210.魔女様、素材戦の裏にある陰謀に気づき、苦渋の決断をする
「……みんな、あっしの話を聞いてくれないか」
素材戦まで1週間ほどに迫ったある日のこと。
主要メンバーでミーティングをしていたら、ドレスが手を挙げる。
「どうしたの? 真剣な顔をして」
彼女の顔はいつになく、真剣だった。
「あっしのじじい、つまり、今のドワーフ王国の王様から手紙が届いたんだ。相変わらず、表の書面はこれだ」
ドレスはそういうと、ため息を吐きながら、ぴらっと文面を見せてくれる。
そこには大きな文字で、「宣戦布告する」と書いてあった。
相変わらず、宣戦布告が好きらしい。
「これって何かのカムフラージュで、実際のメッセージはドレスしか読めないんでしょ?」
「あぁ。そこにはこう書いてあったんだ、見てくれ」
ドレスは手紙の端っこをもって、吐く息とともに魔力を通す。
すると、ゆらゆらと文字が浮かび上がり、全く異なるメッセージがそこに現れた。
ちょっと長い文章なので要約したものをララが書き出すと、以下のような内容だった。
・ドワーフの国には自国を他国に売り渡す裏切り者がいる
・裏切り者の存在について、ドレスの実家で伝えようとしたが何者かに襲われて失敗した
・誰かがドレスの実家を荒らし、過去の研究を盗み出したようだ。裏切り者の仕業かもしれない。
・裏切り者は素材戦に参加し、王位を狙う可能性が高いが、どの王位継承者かはわからない
・万が一に備えて、国王は素材戦の期間中、自国で待ち、王弟陛下が禁断の大地には訪れる
「えぇーと、完全には理解できないけど、なんだかすっごい陰謀が巻き起こっているってこと?」
「そうらしい……」
そう言うなり、ドレスは押し黙ってしまう。
これは今回の素材戦が、ただのダンジョン探索競争でも、王位継承者を決めるものでもないということが明らかになった瞬間だった。
それにしても、わけのわからない情報がただただ並ぶ。
裏切り者って言われても、まったく心当たりなんてないし。
「裏切者って物騒な物言いやなぁ」
「同じドワーフの中での裏切りってことでしょうけど」
メテオとララは腕組みをして、うーむとうなる。
その様子を見ながら、ドレスはゆっくりと口を開く。
「ドワーフの国っていうのは、昔は2つあったんだ。そのうちの一つが聖王国っていう国ができるときの騒ぎで崩壊しちまってな」
「そういえば、出発するときにちょっと話してたよね」
「だから、ドワーフは聖王国に反感を持っているやつが多いんだよ。うちの国から救援に向かって、帰ってこなかった人もいるぐらいだし。そんな連中から見たら、聖王国と協力する奴は裏切りものってことになるんだ」
ふぅむ、なるほど、である。
ドレスの見立てでは、裏切り者という表現は聖王国との協力者とみて間違いないのでは、とのことだ。
聖王国ってちらほら聞く単語だけど、あんまり柄がよくない国なんだろうか。
「あのぉ、別にどんなんが相手でもええんとちゃいます? 素材戦はハンナとクレイモアが斬って、つぶせばええんやから」
クエイクはきょとんとした顔で恐ろしいことを言う。
でも、彼女の言うことも、もっともだ。
誰が相手であっても、うちのチームが負けるとは思えないのだ。
素材の見極めならドレスの右に出るものはいないだろうし。
守りはクレイモアだけでも十分かもしれないし。
「いや、問題は素材戦の外なんだと、あっしは思う」
それでもドレスの表情は曇ったままだ。
素材戦の外ってどういう意味だろうか。
ダンジョンの外で問題が起こるってこと?
「……確かに。もし、私が王国の敵対者でしたら、素材戦の期間中に王都を襲いますね。各勢力が王都を離れるってことは、それだけ戦力が減るってことでしょうし。指揮系統も弱くなってるでしょうから」
「うちも敵やったら、そうするかなぁ。本国に攻め入って、王様討ち取って国の占領を宣言すればええんやし。なんなら素材戦自体、襲うのもええかも」
「確かに。まぁ、素材戦に小細工をしてくるのは当然でしょうね」
「せやなぁ、それは間違いないやろな」
ララとメテオは突拍子もなく、あくどいことを言い始める。
ぐぅむ、こいつらを敵に回さなくて良かった。
私は真っ正面からぶつかることしか考えないからなぁ。
「あっしもそう思う。これまでの動きから察するに、じじいは敵を敢えておびき出して、戦おうとしてるんじゃないかと思うんだ」
ドレスの目に火がともる。
その色は暗く沈んだものではなくて、怒りに燃えていた。
「ユオ様、お願いだ。素材戦を辞退して、じじいのところに行かせてくれないか。あんなじじいだけど、あっしのことをかばってくれた恩人なんだ、それに……」
ドレスの声が震え始める。
彼女の感情が少しずつ表に出始めたあかしだった。
「……大好きなんだね、おじいさんのこと」
「……あぁ。唯一の家族だったからな……うぅっ」
ドレスは涙を隠すためにうつむいた姿勢のままだ。
それでも、ぽつぽつと自分の生い立ちやこれまでの歩みについて話してくれる。
父親を失くして心細い時期に、ふらっと現れたのが、あの国王だったこと。
一緒に工房を盛り立てて、仲間たちと出会うお膳立てをしてくれたこと。
そして、ドレスが大失敗をしたときに、自分のことをかばってくれたこと。
「ドレス、辛かったね」
嗚咽する彼女の背中をさする。
本当は今すぐにでも彼女の故郷に戻りたいのだろう。
おじいさんを助けてあげたいのだろう。
そんな彼女の気持ちはよくわかった。
「でも、素材戦を辞退することは許さないわ」
だからこそ、私の腹は決まっていた。
