220.ドワーフ王国のじいさんたち、改造人間になっちゃいます! そして、奴らがわけのわからん旗を担いで参上いたします
「どぉりゃあああ!」
「魔石バズーカを喰らえっ!」
それは予想外の光景だった。
国王たちはさきほどまでの衰弱ぶりが嘘のように、機敏に街中を駆けているのだ。
その動きは騎士団にも勝るとも劣らないものだった。
「ど、どういうことだ!? あれが国王陛下なのか!?」
ドワーフ王の側近たちは驚きの声をあげる。
信じられないものを見たような気分だった。
「わしらもまだまだやれるのぉ!」
「がはは! ひっさびさに血が騒ぐ!」
国王の戦い方はシンプルだった。
モンスターをハンマーで殴るだけである。
しかし、それだけで簡単に絶命させてしまうのだ。
相手はヨロイムシとよばれる分厚い装甲をもったモンスターである。
通常の冒険者であれば、数人がかりで一体を倒すのがやっとモンスターなのだが、彼らはうまく連携をとってどんどん数を減らしていく。
「それもこれもユリウスとイリーナのおかげだな!」
「あやつら、さすがにやりおるわ!」
国王の四肢には最新の魔石筋肉と関節が埋め込まれ、往年の膂力を復活させた。
長老の腕に装備された直径数センチの魔石バズーカはぶあついヨロイムシの装甲をぶち抜く。
この信じがたい現実を生み出したのは、ドワーフ王国の至宝ともいえる二人の天才だった。
ユリウスは自身の経験から身体強化を主に担当し、イリーナはそれに必要な素材を効率よく収集し、加工したのだ。
結局、彼らはものの数分でモンスターを鎮圧してしまうのだった。
「す、すげぇぞ! さすがは俺たちの素材王!」
「国王陛下、ばんざぁああい!」
国王たちの活躍に市民たちは拍手喝采する。
それは往年の素材王ドレープが復活した兆しとなるものだった。
◇ 聖王国側:ハマスさん視点
「報告します! ドレープ王が市内のモンスター鎮圧に乗り出してきました! 他の長老共と一緒です!」
一方、その頃、聖王国の重鎮の一人であるハマスは森の中に待機していた。
次の一手を打つべく、入念に準備を重ねていたのだ。
「ドレープ王が鎮圧に乗り出す? あの老いぼれが!? あははは!!」
彼女は部下の報告を聞いて、笑いがとまらない。
国王が戦うということは明らかに人材不足を示すものだからだ。
王都にはモンスターを鎮圧できるほどの戦士が残っていないことが推察される。
しかも、老人仲間の長老を引き連れているとのことだ。
往年の戦士を担ぎ出して何をしようというのだろうか。
未だに自分たちが通用すると思っているのだろうか。
「あの素材王も落ちたものだ! 愚かにもほどがある!」
こうなれば話は早い。
騎士団と駆け引きをする必要などもはや残ってはいない。
一気に内側から畳みかけてしまい、国王自体を殺してしまえばいいのだ。
いくらドワーフ王国の城が堅牢であるとはいえ、指揮系統を失った軍隊ほどもろいものはないのだから。
「あはは! 想像以上に早く決着がつきそうだわね!」
彼女は現状を好機とみて、高笑いをするのだった。
しかし、彼女の邪悪な笑みはその十分後に掻き消えることになる。
「ハ、ハマスさまぁあああっ! 市中のモンスター軍団が数分で全滅しましたっ! 国王と長老どもが未知の力を発揮しておりますっ!」
ハマスのもとに伝令が駆け込んできて、信じがたい報告をしてきたからだ。
王都に潜ませておいたモンスターは耐久性に定評のあるヨロイムシである。
彼女の試算では1時間は混乱を生むはずであり、その隙をついて城に攻め込む予定だったのだ。
それがわずか数分で鎮圧させられたという。
「な。な、な、なんだとぉおおお!?」
ハマスの額に汗がにじみ出る。
わずか数分でなどと、尋常の事態ではない。
しかも、それをあの老いぼれどもが鎮圧したというのか?
「国王たちは体を改造しているとのことですっ!」
「腕から不可思議な攻撃をしかけてきますっ!」
「ハンマー攻撃でヨロイムシに穴があきました!」
さらなる報告を聞いて、ハマスは自分の計算違いに歯噛みする。
なるほど、敵も一筋縄では行かないらしい。
ドレープ王はこの事態を予測していて、しっかりと準備をしていたのだと気づいたのだ。
ここ最近、極端に衰弱して見せていたのも、敢えてのことだろう。
こちら側のスパイにむけて、「弱い国王」を演じていたのだ。
まさに、敵をだますには、まず味方から、を地で行くやり方だった。
「やるじゃないの、くそじじいどものが……」
スキをついたつもりが、ドワーフ王にまんまと誘い込まれた形である。
その事実はハマスのプライドを傷つけるには十分だった。
「ハマス様、いかがいたしましょうか!?」
ハマスの部下は不安げな声を出す。
その臆病風に吹かれた表情を見て、ハマスはちぃっと小さく舌打ちをする。
彼女の眉間にはシワが寄り、本来は整った顔が醜く歪むだった。
「ならば、正攻法で攻め落とすまでっ! 総攻撃だっ! モンスターの群れで城を埋め尽くせっ!」
しかし、彼女は作戦を変更することはなかった。
彼女は全軍に号令を出し、総攻撃を開始する。
ウグォオオオオオオオオオオ!
