211.魔女様、ポテンシャルをいかんなく発揮しちゃいます。しかし、ドレスは相変わらずマッド大工です
「おぉおおおおっ!こいつはすごい!」
「こんな僻地にこんな街が!」
素材戦の開催日が近づくと、その関係者たちはぞろぞろと村に到着し始める。
いや、もう私の村は街と呼んでもいい規模になっていた。
道は舗装されているし、街並みはレンガでできているし、道行く人々の身なりも大幅に改善した。
素材戦に参加するドワーフとその関係者の皆さんは全部で100人近く。
その団体を泊めるために大型の宿泊施設を温泉リゾートの横に用意した。
つまり、団体客は直で温泉に入れる設計になっている。
ふふふ、これってすごいよね?
もう私の屋敷と同じ仕様なんだよ?
いいなぁ、私もお客様になって泊まってみたいよ。
「ほんまに疲れたわぁ」
「まったくですよ」
完成した各施設を眺めながら、メテオやララはふぅっと息を吐く。
心なしかちょっと顔もやつれ気味だ。
団体客をさばくためには、大量の食事やベッド、そして、人員、その他もろもろを拡充しないといけない。
一か月の中でそれを達成したのだから、皆の頑張りは想像を絶するものだったと思う。
いやぁ、村人全員、最後は髪の毛が逆立ってたからね。
そして、お客様の反応は上記の通り。
活気のある街並みをさっそく散策し始めるグループもいるほど。
長旅の疲れをすっかり癒せてもらえたらいいなぁって思っている。
私はというと、素材戦に参加するドワーフの皆さんに挨拶をしたりと社交に忙しい。
もっとも、挨拶に来る人は素材戦の参加者本人ではない。
たいていの場合、彼ら・彼女らの部下の人が挨拶に来て、淡々と社交辞令をかわすのみだ。
まぁ、あちらは由緒正しい歴史を持った国の王族で、私は田舎の蛮族の代表にしか過ぎないっていう印象なんだろう。
ま、そんなことに目くじら立てる私じゃないよ。
だって、皇帝なんていう身分は悪い冗談みたいなものなんだから。
◇
「ご主人様、今日はこちらをお召しください」
そして、いよいよ、素材戦の当日なのである。
私は開会式の挨拶をして、それからすぐにダンジョンに潜るという手順になっている。
あくまでも主役はドワーフの国の人たちだし、私は出しゃばらないようにしなきゃ。
「ひえぇ、これを着るの? すごくない?」
しかし、開会式のためにララが出してくれた服がこれまたすごいのだ。
それは見たこともないような素材でできている、キラキラと輝くドレスだった。
そもそもの文化が違うって感じ。
袖が広がっていて、金色の糸で精緻な刺繡がしてある。
かわいいけど、どうしたのこれ。
「ご主人様の晴れ舞台のために古文書を参考にして、用意しておりました。今日は魔地天国温泉帝国の皇帝陛下としても、見せつけていただかなければ」
「いや、見せつけるって何よ。ちょっと待って、えぇえ……!?」
ララは話しながらてきぱきと衣服を私に着せていく。
彼女の早着替えはものすごい能力で、みるみるうちに様変わりしていく。
袖を通すと、自分でもびっくりするほど煌びやかになった。
うわ、すご、何ていうか、異国のお姫様っぽい。
「さぁ、これで終わりではありませんよ。髪を作って、お顔もしっかり作っていきましょう」
「ひぇえええ」
ララは私をとっておきのテクニックで様変わりさせるのだった。
うーむ、私が私じゃないみたいだ。
◇ 開会式の模様は別の視点でお楽しみください
「それではダンジョンを所有する魔地天国温泉帝国、皇帝陛下からのご挨拶です!」
禁断の大地のダンジョンの前には素材戦を見守るための天幕が張り巡らされ、さながら小さな村を形成していた。
そこには素材戦の参加者と関係者、および、彼らをサポートするためのスタッフが集結している。
一番最初に行われるのが、ホストであるユオからの挨拶だ。
ちなみに開会式の進行はメテオが担当している。
