219.ドワーフ王国、敵の猛攻に存亡の危機に瀕します。年寄りの冷や水にならなければいいんですが
「陛下、モンスターの襲撃ですっ!」
ここはドワーフ王国の王都。
国王ドレープのもとに兵士が駆けこんでくる。
その内容は国境近くにある森からモンスターが溢れてきているとのことだった。
モンスターを野放しにしている聖王国と国境を接しているドワーフ王国では、いつものことであり、モンスターの襲撃自体は珍しくない。
「その数、500は超えると思われます!」
しかし、その数は異常だった。
数百を超えるモンスターの群れが一気になだれ込んできたというのだ。
通常、モンスターが溢れてきたとしても数十体が関の山である。
「……いよいよか。よし、騎士団を待機させよ」
国王は老体に力を入れて、どうにか立ち上がる。
かつて素材王と呼ばれた彼ではあるが、数々の怪我によって衰えを隠せない状態だ。
そんな彼が自ら騎士団の指揮を執るというのだから、配下の兵士たちはその様子を心配そうに見つめる。
「長老のじじいどもに指令室に来るように伝えよ」
国王は少し不可解な指示を部下に下す。
それは彼のかつての側近であった、長老と呼ばれる老戦士たちを呼びだせとのことだ。
その多くはすでに現役を引退しており、戦力としてはカウントできない。
命令を受けた部下はいぶかしく思いながらも、国王の指示に従うのだった。
◇
「撃てっ!」
モンスターとの戦いはいつもの通りだった。
あくまでもモンスターの襲撃であり、種類はゴブリンやオークを主体としたものである。
数が多いこと以外は普段と何も変わらない。
国王はユリウスが開発した兵器を使って、モンスターを遠距離攻撃する。
魔石の力を原理につかったその兵器は、荒れ狂うモンスターたちの数をどんどん減らすのだった。
魔力砲の威力はすさまじく、戦いは早くも終わりを見せようとしている。
「おぉっ! すごいじゃねぇか!」
「あのユリウスのガキが作ったんだってよ! さすがは神童だなぁ!」
「ばぁか、あいつはとっくに成人してるよ! 時のたつのも早いもんだ」
戦いの様子を見ていた長老たちは兵器を作ったユリウスを褒めたたえる。
普段ならば、勝利の美酒を取り出すタイミングだろう。
しかし、国王の顔は険しいままだった。
彼は長い戦いの経験から、これはあくまでも始まりにしかすぎないと理解していた。
「騎士団と冒険者の部隊を出して、警戒に当たらせろっ!」
彼は都市の防衛を固めるべく、さらなる警戒を命じるのだった。
さきほどまでのモンスターの群れはあくまで、こちらの出方を調べるものにしか過ぎないと見破っていたのだ。
「ブラックウルフの混成部隊が現れました!」
すると、彼の予感していた通り、次に現れたのは足の速いモンスターたちだった。
狼のような姿をしたそのモンスターはどんどんと城へと詰め寄ってくる。
こういった相手に魔力砲を当てるのは至難の業であり、肉弾戦でぶつかっていくしかない。
「読みが当たりましたな! さすがですぜ!」
国王の読み通りの展開であり、側近の一人は歓声をあげる。
しかし、それでも国王は顔をほころばせることはない。
彼は先ほどから嫌な予感がしているのだ。
「ドレープ、心配し過ぎじゃないか? うちの騎士団があんなもんに負けるわけないだろうが」
長老の一人である国王の兄は陽気な顔をして、がははと笑う。
ドワーフの騎士団は足は遅いものの、守りにおいては一流との定評を受けていた。
いかにブラックウルフであっても簡単に追い払うことができるはずだ。
だが、ドレープの意識はまだ張りつめたままだった。
彼はこの「読み通り」という状況に違和感を覚えていた。
「何かがおかしいぞ? こんなに上手くいくはずがないのだ」
素材戦の最中に敵が攻撃をしかけてくるのは分かっていた。
しかし、その攻撃は総攻撃ともいえるべき大規模なものでなくてはならないはずだ。
こんな中途半端なものではないはず……。
彼は思考を張り巡らせて、どこかに穴がなかったかを探るのだった。
「こ、国王陛下、大変ですっ! 市内でモンスターが暴れています!」
このタイミングで彼の予感は的中することになる。
敵はすでに内側に入り込んでいたのだ。
「ヨロイムシを主体として、その数、数十、いや、百を超えます! ルドルフ様やレオパル様の研究所からあふれ出たようです!」
国王はぎりりと歯を食いしばる。
レオパルとルドルフの兄弟は研究のためと称して、モンスターを市中で確保していた。
それが敵を招き入れるための場所として、確保されてしまったのだ。
つい先日もドレスたちをモンスターが襲ったばかりであったのに、警戒が足りなかった。
あるいは、想像以上にたくさんの内通者が王都内にいる可能性もある。
「ドレープ、どうする?」
「外の部隊を引き上げるのはかなわんぞ?」
長老たちは不安げな顔で国王に尋ねる。
この状況で騎士団を城に戻すことが何を意味するかを、十分に理解していたからだ。
自分がもし敵方であれば、騎士団と冒険者が退いた瞬間に追い打ちをかけるだろう。
一瞬でも隙を見せると、迷うことなく噛みついてくるのが相手だった。
どんなに苦しくても内側のことは内側で対処しなければならない状況。
しかし、市中の兵力は警備兵を含めて、そう多くはない。
冒険者に大金を払ったとしても、彼らが100体を超えるモンスターを駆除できるとは思えない。
「もはや、これまでか……。わしが出るぞ!」
ドレープははぁっと大きく息をはいて、信じがたい言葉をはく。
なんと、自分自身がモンスターと戦うというのだ。
「な、何をおっしゃいますか! 国王陛下!?」
これには側近たちも驚いた表情である。
ドワーフ王、ドレープはたしかにかつての英雄だった。
リース王国の女王や剣聖のサンライズとともに世界を旅し、巨悪を倒した英雄譚は語り継がれている。
しかし、数々の事故で体は不自由になっており、もはや往年の活躍をみせることは難しい。
ヨロイムシと対峙するなど、年寄りの冷や水どころの問題ではなかった。
まさに死にに行くようにさえ思われたのだ。
「お、おやめください! 陛下にもしものことがあったらどうするのですか!」
側近たちはオロオロと声をあげる。
もしも、この状況で国王が命を落とすことがあったら、ドワーフ王国は終わってしまう可能性があるのだ。
「まぁ、見てるがいい。お前らにもドワーフ魂を見せてやらねば」
国王は制止する部下を振りほどき、ゆっくりした足取りで指令室を出る。
「しょうがないのぉ」
「わしらも続くぞ」
ドワーフの長老たちも、はぁっと息を吐いて、国王に続くのだった。
彼らも高齢であり、歩くのもやっとという風情である。
そんな彼らを引き連れたとして、市中のモンスターに勝てるとはとても思えない。
側近たちは何が起こるのかと、不安げに国王の背中を見送るのだった。
「面白かった!」
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