森にはモンスターの雄叫びが響き渡る。
主力は数日間、餌を与えずに飢えに飢えさせた魔獣たちである。
目をギラギラと輝かせ、普段よりはるかに獰猛になっていた。
「行くぞぉおおおおお!」
「狩りの時間だぁああああ!」
ハマス指揮下のテイマーたちが号令をかける。
先陣を切るのはブラックウルフの部隊だ。
獰猛な肉食獣である彼らは、統率された動きで城へと押し寄せていく。
その数は千を超え、魔力砲も捉えることはできない。
その後をゴブリンやオークの部隊が続いていく。
ハマスの指揮するモンスターの軍勢は、どんな猛者であっても震え上がるほどの規模となっていた。
◇
「へ、陛下! モンスターの群れが一気に増加しました! その数、数千を超えています!」
ドレープたちは城内のモンスターを駆逐することに成功した。
しかし、次に入ってきた知らせは、その成功を吹き飛ばすほどの威力を持っていた。
数千のモンスターというと尋常の数ではない。
ダンジョンが発掘されたときのスタンピードでさえも千を超えることは稀なのである。
城にいる騎士団や冒険者を束にして当たらせても、撃退することは難しいだろう。
「に、西の空にアークドラゴンも現れました!」
悪い知らせはさらに続く。
翼を生やし、空を飛ぶアークドラゴンの出現である。
これは厄介な相手だった。
モンスター避けの結界があるとはいえ、その上から攻撃をしかけてくる可能性もある。
とある都市ではアークドラゴンのゾンビ種である、死霊ドラゴンが襲ってきたという話を国王は耳にしていた。
彼はしばし目を閉じて考えをまとめると、意を決して目を見開く。
「騎士団を引き上げさせよっ! 皆の者、籠城戦にはいるぞっ!!」
国王は魔力砲で相手を削りながら守りを固めるしかないと決意したのだった。
あと1日もすれば、他のドワーフの都市からの援軍もやってくるだろう。
相手の数を超える軍勢であれば、敵を挟撃して撤退させることができる。
しかし、問題は今日の1日をもたすことができるのかという点だ。
あまりにも大きな戦力差なのだ。
歴戦の勇士である国王と長老が復帰したとは言え、一騎当千の強者というわけにはいかない。
かつての剣聖サンライズであれば、この逆境を乗り越えることができたかもしれないが。
グォオオオオオオオオオ!!
絶望的な雄叫びが城へと迫ってくる。
必死に矢を放ち、魔力砲を放ち、城門を抑える兵士たち。
市民たちは避難しながらも、恐怖に震えあがる。
「くそぉっ、なかなか絶望的だのぉ」
モンスターたちの絶叫を前に、国王は額にたらりと汗を流す。
諦めるわけにはいかない。
諦めれば、かつての兄弟国のように王都は滅ぼされてしまうだろう。
しかし、敵の猛攻に城壁を維持することさえできなくなっている。
「もはやこれまでか……」
国王は天を仰ぎ見て、国の命運を悟るのだった。
救いがあるとしたら、王位継承者は国外にいることである。
いつの日か、ドレスたちが奮起して、この国を取り戻してくれるかもしれない。
それぐらいしか、彼に頼るものは存在していなかった。
そんな時だった。
「こ、国王陛下! モンスターどもが数を減らしております! どこからか友軍がやってきたようです!」
諦めかけていたところに、見張りをしていた兵士が絶叫しながら駆け込んでくる。
それも、こちらの友軍が突如として現れたとのこと。
「ゆ、友軍だと!?」
しかし、どうにも合点がいかない。
隣国からの援軍であったとしても、数時間で駆けつけられるはずがない。
「あちらですっ!?」
見張り台から眺めてみると、モンスターの群れの中に3つの裂け目が現れていた。
それらは蛇行を続けながら、敵の軍勢を減らし始めるのだった。
モンスターの死骸が宙を舞っており、その様子はまるで竜が獲物を食い散らかしているようだった。
誰が戦っているかはわからないが、すさまじい戦いぶりだ。
国王はつばをごくりと飲み込む。
「村人Aのお通りなのだぁあああ! にゃははは!」
「村人Bも参上ですよぉおおおお!」
「ひきゃああああ、死ぬぅううう!?」
3つの暴力はそれぞれが異なる声を発していた。
その声はあまりにも大きく、城壁まで聞こえてくる。
2つは何事かを叫び、1つは明らかな絶叫だった。
「村人Aに村人Bだと!? お主、知っておるか?」
「知らんわ、そんなもの」
首をかしげる国王に長老たち。
本当に友軍であるかはわからないが、どこかの村人がモンスターを襲っているのは確かだった。
しかし、腑に落ちないのはまっすぐに城へと直進してこないことだ。
彼らはただ単に戦っているのではなく、まるで遊んでいるかのような動きをする。
「こ、国王陛下、あれをご覧ください! あれは旗でしょうか!?」
見張りをしていた人物が指をさす。
その方向には、「♨」という謎の記号が描かれた旗が立っていた。
おそらくはモンスターを襲っている何者かが掲げているのだろう。
「あちらにも見えます!」
さらにもう一つの方向には、「ゆ」とこれまた謎の記号の描かれた旗が動いている。
両方の旗は器用にモンスターの攻撃を避け、さらには蹴散らす。
相当の手練がそれを操っていることが見て取れる。
「あんな記号みたことあるか?」
「あるわけないだろ、どこの国の文字だ!?」
「不気味な文字じゃのお?」
大陸中を旅した国王と長老たちは博識なことで知られていた。
だが、そんな記号は見たことがない。
「♨」にせよ、「ゆ」にせよ、なにか禍々しいものを表現しているのではないか?
国王は新たな勢力の出現に胸のざわつきをとめることができないのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「モンスターの皆さん、逃げてくださぁい!!」
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