213.魔女様、燃え吉が予想外なところを開くので鳥肌が止まらない。ルドルフさん、本当にごめんなさい
「ほざけぇえええええっ!」
牛男とトカゲとイノシシに変身した三人組は一歩前に出た燃え吉に突進する。
その勢いはモンスターそのもの。
普通の人なら、体当たりだけで木っ端微塵になってしまうだろう。
「燃え吉、魔石吸収モードだっ!」
「りょーかいでやんすぅ!」
しかし、ドレスも燃え吉もひるまない。
ドレスがなにごとかを叫ぶと、燃え吉はあろうことか、三人組に背中を向ける。
「えぇええ、何やってんのよ、あいつ!?」
啖呵を切っといて、いきなり逃げる準備だろうか?
私は不安げにドレスに詰め寄るものの、「大丈夫だって」とドレスは自信ありげに含み笑い。
不安ではあるが、自信満々なドレスの手前、燃え吉の戦いを見届けるしかない。
まぁ、いざとなったら私が爆発させるしかないけど。
「今さら臆したか! しねぇええええ!」
牛男の凶暴な角がぎらりと光る。
鼻からはふしゅるるぅと荒い息が荒く漏れており、角に突き刺さったら致命傷になるのは必然だ。
大丈夫なの!?
「ふふん、甘いでやんすよっ!」
燃え吉は敵に背中を向けたまんまでくるっと頭を回転させる。
ダンジョンに潜るときに見せてくれた、あの不気味な動きだ。
普通の人がやったら、たぶん、死ぬ。
「燃え吉、オープン!」
それだけでも驚きなのに、あいつは開いたのだ。
ドレスの号令とともに。
どこをって?
背中を。
背中をぉおおおお!?
あいつの背中はぱっくりと開いて、そこから真っ黒い腕が三本出現。
それはうねうねと空中を泳ぎ始める。
「はぁああああ!?」
そのあまりにも気色悪い様子に私は、声にならない声をあげる。
いや、呼吸が止まるかと思ったよ、正直。
「ひ、ひ、ひぃいいいいい!?」
「ば、ば、化け物ぉおおおお!?」
「背中が開いたぁああああ!?」
当然、人間じゃありえない動きをする燃え吉に三人組は大絶叫。
あまりの恐怖と驚きにしりもちをつく。
あの人たちだってモンスターの力を借りているくせに、化け物なんて言えた身分だろうか。
いや、気持ちはわかるよ。
化け物度合いとしては燃え吉のほうがはるかに上だよ。
いきなり目の前の人間が首ぐるんに、背中ぱかり、触手うねうねだもん。
この三人組は体はモンスターっぽいけど、心は普通の人間みたいだし。
「くかかか! 驚いたかでやんす!」
久しぶりの痛い笑い方をする燃え吉。
背中の中が赤く光ってるのが、さらに怖い。
なにあれ?
見たくないのに見ちゃうのはなんでなのよ!?
「燃え吉、やつらの魔石は背中にあるぜっ!」
「くかかか! 魔石は頂くでやんす!」
燃え吉は相手の背中にどすっと触手を突き刺す。
そこはちょうどぽっこりと膨らんでいて、何かがいかにも埋まってそうな場所だった。
ちゅいいいいいいん、……ずずっ、……きゅうっっぽんっ。
これは燃え吉の触手が魔石を吸い込む音である。
飲むな、そんなもの。
当然、私の背中には嫌な汗が流れ、鳥肌が浮かぶのを感じる。
そして、残ったのはその場に倒れこむ三人組の姿だった。
気絶しているのか、ぴくりとも動かない。
ルドルフさん、本当にごめんなさい。
こんな化け物と戦わせちゃって……。
思わず敵に同情してしまう私なのであった。
「おいしいでやんすねぇ!」
満面の笑みの燃え吉である。
相手がひるんでいるすきの攻撃とはいえ、1対3で勝つなんてすごすぎる。
っていうか、美味しいとか気持ち悪すぎる。
私の見えないところでやってほしい。
「ふふふ、頭を割ると魔女様に怒られるから、背中を割るなんて、さすがはドレスさんでやんす! 冴えわたってるでやんすね!」
「背中ならセーフだもんな、いやぁ、お前の戦いぶりもよかったぜ! しびれたぜ!」
お互いの健闘を称えあうように笑う二人。
なるほど、二人の価値観なら、今の戦い方はセーフらしい。
いや、ぜんぜん、セーフじゃないよ!
