223.魔女様、燃え吉を倒してくれたカルラに感謝するも、温泉を守るために戦うことを決める
「イ、イリーナ!?」
振り返ると、イリーナとそのお仲間の皆さんが立っていた。
うわぁ、足湯してるところ見られちゃったよ。
完全にリラックスしてたから、結構恥ずかしい。
「順調そうだな、イリーナ。荷物持ちを2人もつけて」
私たちはそそくさと立ち上がり、そそくさと履物を履く。
もちろん、立ち上がった時に足を瞬間乾燥するのも忘れない。
ドレスは時間稼ぎの意味も込めて、少し口数多く話しているようだ。
「相変わらず順調すぎて困るぐらいよ、ドレス姉さん」
「久しぶりに聞いたな、その呼び名」
ブーツを履き終わったドレスはふふっと笑う。
私はドレスに「妹さん?」と聞くと、「従妹」とのこと。
なるほど、どおりで顔が似てるはずだ。
イリーナはどうやらこちらに敵意をむき出しにするつもりはないようだ。
話し合いで解決するなら、それがベストだよね。
「姉さんには恐れ入ったわ。七彩晶をこんなに見つけ出すなんて。時価数億ゼニーどころじゃないでしょ、これ」
イリーナはそういうと、ダンジョンの光り輝く地面をこんこんっと小突く。
やはり彼女もこの素材の価値を知っているらしい。
「もし、お前には譲れないと言ったら?」
ドレスが鋭い目つきになって尋ねる。
ごくりと唾をのむ私。
イリーナの返事次第では、彼女ともことを構えなければならないのだ。
あぁ、どうか、「もう十分に素材は回収したから仲良く足湯でもしよう」って言ってくれますように!
「悪いけど、譲ってもらうしかないわ。だって、私、欲張りだから」
イリーナは自信満々な顔をして、そう言うのだった。
つまり、交渉は決裂。
こちらと衝突してでも、この素材が欲しいという。
しかし、自分のことを欲張りだって自己紹介するなんて、かなりの自信家だ。
顔はドレスと似ているのに、口調が違うからか、印象もだいぶ異なっている。
「あ、あのぉ、それってここを破壊して持っていくってこと? どれぐらい?」
とはいえ、一応、確認しておきたいのは素材回収の規模についてだ。
私だって鬼じゃない。
ちょっとぐらいなら、指先ぐらいなら記念に持って帰ってもらっていい。
しかし、私の光り輝く温泉を破壊してまで持っていくというのなら、話は別だ。
「変なことを聞くわね? 全部に決まってるでしょうが。あんたたちが足を洗っていた、そこの汚い水たまりの岩も含めて、全部、頂くわ」
イリーナはにやっと笑う。
彼女の返事は私のいちばん望んではいないものだった。
なんて欲張りな人なんだろうか。
「き、汚い水たまり……」
そして、彼女の欲張りぶり以上に私の心をイラつかせたのは、その一言だった。
そりゃあ普通の人にとって、温泉がただの水たまりに見えることは知ってる。
だけど、汚いなんてつけられる筋合いはない。
むしろ光り輝いていて、聖なる泉みたいなんだから。
私の温泉ちゃんに謝ってもらうからね。
「ひ、ひぃ……。ユアさん、殺る気なのかい?」
私のいら立ちが伝わってしまったのか、ドレスを驚かせてしまったようだ。
いけない、いけない。
私のスキルでは相手を殺傷することが多いし、この空間では制御が難しい。
温泉を守るとか言っておいて、私が破壊してたんじゃ元も子もない。
目の前のワガママ小娘にお灸を据えるのは、別に私じゃなくてもいいんだった。
「侵入者でやんすぅぅうう! ひ、ひぃいい、あっちの段差がきつかったでやんす」
そうこうするうちに燃え吉がごろごろ転がってきた。
侵入者だなんて、今さらなことを言いながら。
「おぉっ、わりぃな、燃え吉。段差を転がりながら移動するのは難しいわな」
「きついどころの騒ぎじゃねぇでやんす! ぐるっと回り道でやんす!」
ドレスは燃え吉をひょいっと抱き起こし、二足歩行の姿勢に戻す。
緊迫している場面だというのに、二人ののんびり過ぎる空気感はどうにかならないのだろうか。
「あはははは! なにそのぶっさいくな奴!?」
やり取りを見ていたイリーナはお腹を抱えて笑う。
「ユリウスといい、姉さんといい、変なものしか作れないんだから、二流なのよね。本当にセンスないし、だっさぁ。ま、所詮はザコ、ザコ大工かぁ」
彼女の口から飛び出したのは、なんとも絶妙な煽り文句である。
イライラするけど、相手の顔がかわいいだけに完全には否定できない自分がいる。
あの子、ドレスより小さいし、全てが片付いたら頭をなでなでしたい。
「はぁっ!? ユリウスのアホと一緒にすんじゃねぇよ! お前の手下どもなんざ、燃え吉がダウンさせちまうぜ。よぉし、燃え吉、身のほどをわからせてやれっ!」
煽り耐性に弱すぎるドレスは相も変わらず挑発に乗る。
気づいた時には、燃え吉はイリーナたちの前に立ちはだかっているのだった。
それにしても、ドレスって結構、悪役っぽい口調になるよね。
「燃え吉、正義の一撃を見せてみろ」とかさぁ。
「そんな子供が描いた絵みたいなのとまじで戦えっていうの? うけるんだけど? まぁ、いいわ、カルラ、あんたが相手してやんなさい」
イリーナはケラケラと本当に面白そうに笑う。
それから魔法使いっぽい服装をしているショートカットの女の子に指示を出した。
あの子は私を虫から守ってくれた女の子だ。
無口だし、親切だし、根はいい子なんだと思う。
あの子と衝突するのは本意じゃないなぁ。
ドレスとイリーナでケンカしてくれないかなぁ。
それが一番平和だと思うんだけど。
「……」
カルラという子は無言のまま一歩前に出る。
少しだけ眠そうな顔で無表情とも言える整った顔つきだった。
水色の髪の毛は絹のように細く、相変わらずきれいだった。
「燃え吉、出し惜しみをしてる場合じゃねぇっ! 半殺戮モードだぜっ!」
二人の戦いが始まろうとするとき、ドレスは燃え吉に大きめの魔石を投げる。
そして、大きな声で指示を出すのだった。
半殺戮モード?
