215.魔女様、ユリウスたちと鉢合わせする。新たなヤバいやつの襲来にドレスの絶叫がこだまする
「ここらへんがあっしが通ってきたあたりでやんすねぇ」
燃え吉が通ってきた場所というのは、ただの普通の洞窟だった。
よくある一般的な暗くてジメジメした、あの洞窟だった。
絶対ヤダ、こんなところ。
通りたくないぃいいいい!
「ほらほら、ワガママ言ってないで、温泉があるかもしれないぜ?」
ドレスは渋る私の背中をぐいぐい押してくる。
ええい、しょうがないか、やるっきゃないのか。
嫌なの出てきたら、ドレスにやっつけさせよう。
もしくは全てを爆発させよう。そうしよう。ひひひ。
私は半狂乱ぎみに決意を新たにして薄暗い洞窟の中を進むのだった。
頬をくすぐる生温い空気。
足元はちょっと湿っていて、ぬるぬるする。
ぞわぞわっと嫌な予感しかしないのである。
「なに、ここ? すごい……」
ドレスにしがみついて進んでいくと、なんとか別の空間に到着。
洞窟の先には遺跡が立ち並ぶ空間があったのだ。
それは圧巻な風景だった。
比較的高い建物が並んでおり、明らかに人間の文化の痕跡があるのだ。
しかも、普通の建物じゃない。
レンガでも、木でもない、特殊な素材でできていて、とにかく四角い建物が並んでいた。
人間が住んでいる痕跡はないようだし、とっくの昔に滅んだ感じだ。
こういう建物、どっかで見た気がするんだけどなぁ……。
「ひゃっほぉおお! こりゃあ、すげぇや! 見たことないぜ、こんなのぉ! 興奮してきたぜっ!」
ドレスは物珍しそうに辺りを散策しはじめる。
ふぅむ、未知の素材が本当に好きなんだなぁ。
「待ってくれでやんすよぉおおお」
そして、その後ろを燃え吉がついていく。
あの子、魔物の魔石を取り込み過ぎたらしく、やたらと膨らんでしまった。
顔も丸いし、お腹も突き出ているし、歩き方もとすとすしているし。
それはそれでかわいいのだけど、動きにくそうだ。
私はというと、未知の建物を「ほぇええ」などと言いながら眺めるのだった。
どぐっぁあああん!!!
その時だった、街の一角で爆発音が響いた。
それはまるで私が熱爆破を引き起こした時のような爆音だった。
「ドレス、今の!?」
「あぁ、行ってみよう!」
爆発音の原因がモンスターなのか、あるいは他の参加者なのかは分からない。
しかし、何だか嫌な予感がする。
それに貴重なダンジョンを壊されちゃ困るって、ララとメテオに釘を刺されているのだ。
場合によっては注意しなければならない。
「ひぃいいいいい!? ユリウス、話を聞け! 俺は悪くないんだ! すべては兄、ルドルフに仕組まれてやったことだ!」
建物の陰から向こうを覗き見ると、そこには二人の人物がいた。
一人はレオパルとかいう王位継承者の一人だった。
彼はしりもちをついた姿勢で、必死な表情。
その言葉は命乞いそのものだった。
「君の話を聞くつもりはないよ? 聖王国と結んだ裏切り者なんかと」
そして、もう一人の人物は小柄なドワーフだった。
名前はユリウスさん。
そう、ドレスの話にも出てきた、あの人物がそこにいたのだ。
彼は口調こそ穏やかだけど、明らかに怒っている様子だった。
「そ、そうだ、お前の配下になってやろう! お前が王でいい。俺が副王になって、お前を盛り立ててやろう! なぁ、俺たちが組めば世界最強だ、聖王国とだって戦えばいい」
レオパルさんは私たちがさきほど遭遇したルドルフさんの弟らしい。
なるほど、顔もそっくりだけど、言葉もそっくりだ。
彼はどこかで聞いた言葉を異口同音に吐き出していた。
「ふん、君たちを信じられるとも? この男を消し炭に変えろ」
しかし、ユリウスさんは冷徹な瞳で、レオパルを見つめる。
彼は傍らにいた、全身を布でぐるぐる巻きにした人物に攻撃を命じる。
「はい、マスター」
その正体不明の人物の手のひらが青く光り始める。
おそらくは攻撃魔法か何かなのだろう。
「ひっ、ひぃ……」
レオパルさんの言葉にならない叫びが響く。
彼らまでの距離は10メートルもない。
私が足裏に熱をこめてジャンプすればレオパルさんを助けることができる距離だ。
私の目の前で人殺しをさせるわけにはいかないし、ユリウスさんは頭に血が上っているだけかもしれない。
私はレオパルさんを助けるために、飛ぶことにした。
「燃え吉、助けてやれっ!」
「はいでやんす!」
しかし、私よりも早く行動したのがドレスと燃え吉だった。
どぎゅんっ!!
