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【WEB版】灼熱の魔女様の楽しい温泉領地経営 ~追放された公爵令嬢、災厄級のあたためスキルで世界最強の温泉帝国を築きます~【書籍化+コミカライズ】  作者: 海野アロイ
第12章 魔女様の温泉ダンジョン大攻略! ドレスの王位継承権をめぐって、ダンジョンで素材集めにいそしみます!
224/352

224.魔女様、カルラの怒りを盛大に買い、彼女の覚醒を促す。そして、新たな奴が動き出す


「私が相手になるわ」


 燃え吉がやられたことで、戦えるのは私ということになった。

 対するのは、カルラという無表情な女の子。


 燃え吉との戦い方を見るに氷魔法を得意とする魔法使いらしい。


「よ、よろしく頼むぜっ!」


 ドレスはそういうと燃え吉をつれて、離れた場所に移動した。

 巻き添えになってほしくないから自分から避難してもらうのは助かる。


「カルラはそんじょそこらの魔法使いとは違うのよ! Sクラス冒険者の実力をみせてあげなさい!」


 イリーナの得意そうな声が響く。

 Sクラス冒険者とは、冒険者の頂点にあると聞いたことがある。

 彼女がどんな攻撃を仕掛けてくるのか、私はごくりと唾を飲むのだった。


「……すぐに終わらせる」


 直後、彼女の後ろに白い渦が現れ始める。

 ひゅおおおおおおおっと、まるで吹雪のような音がし始める。


「……寒失神」


 彼女がぽつりとつぶやいた次の瞬間。


 ばつん……!!


 私の体に正体不明の衝撃波が届く。

 呼吸ができない。

 

 次に感じるのは、まるで氷の浮かぶ水の中を通り抜けたような尋常ではない寒さ。

 頭頂部からつま先まで、しびれるように冷え込んだのだ。


 なるほど、寒さを通じて失神させる魔法なんだろうか。

 まるで私の熱失神と同じような技だ。

 熱鎧を出してなかったからなぁ、油断した。



「なぁっ!? どうしてあれで倒れないわけ!? キラーベアだって失神するのよ!?」


 イリーナの驚く声が聞こえてくる。

 なるほど、普通のモンスターなら失神してしまう衝撃なのだろう。


 しかし、私はそもそも体温が高い部類だし、温度変化にめっぽう強いのだ。

 熱鎧を出してなくても、そこそこの寒さなら耐えられるのだ。


「……もう一度」


 再び繰り出される寒失神の技。

 しかし、同じ手は食わない。

 熱鎧を発動させると、あの寒失神の衝撃を受けることもない。

 ばしゅんっ、ばしゅんっと、変な音はするけど。


 それにしても、対象を狙って失神させるなんて、すごい技術。

 私は周囲の人を巻き添えにしてしまうものなぁ。


 ふぅむ、どうしたものか。

 彼女の命を奪わずに、どうやって戦おうかな?



「カルラ! あいつ、得体がしれないわ! さっさとやっつけなさい!」

 

 寒失神が通じないことを見て取ったのか、イリーナの声に焦りの色が見える。

 勘がけっこう鋭いんだろうなぁ。


「……わかってる」

 

 カルラは無表情なままで、ふぅっと息を吐く。

 その瞳には色がなく、まるで全ての思考から解放されているかのような達観した表情だ。


「……大寒波」


 カルラがつぶやいた次の瞬間、彼女の背後にあった白い渦から大量の吹雪が現れる。

 

 雪がごうごうと現れ、まさに吹雪そのもの。

 気温がどんどん下がっていき、私の足元が凍り付き始めるのを感じる。



「あれ?」


 この技、妙なのだ。

 私が熱を発生させようとしても、その発動が少しだけ遅れる。

 まるで私の力を封じ込めるかのように寒さが覆いかぶさってくる。


「ユアさん!?」


 轟音の中、聞こえてくるドレスの心配そうな声。

 大丈夫、私は生きている。

 別に何も苦しくはない。


 だけど、このままじゃいけない。


 だって、私の温泉が凍っちゃうでしょうが!


