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【WEB版】灼熱の魔女様の楽しい温泉領地経営 ~追放された公爵令嬢、災厄級のあたためスキルで世界最強の温泉帝国を築きます~【書籍化+コミカライズ】  作者: 海野アロイ
第12章 魔女様の温泉ダンジョン大攻略! ドレスの王位継承権をめぐって、ダンジョンで素材集めにいそしみます!
229/352

229.魔女様、罪の聖霊を勧誘して、まさかの職業を授けます

「無駄だ! 我をとらえることなどできるものか! くかかか!」


 空間のどこからか、あいつの声が聞こえてくる。

 名前はえーと何だったっけ……忘れた。

 燃え吉もそうだけど、名前が長すぎるのよね。


「ドレス、イリーナ、カルラにみんな! 作戦開始だよっ!」


「おっしゃぁああ!」


「やってやるわよっ!」


「…………任せて」


「「ひぇえええ!?」」


 皆が元気よく声をあげる。

 イリーナのお仲間の二人が若干引き気味なのはこの際、無視しよう。そうしよう。



「よぉし、こんなものかな?」


 それぞれが持ち場についたところで、私は床に手のひらを当てる。

 この七彩晶は不思議な素材で、圧力をかけると水紋のようなものが広がる。

 ふぅむ、面白い。


 目を閉じて、私は感じるのだ。


 この空間全体の温度について。


 床はもとより、壁、天井、すべての温度を頭の中に浮かび上がらせる。

 

 これも熱感知だけど、空間全体っていうのは生まれ始めて。

 だけど、思ったよりも上手にできた。

 温度の高いところは赤っぽく、冷たいところは紺色っぽく表示される。


 やはり手のひらを床に当ててるのがいいのだろうか。



「ふふふ、そこにいたのね……」


 そして、私は発見する。

 床の一部に這いつくばって隠れている、あいつを。

 精霊であっても多少の体温を持っているようだ。

 

 あの一つ目の精霊は完全にうずくまっている姿勢だった。

 どうやら相当の小心者らしい。


「あっれぇ、いないなぁ〜。困るなぁ〜」


 私はしらばっくれながらも、この床に熱を送る。

 じわじわとゆっくりと。


 ここで急いじゃうと、あいつも気づくだろうから、あくまでも自然に。


 そして、あいつの行動範囲を狭めていくのだ。


 熱を感じたあいつは、少しずつ自分の居場所を変えていく。

 きっと内心、「あれぇ、なんだか暑いなぁ」などと思っているだろう。


 しかも、細工はそれだけではない。


 抜け道を用意しているのだ。

 私は器用に熱を操作して、抜け道だけには熱を通さないでいた。

 

 案の定、一つ目の聖霊は、その抜け道を這うように進んでいく。


 そして、その先には……。


「カルラ、そろそろ」


「……いける」


 そう、カルラがいるのだ。

 彼女がひんやりと冷やしている場所があり、

 おそらく、あの聖霊にとって居心地のいい場所になっているはず。


 いわば、冷たいところに潜り込ませる大作戦なのである。



「こっちも大丈夫だぜっ!」


「ひぃひぃ、つ、疲れてなんかないんだからねっ!」


 しかも、作戦はこれだけでは終わらない。

 私はドレスたちにとあるものを作ってもらっていたのだ。


 それはダンジョンの素材を組み合わせて作った虫取り網である。

 精霊が逃げられないように、特殊な加工とやらをドワーフの皆さんにしてもらった。


「ありがとっ! ドレス、お願いね!」


「任されたぜっ!」


 ドレスは子供っぽい顔をして、そぉーっと近づく。

 もちろん、網は後ろに隠したままで。


 私は精霊が冷たいところに入ったのを確認して、一気に熱をあげる!

 カルラは手を放して、冷却をストップ。



「あっつぅうううううう!?」


 奴は悲鳴をあげながら、岩からしゅぽーんっと飛び出してきた。

 めちゃくちゃ無防備な姿で。


 そこをドレスの虫取り網がすぱっと一閃!


「ひ、ひぃいいいい!?」


 見事、精霊なんたらかんたらを捕まえられたのである。

 ふぅ、あっけなかった。


「ユオ様、さすがだぜっ! よくこんなこと思いついたなぁ」


 ドレスは満面の笑みで感心してくれる。

 実を言うと、このアイデアはドレスが王様から受け取った、あの宣戦布告の手紙がもとになってるんだけどね。

 あれは魔力を込めて浮かび上がらせたけど。



「殺せるものなら、殺せっ! いさぎよく散ってやるぅうう!」


 虹色の一つ目小僧は網の中でジタバタもがきながらわめきたてる。

 ふぅむ、別に殺すとかそんなつもりはないんだけどなぁ。


「よいしょっと。安心しなさい、あんたを殺したりしないから」 


「ひぃいいい!? 我の体には猛毒があるのだぞ!? なぜ触れるぅうう!?」


 私は奴の体を網から取り出し、網から出してあげることにした。

 なぜ触れるかって、そりゃあ、あんた、もう私に毒は効かないからだよ。

 どういうわけか、毒物が入ってくると自動で燃焼してしまうようになった。

 すごいね、人体!


