212.魔女様、ダンジョンでの荷物持ちという超絶ホワイトな仕事に従事するも、ルドルフが襲ってきててんやわんや
「ドレスぅううう! 死んでもうらうぞっ!」
ダンジョンに潜って、三十分と少し。
私たちはさっそく戦闘に巻き込まれていた。
戦闘回避で行こうって言ってたのに、どうしてこうなるのよ!!?
——話は数十分前に遡る。
「へぇええ、ダンジョンって、ただの洞窟じゃないんだ」
出発の合図を受けて、ダンジョンの中に入るとそこには意外な風景が広がっていた。
なんと、石造りの壁があって、あんがい、清潔なのである。
壁には魔石灯みたいなのが光っていて、明かりがなくても十分に進むことができる。
ほら穴でじめじめしていて、陰鬱な空気が充満していると思っていたので、これにはびっくり。
「そういうのもあるけど、ここは生きているダンジョンみたいだなぁ」
「生きているダンジョン?」
ドレスが耳慣れないことを言う。
ダンジョンって場所でしょ?
生きてるなんてことがあるんだろうか。
「ダンジョン自体が魔力を持っていて、人をおびき寄せるのさ。まぁ、あっしも詳しいわけじゃないけど、ダンジョン自体に意志があるなんて言うやつもいるぐらいだぜ」
ドレスはうちの村に来る前まで冒険者をやっていて、いくつかのダンジョンに潜った経験もあるらしい。
彼女が言うには、生きているダンジョンは比較的珍しく、良質な素材がとれる可能性も高いという。
これには期待に胸が膨らむばかりだ。
「おぉっ、魔解水晶があるじゃないか! こっちにはマダラテングタケもあるぜっ!」
ドレスは時折、道端に座り込み、すごい勢いで素材を集める。
私は彼女がぽいぽいぽいぽいと渡すそれを、これまたぽいぽいっと空間袋にいれる。
いうなれば、私は荷物持ち係なのだ。
手ぶらで歩いているように見えるけど、働いてるんだよ。
うごがぁあああ!
とはいえ、ここはダンジョンである。
時折、モンスターが現れることもある。
そんな時には「消えるでやんす!」と燃え吉が頑張る。
口から破壊光線をだして、敵を燃やしてしまう様はまるで悪夢を見ているようだけど。
「ふぅむ、やっぱり頭をぱかっと開いて攻撃するやつをやりたいでやんすねぇ」
燃え吉は物騒なことを言うが、自重してもらおう。
今のままで十分に強いんだから。
「うわぁ、広いじゃん、ここ!」
ダンジョンの内側はとても面白い構造になっている。
石造りの壁のエリアを抜けると、比較的明るい平原のような場所に出る。
草木が生えていて、岩が転がり、上の方には光さえ見える。
どういう仕組みになっているんだろうか。
「おぉっ、鮮血シナモンの木じゃないか! これがあれば酒がうまくなるぞ! うぉ、ここには迷宮タンポポがある! げげっ、大王琥珀がなぜ落ちてるんだ!?」
ドレスは相変わらず素材採集に夢中で木の皮を剝いだり、草をむしったり、石をひっくり返したり好き放題だ。
子供が遊んでいるみたいにも見える。
まぁ、素材の価値は彼女が一番知っているわけで、私は荷物持ちに徹するのみである。
燃え吉がモンスターを片付けてくれるし、とても楽なお仕事です。
「ドレス、そこまでだ! 持っているお宝を全部、出してもらおうか!」
しかし、ここで思わぬ横やりが入る。
振り向くと、4人組のパーティの姿があった。
その中央にいる比較的体格のいい人物が、私たちに声をかけてきたらしい。
それも、ちょっと穏やかじゃないことを言っている。
「ちっ、ルドルフか……。あっしらは誰ともやりあうつもりはねぇぞ。あっちに行け」
ドレスはしっしと厄介者を追い払うような手ぶりをする。
ちょっとつっけんどんな態度すぎる。
あの人、プライドが高そうなのに、こういうことして大丈夫なんだろうか。
「き、きっさぁまあああ! 命ばかりは助けてやろうと慈悲をかけてやったのに」
ほぉら、やっぱり。
普通に怒ってるじゃん!
