205.魔女様、メテオの交渉を見守ってると、いつの間にか自分のダンジョンで素材戦が開催されることになってました
「ドレスの騎士の実力に異論はないだろう。それでは、新参者のために素材戦について説明しようではないか」
謁見の間に戻った私たちなのである。
王様はそういうと、側近の一人に素材戦なる競争の概要について説明させる。
簡潔にまとめると、以下のようなルールで争うらしい。
・最も貴重な素材、1種類を見つけてきたものが勝者である
・6組までが参加し、1組当たり最大で4名のパーティを組める
・今回の参加者は王位継承者の1位から6位まで
・遺跡やダンジョンなどの閉じた空間の中で行われる
・日の出から日没など、一日のうちに行われる
・素材戦の期間中、参加者同士で素材を奪い合うことも可能。殺傷も問わない
・素材戦で獲得した素材は各パーティが得ることができる
ふぅむ、なかなかにきな臭いルールである。
特に6番目。これって、どう考えても奪い合いを想定しているよね。
何ならそれがメインなんじゃないかって気もする。
「素材戦の舞台には、伝統ある王家の谷のダンジョンをお勧めいたします!」
「王家の谷は貴様の家の管轄だろう! 古代の鉱山である、鉄晶の洞窟をお使いください!」
「それは貴様のダンジョンだ!」
側近の人たちから、どの場所で素材戦をするかについて声が上がる。
なるほど、確かに自分の知っている場所で開催してくれた方が有利だよね。
場合によっては裏工作もできるだろうし。
とはいえ、基本的にドワーフの国で行われるものなんだろうし、私たちは完全にアウェイだ。
「くふふ、うちの出番やな。ユアさん、ドレス様、儲からせてもらってもえぇ?」
わいわいがやがやしているところを見て、メテオがほくそ笑む。
どうやら彼女は何らかの策を講じようと思っているらしい。
ちょっと嫌な予感がするものの、現状で私たちが失うものは何もないのも事実。
情勢を見極めるためにも議論に参加するのはいいかもしれない。
それにメテオは私よりも利に聡いし、交渉上手だ。
「いいよ、好きにやっちゃって」
私は彼女にこの場を一任することにした。
「はーい、皆さん、注目や。うちからも提案がありまっせ」
がやがやしている側近の声に割って入るのは、メテオの高い声だ。
しかも、ちょっと嬉しそうだし、場違いな気もする。
「貴様は引っ込んでおれ! この田舎者が!」
「お前のような怪しい商人の話を聞くか!」
とはいえ、側近の人たちはメテオに取り付く島もない。
怖い顔で一蹴すると、再び議論に入ってしまう。
「おぉっと、こけてもうたぁああ」
メテオはわざとらしく、王様の眼の前で派手に転ぶ。
不思議なことに、彼女の懐からこてん、こてんと何かが飛び出す。
それは王様の玉座の下まで、偶然、転がっていく。
自分で言っているのもなんだけど、メテオはわざと転んでるし、意図的に転がしている。
でも、周りのみんなは議論に夢中でそれに気づかない。
「……こっ、こっ、これは女神の涙ではないのか!? な、な、なぜこれを」
メテオの懐から転がっていったものを拾った王様は驚きの声をあげる。
もちろん、私だって驚く。
だって、女神の涙は全部使い切ってしまったと思っていたから。
「め、女神の涙ですとっ!?」
「あの素材が!? ここ10年は見ていないですぞ!?」
突然の希少な素材の登場に、側近の人たちの議論はぴたりとやむ。
皆の注目は王様の指先にある、宝石に向かうのだった。
『実はちょっとだけもらっておいたんや、うちとドレスの分を』
メテオは私の方に近づいてきて、小声で耳打ちしてくれる。
私がエリクサーの村を出るときに、ちょっとだけ抜いていたのだという。
スリの才能もあるなんて、恐ろしい子。
まぁ、もしもの時のために抜いていたんだろうけど。
「あらぁ、うちの女神の涙ちゃんを拾ってくれましてほんまにおおきにですぅ、王様」
メテオはそういうと、ずけずけと王様に近づき、ぱぱっと宝石を奪い取る。
王様は天国から地獄に落とされたような顔をして、がっくりと肩を落とす。
しかし、幻の宝石を持っているメテオに皆の視線は集中。
あたりはしぃんと不思議な静寂に包みこまれる。
「王様、うちは、禁断の大地にある発見されたばかりのダンジョンをおススメいたします」
そして、メテオの口から飛び出したのは理解しがたい提案だった。
だって、ドワーフの国の未来を決める素材戦を、異国の大地で行うっていう提案なんだもの。
「な、なにを言っておるか! 素材戦は我が国の一大事! 我々の国でこそ開催するものだ!」
「引っ込んでおれ!」
側近の人たちからは話にならないと、非難の声があがる。
しかし、さきほどよりもトーンは小さい。
明らかにメテオの次の言葉に注目しているのだ。
「あっらぁ、残念ですわぁ。さっきの女神の涙もうちの地域から採取されたもんやのになぁ」
「ぐ、ぐむ……」
「な、なんだと……」
メテオが話し始めると、側近の人たちはざわつき始める。
それをみてほくそ笑むメテオ。相変わらずのズルい顔。