私は体のどこも割るなって言ってんのよ!
「ひぃいいいいい!? なんなんだ、お前らは化け物かぁあああ!?」
一人だけ戦いに参加せずに座り込んでいた荷物持ちの人が今さら叫び声をあげる。
今の一部始終を見ちゃったら、化け物扱いする気持ちはよくわかる。
化け物は燃え吉だし、それを扱うドレスもその類だとこの際言っていいだろう。
しかし、正真正銘の真人間である私まで化け物扱いされるなんて心外だよ。
「貴様らには人間としてのプライドはないのか!」
荷物持ちの人はわぁわぁと私たちを責め立てる。
いい加減、うるさい。
「ちょっと黙ってて」
「ぴぎぃ」
悔しいので、荷物持ちの人をさっくり熱で失神させる。
今までのは悪い夢だとおもって忘れてください。
「く、くそぉっ、ドレスめ! 貴様、許さんぞぉおおおお! 私の遠大な計画をぉおおおお!」
しかし、今度はもっと面倒くさいのが目を覚ます。
さきほどの牛男に変身していたルドルフさんが必死の形相なのだ。
彼はふらふらと立ち上がり、苦々しい顔でドレスをにらみつける。
「聖王国と手を組んで、戦争だなんだバカな計画を妄想するんじゃねぇよ。寝言は寝て言えってんだ」
ドレスは冷たい表情になって、ルドルフさんを一喝。
その瞳にはいつもの熱気は一切皆無。
完全に軽蔑しているっていう感じだった。
「何を言うか! 貴様こそが、我が国の魔石活用を発展させた張本人だろうが! なにを今さら平和主義をきどっている……! 裏切者はお前だっ! お前が国をでなければ……」
ドレスに軽蔑の瞳を向けられても、ルドルフさんはなおも食い下がる。
彼はドレスの過去について責め立てる。
おそらくは私が聞いたことのない過去の話だろう。
「…………」
対するドレスは無言のまま、ルドルフさんをにらみつける。
「よし、ドレス、俺と手を組もう。お前が王で、俺が副王でいい。二人で我が国を最強にしようではないか! 欲しいものはすべて手に入れてやるぞ!」
彼は追い詰められた状況にも関わらず、こちらと交渉するつもりらしい。
それもかなり自分に都合のいい交渉を。
「うるせぇ、あっしはもう止めたんだよ! いい加減、黙りな」
しかし、ドレスは聞く耳を持たないらしく、それを一蹴。
彼女はルドルフさんにビンタを一発叩き込み、失神させてしまうのだった。
『ルドルフチーム、失格』
その直後、どこからともなくそんな声が響く。
次の瞬間には、地面に突っ伏す4人組は黄色い半球状の何かに包み込まれる。
「……終わりだ、じゃあな、ルドルフ」
ドレスが言うには半球状の何かは、小型の結界になっていて、モンスター除けになるとのこと。
ダンジョンを探査する時の安全装置みたいなものらしい。
いずれ救助がやってくるというから、放置していてもいいとのことだ。
◇
「よぉし、じゃあ、行こうぜ!」
一戦を終えた私たちはさらにダンジョンの中を進むのだった。
もちろん、私がドレスと燃え吉に体をできるだけ開かないように伝えたのは言うまでもない。
そして、私はもう一つ聞かなければならないことがあったのだ。
「ドレス、さっき、あのルドルフさんが話していたことって……」
そう、それはドレスの過去の話だ。
彼女がドワーフ王国にいたときに何があったのか、聞いておかなければならない気がしていたのだ。
おそらく、それを知らないままではこれ以上、他の参加者と競い合うことは難しいだろう。
「ユオ様には隠し事はできねぇな……」
ドレスは歩きながら、彼女の過去について話し始めるのだった。
どうして彼女が裏切り者なのか。
どうして、彼女が禁断の大地に来るに至ったのか、その理由も。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「どっちが正義の味方で、悪の手先か分からねぇな……」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークやいいねもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。






