22.ラインハルト家の受難:ガガン、女王にこっぴどく叱責される
「ちょっと追放したスキに行方不明になっただと!? おぬし、何をしたのか、わかっておるのか!?」
「も、申し訳ございませんっ!」
場所はリース王国の女王のいる謁見の間。
女王の前で、ラインハルト公爵家の当主ガガン・ラインハルトはひれ伏していた。
ハーフエルフの血を受け継いだ女王は若い容姿ながらも数十年、王座にある人物である。
ガガンはユオの報告を握りつぶしていたのだが、どういうわけか女王の耳に入ってしまった。
くそっ忌々しい……と、ガガンは歯噛みする。
ユオのことは絶対に隠し通すはずで、神殿にもたくさんの賄賂を払っていたはずなのだ。
しかし、とりあえずは平謝りにあやまって誤解を解くしかない。
「しかし、ユオの魔力はゼロと鑑定されております。あれが過去に災厄をもたらした灼熱の魔女などと、万に一つもございません!」
ガガンは激昂する女王に申し開きをする。
ユオは魔力鑑定を何度受けさせても、ゼロのままであったことは事実なのだ。
魔力ゼロの娘を追放しても、責められるいわれはない。
「そうか、お前の娘は魔力がゼロか」
「ゼロでございますっ! ごみくず同然です!」
「ふふ、ごみくずとまで言うのか」
「えぇ、ゴミ以下です!」
「魔力ゼロのものなど、リースにおいてはゴミ同然。そんなものが災厄の魔女のはずがあるわけがないな。ただの取り越し苦労だったというわけだな?」
「ははぁっ、そのとおりでございまする!」
【魔力ゼロ】という言葉を聞いて、女王はふふっと笑う。
魔力ゼロは役に立たない。
魔力ゼロは人材としての価値はない。
これは魔法第一主義のリース王国においては、何よりも大事な価値観である。
女王も巨大な魔力を持っている人物であり、その価値観の信奉者だった。
「魔力ゼロのヒーターのスキルなど、水を温めてお湯を沸かすことぐらいしかできないでしょう。そんなものたかが知れております」
ガガンは頭を下げたまま、大声ではっきりと話す。
感情の起伏の激しい女王を説得するには毅然とした態度で臨むことが大切だと、彼は経験から知っていた。
「くふふ、確かに魔力ゼロならばその程度の能力だろうな。湯を沸かす程度の何の役にもたたない能力だ」
ガガンの言葉を聞いた女王は「お湯を沸かす」という言葉を聞いて苦笑してしまう。
彼女もまた『ヒーター』のスキルを真に受け過ぎたと反省したのだった。
張りつめていた王宮の空気が少しだけ軽くなる。
「禁断の大地では長くは生きていけまいか……。いなくなったというのなら、あきらめるしかないか」
「ははっ! その通りでございます!」
ガガンは頭を下げて、女王の決定に寄り添う。
その様子を見ていた大臣からすれば、ガガンは従順な人物に見えたであろう。
しかし、それはあくまでも素振りでしかなかった。
『ふん……、平和ボケの女王め。いつか、その地位を奪い取ってやる』
彼は表向きは女王に従うそぶりをして、実際には王座を狙っていたのだった。
魔族との戦いのためには、そして、もっと豊かになるためには、自分こそが王者にふさわしいと考えていた。
「しかるに、ガガンよ。おぬしは最近、辺境に兵を集めているようだな? 何か問題でもあるのか?」
「ぐっ……」
しかし、女王はガガンの見立てほど甘くはない人物である。
リース王国という魔法国家を束ねてきただけあって、政治的な手腕も持ち合わせていた。
彼女の指摘にガガンは思わず、うなり声をあげてしまう。
「いえ、辺境には凶悪な魔物が、集まりますゆえ、兵を増強しているところで、ございます」
ガガンは絞り出すように言葉をつなげる。
実際にラインハルト家の領地の一つである辺境近辺の地域には、凶悪なモンスターが出没することは知られていた。
