231.魔女様、ドワーフ王国の修羅場に奴らが乱入し、ハマスさんの計画をめちゃくちゃにしてしまったので同情を禁じ得ない
「ひぃいい、これ、うちらが魔族の村で見てたのと同じ奴やでぇ」
突如として雲に映し出された映像に皆が釘付けになる。
メテオはそれを知っているそうだ。
話を聞くに、遠隔地の様子を映し出す魔道具だとのこと。
はぇええ、便利なものもあるようだ。
そこに映っていたのは、美人だけど、ちょっと神経質そうな女の人だった。
「ハマス様!? ルドルフ様側近のハマス様ではありませんか!?」
「た、確かにそうだぞ……」
どこかしこから聞こえてくる声によると、映し出されている女性はドワーフの国の人物らしい。
しかし、その表情はちょっと邪悪な感じがする。
「くはははは! お前たちが王位継承権だと遊んでいる間に、貴様らの国は陥落寸前だっ!」
ハマスという女性がそういうと、ドワーフ王国の城をモンスターが包囲している様子が描かれていた。
その数は尋常じゃないほど多く、この間のサジタリアスの一件の時と同じぐらいだ。
ひぇええ、なんてことだろうか。
メテオとララの言っていたことが当たってしまうなんて。
画面に映るハマスという人物は王国を裏切って、攻め込んできたということらしい。
つまり、彼女こそがドワーフ王国の本当の裏切り者だったのだ。
「な、なんということだ!?」
「お、おのれ、ハマスの奴、聖王国の手先だったのか……」
「おしまいだ。あの軍勢では我が国は終わってしまう……」
ドワーフの国の人々は絶望的な表情で、その映像を眺める。
確かに画面を埋め尽くすモンスターはみながみな、狂暴そうだ。
「ハマス、どうしてだっ! どうして、私を裏切ったのだ!?」
ハマスの上司だったルドルフさんは絶望的な顔で叫ぶ。
「あははは! 私が、私たちがお前の手助けするとでも思ったのか! この愚かな、お坊ちゃんが! これはずっと計画されていたことなのだ!」
ハマスは口角をもんのすごく吊り上げて盛大に笑う。
いかにも性格悪そうな表情である。
あんな表情、メテオぐらいしかしないと思っていたのに。
「野卑なドワーフどもよ、お前たちは私の踏み台にしかすぎないのだ! あははははは」
彼女の甲高い笑い声が響き、ちょっと耳をふさぎたくなる。
あぁ、うるさい。
私の熱円があっちまで届けばいいんだけどなぁ。
ドドドドドドドドド……
私たちがハマスの顔を苦々しく見つめている時だった。
向こうの画面から地響きのような音がし始める。
「ハ、ハマス様ぁあああ、化け物ですっ! 正体不明の化け物が出ましたぁあああ!」
ハマスの部下と思われる兵士がやってきて大騒ぎしている。
モンスターを使って城を囲んでいる側が、「化け物が出た」とは穏やかではない。
別のモンスターでも現れたってことなんだろうか。
「な、なにが化け物だぁっ!? そんなもの数でおし潰せっ!!」
ハマスがそう叫んだ瞬間だった。
「まだまだ足りませんよぉおお! さぁさぁ、魔女様の第一の戦士、光のハンナのお通りですよぉお!」
「にゃはははは! 生ぬるすぎなのだっ! 敗北を教えてくれよ、ぼんくらぁなのだぁ!」
画面の端の方から怒涛の勢いで二つの暴力が現れる。
一人は両手に剣を携えて敵を切り刻み、もう一人は大きな剣で敵を吹き飛ばす。
お分かりの通り、暴れまわっているのはうちの村のハンナとクレイモアだった。
よかったぁ、ちゃんと間に合ったみたいだ。
「うふふふふ、楽しくなってきましたぁあああ! 村人Bいっきまぁあああす!」
「ほらほら、村人Aの必殺技なのだっ! 恐々打破!」
彼女たちは笑いながらモンスターを攻撃。
その姿こそ、まさにモンスター級。
聖王国のモンスターたちは体を曲げちゃいけない方向に曲げて盛大に吹っ飛ばされていく。
しかも、あいつらうちの温泉の旗で敵を吹っ飛ばしている。
旗の使い方を完全に間違えてる。あわわわ。
「む、村人Aと村人Bだと……!??」
「なにあれ、化け物じゃないの!?」
ドワーフの皆さんは唖然とした表情。
ユア・タリーに変装した私であるが、肩身が狭くなる。
あわわわ。
平和なモンスターの群れに破壊神を投げ込んじゃったみたいで、ちょっと気の毒。
どぎゃああんん!
どぐぉおおおん!
ぼがしゃぁあああん!