おそらく、ここでドレスが辞退するのは敵の思うつぼだと思う。
「で、でも、それじゃ、あっしの故郷は……」
「大丈夫。ハンナ、クレイモア、あなたたちはダンジョンじゃなくて、ドワーフの国で王様をお守りして」
私が出した結論はこれだった。
うちの二大戦力、いや、シュガーショックを加えた三大戦力をドワーフの国に向かわせること。
はっきり言って、ドレスとドワーフの皆さんが行くよりも戦力として大きいはず。
ドワーフの国が遠いとはいえ、シュガーショックに乗っていけば、十分に間に合う。
「ふぅむ、難しい話はわからないけど、とにかく、ドワーフの国で暴れればいいのだな?」
「私は目の前の敵を斬るだけです! ドラゴンはスライム相手でも全力で戦います!」
二人はがっかりするかと思ったけれど、すんなりと受け入れる。
思った以上に、暴れられれば何でもいい連中らしい。
「素材戦には、ドレスと私と燃え吉で参加するわ。燃え吉、ドレスをちゃんと守るのよ?」
「ひぃぇええ、責任重大でやんすね! とにかく頑張るでやんす!」
私とドレスの二人パーティじゃ手薄なので、燃え吉を追加することにした。
燃え吉はドレスと仲がいいし、頑張ってくれるだろう。
「ぐすっ、ユオ様、本当に、本当にありがとうだぜ! この恩は一生かけても、ううううぅっ……」
今日のドレスはやたらと涙もろい。
おそらくはこれまで溜め込んでいたものが一気に放出されたからなのだろう。
普段のイケメンな彼女とのギャップがかわいくて、私たちは優しく背中をさするのだった。
「ふぅむ、あたしだけがドワーフの国に行くのじゃもったいないのだ! よっし、リリ様も行くといいのだぞ!」
「はぇ? いいです! 私なんか足手まといになりますからぁ!」
しかし、ここから話はいきなり脱線する。
クレイモアが何を思ったのか、リリを勧誘するではないか。
当然、リリはそれを青ざめた顔で拒否。
「ユオ様、何か言ってくださぁい! 私なんか役立たずですよぉ!」
リリは涙目になって私にすがってくる。
でも、自分のことを役立たずなんて言ってほしくないよね。
それにドレスの見立てが確かならば、ドワーフの王都では民間人を巻き込んだ戦闘が行われる可能性もあるわけで、リリがいることは確かに大きな力になる。
「リリ、ドワーフの国が敵に攻撃されたら、怪我人が沢山出るかもしれないから行ってあげて? リリならできる! だって、リリだもん!」
そういうわけでクレイモアに賛成する私なのである。
リリはとにかくすごい力の持ち主なのだし、それを発揮してほしい。
素材戦の救護室で手当をしてもらうのは、他のスタッフでもいいし。
「えぇええ、何なんですか、その理由!? 断りようがないじゃないですかぁああ!」
人助けのためという大義名分を持ち出すと、リリはその場で泣き崩れる。
今からドワーフの国に行くのは大変だろうけど、頑張ってほしい。
帰ってきたら、全身全霊で言うことを聞いてあげるから。
「うぅうう、絶対ですよ。私、無事に戻って来たら、ユオ様のお部屋でお泊り会しますからね! ……クレイモア、煮るなり焼くなり、好きにしてください!」
リリが虚勢を張るのがかわいくて、皆、笑顔になるのだった。
ドレスも涙をぬぐいながら笑っていて、いつもの陽気さを取り戻したようだ。
「あ、ちなみにクエイクがシュガーショックを操って、皆を送っていくんやで」
「でぇええええ!? なんでうちがぁああ!? シュガーショック、自分で走れるやん!?」
「いや、あの犬、途中でいなくなったりするやろ? そうなったら困るし」
そして、本日の犠牲者第2号はクエイクだった。
彼女はメテオの采配によって、ドワーフ王国への送迎係に任命される。
まぁ、クエイクは非戦闘員だし、到着したら物陰に隠れてていいけど。
ドワーフの国にどんな敵がやってこようとも、ハンナ、クレイモア、シュガーショックがいればなんとかなるでしょ!
さぁ、準備は万端!
素材戦に向けて最終調整していくよっ!
◇ 悪い奴ら(ララとメテオ)の悪巧み
「メテオさん、素材戦の開会式と閉会式について、相談があるのですが」
「ララさん、実はうちも考えてることがあってな」
これは会議が終わってからのこと。
メテオの部屋のドアをララがノックする。
「それは奇遇ですね。ご主人様の、いえ、皇帝陛下の挨拶についてなのですが」
「あはは、やっぱりそれや思った。素材戦はお祭りやっていうし、ド派手に行きたい思ってるんですわ。向こうはこっちを僻地の田舎蛮族って思ってますさかい、度肝ぬいてやらな」
「ふふふ、それでですね。この古文書のこれ、再現できますかね?」
「ふぅむ、これですか。何かわからへんけど、めっちゃ派手や。うわっ、何このデザイン、めっちゃええやん」
「閉会式では、皇帝陛下がこれに乗って登場して記念品授与っていうのはどうでしょうか?」
「ええわぁ。ユオ様、にぎやかなのが好きやし! さっそく、ドレスの工房にお願いしてみますわ! ぐふふふ」
開会式まであと1週間。
ララとメテオは悪い笑顔を浮かべながら、ユオの晴れ舞台を企画するのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「ダンジョンの内と外での戦闘スタート!?」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークやいいねもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。