「ルドルフ様、あんなものどもと争うのは時間の無駄ですぞ! あやつらを見てください。まだ何の素材も回収していない様子です!」
ルドルフさんの部下の一人が、私たちの様子を見て、あざ笑うような態度をとる。
確かに、その人は自分の体と同じぐらい大きな荷物を背負っている。
おそらくはこれまでの道中だけで、たくさんのものを収集しているのだろう。
対する私たちの見かけはほとんど手ぶらなのである。
見くびられるのもしょうがない。
「ばぁか、こっちのユアさんは空間袋をもってるんだよ! てめぇらみたいに荷物担ぎなんかいらねぇんだわ! ばぁか、ざぁこ!」
しかし、ドレスは何を思ったか、相手を挑発してしまう。
そういえば彼女はちょっとケンカっぱやいところがあったのだ。
「ま、空間袋だとぉおおおおお!?」
「ルドルフ様、アーティファクトですよ!?」
「なるほど、どおりで手ぶらなのか!」
そして、やたらと驚いた声をあげるルドルフさんとその部下の皆さん。
どうやら空間袋の存在がそうとう驚きに値するものだったらしい。
「くはははは! 痛い目にあいたくなければ、空間袋を置いていけ!」
「アーティファクトは世界を統べるルドルフ様にこそ、ふさわしい!」
ルドルフさんは私たちに指をさして、とんでもないことを言い出す始末。
それもこれもドレスが不用意なことをいうからいけないんだからね。
「め、面目ねぇぜ……。すまん」
自分のミステイクに気づいたドレスは私に手を合わせて謝ってくる。
しかし、今さらもう遅いよね。
向こうはめちゃくちゃやる気だし、言い間違いって言っても信じてもらえなさそう。
「……燃え吉、殺すなよ。夢見が悪いからな」
「わかってるでやんすよ、おれっちの出番でやんすねぇ!」
ドレスが指示をだすと、燃え吉がざざっと一歩前に歩み出る。
聞いた話によると、燃え吉は2度も村に来たモンスターを追っ払ったらしい。
戦闘することに躊躇がないのだろうし、ここはお任せしよう。
私の場合、相手を気絶させるのはすっごく難しいんだよね。
「くははは! 1対4で勝負をするだと?」
「私も見くびられたものだな!」
燃え吉が前に出ると、ルドルフさんたちは大きな声で笑う。
確かに燃え吉はずんぐりしてて、あんまり強そうに見えない。
「先手必勝でやんす!」
相手が笑っているすきに、燃え吉は口から赤い色の光線を吐き出す。
ちゅどかぁあああああん!
その光線が触れた場所は、大きな音を立てて吹き飛ぶではないか。
まるで私の熱爆破みたいに。
「ふぐおわっ!?」
爆風に巻き込まれて、荷物持ちらしき人が吹っ飛ぶ。
「う、嘘だろぉおお!?」などとびっくりした様子なので、命に別状はないと思う。
しかし、戦闘不能なのか、立ち上がることができないようだ。
「くそぉっ、ドレスめ、なんと卑怯な! ええい、魔石兵装を解き放てっ!!」
「ははっ!」
燃え吉の並々ならぬ力に焦ったのか、ルドルフさんたちは突如なにかを叫び始める。
そうこうするうちに彼らの腕が光りはじめ、その光が彼らを覆ってしまう。
なんだかわらかないけれどかっこいい。
「ユアさん、燃え吉、一旦、離れろっ!」
ドレスが異変に気づいたらしく、私たちは少しだけ距離をおく。
燃え吉は「ええぇえ、隙だらけでやんすよ、今のうちにはったおすでやんす」等というが、こういう時に近づくのは危険なのかもしれない。
しゅどかぁっ!!