「ふんっ、どうせ田舎の蛮族だろう」
「洗練されていない田舎ものの挨拶など、素材戦の格を落とすだけだ」
ドワーフの王族たちはユオが挨拶すると聞いて、鼻で笑う。
彼らにとって文化の中心はやはり自国の王都であるという自負があるからだ。
王族として生まれ育てられてきたレオパルやルドルフやそのチームの面々は、冷笑するものさえいた。
「皇帝陛下、どうぞぉおおおお!」
メテオの絶叫にも近いアナウンスと共に壇上に現れたのは、異国情緒あふれるドレスに身を包んだユオの姿だった。
その装いは大陸のどの国のドレスとも異なっているが、デザインも色づかいも洗練されており、まるで神の使いのような様相だ。
ユオの瞳や黒い髪の毛とも合わさって、彼女の持つ美しさをしっかりと伝えていた。
彼女はララに言われた通り、しゃなりしゃなりと歩いてドワーフの王族たちに笑顔を送る。
そして、一同の礼を受け入れる。
「う、美しい……」
「お、おい、誰だ、田舎の蛮族などと言ったのは……」
まるで現実のものとは思えないほどに仕上がったユオの容姿に、息を飲む参加者の面々。
これほどの美女を見たことがない、とつぶやくものも現れた。
『ふくく、計画通りやでぇ……!!』
『最高です、ご主人様!!』
壇上で挨拶するユオを見て、悪い笑みを浮かべるのはララとメテオだ。
ユオの美しさを最大限に引き出したいララと、こちらの文化的素養を最大限にアピールしたいメテオのタッグによって、稀代の美少女が誕生したのであった。
その場にいた素材戦の参加者と関係者たちは声をあげることさえできない。
ただただ、ユオの姿に見惚れるのみだった。
「ま、魔女様、美しすぎるぜ……」
「人間じゃないみたいだ……」
それは普段からユオと接している村人たちであっても例外ではない。
彼らは胸をドキドキさせながら、開会式の挨拶を見守るのだった。
『くくくっ、これはあくまで前哨戦やでぇ』
『閉会式ではもっと、ご主人様の魅力を伝えさせていただきます』
メテオとララの二人はそれぞれの場所で作戦成功とほくそ笑む。
しかし、彼女たちの計画はまだ途中なのである。
閉会式ではもっと派手にお祝いしてあげようと決意するのだ。
「終わったよぉ! いやぁ、こんな服を着ちゃうと自分が自分じゃないみたいだねぇ」
ユオは挨拶を終えて、控室に戻ってくる。
美しい衣装に身を包むことができて大変満足した様子だ。
開会式では特別歓声が上がったわけでもないので、彼女は自分が観客の度肝を抜いたことに気づいていない。
彼女としては淡々と仕事を終えたという感覚なのだ。
しかし、これだけで用事は終わらない。
ついに素材戦が開幕するのだ。
ララは大急ぎでユオを騎士ユア・タリーへと変身させるのだった。
◇ ドレス、燃え吉を一線を越えてカスタムする
※視点がユオに戻ります
「でぇええええ!? なんなのこれ!?」
肩の凝る開会式を終えて、今度は再び肩の凝る騎士ユア・タリーに変身完了である。
男装は2回目ということもあって、多少は慣れた気がする。
しかし、私よりも遥かに変身しているやつがいるのだ。
「ふふふ、新型の燃え吉の精霊駆動魔石立像だよ!」
「せいれいくどう!?」
「精霊駆動魔石立像さ!」
耳慣れない言葉を発して、含み笑いをするドレスとドワーフ工房の皆さん。
魔石でできた燃え吉の動かす立像という意味らしい。
いや、私が聞きたいのは、そういうことじゃない。
どうして私の目の前に女の子の石像 (着色済み)がいるのかってことだ。
その姿は私よりもずんぐりしていて、頭が大きいデザイン。
愛嬌があって、かわいいと言えば、かわいい。
顔立ちがちょっと私に似ている気もするけど。
「ユオ様の妹分みたいなもんだな、うん」
「頑張ったぜ!」
うんうんと感慨深げにうなずくドワーフのみなさん。
まさかこれを連れて潜るっていうの!?
