232.リリアナ様、ついに再び聖女として目覚めます! でも別に誰も待ってないんですが
「な、なんということだ……」
ドワーフ王ドレープは息を飲み込む。
ドワーフ王国の王都の上を巨大な竜の影が覆っているからだ。
その竜の名前はパズズ。
かつてリース王国を襲い、剣聖のサンライズが屠ったことで有名な巨竜だった。
まさに災厄とも呼べる存在であり、リースのいくつかの都市を焼いた悪竜である。
それを聖王国のハマスは操っているのだ。
尋常の事態ではない。
国王は最新式の兵器で竜を狙い撃つ。
しかし、真上の敵を狙い撃つことを想定しておらず、届いている様子はない。
竜はぐるぐると旋回しているのみだが、王国の魔物除け程度では話にならないだろう。
「こ、国王陛下ぁああああ! もはやこれまでですっ!」
配下の大臣たちは、巨竜の出現に戦う気概をなくしてしまう。
もはや打つ手なしであり、こうなったらできる限り国民の命を残してもらうために動くしかない。
「ぐ、ぐぬぅっ、かくなる上は……」
こんな時でも、国王の脳裏には最新式の兵器の存在が浮かび上がる。
それを使えば、上空の竜を攻撃はできるかもしれない。
しかし、たとえ、それがあったとしても、あの巨竜を倒せるとは言えない。
「こ、降伏するしかあるまいか……」
国王はぐっと拳を握りしめる。
最新式の兵器はあれども、それに頼って勝てる見込みはほとんどない。
そんな賭けのために国民の命を天秤にかけることはできないと判断したのだ。
「ははははは! 哀れだな、ドワーフの国民どもよ!」
そんな折、聞き覚えのある声が響く。
王位継承者の一人であるルドルフの側近のハマスが高笑いしている様子だった。
彼女は王都の上空に自分の映像を浮かび上がらせ、得意そうな顔で言葉を続ける。
その技術はドワーフ王国でさえ完成していない、未知のものだった。
「ドレープよ、貴様の大好きな王位継承者どもに見守られながら、死ぬがいい!」
ハマスがそういうと、画面は別の場面へと切り替わる。
それは遠い禁断の大地で素材戦に臨んでいた、王位継承者たちの姿だった。
もうすでに素材戦自体は終了しており、あとは結果発表を待つのみの状態だった。
現在はハマスの策略によって結果発表は中座していた。
「ドレス、イリーナ、ユリウスがこちらを見ているというのか……」
国王は落胆を隠せない。
ドレスたちに自分たちの敗北を見せることになりそうだからだ。
無力感が彼の背中に大きくのしかかる。
「ドワーフ王国のものどもよ! 刮目してみるがいい、これが素材王と呼ばれた哀れな国王の末路だっ! パズズ、城を焼き払ってしまえっ!」
ハマスの叫び声がするとともに、上空にいた竜はゆっくりと降下し始める。
誰かが槍を投げ、弓を射かけるも、ものともしない。
ばしゅううううんんん………
竜は王都のた魔物除けの結界をいとも簡単に破壊する。
まるで赤子の手をひねるようなものだった。
きぃいいいいいいいいん…………
そして、城の上空でそれは大きく口を開く。
その中に揺らめくのは鉄さえも蒸発させる赤い炎だった。
ごく限られた竜種だけができる、ブレスと呼ばれる攻撃だった。
「お前たちだけでも逃げるのだ!」
国王は目の前に現れた竜を前に、側近たちを遠ざけようとする。
「お前だけを死なせはしねぇよ」
「わしらも一緒だ」
それでも彼のそばには長年、一緒に戦ってきた長老たちが集まってくる。
絆と共に生きるという、ドワーフらしい最期を迎えようという思いがあるのだった。
「ん、ド、ドレープ、あれは何だっ!?」
もはやこれまでと覚悟を決めたその時、向こう側から何者かが飛び込んできた。
それは戦場に不釣り合いなほどのピンク色のオーラを携えていた。
◇ リリアナさんたちは?