しかし、実を言うと、ガガンはその地で王室転覆のための軍事訓練を計画していたのだ。
もし、それがバレてしまうと、ラインハルト家はすぐに没落してしまう。
ガガンはどうにかこうにか言い繕う。
「ふふん、……おかしな真似はしないようにすることだぞ」
「ははぁっ」
女王は意味深長な笑みを浮かべて、ガガンをじっと見つめる。
ガガンは内心を見透かされたような気分がしながらも、平伏する他ない。
「ところで、ガガンよ。最近、妾の玉座を新調しようと思っておってのぉ」
女王は不敵に笑いながら、ガガンにそんなことを言う。
明らかに新しい玉座のための資金を出すようにという圧力だ。
彼が用意しなければならない金額は数千万ゼニーを軽く超えるだろう。
「そ、それでしたら、ぜひ、私めに機会をくださいましたら光栄でございますぅううう!」
ガガンは苦々しい気持ちを押し殺して、笑顔で女王に寄付を申し出るのだった。
ラインハルト家の資金源について、女王に介入されるのは何よりも避けたいことだったからだ。
◇
『くそっ、なんと忌々しい女王だ!』
彼は女王に苦々しい思いを感じたまま家路につくのだった。
『それもこれも、あのユオのせいだ!』
そして、その帰り道、ガガンの脳裏にはユオの姿が浮かぶ。
魔力ゼロの分際で自分が呼び出され、屈辱的な目にあわされた。
さらにはラインハルト家に多大な損害をもたらしたのである。
そもそもユオは今はなき父親からの言いつけによって養子にした娘である。
血のつながりもない、どこの馬の骨かもわからない存在なのだ。
『ユオなんぞのために、私が振り回されるなどありえないことだ!』
怒りが心頭に発し、胃がムカムカしてきた。
辺境送りにしただけでは生ぬるい気さえしてくる。
そうだ!
ユオを追放せずに、むしろ自分の管理下に置いてやろう!
ガガンの脳裏に邪悪な計画が浮かんでくる。
彼はまるで自分が女王からされているように、ユオを地方の田舎領主にして、しぼりあげてやろうと考えたのだ。
女王には絶対に逆らえないという気持ちが、ガガンを歪んだ感情へと駆り立てたのだった。
そして、もしも、ユオのスキルが本当に危険な、それこそ災厄を生むレベルのものならば、あの膨大な魔力を持つ女王への対抗策として使えるかもしれない。
ガガンは口元に手を当てながら、これから先のことを計算するのだった。
「ミラージュ、辺境のユオに王都まで戻ってくるように伝えよ」
帰宅後、ガガンは三男のミラージュ・ラインハルトを呼び出して、そう伝える。
ユオの能力が危険であることは、もちろん、伏せた上である。
「わ、私がですか!? ユオはもう追放したはずでは!?」
追放したはずの妹を呼び戻せという父親からの命令にミラージュは目を白黒させる。
彼もまた魔力ゼロの妹の追放に加担した人物であり、呼び戻すという仕事には大きな心理的抵抗があった。
「方針が変わったのだ。お前から手紙を書いてやればよい。辺境で草を食べているよりはましだと裸足で戻ってくるだろう」
「りょ、了解いたしました」
「もしかすると、死んでいるか、行方不明になっているかもしれん。その場合も報告するように」
「ははっ」
ミラージュは頭を下げると、ガガンの部屋から退室する。
彼は内心、苦虫を嚙み潰したような気分だった。
彼は幼いころから利発だった妹を忌み嫌っていたのだった。
それでも、父親の命令は絶対であり、逆らうことはできない。
ミラージュは部下に命じて「父上がお呼びだ、王都に戻ってこい」との文言を書いた辺境への手紙を出すのだった。
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