216.魔女様、「本物」に出会ってしまい冷や汗がとまらない。久々の強敵を前にドレスと燃え吉は禁忌のモードを発動させる
「どういう了見だ、てぇめぇえぇええ!!」
ダンジョンの中をドレスの叫びがこだまする。
怒りと絶望の入り混じった声である。
それもそのはず、目の前のユリウスという少年は言ったのだ。
彼の傍らにいるドレスそっくりの人造人間に、ドレスの服を着せていると。
ふりふりのいかにも戦闘には向かない服装だ。
下着とかどうなってるんだろう……?
いや、それは考えちゃいけないことだ。
それにしても、このユリウスって子、いったい何のためにこんなことをしてるんだろう?
……頭の中が混乱でおかしくなりそうだ。
もしも、私たちをかく乱しようとしているのなら、大したものだと思う。
「ふふふ、驚いたかい? 僕のホムンクルス、いや、戦闘人形、ピピテンクルストちゃんがついに完成したんだよ! どうだい、僕のピピは美しいだろう?」
ユリウスはピピなんとかという長い名前をホムンクルスにつけているらしい。
ホムンクルスの方がまだ覚えやすいぐらいだ。
彼自身も略称でピピって呼んでるし。
「うるせぇよ、この変態! そんなもん作ってどうするつもりだ!? まだ諦めてなかったのかよ!」
「諦めるわけないじゃないか。僕の家族は全部、聖王国に殺されたんだ。この恨みが消えるはずがないじゃないか! 君だって、家族を亡くしているだろうに」
ホムンクルスの服装はさておき、ドレスとユリウスは真剣な顔で言葉をぶつける。
ユリウスも聖王国という国で家族を失っているらしい。
二人の間に重い空気が流れる。
「……あっしも恨みがないわけじゃないさ。だけど、戦争なんか起こすわけにはいかない。もっともっとたくさんの人が死ぬだけだ」
「甘いよ、ドレス。レオパルも、ルドルフも、どっちも買収されていただろう? 聖王国は油断しているうちに侵略してくるんだ。あいつらは魔物と変わらないんだよ!」
ユリウスはそう言うと、少しだけ怖い目つきになる。
その視線の先には横たわるレオパルさん。
彼はいまだに聖王国とつながっていたレオパルさんを許せないらしい。
「だからって、あっしの顔をした兵器で攻め込むバカがいるか! てめぇは昔からずっとそういうのばっかり作りやがって! 研究室でもぶつくさ言ってるし、あっしの服を着せてニマニマしてるし、嫌だったんだよ、あっしは!」
ドレスの魂の叫び。
確かに自分の顔をしたやつが戦うのとか嫌だよね。
でも、私だってそれに似たことを燃え吉でされているような気がするんだけどなぁ。
今回の燃え吉はちょっと小太りだからいいものの。
前の巨大なやつとか最悪だった。口から火を噴くし。
「美的価値観は人それぞれさ。ドレス、君の姿は僕の理想なんだ。子供のころの服もかわいかったし、姿だけなら世界一かわいい。だけど、その言葉遣いや立ち居振る舞いはいただけない。だから、僕は作ったんだよ、世界一、美しくて強い戦闘人形を!」
ばぁんっと大見えを切る、ユリウス。
結構恥ずかしいことを言っている気もするけど、確かに価値観は人それぞれ。
「ば、ば、ばか、てめぇ、今になって何を言い出すんだよ!? 世界一とか……」
一方のドレスは『僕の理想』なんて褒められたからか、猛烈に照れてる。
そういうのも含めてかわいいぞ、ドレス。
しかし、ユリウスはドレスの乙女心なんてつゆ知らずらしい。
「ふふふ、ピピは何でもできるし、許してくれるんだ。お着替えだって僕がめんどうみているんだよ! 僕のお着替えも手伝ってもらってるんだ。君みたいなぶっきらぼうなのとは全然違うんだよ」
「てんめぇええええ!!?」
ユリウスは自分から進んで、危ない側面をあらわにし始める。
私の背中に冷や汗が流れる。
悲しい復讐の話をしていたはずなのに、なんでこんなことに。
しかし、これではっきりした。
ドレスが研究を辞めたがっていた理由が。
彼女は怖かったのだ、ユリウス(変態)が。
ユリウスのホムンクルスにとりつかれたような態度、そのすべてが異質すぎる。
確かに一緒にいたくないし、なんなら爆発させちゃった方がいい。
「う、うるせぇ! もう二度とあっしの前に現れるんじゃないよ! この変態が! ガラクタを持って、さっさと国に帰れ! ばぁか、ばぁか!」
ドレスは捨て台詞にも似た言葉を吐いて、その場を立ち去ろうとする。
言葉づかいがちょっと幼稚ではあるけど、相手の精神状態はちょっと理解しがたい。
衝突を避けて、さっさとお暇した方がいいだろう。
「ふふふ、ガラクタと言えば、君の後ろにいる、その小太りの人形のほうがよっぽどじゃないか? 背中から触手を出すなんて化け物みたいだ、センス悪すぎるよ、前時代的だ」
ユリウスは燃え吉を指さすと、言いたい放題言ってくれる。
確かにもっと言って欲しいぐらいだ。
化け物みたいっていうか、化け物そのものなんだけどね。
「そんなものしか作れないなんてがっかりだよ。君のドールは君の住んでる村同様に古臭い」
だけど、あんにゃろう、どさくさに紛れて私の村の悪口を言うではないか。
田舎だとか僻地だとかは許せるけど、古臭いはないでしょうよ。
少しだけイライラし始める私であるが、そんなことで暴力に訴える私でもない。
ただ今すぐにでも熱円ぐらいは撃てる準備をするだけだ。
あくまでも準備だよ?