 温泉というのは非常にデリケートなものなのだ。

 以前、熱探知で温泉のお湯がどこから湧いてくるのかを調べたことがあった。

 驚いたことに地面のやたら奥の方からゆるゆると昇っているのだ。


 つまり、お湯が人間の前に出てくるなんて偶然でしかなく、すなわち奇跡みたいなものなのである。

 私が思うに温泉を見つけたってことは、神様に出会ったというのと同じぐらいレアなのである。

 

 そして、温泉にとってカルラの寒波はとても厄介なのだ。

 このお湯の源泉の方まで凍らせられたら、お湯の沸きだしてくるルートが変わってしまう可能性もある。


 つまりである。

 彼女の氷漬け攻撃によって、この光り輝く温泉がなくなってしまう可能性があるのだ。

 それだけは絶対に避けなければならない。



「ちょっとだけ本気を出させてもらうよっ!」


 私は熱の出力をどんどんあげていく。

 以前、魔族の悪い奴と戦った時と同じぐらいの感覚だ。

 

 驚いたことに、目の前のカルラという人物は、私がそれぐらい力を出さなければならないほどの冷気を体から発生させているのだ。


 魔法使いとして優秀なのだろうか? 

 ひょっとしたら、普通の氷魔法とも違う、異質な力なのかもしれないけど。


 とはいえ、まずはこの空間の熱の確保だ。

 温泉ちゃんを守り、普通の温度に戻さなければならない。



熱の波動(ヒートウエイブ)!」


 私はこの空間全体を一気に温めることにした。

 熱を一気に噴出させ、周りにある一切を温める。


 じわじわと熱が広がり、空間全体を温めるイメージをする。

 相手の猛烈な吹雪さえ押し返す、そんな技だ。


 最後には、自分の起こした熱気でぶわっと突風が巻き起こった。

 よぉし、温度はもとに戻ったよ。

 温泉も凍り付いてない。

 心の中でガッツポーズをする私。



「ひ、ひぃいい。あ、あのぉ、髪の毛が……」

 

 しかし、どういうわけか、ドレスがこちらに駆け寄ってくるではないか。

 彼女はしきりに髪の毛を示すジェスチャーをしていて。


「髪の毛?」


 私は自分の頭に手を添える。

 すると、なくなってしまっていたのだ。


 私の髪の毛を押さえていたはずの、ララ特製のかつらが。


 あわわわわ、せっかくユア・タリーで通してきたのに!?

 おそらくはさっきの風と共に吹っ飛んでしまったのだろう。



「あっちゃぁああ」


「うわぁああああ」


 驚き、焦る、私達。

 顔から火が出そうなほど、恥ずかしいよ。

 せっかく技をかっこよく決めたっていうのに!


「あ、あんたは、あの魔族と手を組んだ、化け物女!」


 イリーナは私を指差して、目を丸くする。

 ちぃっ、バレてしまったか。


「……騙してたのね」


 それ以上の反応を見せたのは、カルラだった。


 彼女の表情は相変わらず無表情だった。

 しかし、彼女の後ろに大きな白い渦が生まれ始めていた。



「……あなたを殺して、私も死ぬ」

 

 小さいながらも鬼気迫る、カルラの声。

 ひえぇええ、どういうことか分からないけど激怒させちゃってた!?


 しかも、彼女の髪の毛の色が変なのだ。

 さっきまで水色だったはずなのに、そこに金色の筋が入っているのだ。

 きれいと言えばきれいだけれど、なんだかすごく禍々しく見える。



「……魂凍波ソウルフリーズ


 そして、急激に巻き起こる、突風。

 それはただの突風ではなかった。


 まるで魂を凍らせるような寒波だった。

 私は久しぶりに、「寒い」という感覚を思い出すのだった。




◇ カルラさん視点



「私が相手になるわ」


 燃え吉とか呼ばれている、わけのわからない化け物はわけもなく破壊した。

 しかし、次に出てきたのは、あの人だった。

 私の未来の旦那様、ユア様。


 彼は一歩前に歩み出て、私のことをきっとにらみつける。


 ひぃいい、かっこいいい。

 そんな瞳で見られたら、私、困っちゃう。

 相手になるって、もう、これ、プロポーズってことでいいよね?



「……すぐに終わらせる」


 相手を傷つけることはもちろん、本意ではない。

 だって、私の大事なダーリンなのだ。

 すぐに失神してもらって事なきを得たい。

 うふふ、私が目が覚めるまでしっかりと介抱いたしますからね、妻として。



 しかし、妙なことが起きた。


 私の寒失神が効かなかったのだ。

 対人間用の技として、ずっと鍛えてきた非殺傷スキルであり、これまで精度は百発百中だったのに。


 彼に向けて寒失神を放っても、ちょっと眉間にシワを寄せただけで効果なしなのだ。


 あれれ、どうしたのかしら?

 ひょっとして、愛するがあまり無意識に手加減しているのかな?