燃え吉を炎の姿のままつれていけないの?
そもそも、私の妹分ってなによそれ。
ミラク・ルーといい、私の妹は碌なのがいないのか。
「素材戦に参加できるのは王位継承者の騎士だけだし、一応、人間の体をしてないとなぁ」
ドレスは事も無げにいうが、色が塗ってあるとはいえ石像じゃバレてしまうのではないだろうか。
そもそも人間じゃないから、まばたきしないところとか不気味だし。
「布で覆っちまえば大丈夫だぜ。ふくく、今回は小型化したことで魔力効率もあがったし、動きだって人間ぽくなったんだぜ! 近接戦のためにカスタマイズしたし。燃え吉やってみな」
「おぉし、見ててくれでやんす!」
ドレスが指示を出すと、燃え吉はその場で踊り始める。
確かにその動きはなめらかで、石でできているとは思えない。
ときおり首を360度回転させるのはいただけないけど。
「すげぇぜ、燃え吉! よぉし、必殺技を見せてみろ!」
「おっしゃ!」
ドレスと燃え吉はさらに気をよくしたのか、必殺技とやらを見せてくれる。
燃え吉は気合を入れると、片方の腕を前に出す。
そして、「ぱふぁ」と変な声をあげる。
ファッ……
すると、わけのわからない音と共に、燃え吉の腕は細い触手のように変化。
そして、テーブルの上にあった果物をバツンと食べてしまうではないか。
触手にはギザギザの歯がついているし、まるで腕全体が怪物の口になったみたい。
私の顔をした石像にとんでもない細工をしてくれていた。
「美味しいでやんすねぇ! 腕でも食べれるんでやんす!」
燃え吉の腕がむしゃむしゃと音をたてる。
笑顔の燃え吉には悪いが、こ、怖い、怖すぎる……。
ひ、ひぇええええ……。
「よくやったぜ、燃え吉! 完全にものにしたな! ふふふ、ユオ様、驚くのはまだ早いぜ。実はこいつの頭がぴらっと分かれて、もっとでかい相手を捕食することもでき」
「すとぉおおっぷっ! いったん、やめて、ちょっと待って!」
突然、おっそろしいことを言い出すドレスを慌てて留める私なのである。
何作ってくれちゃってるの!?
この子、この間まで泣きはらしていたドレスと同じ女の子だよね!?
中身入れ替わってないよね!?
そもそも、捕食とか怖いこと言わないでほしい。
「あのぉ、腕とか、頭とかがバラバラにならない方向で戦ってくれる? どう考えても化け物だし、怖いし、一緒にいたくないし」
そりゃあ世の中にはテイマーなんていう、モンスターを操作して戦う人がいることも知っている。
しかし、ここまで変な怪物を扱う人はいないだろう。
こんなんで他の参加者に勝っても、絶対に後ろ指さされると思う。
「でぇええええ!? そりゃあ、腕とか口から破壊光線を出すとか、そういうのならできるけどなぁ。かっこいいんだぜ? 頭が分かれるの」
「そうでやんすよ! 練習の成果を見て欲しいでやんす! ミノタウロスぐらいなら一発でいけるでやんす」
ドレスと燃え吉はそう言うけれど、私は頑として首を縦には振らない。
口から怪光線も嫌だけど、苦渋の決断なのである。
そして、私は燃え吉がばれないのかという冷や冷やしながら開会式に参加したのであった。
正直、その内容のことはほとんど覚えてない。
ただ一つだけ違和感を覚えたことがあった。
それはどこかの方向から、ものすごい視線を感じたこと。
冷や汗がでるぐらいの視線だったんだけど、何だったんだろう。
【魔女様の手に入れたもの】
精霊駆動魔石立像マークⅢ:魔石を動力にした魔力で動く立像、3号機。燃え吉しか操ることができない。近接戦に対応するため小型化してあり、もとからあった触手機能を向上させている。魔力効率も格段にアップし、以前ほど多くの魔石を必要としない。以前のようにモンスターから直接魔石を取り込むことも可能になった。口から怪光線などの技も健在であるが、前作には劣る。
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「魔女様、その視線、あいつです……」
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