「くっ、殺せぇええええ!? いかなるものをも遠ざける、我の毒が効かぬとは、この化け物がぁあああ」


 なすすべもないと悟ったのか、奴は開き直って、なぜか私が最近良く耳にするセリフを吐く。

 ……化け物なんてどこにもいないのに。

 しかし、虹色のボディに一つ目とコミカルな造形をしているので、悲壮感はあまりない。

 

 話を聞くに、この精霊、自分の毒に大きなアイデンティティを感じているらしい。

 つまり、毒っ気があるから人とは触れ合えないと思っているのだ。


「あんたの内側にある毒を全部、出しなさい」


「は? あ、あの? 今なんと?」


「だから、持ってる毒を全部だせっていうのよ。私がきれいにしてあげるから」


 そう、私はこの精霊の内側にある毒を全部燃やすことにしたのだ。

 そしたら、残るはキラキラ光り輝くボディだけになるわけである。

 こいつも他者との触れあいに活路を見出すだろう。


「ひぃいいい!?」


 私は奴をひっくり返して、ぐらぐら揺らす。

 これがだめならジャンプさせて毒が落ちてこないかチェックしよう。


「なんか、ならず者にゆすられてるみたいだな……。ちょっと哀れだぜ」


「しっ、聞こえるわよ?」


 後ろの方でドレスとイリーナが何か言っているが、聞いてないふりをする。

 聞こえてるけど。


「いいのか? 本当にいいのだな?」


 精霊はごちゃごちゃと言いながら涙を流しはじめる。

 それはただの涙ではなかった。

 どろどろしていて、まさに猛毒という代物だった。


 ちょっと気持ち悪いけど、しょうがない。

 私は片手でそれを受け止めて、そのまま燃やす。一瞬で。


 じゅしぃいいいい……


 ヘンテコな音とともに、精霊の体に含まれていた猛毒は消え去るのだった。



「ひ、ひぃいいいい!? 毒を抜かれたら、我はどうやって生きていけばいいのだぁ……」


 精霊はおかしなことを気にして茫然自失とした表情。

 無理もない話だ。

 今までのこいつは毒を使って人間を襲うことを生業としていたのだから。

 

 しかし、今は違う。

 まっとうな精霊として第一歩を踏み出すのだから!


「ねぇ、あんた、アクセサリーって知ってる?」


「ア、アクセサリー!?」


「そうよ、ネックレスとか、イヤリングとか、そういうの」


「し、知ってはいるが……」


 奴は私の言葉に目をぱちくりさせる。

 とはいえ、アクセサリーが何たるかを知っているらしい。



「ひぃいい、都会で流行っている怪しげな商売の勧誘みたいな出だしだぜ……?」


「しっ、ドレス、黙りなさい。消されるわよ!?」


 私の話の切り出し方について、ドレスとイリーナがなんやかんや言っている。

 しかし、とりあえず無視だ。



「あんたは私の村に来て、その職人になりなさい。アクセサリー職人よっ!」


 私の提案は単純だった。

 奴にこの七彩晶を利用した、アクセサリーを作らせることである。

 毒抜きから加工まで、こいつなら簡単にできるはず。


 そして、温泉の名物にするのだ。

 女性のお客様も大喜びよね!