妙にかっこいい音ともに、そこに現れたのはヘンテコな鎧に包まれた3人組だった。
明らかに普通の鎧ではない。
一人は頭に2本の角が生えた牛男のようになり、一人は尻尾を持つトカゲのような姿になり、もう一人はイノシシのような姿に変化していた。
「くはははは、これぞ魔石兵装! お前らなど、木っ端微塵にしてくれる! 行けっ!」
どうやら彼らは道具か何かで変身したらしい。
彼の命令を受けた部下の二人、トカゲとイノシシは私たちの方に突撃してくる。
「うぉおおおおお! 陸ドラゴンのテールブレイク!!」
「殺人イノシシの体当たりぃいいいい!!」
彼らの攻撃はまるでモンスターそのものだった。
一人は尻尾を使って攻撃をしてきて、もう一人は猛烈な勢いで突撃してくる。
私たちは危なげなく攻撃を避けるけれど、その威力はなかなかのものらしい。
地面が揺れ、岩が崩れる。
「ぐはははは! これぞモンスターの力を手に入れる究極の戦闘兵装だ! 貴様らなど敵ではない!」
三人は勝ったとばかりに大きな声で笑う。
その部下の人たちもちょっと自慢げだ。
「ルドルフ、てめぇっ、この技術は!!? お前、国を裏切って聖王国の連中と手を組みやがったのか!!」
ドレスは何かに気づいたようで、大きな声をあげる。
彼女の顔はさっきまでの余裕のあるものとは異なっていた。
目つきが怖い。
「国を裏切ったとは聞こえが悪い。我々と聖王国は講和しているではないか。優れた技術を取り入れて、最強の力を手に入れて何が悪いのだっ!!」
ルドルフさんは単純な性格なのか、自分の手の内をここで喋ってくれる。
つまり、ドレスが数日前に話していた「裏切者」というは、彼のことだったらしい。
彼らは聖王国の力を借りて、このモンスターっぽくなる技術を開発したのだ。
ふぅむ、トカゲとか牛男になって何が楽しいのだろうか。
あんがい、柔らかいのに。
「ドレスよ、モンスターはなぜ生まれながらにして強いか知っているか! 奴らは魔石の力を最大限に利用できるからだ。それ故に訓練などせずとも力を発揮できる! この力があれば、我が国こそが最強の兵士を作ることができるのだ!」
ルドルフさんは大きな声で自分の技術を誇らしげに語る。
「ユアさん、燃え吉、まだ攻撃しないでくれ!」
私たちは手下の攻撃を避けながら、とりあえず彼の言い分を聞く。
おそらく、ドレスは相手から情報を聞きだしたいと思っているだろうし。
「これがあれば魔石を持っているモンスターの力を発揮できる! いずれは災厄クラスのモンスターさえも再現して見せるぞぉぉおおお!」
「辺境に潜む最強のモンスター、ハイミノタウロス、陸ドラゴン、そして、キラーボアの魔石を手にした我らに勝てるはずがないっ!」
ルドルフさんとその一味は話したいだけ話してくれる。
なるほど、なるほどである。
しかし、気になるのは彼らの魔石がどこから来たのかってことだ。
辺境って、ひょっとしてうちの領地のことじゃないの?
だってうちの領地の周りって、トカゲもイノシシも牛男もわんさかいるし。
その魔石がまわりまわって、あの人たちの手にわたり、おかしなことになっちゃったってこと!?
あっちゃあ、灯りとか平和利用するための魔石なんだけどなぁ。
少しだけ責任を感じてしまう私なのである。
「……燃え吉、話は聞いたか?」
「魔石で動いているんなら、楽勝でやんすよ。殺さずにいけるでやんす」
ドレスと燃え吉は小声で何かを話し合っている。
そして、言葉を交わし終わると、ドレスは言うのだった。
「ルドルフ、悪いが、リタイアしてもらうぜ」と。
か、かっこいい!!
荷物持ちの私は、岩の陰から、その戦いをひっそりと眺めるのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「何人たりとも変身シーンは攻撃してはいかんのだよ……」
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