燃え吉は背中から真っ黒い触手を出すと、それを使ってレオパルさんを確保する。
触手は器用にレオパルさんを抱きかかえ、こちら側にしゅしゅうっと持ってくる。
まるで化け物そのもの。
命を助けることはいいことだけど、その助け方でいいのだろうか。
「ひぃいいい、ば、化け物ぉおお!?」
当然、触手に絡められたレオパルさんは空中で悲鳴をあげる。
おそらくモンスターに襲われた程度にしか思ってないのだろう。
そりゃあ、突然黒い腕に掴まれたら誰でもそう思うよね。
「くかかか! 作戦成功でやんす!」
背中からうねうねと触手を出し、頭部をぐるぐる回転させて笑う、小太りの燃え吉。
まさに悪夢。
「ひ……」
彼はそのまま白目をむいて、失神してしまうのだった。あわわ。
これじゃ助けたんだか、襲ったんだか分からないよ!?
『レオパルチーム、失格』
その直後、相変わらずのアナウンスが行われ、彼はピンク色のドームに包まれる。
命に別状はないと思うけど、凄まじい恐怖を与えてしまった。
ルドルフさんとレオパルさんのご兄弟には悪いことしたなぁと反省する。
「ドレスじゃないか……、久しぶりだね」
こんなことをやっていれば気づかれるのは当然の話だ。
ユリウスさんはこっちを向き直って、言葉をかけてきた。
その表情は意外なことに爽やかな笑顔だった。
殺そうとした相手を奪われたのだから、怒っているのかと思ったけど。
「会いたかったよ、ドレス」
その顔はドレスに似ていて、目がくりっとしていて美少年だった。
一言で言えば、かわいい。
まぁ、ドワーフの人たちは私たちみたいな人間族とは年の取り方が違う。
もしかしたら、ずっと年上かもしれないけど。
「……あっしは会いたくはなかったけどな。お前とやりあうつもりはないよ」
ドレスは久しぶりの再会を祝うことはしないようだ。
彼女はぷいっと背を向けて、その場から去ろうとする。
過去の話を知っているので、因縁のある相手だというのは知っている。
私としても、どう対応していいかわからないし、さっさといなくなるのがいいだろう。
「そう? 僕は会いたかったよ。待ってよ、君に見せたいものがあるんだ。君と僕がずっと作ってきたものさ」
しかし、ユリウスさんは喋ることをやめない。
「見せたいものって、まさか、ホムンクルスのことか!?」
ドレスの言葉が震える。
ホムンクルスは絶大な攻撃力を持ち、どんな攻撃も効かない人型兵器だと言っていた。
それが量産された暁には、この大陸の勢力図が大きく変わると。
それをユリウスさんが一人で作り上げたっていうのだろうか?
私はつばをごくりと飲み込む。
そんなのに襲われたら、こっちの燃え吉も危ないかもしれない。
「ま、まさか……!? お、お前なのか、あっしの部屋を荒らしたのは!?」
ドレスは何かに気づいたらしく、ユリウスさんに向き直る。
彼女の額から汗がこぼれ落ちていく。
その表情には余裕がなく、明らかに焦っている様子。
今さら思い出したけど、確かにドレスの実家に帰った時、彼女の部屋はめちゃくちゃに荒らされていた。
盗賊の仕業かと思っていたけど、まさか彼が犯人だったんだろうか。
かわいい顔をしてるくせに、なかなかの悪党だったとか?
「いくら待っていても君が帰ってこないんで、仕方なくね」
「……じじいを気絶させたのも、お前か?」
ドレスの顔が険しくなる。
それもそのはず、国王陛下はドレスにとって、家族といえるほど大事な存在なのだ。
「あぁ、国王陛下と鉢合わせしたんでね、ちょっとお眠り頂いたよ。まぁ、どうでもいいだろ、こんな話。さぁ、見てくれよ、僕の、いや、僕らの最高傑作を!」
ユリウスさんはにやっと笑って、その隣の人物の体を覆っていた布を引っ張る。
そして、そこに現れたのは、ドレス……そっくりの何かだった。
「ふふふ、いいだろう? 君の服がぴったりで驚いたよ」
服がやたらとかわいい、フリフリのものを着ていたけど。
花柄とかそういう次元じゃなくて、それはまるでお人形さんみたいな服を。
「や、や、やぁあああめぇえええろぉおおおお!!!??」
ドレスの絶叫が遺跡の街にこだまするのだった。
それはたぶん、彼女に会って以来、一番の大絶叫だった。
木の化け物に襲われている時も、そんな悲鳴をあげなかったはず。
私の背筋に汗がたらりと流れていった。
◇
「ハマス様、レオパル、ルドルフともに破れました!」
ここはドワーフ王国の王都。
報告を聞いたルドルフの側近の女は、にやりと笑う。
それはまるで全てが彼女の筋書き通りであるかのように。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「ドレスそっくりの人造人間……!?」
「変態の予感がしてくるぜ……」
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