偶然、ちょっとそのホムンクルスが消し飛ぶかもしれないけど。
「……えぇえ? あっしのことっすか?」
一方、古臭いと呼ばれた燃え吉はすっとぼけた声を出す。
見てみると、おやつ代わりに魔石をぼりぼり食べていた。
ドレスとユリウスの会話が退屈だったんだろうけど、今、食べるなそんなもの。
「こいつはなぁ、あっしと工房のみんなでつくった大傑作なんだよ。てめぇの見てくれだけのホムンクルスと一緒にするんじゃねぇよ! なにが戦闘人形だ、顔しか取り柄がねぇじゃねぇか!」
ドレスは残念なことに相手の言葉でヒートアップする。
そう言えば彼女、自分の作ったものを頭ごなしに否定されるのが好きじゃないのだ。
それにしても、ドレス自身、ホムンクルスの顔は褒めている。
この件については後で問い詰めなければならない。
「ふふふ、それならどっちが強いか勝負しようじゃないか。ピピ、あの不細工な奴をやっつけろ」
ドレスの啖呵を待っていたかのようにユリウスは笑う。
その笑みはいかにも自信満々といったものだった。
「はいデス、マスター」
ユリウスのホムンクルスはドレスによく似た声で、しかし、ちょっと無感情な声でそう言う。
彼女は燃え吉の入っている体と違って、ちゃんとまばたきはするし、喋るときは口が自然に動く。
すごい技術だ、ドレスたちにも見習ってほしい。
「標的を排除しますデス」
彼女は燃え吉に向かって片手を広げる。
次の瞬間!
ぼぉおおおおおっと、盛大な炎が燃え吉を包むのだった。
それは詠唱が必要な魔法とは全く違う攻撃方法だった。
私たちは油断もあって動くことさえできない。
「悪いけど、不細工な人形は大嫌いなんだよ。あはは、僕のピピが一番さ!」
ユリウスは悪役の人みたいに高笑いをする。
確かにホムンクルスの攻撃はまさに爆炎とも言える火力だ。
普通のモンスターなら即火だるまだろう。
「なぁにくそぉっ!! あっしに炎など効かぬでやんす!」
しかし、燃え吉は違った。
奴はそもそも炎の末裔なのだ。
炎に巻かれた程度でやられたりなんかしない。
私とじゃれた時は熱で燃やされたけどね。
「やるじゃないか、ドレス! ピピ、魔力弾に切り替えて攻撃続行!」
「魔力連弾にて撃滅しますデス」
ユリウスはひるむ様子もなく、次の攻撃へとシフトさせる。
彼の指示を受けたホムンクルスは、片手から「タタタタタ」と沢山の弾を飛ばす。
そう、私がドワーフの国で腕試しされた時の、あの武器だ。
「そんなん効くかでやんす!」
ぎぃん、ぎぃんっと、耳障りな音が響く。
よぉく見てみると、燃え吉の足元に大量の金属の弾が転がっている。
燃え吉の体はめっぽう固いらしくて、魔力弾とやらも効かないらしい。
「それならっ、貫通魔力砲! 撃てっ! 穴だらけにしてしまえっ!」
「了解。殲滅開始しますデス」
ユリウスがさらに指示を出すと、ホムンクルスは片手を手首から外す。
そして、そこから魔力弾を燃え吉に直撃させる。
それも私の顔ぐらいある大きなエネルギーの弾だ。
ひ、ひぇええ、強い。
あんなのがダンジョンで暴れたら、どんどん壊されちゃうじゃん。
「くかかか! そんなもの効かないぞ、ニンゲン!」
それでも燃え吉はひるまない。
奴は魔力弾を喰らっても、未だに平気なようだ。
ドレスとその仲間たちの作り上げた体は、相当の打撃でも耐えられるらしい。
ただ、相手を挑発するためなのか頭をぐるぐる回すのはやめろ。
しかし、私は異変に気づくのだ。
燃え吉がちょっと痩せていることに。
「……ドレス、燃え吉、少し細くなってない? さっきまで小太りだったよね?」
「あぁ、燃え吉の体はダメージを負うと自動回復するんだ。だけど、そのたびに体は小さくなる」
つまり、燃え吉に効いていないというわけではないらしい。
あくまで、そう見えるというだけで。
「燃え吉、しょうがねぇ、やっちまいな! ビーストモードに切り替えろ!」
このままやられっぱなしでいるわけにはいかないと、ドレスは燃え吉に指示をだす。
向こうから手を出してきたのであるし、大事な戦力を破壊されるわけにもいかない。
「くかかか! お許しが出たでやんす!」
ビーストモードとやらの指示が出た燃え吉は嬉しそうに笑う。
そして、奴の片腕が真っ黒な触手へと変化する。
しかも、一本程度の触手ではない、10本以上に枝分かれして、うねうねとうごめくのだ。
嫌な予感がする。
とても嫌な予感が。
今、変態と化け物が本気でぶつかろうとしていた。
「面白かった!」
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「変態に変態と言うなんて、火に油を注ぐようなものだぜ……?」
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