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【WEB版】灼熱の魔女様の楽しい温泉領地経営 ~追放された公爵令嬢、災厄級のあたためスキルで世界最強の温泉帝国を築きます~【書籍化+コミカライズ】  作者: 海野アロイ
第12章 魔女様の温泉ダンジョン大攻略! ドレスの王位継承権をめぐって、ダンジョンで素材集めにいそしみます!
226/352

226.魔女様、人生で初めてのピンチを迎えるも、仲間とアレの力で起死回生する。ついでに新スキルに目覚める


「うぐぅぅうううううう……!!!!??」


 私の肩に何かが触れた瞬間、強烈な痛みが全身を駆け巡る。

 しかも、痛みだけではない。

 体が硬直し、まるで石になったみたいだ。


 心臓が爆発しそうなほど一気に鼓動が早くなる。

 

 内臓がけいれんを起こし、立ち上がることもできない。

 頭の中に嫌な声が響き、背筋が凍る。

 何かに足を掴まれているような怖い感覚。


 そして、驚いたことに、今、私は何も聞こえない真っ暗なところにいるのだ。

 完全な暗闇。

 痛みとあいまって、どちらが上で、どちらが下か、そんなことさえ分からない。


 私が熱鎧を解除していた、一瞬の隙。

 そこを抜けて放たれた何者かの攻撃。


 声が出せない。

 私はあまりの苦しみに悶絶してしまうのだった。



「!!!!?」


 誰かが駆け寄ってきて、私を抱きかかえてくれる。

 耳も聞こえないし、目も見えないから、誰かは分からない。

 だけど、小柄な体ながらも力強い動きからして、おそらくドレスだろう。


「!!!!!!」


「!!!!!!???」


 誰かが叫んでいるような、そんな感覚が肌の振動を通じて伝わってくる。

 でも何を話しているのか、何が起きているのか分からない。


 激しい振動が地面を伝ってくる。


 それに合わせるかのように、ドレスは私を抱えたままジャンプする。


「!!!!???」


 攻撃を受けた場所に何かが塗られている。

 ドレスが介抱してくれようとしているのだろうか。


 たぶん、私が受けた攻撃は毒とか、そういう類いだろう。

 それも即効性の。


 頭が割れるように痛くて、死んだ方が楽なのかもしれない。

 それほどの苦痛。

 


 でも、私はこんなところで死ぬわけにはいかない。

 みんなに無事に帰ると約束したのだから。


 キラキラの新しい温泉が見つかったのだ。

 みんなにそれをお披露目しなくちゃ、死んでも死にきれない!!!



 

 この思いが温泉の神様に通じたのだろうか。

 私はあることを思い出す。


 そう、私は温泉を見つけていたのだ。

 つい、さっき!


 私はドレスに温泉につれていってほしいと伝えようとする。

 しかし、動かないのだ、口が。


 ひょっとして、私が受けた毒には口がきけなくなる作用さえも入っていたのだろうか。

 これはまずい。


 温泉をどうやったら伝えられるの?


 そうだ!

 あれだ!

 あのマーク!!


 ♨、これだよっ!!!


 私は地面らしきところを触ると、必死に指を動かす。


 三つの縦線と、1本の半楕円。

 いつもの愛らしいマークを描くのだ。

 念のために指先に熱を入れると、硬い地面はすんなりと削ることができた。


 指先はがくがくと震えているけれど、ドレスにどうか伝わってほしい。


 

「!!!!!??」


 ドレスの体から熱い何かが伝わってくる。

 彼女は私を抱えたまま、だぁんっとジャンプした。



 

 そして、次の瞬間、体の周りをお湯が包んでいくのがわかる。

 何も見えないし、何も聞こえない。

 だけど、肌の感覚だけは残っている。

 髪の毛がお湯の中で揺れる感覚も。


 ドレスは私の全身を温泉の中にいれてくれたらしい。

 深さは分からないし溺れちゃうって思うかもだけど、今はすごく気持ちいい。


 なんだろう、これ。

 お母さんのおなかの中にいた時のような感覚というか。

 もちろん、覚えているわけなんかないんだけど。



「!!!!!???」


「!!!!!??」


 何かがお湯の中に投げ込まれるのが肌を通じて分かる。

 すると、不思議なことに体が少しだけ楽になるのだ。

 目が見えないから、それが何かはわからない。


 それでも、癒しの波動がお湯を通して体に広がっていく。


 たぶん、ドレスたちが何かをしてくれたのだろう。

 ありがとう、少しだけ楽になったよ。



 この状態なら、私の体の中のどす黒い何かに意識を集中させることができる。

 それは私の肩から全身へと悪意のこもった波をとめどなくもたらしていた。


 じわじわと私の体を侵食していく黒い波。

 死ぬほどの苦痛、それも比喩ではなく。


 でも、それを意識できた時点で、私の勝ちだ。



 私は体の中を駆け巡っている、その黒いものに熱が届くイメージをする。

 

