217.魔女様、ドレスとユリウス、どっちを応援していいかわからない。さらに災厄のあいつが調子に乗る
「いっけぇええええ! ビーストモードだぁああ!」
ドレスはユリウスたちを指さして戦闘開始の号令をかける。
これまでは防戦一方だったけれど、燃え吉なら手早く簡単にやっつけてくれるはず。
それにしても、ビーストモードってどういうことなんだろうか?
やはり野獣のように荒々しく戦うっていうことなんだろうか?
ごくりとつばを飲み込む私。
あぁ、できるだけダンジョンを破壊しない戦いをしてくれますように。
「くぅっ!? その変な触手で僕のピピに何をするつもりなんだぁああ!? ま、まさかあんなことや、そんなことをされたら、僕は困っちゃうじゃないか!?」
本気を出すと宣言されたユリウスさんは焦って変な声を出している。
確かに自分の心血を注いだ作品が触手に絡められるのは嫌だよね。
「ひゃあっはっはっはぁ、残念だったな、ユリウス! お前の作ったかわいい人形をひぃひぃいわせてやるぜ!! バラバラ死体の出来上がりだっ!」
一方のドレスはまるで悪役みたいなことを言う。
ちょっとやけくそ気味になっているのか、それとも素なのかわからないけれど。
ドレスはあんがい、破壊衝動を持っているのかもしれないなぁ。
「ひぃひぃ言わせるだとぉっ!? そ、そんな素晴らし……、いや、残酷なことはさせないぞっ! 僕の純潔乙女のピピが邪悪なモンスターもどきに負けるわけがないんだっ!」
対するユリウスは嬉しさと怒りがごちゃまぜになった表情。
それでも正義の味方みたいに何とか踏みとどまる。
邪悪なモンスターを操る悪の天才職人ドレスと美しい少女人形を操る正義の天才少年、ユリウス。
どっちを応援すればいいのかわからなくなってきた。
「喰らうでやんすっ!」
燃え吉のゆらゆらと不規則に動く触手が一瞬のスキをついて前方にぐいんと伸びる!
当然、得意の武器で迎撃をするホムンクルス。
だだだだだだだだだだ、がうん、がうん、どぎゅんっ!!
けたたましい音が鳴り響き、ダンジョンの貴重な建物に穴が開く!!
だけれど、触手はぐいんと弧を描くように動いて、それを回避するのだ。
そして、燃え吉の触手は対象をぐるぐる巻きにしてしまうのだった。
「なぁあああああっ!? ど、どうして僕がぁああ!? 何をしてくれてるんだぁあっ!?」
触手に捕獲されたのは、ユリウスだった。
安全圏にいて指示を出していればいいと高をくくっていたのだろう。
彼はいとも簡単に捕まってしまい、ふらふらと空中を舞う。
なるほど、敵の親玉にストレートに行く作戦なんだろうか。
「ひゃはは! 良い眺めだぜっ! 本当の野獣は弱い奴を狙うもんなんだよっ! ユリウスも見てくれだけはいいからなぁ、触手がお似合いだぜっ! はぁはぁ、燃え吉、もっと締め付けろ!」
ドレスは勝ち誇ったかのようなセリフ。
燃え吉は指示に従って、ぐりぐりと相手を締め上げる。
えげつないし、悪役とその手下そのものの戦い方だ。
本当の野獣には触手なんてないと思うけどなぁ。
でもまぁ、押してるようだからいいかな。
さっさと降参して欲しいし、この混沌から私を解放して欲しい。
「マスター、今、救出しますデス」
彼のホムンクルスが助けに向かう。
しかし、それも想定の範囲内だ。
「させるかでやんすよぉ!」
燃え吉はさらに触手を増産。
行く手を遮られて、ホムンクルスはなかなか有効な策を打つことができない。
さすがに主人を巻き込んでまで攻撃することはできないのだろう。
「くそぉっ! こんなシナリオ、僕は求めてないぞっ!! 僕のドレス、いや、ピピがひどい目に逢うのが目的だったのにぃいい!」
触手にからめとられたユリウスは顔を真っ赤にして怒る。
しかし、怒っているポイントは私の想像の左上だった。
この際、ユリウスも痛い目をみたほうがいいのかもしれない。邪悪だし。
がぎゃぎぃん!!
ここで予想外のことが起こる。
あのユリウスが触手から自力で解放されたのだ。
「ユリウス、その腕は……」
驚いたような声をあげる、ドレス。
それもそのはず、ユリウスの片手は刃物のようになっていた。
まるで手首にすぽっとナイフを差したような状態だ。
「事故で腕を失ってから、僕は自分を改造したのさ。以前の僕と同じとは思わないことだ」
地面に降り立ったユリウスは不敵に笑う。
なるほど、ユリウスも戦闘の心得があるって言うことなんだろうか。
こうなったら、私も出ていかざるを得ないのかな?