半分だけ殺戮!?
頭の中が混乱の極みになる私なのである。
そもそも、あんな頭から手足が生えてるやつが今さら姿を変えられるのだろうか。
「最後のチェンジでやんすよぉおおお!」
燃え吉は魔石を受け取ると、大きな口でごくんと飲み込む。
両の拳を握りしめて踏ん張るような姿勢になる。
何が起こるのかと見守っていると、生えたのだ。
何がって?
足が。
あいつの頭から、たくさん。
にょきにょきにょきにょきと、まるで植物の根っこのように生えたのだ。
「ひ、ひ、ひぃいいいい」
あまりにもおぞましいものを見たので硬直する私。
やめてよ、それ、触手みたいなもんでしょ、ほとんど!!
「これで機動力は10倍! やれるぜっ! 燃え吉っ!」
ドレスは大興奮の面持ち。
うん、今さらになって分かるよ、この子はユリウスと同じ系統だったんだなぁって。
「くかかか! ヘルフレイムを喰らうでやんす!」
しゃかしゃかとこれまた気持ちの悪い動きをして相手との距離をつめる燃え吉。
奴は一旦立ち止まると、そのまま大きな炎を吐いた。
半殺戮モードなんてもんじゃない。
これ、普通に喰らったら死んじゃうでしょ!?
「今だ! 半殺戮フェイスカバーだっ!」
「よぉしきた!」
ドレスが号令をかけると、燃え吉の体は中心部から左右に開く。
そして、そのまま相手の顔をめがけてジャンプしていくではないか。
なんとさっきの炎はフェイントだったらしく、この気持ち悪い攻撃が目的だったらしい。
「燃え吉は自分の体を使って、相手を窒息・失神させちまうんだぜっ!」
青ざめる私など気にもせずに、得意顔のドレス。
なるほど、ぱかりと開いた体で相手の顔をふさぐっていう寸法らしい。
あんた、なんていう気色の悪いもの作ってくれてるのよ。
いや、あんな危険物、私が処分した方がいいのでは!?
カルラって女の子には本当に悪いことをしたと思ってる。ごめんなさい……。
しかし、結果は違った。
私の心配をよそに、炎を真っ正面から喰らったカルラは無事だったのだ。
さらにはとびかかる燃え吉をひょいっと避ける。
えぇええ、すっごい!
続いて、ごつん、と鈍い音が響く。
「や、やんす……」
なんとやられたのは燃え吉だったのだ。
氷魔法か何かなのだろうか、燃え吉は氷漬けになって地面に垂直落下していた。
「燃え吉、いや、凍り吉!?」
ドレスが慌てて駆け寄るも、戦闘不能であることは間違いなかった。
私はとりあえず燃え吉の氷を溶かすけれど、なかなか溶けにくい氷だ。
ふぅむ、カルラさんはかなりの氷魔法の使い手なのだろうか。
しかし、こうなったら私が出ていくしかないわけで。
「カルラ! そのザコ男もさっさと氷漬けにしてあげて。なんなら、この空間ごと、凍らせてもいいわよ」
燃え吉を片付けたことで、イリーナは調子に乗っているようだ。
確かに邪悪なやつをやっつけてくれたことに感謝はしている。
だけど、である。
この空間を凍らせるなんて、冗談でも言っちゃいけないことだ。
だって、温泉が、私の温泉ちゃんが、冷たくなっちゃうでしょうが!!!
怒りのせいなのか、私の周りの空気が一気にヒートアップするのを感じる。
「悪いけど、私が相手になるわ」
誰よりも争いを憎む私なのであるが、ここに至ってはしょうがない。
温泉の平和を守るため、私は一歩前に出るのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「ドレスって、悪の天才科学者なのかい?」
「殲滅の理由ですか? 温泉が冷たくなったから……」
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