奴らの笑い声と共に、猛烈な轟音が辺りに響く。
あまりの衝撃に画面がめちゃくちゃな勢いで揺れ動く。
「だ、誰だあいつらは? み、味方なのか!?」
「いや、もはや、敵なのでは!?」
「ま、魔女と言ったぞ!? まさか、あの皇帝の手先なのか!?」
「あんなものに城を襲われたら、国王陛下の命が危ういぞ!!?」
思わぬ二人の登場に、ドワーフの皆さんはまたまた表情が凍り付く。
一応、味方のはずなので、手先じゃなくて援軍って呼んで欲しいなぁ。
「ば、ば、化け物!? ひぃいいい」
敵の司令官のハマスが久しぶりに画面に顔を出す。
彼女の顔からはさっきまでの邪悪な表情は消えていた。
ただただ引きつった顔であり、涙さえ瞳に浮かべていた。
「お、おのれぇえええ! こうなったら奥の手がむが」
彼女は目を三角にして鼻息荒く、何かを私たちに見せつけようとした。
しかし!
わぁおぉおおおおおおんん!
「ひぎゃあぁああああ! そっちはあかんって、堪忍してぇなぁあああ!」
「死んじゃいますぅうううう!!!」
ハマスが何かをしようとしたところで、今度はシュガーショックが現れる。
シュガーショックはクエイクとリリを乗せて、とにかく嬉しそうに走り回っていた。
犬よくある、「ただただ原っぱを走り回りたいだけ」という衝動なのだろうか。
もちろん、上に乗っているクエイクとリリは生きた心地はしないだろうけど。
「ば、化け物だぁああああ! ふぐわっ」
シュガーショックはどがんどがんと向こうの兵士の皆さんを吹っ飛ばして、どこかへ行ってしまう。
あわわ、ごめんなさい。
クレイモアとハンナに加えて、シュガーショックまで大暴れしているとは。
ちょっとやり過ぎてるんじゃないかと心配になってきた。
ハマスさんの命がむしろ心配だ。
骨を折るぐらいですんでればいいけど。
「にゃははは! モンスターが弱すぎるのだっ!」
「こんなの魔女様なら口から怪光線で数秒で焼き払いますよっ!」
クレイモアとハンナは時折現れると、兵士の皆さんとモンスターをしばきあげる。
ハンナ、余計なこと言わんでいい。
帰ったらお説教だからね。
しばらくすると、画面の向こうはしぃんと静まり返る。
画面の奥は赤黒く燃え、まさしく死屍累々の状況である。
あんなに自信満々だった、あのハマスは生きているのだろうか。
これに懲りて帰ってくれればいいんだけど。
命は大事にしてほしい。
「く、くそがぁああああ! 私の、私の遠大な計画をぉおおお!」
しかし、彼女は生きていた。
顔を泥だらけにしてはいるが、なんとか無事らしい。
彼女はかなり怒っているらしく、顔が真っ赤だ。
「うぐがぁ、化け物どもがぁああ」などと品のない声で地団太を踏んでいる。
うわぁ、怖い。
自分こそ、化け物みたいな顔。
「……う、映ってる? く、くはははは! やるじゃないか、ドワーフども」
ハマスさんはこの映像を伝えている魔道具がまだ生きていることを知ったのか、急に大人しくなる。
「しかし、それもこれも全部終わりだっ! 貴様らはこれを知っているか?」
彼女は咳払いをすると懐から、何かを取り出す。
そう言えば、彼女はさきほども何かを私たちに見せつけようとしていたのだった。
空気を読まないシュガーショックに踏みつぶされたけど。
「あ、あれは……!?」
「ハマス、止めろぉぉおおお!」
それが何かを私が知る前に、ドワーフの面々から悲鳴ともとれる声が漏れる。
「あ、あれは竜のスクロールやんけ? うっそぉおお、国宝級やん……」
鑑定スキルを持っているメテオの声が響く。
そう、ハマスの手元にあるのは、真っ黒い竜の描かれた巻物だった。
その竜のデザインはどこかで見たことのあるものに似ていた。
しかし、それを使ってどうするというのだろうか?
「ふはははは! これはサンライズの倒した悪竜パズズのスクロールだ! 貴様ら程度など、一網打尽にしてくれる!」
彼女はそれを宙にかざし、何やら呪文のようなものを唱え始める。
やにわに彼女のかざした巻物は光り始め、やがて空に一筋の光を生み出した。
ぎがぁああああああああ!!
そして、現れたのだ。
巨大な、それこそ、空を覆うほど巨大な、巨大なトビトカゲが……!
すごいよ、あんなに大きいの見たことないかも。
その威容は画面越しにも伝わってきて、ドワーフの面々は悲鳴をあげる。
ハンナやクレイモアが強くても、空を飛んでいるモンスターが相手である。
果たして彼女たちは、その悪竜に立ち向かえるのだろうか?
私はその巨大トビトカゲの様子を固唾を飲んで見守るのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「ハンナもクレイモアもいい仕事してくれたぜ」
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