 そう、体の中の異物を燃やすのだ。


 私は自分の体の外側を熱く燃やすことができる。

 それなら、私の体の内側も燃やすことができるはずだ。


 ひどい苦痛の中、私は必死でイメージする。

 それしかできないし、それしかない。


 ばしゅんっと、ばしゅんっと、どす黒いものが燃えていくイメージ。

 そして、その燃えカスはお湯を通じて浄化されていくイメージ。


 

 やがて、耳鳴りが聞こえてきた。



 ……いける。


 少しずつ目の前の視界が開き、音が聞こえてくるのを感じる。


 ドレスやイリーナたちの叫び声が温泉のお湯越しでも聞こえてくる。


 ゆらゆらと光る水面は七彩晶の壁も相まって、とてもきれいだった。


 お湯に入って10秒もしないうちに、私の体はすっかり快調に戻っていた。

 どす黒い何かは完全に燃え尽きた。

 もはやその苦痛さえも覚えていない。



 ざばぁっ!!



 そして、私は立ち上がる。

 お湯が頭のてっぺんから滴り落ちて、ちょっと面白い風貌かもしれない。


「ユオ様っ!?」


 ドレスが驚いた声をあげる。

 その顔には涙が浮かんでいた。


「……ユオしゃま」


「あんた無事なの!?」


 温泉を囲うようにして、カルラが氷の壁を作って、私のことを守ってくれていた。

 イリーナとそのお仲間の姿も見える。


 水面にはいろんな種類の草や木の実が浮かんでいた。

 なるほど、ドレスとイリーナがお湯に入れてくれたらしい。

 エリクサーと一緒に作った、薬湯の応用というわけだ。



「みんな、ありがとう」


 どうやら、みんなして、介抱してくれてたってわけらしい。

 私はふぅっと息を吐くと、お湯から出て一気に体を乾燥させる。

 

 しゅおぉおおおっと湯気が吹き出すのは、相変わらずちょっと面白い。



「な、な、な、なぜ、生きてるっ!!!??」


 目の前に現れたのは真っ黒い体をした7つの首のある大きな蛇だった。

 モンスターのくせに喋るやつ、第二号というわけである。


 私が無事だったことで驚いているってことは、こいつが犯人ね。


「あんた、人にやっていいことと悪いことがあるでしょ! 悪いけど、あんまり手加減しないからねっ!」


 私はちょっと頭に来ていた。

 あんなに苦しい思いをしたのは生まれて初めてだったから。

 

 この訳の分かんない生き物にはそれなりの教訓を教えてあげなきゃ。

 言っとくけど、私の授業料は高額だからね。


 覚悟しなさい。




◇ おまけ:ドレス視点



「ユオ様!?」


 それは一瞬の出来事だった。

 ユオ様がカルラを制したと思った次の瞬間、前方に大きなモンスターが現れたのだ。


 ユオ様はカルラを突き飛ばし、その攻撃を前面から受けてしまう。

 あっしはとにかく、ユオ様のところに駆けこんだ。



「くはははは! 脆いぞ、人間!」


 そこにいたのは大蛇だった。

 しかも、頭が7つもあって、人の言葉を喋るやつ。


「ま、まさかあれって!?」

 

 カルラを介抱に飛んできたイリーナの表情が青ざめる。

 そう、彼女は気づいたのだ。


 七彩晶に潜む、化け物の伝説に。


「我は災厄の六柱の一つ、罪の聖霊セブンシンズ! くはははは、サンライズに不覚を取ったが、やっと外に出られたぞぉぉおおお」


 七首の化け物は嬉しそうに首を動かす。

 外の世界が久しぶりらしく、まだ、動きは遅いらしい。


 そして、あっしはぐりっと歯噛みをする。

 七彩晶という希少な鉱石の裏には、化け物が棲んでいると聞いたことがあった。

 それは人々を地獄のような苦しみをもたらす、罪の聖霊。


 毒、石化、呪い、暗闇、沈黙……、ありとあらゆる状態異常攻撃をもって、多くの冒険者の命を奪ったとされていた。



「うっぐぐぐぐ」


 ユオ様はセブンシンズの攻撃をまともにくらったわけで、その顔色はとてつもなく悪い。

 震えているし、必死に叫んでも聞こえていない。


「ぐははは! 無駄だ! 我は全ての状態異常を司るもの! その女は私の猛毒でもうじき死ぬだろう! 誰にも助けを呼べず、地獄のような苦痛とともにな! 私の恨みを思い知るがいい!!」


 うねうねと首を動かし、まるで歌うように喋る大蛇。

 おそらく中央の首だけに意識があるのだろうけど、正直、見ていて気持ちいいものではない。


 しかし、どうするか!?


