒野に着地させて、特殊な魔法巻物に格納すると全軍に伝えるのだった。
「竜が逃げていくっ!?」
「勝ったぞぉおおおお!」
その様子を見た王都の住民たちは大声で勝どきをあげる。
国王たちも歓声をあげて、長老たちと抱き合う。
4人の英雄が現れ、ドワーフ王国の存亡の危機を救ったのだ。
一人は聖女として、二人は暴力型村人として、そして、一人は荷物持ちとして。
リリアナは歓喜の中、ふぅっと息を吐く。
ユオなしでもなんとか危機を脱したことに安どの表情を浮かべる。
しかし、彼らは次の瞬間、とんでもないものを目撃することになる。
じじじじじ…………
突如、赤い筋がいくつか空に現れ、空飛ぶ竜を貫くではないか。
悪竜は突然の攻撃になすすべなく3枚におろされてしまう。
ばかっと空中で分離し、悲鳴すら上げずに荒野に落ちていく。
これが伝説と呼ばれた悪竜の悲しい最期である。
「なぁっ、なぁああんだこれはぁああああ!? 私のっ、私のっ、パズズがぁああああ!??」
これにはハマスもびっくりである。
追い詰められたとはいえ、ドラゴンはまだ生きていたし、致命傷を浴びるほどではなかったのだ。
それなのに、どこからともなく現れた赤い光がそれを分断してしまったのだ。
「くそぉおおおおっ、許さんぞ! 絶対に許されないいいいいいい」
ドラゴンの肉から這い出た彼女は、這う這うの体で聖王国へと逃げ帰るのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「悪竜さん……」
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