「アクセサリー職人!? 毒で汚染された、この醜い精霊が!?」


 一つ目の精霊は目を白黒させて、未だに驚いている。

 ふぅむ、自分のことを醜いだなんて、未だに思っているらしい。毒も抜けたのに。


「あんた、きれいだよ。七色に光ってるし」


「我がきれい……だと!?」


「えぇ、毒っけが抜けたから、美しさに磨きがかかってるわ!」


 別にこれは人材が欲しいが故の無理な持ち上げではない。

 一つ目の精霊から毒を抜いた結果、その七色はもっともっと美しく輝いているのだ。


「我はきれいなのか……! 醜く汚れた、この体が……」


 精霊はわなわなと震え始める。

 そして、大きな瞳から大粒の涙をこぼれさせた。

 燃え吉もそうだったけど、精霊って涙もろいのかもしれない。


「我は生み出されて以降、来る日も来る日も毒と(けが)れを盛られ、うぅううううう」


 奴は涙ながらに過去の話をし始める。

 ふぅむ、人に歴史ありっていうけど、精霊にも過去があるものなんだなぁ。


「昔話はいいから、今のあんただけに集中しな」


「今の我に!? えぇえ、我の壮絶な過去の話は……」


「それは後で燃え吉が聞いてあげる」


 とはいえ、こいつの話を最後まで聞いていてもしょうがない。

 辛い過去を思い出すのは無益だと聞いたこともあるし。


 それに、私には素材戦をクリアして、温泉をみんなに見せびらかすという崇高な用事があるのだ。

 そんなわけで、話をさくっと切り上げさせる。


「あんたはまず人間界に慣れるために自分を少しは変えなきゃだね」


「……自分を変える?」


「まず、自分のことを我っていうのは禁止。美意識を高めるために、『あたくし』って自分のことを呼びなさい。語尾は、『ですわ』、ね」


 とりあえず、私がこいつにさせるべきは自分の呼び名である。

 我、なんて自分のことを呼んでいいのは魔王様ぐらいなもんだろう。

 この子はキラキラ輝くアクセサリー職人になるのだから、格調高い言葉を口にしてもらいたい。


 ちなみに魔法学院にはリアルで自分のことをそう呼ぶ女の子がいた。結構いた。


「あ、あたくし!? ですわ!? それって、どっちかというと、女性のものでは!?」


「精霊に性別なんてもんはないんでしょ?」


「ないです……」


「ないですわ、でしょ?」


「な、ないですわ……」


 一つ目玉の精霊は観念したかのように、そうつぶやいた。

 いやぁ、納得してもらえてよかった!


「ドレス、あんたのボスっていつも、あぁなの?」


「だ、だいたい、あれだぜ?」


「大変ね……」


 後ろの方でイリーナとドレスが相変わらず、ごちゃごちゃ言っている。

 当然、無視の方向で。


「お、俺っちはまだマシでやんした。よかったぁああ」


 燃え吉はぷるぷると震えながら、そんなことを言う。

 そう言えば、燃え吉も昔は自分のことを「私」って呼んでたのよね。

 精霊って、自分の呼び名で損しているのが多い気がする。

 もっとカジュアルに行けばいいのに。


「うぉっ!? ユオ様、そろそろ時間がやばいぜっ!」


「うっそぉおお、まずいじゃん!」


 一つ目の精霊を仲間にしたところで、ドレスが叫ぶ。

 入り口まで戻るにはぎりぎりの時間だという。

 あっちゃあ、忘れてた。


 本当はこいつの名前を決めたかったんだけどなぁ。


「それじゃ、帰るわよっ! 全員撤収!」


「おぉっ! 行くぞ、燃え吉!」


「やんすぅうう!」


「だから、なんであんたがリーダーなのよっ!?」


「…………ユオしゃま」


「ひぃいいいい!?」


「つ、ついていきますですわっ!」


 ドレス、燃え吉、イリーナとカルラにその仲間たち、および一つ目精霊に号令をかけ、私たちはキラキラ輝くダンジョンを後にするのだった。


 撤収の途中で私はあるものに気づく。

 それは私が精霊と戦った場所で、ちょうど天井が落ちてきた場所だった。

 そこに不思議な輝きを見せる石が転がっていた。

 

 あんまりきれいだったので、私はとりあえずそれを拾ってポケットに入れておく。

 ふふ、これをあとでアクセサリーに加工してもらおう。


 それからは入り口までみんなでダッシュするのだった。

 素材戦に勝ったか、負けたかは正直わからない。

 だけど、みんなでわいわいダンジョンを進むのは案外、楽しかった。



【魔女様の発揮した能力】

状態異常燃焼(中級):体に入ってきた毒を意識せずとも自動的に燃焼させる能力。免疫として魔女様をありとあらゆる状態異常から守る。


【魔女様の獲得した人材】

罪の精霊セブンシンズ:七彩晶に住む猛毒・デバフてんこ盛りの精霊。虹のようにグラデーションで光り、子供の落書きのようにも見える。魔女様によって浄化される。七彩晶を操り、魔法防御も得意。名前はまだない。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「そういえば、温泉街にはアクセサリーショップがよくあるよな……」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークやいいねもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] つまりはデトックスだな!(呆
[一言] 〉罪の精霊セブンシンズ セブンセンシズと読みそうになる罠w 魔女様が人外だからだけど、徐々に魔国と言われても問題が無いレベルとなりつつある様な…?
[一言] まーた魔女様がものひろいしてるよ……ものひろいをする確率は低いのに拾ってくる物がヤバいんだよな
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