 私はその後、何発もその技を発動させるも、全て不発。

 おかしい。

 どうしたんだろう。


 少しずつ心の奥がざわつくのを感じる。

 ユア様はこれまで私が戦ってきた、どんな相手とも違う何かを持っている……?



「カルラ! あいつ、得体がしれないわ! さっさとやっつけなさい!」

 

 そうこうするうちにイリーナのうるさい声が響く。

 かん高くて嫌いな声。

 もっと小さな声でしゃべりなさいよ。

 

「……大寒波」


 私は殺傷しない二つ目のスキルを使う。

 環境を低温にすることで動けなくする技だ。


 生き物は体温が下がると活動を停止する。

 その原理を利用したスキルなのだ。


 愛しのダーリンを傷つけないための最適な攻撃手段だった。


 しかし、いくら凍てつく吹雪を発生させても、彼は倒れなかった。

 平気な顔をしているというわけではない。

 

 それでも、倒れない。


 確かにイリーナの言うとおり、得体のしれない何かを彼は持っているのかもしれない。

 そういうミステリアスなところも素敵で、私はぞくぞくしてくる。うふふ。


 もしかしたら、彼は寒さに強い人間なのかもしれない。

 確かに私の手をぎゅっと握って温めてくれたし、その可能性はきっとある。


 あぁ、なんてことなの! 

 まさしく、運命だわっ!

 

 でも、やせ我慢をしなくていいのよ!

 さっさと降参して、お願いだから!



熱の波動(ヒートウエイブ)!」


 彼は手を広げて何かを叫ぶ。

 それは『熱の波動』なんて聞いたことのない技だった。


 ぶわっと沸き起こったのは熱の波。

 じりじりと焼け付くような熱が彼から発生し、空間全体が温かくなっていくのを感じる。

 私の寒波を押し戻すように、その強烈な熱波が攻め込んでくる。


 寒さと暑さ、二つの波。

 それらが拮抗することで、猛烈な風が舞い起こり、ごぉおおっと音を立てた。

 


「……うそ」

 

 そして、私の目の前から彼はいなくなっていた。

 そこに現れたのは、あの忌々しい女だった。


 髪の毛の一部を赤く光らせた、あの不気味な女だったのだ。

 禁断の大地の邪悪な女首領だった。


 

「あ、あんたは、あの魔族と手を組んだ、化け物女!」


 イリーナの声が響く。

 彼女もユア様の正体に気づいたらしい。


「……騙してたのね」


 茶番だったのだ、全て。

 あの女は私をもてあそんで、陰で笑っていたのだ。


 私にあえて親切にして、私の心を鷲掴みにして、そして、粉々にしたのだ。


 許せない。

 許せるわけがない。



「……あなたを殺して、私も死ぬ」


 私の出した結論はそれだった。

 ユア様という一筋の光を失った私は、もうこの邪悪な女を殺すしか残されてはいなかった。

 そして、私はユア様と一緒にこの地の底で眠るのだ、永遠に。



 これまでに感じたことのない冷気を背後に感じる。

 辺りを凍り付かせる、殺意の衝動。


「……魂凍波ソウルフリーズ


 私は彼女に向けて、最大の寒波を放つのだった。

 



◇ ?????



 我を封印していた七彩晶がきしみ、やがてずれていく。


 次第に我は自分の体に力が戻っていくのを感じる。

 

 上の方では人間どもの声。


 懐かしく、忌々しい、愚か者どもの声。


 なるほど、誰かがやってきて我の封印を解いたというのか。


 かつてこの空間に閉じ込めた人間を我は覚えている。


 剣聖サンライズ、あの男を。


 我は体をひねって、七彩晶の隙間を抜けていく。


 もう二度と人間ごときに不覚を取るまいと自戒しながら。



【魔女様の発揮したスキル】

熱の波動:熱波のことであるが、魔女様特有のいいまわしでかっこよく言ってみたもの。熱を空間全体に波及させて温めることができる。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「このダンジョン、変なのが眠りすぎてないか……?」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークやいいねもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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メイドさんの活躍する新連載スタートです! 下のURLをクリックしたら見られます

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― 新着の感想 ―
[一言] モブ敵さんは戦うのやめようぜ、お前の先輩がその側にいることを忘れないで
[一言] アレッと思いましたが、もう一度223から読み直して納得。 して、次は、どんな化け物でしょうか・・・ まあ、いずれにしろ化け物度は魔女様にはかなわないけど。 あと、カルラさんの髪の色の変…
[一言] この洞窟、下手したら蠱毒な状態になってたんじゃあるまいか…
感想一覧
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