「はぁはぁ、やっと終わりましたぁぁ」
クレイモアたちの活躍もあって、聖王国の軍勢を撃退することができた。
これで平和になるとリリアナは安堵の域を漏らす。
ホッとするのもつかの間、王都の上空には巨大な竜が現れるではないか。
その姿は辺境に住むトビトカゲと呼ばれる竜に近いが、その大きさは規格外だった。
リリアナは悲鳴をあげ、クエイクは腰を抜かす。
「おぉっ、でっかくてかっこいい! あいつとやってみたいのだっ! とおりゃっ!」
「ぐぬぬ、空を飛ぶとは卑怯ですよっ」
そんな中でも、クレイモアとハンナだけはワクワクした表情が止まらない。
彼女たちは手ごろな槍を投げてみるも、相手が高すぎて届かないようだ。
リリアナはこの絶望的な状況に天を仰ぎ見ることしかできなかった。
そもそも、彼女たちは王都の外で暴れまわっているだけで、まだ城にさえ到達できていない。
彼女は自分の不甲斐なさに打ちのめされる。
「あ、あれを見てください!」
そんな時、クエイクが空を指さす。
そこには彼女たちのよく見知った姿が映し出されていた。
「おぉっ、黒髪魔女の男版なのだっ!」
「魔女様の仮の姿ですよっ! 我が破壊神様の仮の姿ですっ!」
空に映し出されたのは、禁断の大地にいる彼女たちの主君、ユオの姿だった。
ただし、現在はドレスの騎士に扮するというわけで、男装していたのだが。
「ドレープよ、貴様の大好きな王位継承者どもに見守られながら、死ぬがいい!」
敵の女司令官の無慈悲な声がそれに重なる。
なんと敵は最期の姿を実況中継しようという魂胆なのだ。
あまりにも底意地の悪い行為であり、クエイクはげんなりとした表情を浮かべる。
「見守って……いる?」
しかし、リリアナはある言葉を見逃さなかった。
そう、確かにハマスはそう言ったのだ。見守っている、と。
「あっち側にこちら側の様子が見えているってことですわな」
勘のいいクエイクは「最悪の趣味やん」と吐き捨てる。
しかし、これはユオ達に自分たちの姿を見せられる、ということでもある。
(ユオ様、いや、ユア様が見てる……)
リリアナの中で、少し、何かが動いたのを感じる。
それはまだ火だねのような状況で、彼女を突き動かす爆発力にはなってはいない。
しかし、ユオが見ているという状況がリリアナの何かを変えようとしていたのは事実だった。
「ドワーフ王国のものどもよ! これが国王の最期だっ! パズズ、城を焼き払ってしまえっ!」
そうこうする内に再び、ハマスの声が響く。
それはドワーフ王国の城を破壊するという宣言であり、おそらくはこの戦争の最後で最大の一撃になるものだった。
竜はいとも簡単に王都の魔物除けの結界を破壊し、ゆっくりと降下していく。
ドワーフ王国の国民の悲鳴が離れた場所にいても聞こえてきそうなほど絶望的な場面である。
「ひ、ひぇええ、あんなん襲ってきたら、ぎょうさん人が死んでしまうでぇぇええ」
クエイクはガタガタと震える。
相手はまるで神話に出てきそうなほど巨大な竜なのだ。
これまで様々な修羅場に居合わせた彼女であるが、それと同じぐらいに恐ろしい。
「たくさん……人が……死ぬ……」
この時、リリアナの中で何かが弾けた。
彼女の内側に人を守りたい、癒したいという強い思いが熱い塊となって昇ってくる。
その熱い塊はリリアナの心のブレーキを一気に破壊する。
「んなことは、させねぇぞっ! クレイモア、ハンナ、クエイク、シュガーショックに乗りこめっ! あのクソドラゴンにぶっこんでやるっ!」
リリアナは突如人が変わったかのように大きな声を出す。
しかも、あろうことかシュガーショックに乗って、王都に向かうというではないか。
「おっしゃ! あたしもかちこんでやるのだっ!」
「そうこなくっちゃですよ!」
「ひぃえええええ!?」
クレイモアとハンナとクエイクはその勢いに押されるかのように、シュガーショックに乗りこむ。
クエイクは乗る必要がなかったのだが、ノリと勢いに負けてしまった。
「“待”ってたぜェ!!この“瞬間”をよォ!!」
シュガーショックに乗りこんだリリアナはモンスターの群れを蹴散らしながら進む。
ギャギャギャギャ!!!
モンスターを引きずる音が荒野に響く。
普段のリリアナなら卒倒しそうなほどのスピードだが、今の彼女は強くなっていた。
淡いピンク色のオーラが彼女たちを包む。
それは紛れもなく、聖女がもつ癒しの光そのものだった。
◇ 一方、その頃、魔女様たちは
「ひぇえええ、リリ、かっこいいい……」
画面に映し出されるのは、めちゃくちゃ怒っているリリの姿である。
さすがはリリ、人が傷つくのが何よりも嫌いなんだなぁ。
私はその雄姿に惚れ惚れするのだった。
「にゃはははは! クエイク、ざまぁああ!」
一方、メテオは妹の惨状を大笑いしながら眺めているのだった。
あんた、いつも自分がひどい目にあってるからってちったぁ心配してあげなさいよ。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「リリアナさん、ツルハシでも引きずってるんすかね……?」
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