 とにかく毒消し薬を塗る。

 しかし、塗っても、塗ってもいい反応はない。

 ユオ様の首の方まで青黒いシミができていた。


 これはただの毒じゃない。

 奴が言うように、様々なデバフがごちゃ混ぜになった、未知の毒だ。

 

「うっさいわねっ、このバカ精霊! カルラ、みんな、やっちゃうわよっ!」


「……殺す」 


 あっしが介抱している間、イリーナたちがモンスターをひきつけてくれるらしい。

 ありがたい。涙が出るほどに。


 でも、ユオ様の顔色は悪くなる一方。

 奴の毒は特殊で回復薬も、毒消し草も歯が立たない。


 今のあっしにはユオ様の手を握って、元気づけることしかできない。

 このままじゃ、ユオ様は……。


 頭の中に「死」という言葉が一瞬だけよぎる。

 冒険者をしていれば、誰もが背中合わせに感じる、その言葉。


 だけど、ユオ様に関しては一切感じることがなかった。

 彼女は何もかもが規格外だったから。


 それなのに、あっしの腕の中にいる彼女は、ごく普通の女の子だった。

 線の細い、華奢な体つきの。



「ユオ様、起きてくれっ!」


 ぶんぶんっと頭を振ってかき消す。

 だけど、ユオ様が握り返してくる手の力は少しずつ弱まっていく。


 その時だった。

 彼女は震えながら地面に何かを書いたのだ。


 にょろにょろにょろが3つ。

 その下には笑っているかのような半円。


 だいぶ、ブレているけれど、それはあのマークだった。


 ♨、このマーク。


「……お、温泉!!!?」


 ユオ様のメッセージはこんな時でも、温泉だった。

 こんな時に、どうして!?


 って、思ったけど、確かにユオ様の温泉には不思議な力が宿るのだ。

 こうなったら一か八か、あっしは賭けに出ることにした。


「イリーナ、こっちに来てくれっ!」


 イリーナに声をかける。

 そして、あっしはユオ様を抱えたまま、温泉のところに一気にジャンプ。

 そして、迷うことなく、どぼんっとお湯に入れた。


「あ、あんた、バカ? 何やってんのよっ!?」

 

 ユオ様を温泉に入れたことで、イリーナは信じられないと声をあげる。

 気持ちは分かる。

 だけど、言い争ってる時間はねぇ。


「イリーナ、薬になるものを全部、この中に入れてくれっ! こういう風に」


 あっしは懐から空間袋を取り出すと、薬草関係のものをどんどん入れる。

 希少な毒消し草だって、もちろん、いれる。

 だって、ユオ様以上に貴重な人なんているはずないんだから。


「わけわかんないんだけどっ!? でも、やればいいんでしょ!」


 イリーナはそういいながらも、背負った荷物を急いでばらし始める。

 そして、どんどんと薬草を入れていくのだ。



 水面全体が薬草で覆われていく。

 その様子をあっしは祈るような気持ちで見つめる。


 ユオ様の反応はない。


 ダメだ、ユオ様、こんなところで死なないでくれっ。

 あんたは世界のために必要な人なんだよっ!



「ユオさまぁああああ!」


 あっしが必死で叫んだ、その時だった。


 ざばぁっ!!


 豪快な音を立てて、彼女は現れた。

 あっしのユオ様が。




【魔女様の発揮した能力】

状態異常燃焼(初級):体の中にある状態異常攻撃を超詳細に意識することによって、全て燃焼させてしまう技。毒であれ、石化であれ、呪いであれ、どんなものであっても燃やすことができるという魔女様らしい技。本人は温泉の効能と思っているが、単純に燃やしているだけである。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「魔女様には状態異常攻撃が効かない……?」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークやいいねもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 温泉の力じゃなくて魔女様の力だったか。魔女様は温泉ブーストさえあれば不可能なんてないんじゃないか?温泉の為なら過去の世界にだって行きそう
[一言] 読み専様! ズバリ「正解!」
[良い点] 貴重なシリアス回でした。 ただあえて言おう 読者は誰もハラハラしていなかったと。 [気になる点] ただ体温あげて、毒蒸発させれば問題なし。
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