いやだなぁ、触手側の人間だと思われたくない。
「ドレス、君の強さはよくわかったよ。でも、これ以上、君と茶番をやってるわけにはいかない。イリーナも倒さなければならないからね」
彼はそういうと、ポーチから何かを取り出す。
それは見覚えのある、あの宝石だった。
「め、女神の涙……、お前、まさかそれを」
そう、ダンジョンに入るときに、メテオが参加者に配っていた女神の涙だった。
エリクサーの村のあたりで採取される、特別な宝石であり、素材なのだという。
ドレスの顔色が一気に悪くなる。
何が起こるかわからないけど、燃え吉にとってプラスじゃないことは明らかだ。
「そのまさかだよ。ピピ、変身の時間だよっ!」
ドレスが「ヤメロぉおおお!」と叫ぶにも関わらず、ユリウスはホムンクルスの胸元にその宝石をぐいっと押し込む。
すると、ものの見事に女神の涙はホムンクルスの内側に入っていった。
しゅごぉおおおおおおおおおおお……。
次の瞬間、変な音とともに白い煙がホムンクルスから吹き出す!
さらに、それは金色に輝き始めるではないか!
うわっ、すごい、何かが起こる予感!
これで悪の手先である燃え吉を圧倒できるのかもしれない!?
私は少しだけワクワクするのを感じる。
しかし、その結末はあっけなかった。
「ヒャッハー、戦闘中にぼんやり突っ立ってるとは愚かでやんす!」
燃え吉は相手が動き出す前に、一気に攻撃を畳みかけたのだ。
触手を使って金色に光り輝くホムンクルスを確保。
さらにはぶんぶんと振り回す。
これから何が起こるのかちょっと期待していたのに、なんてやつだ。
しかし、これがビーストモードなんていうものなんだろうか。
つまり、相手の見せ場とか理解せず、ただただ自分の思いのままに攻撃を加えるという。
「ピピぃいいいい!? な、なんて奴だ! それでも人間か! うぅう、僕のドレス、いやピピが触手にやられて、はぁはぁ、これだよ、これ! 僕はこれを求めてたんだ……」
当然、ユリウスは激怒する。
だが、燃え吉の触手はホムンクルスをがっちりホールド。
ぎゅうぎゅうと締めあげて戦闘不能に追い込もうとしている。
ユリウスは困惑と歓喜の両方の表情を浮かべて、オロオロしている。
いや、どう見ても喜んでるよね?
ええい、さっさと助けなよ。
もう面倒くさいから、私が喧嘩両成敗でどっちも爆破しましょうか?
いいよね?
「こぉらぁああっ! 燃え吉、人形は攻撃するなって言ってるだろ! これじゃ、あっしがやられてるみたいじゃないか!」
ドレスの叫びもまたダンジョンにこだまする。
そりゃそうだ、目の前で自分そっくりの人形が触手に締め上げられているのだ。
あられもない姿で。
だったら、ビーストモードなんてものを発動させなきゃよかったのに。
「あともうちょっとなんでやんすぅううう!」
しかし、燃え吉はドレスの指示を拒否する。
奴は何かを狙っているらしく、頭頂部から出てきた触手を人形の胸の中央に突き刺す。
ぬ……ずぽっ……
数秒後、相変わらずの気持ち悪い音がした。
それは燃え吉が相手の動力源を奪った時の、あの音だった。
「やったぁ、女神の涙を奪ってや…………ぐぎぎぎぎっぎぎ!?」
次の瞬間だった。
燃え吉が奇声を発しながら、巨大化し始めたのだ。
赤々と燃える、溶岩の体。
あたりには蒸気がしゅーしゅーと立ち込める。
肌がビリビリと焼け付く感覚。
気づいた時には、私が初めて燃え吉と相対した時のあの姿になっていた。
そう、溶岩の巨人である。
燃え吉がいちばん調子に乗っていた、あの姿である。
「くかかかか! ひっさしぶりの復活! 蹂躙してやるぞぉ、人間どもぉ!」
燃え吉は「うごがぁあああ」などと雄叫びをあげる。
ドレスが静止するように叫ぶも、聞こえていないようだ。
どうも女神の涙を取り入れた副作用で正気を失っているらしい。
「ちぃっ、女神の涙で暴走しやがったか……」
ドレスはぽつりとつぶやく。
彼女が「止めろ」と叫んだ理由は、これだったのだ。
「やめろっ! 僕のピピに何をするんだっ!」
響き渡るは、ユリウスの絶叫。
彼はさきほどの腕ナイフで応戦するつもりらしい。
しかし、暴走モードの燃え吉は普通の武器じゃ難しい。
しょうがない、私が行くしかないか。
◇ ドワーフ王国の王都にて
「ハマス様、準備は整いました!」
ここはドワーフ王国の王都。
ルドルフの側近、ハマスは郊外に向かっていた。
その途中、彼女はドワーフ王国の階級章を投げ捨てる。
「ふふふ、ドワーフどもの機嫌伺いも今日で終わりというわけだ」
彼女はルドルフの側近として、数々の功績を重ねてきた。
しかし、そんなことはもうどうでもよかった。
彼女はこれから、ドワーフの国、全てを侵略し、資源を奪い取るのだから。
「いよいよだ! お前たち、用意はできてるな!」
彼女は近くの森に隠ぺい魔法で隠れていた部隊と合流する。
その部隊は人間だけではなく、多数のモンスターも加わった、人獣混成部隊だった。
「城に残るはドワーフのしょぼくれじじいとその親衛隊のみ! ドワーフどもの城壁の穴は分かっている。一気に攻め落とすぞっ!!」
ハマスは聖王国の軍服に着替え、進軍を号令する。
その配下とモンスターたちは雄叫び声をあげるのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「ユリウスもドレスも同じ穴のムジナなのでは……?」
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