女神の涙はエリクサーの村で手に入れたもので、エリクサーの村は禁断の大地にあると言えばある。魔王領だけど。
メテオの言葉は嘘じゃないけど、本当でもない。
ちょっとズルいけど、成り行きを見守ろう。
「そのダンジョンはこの間、見つかって、まだ開通式もやってない正真正銘の未探索ダンジョンなんやけどなぁ? なんなら冒険者ギルドにかけあって聞いてみてもええですけどぉ? はぁああ、残念や、そんな希少なダンジョンに一番乗りできる機会を棒に振るなんて。まぁええか、うちらがたんまり儲からせてもらえば」
メテオは演技臭く大きく溜息をはく。
とはいえ、心底残念そうな溜息であり、なんていうか運気が下がりそうな気分になる。
「禁断の大地には皆もしらない素材がわんさか眠ってるからなぁ。超級の魔石どころの騒ぎやないで? アーティファクトもごろごろしてるかもしれへんし、なんせ、未開拓やから」
メテオが未探索ダンジョンのすばらしさについて説明すると、皆の顔色が変わり始める。
やはり根っこはドワーフなのか、素晴らしい素材についての話には目がないのかもしれない。
「しかもやでぇ、うちの村に滞在すれば安心安全快適間違いなしやで」
さらにダンジョン探索の出発地点である、村のアピールも忘れない。
確かに禁断の大地だからね、そんなところに行けるかって思う人もいるだろうし。
「おいっ、冒険者ギルドに今すぐかけあうのだ! あの女が言っていることは本当なのか!?」
その間、王様は側近の人に冒険者ギルドに使いを出すように指示を出す。
数分後、大慌てで伝令の人が戻ってきた。
「ほ、本当のようです! まだ公式発表されてませんが!」
「な、なんだとぉっ!?」
「ぐむむむ……」
そして、一同の顔色が変わる。
メテオのうさんくさい話に真実味が加わった瞬間だった。
しかし、私が念を押しておきたいのは、あのダンジョンは未探索ではないということだ。
だって、村長さんとハンナとクレイモアの三人組がピクニックに行ったって言っていたし。
いや、あの人たちにとってはピクニックであって、探索ではないのかもしれないけど。
「し、しかし、伝統ある素材戦を、それも王位継承のための素材戦をそんな蛮族の土地でできるものかっ! だいたい、禁断の大地に向かうだけでいくらかかると思っているのだ!」
ほとんどの側近の人たちが色めき立つ一方、やっぱり反対意見を述べる人もいる。
その人はさきほど私たちに言いがかりをつけてくれた大臣の人だった。
もちろん、その意見に同調する側近の人も多い。
確かにドワーフの国から、禁断の大地まではかなり遠い。
遠路はるばる移動するだけでも大変だろう。
「……あぁ、せやせや、王様、お近づきのしるしにこれを受け取ってくださいませぇ」
メテオは反対意見など聞こえていないかのように、涼しい顔。
そして、彼女が近づいたのは王様だった。
「おひょおぉお、いいのか? もらっても、わしがこれを」
彼女はさきほどの女神の涙を王様に差し出す。
不敬って言えば不敬な態度だけれど、王様の顔はめちゃくちゃ笑顔。
とんでもなく嬉しそうな顔になっていた。
髭面のおじいさんなんだけど、なんだかかわいい。
「えぇ、まだまだ在庫はありますさかい。せや、禁断の大地で素材戦をやる場合には、女神の涙を一組につき一つプレゼントいたしますわ」
「どぇええええ!?」
メテオがにやりと笑ってそういうと、側近の人達からは驚きの声があがる。
そして、その声は次第にこう変わっていく。
「素材戦を外でやるのもいいかもしれん。今こそが革新の時だ」
「もっと素晴らしい素材が出てくるのかもしれんのだろう? 一番乗りしてごっそり頂くべきだ」
「あれがあれば今の研究をもっともっと進められる!」
側近の人たちはむしろ、うちのダンジョンでの探索に前向きになってきている。
なるほど、うちのダンジョンのお宝をだしにしようっていう魂胆らしい。
しかし、素材を持っていかれるわけで私たちにメリットがあるのだろうか?
メテオにしてはなかなか太っ腹な提案なので、ちょっと訝しく思ってしまう。
「よし、いいだろう。ドレスの商人よ、お前の提案するダンジョンにて開催しようではないか! 開催日までダンジョンを封鎖しておくように」
王様は側近の人たちと相談し、ついに私たちのダンジョンでの素材戦が決定してしまう。
メテオの筋書き通りなのか、やたらとあっさりと。
「おおきに! ありがとうございますぅ、王様」
王様の言葉にひときわ嬉しそうに返事をするメテオ。
相変わらずの美少女だけど、ぜったい、その言葉には裏がありそう。
「そ、それでは、我々にも女神の涙をいただこうか! 我々はルドルフ様の代理人であるぞ」
「おぉっ、その通りだ!」
側近の人たちの間には気が早い人もいるようだ。
彼らはメテオに例の宝石を渡してほしいと言ってくる。
「……あぁ、それやけど、女神の涙は開催日当日にお渡ししますわ。せっかくの素材戦を風邪で欠席やとかなったらめんどうくさいですやろ?」
しかし、メテオはこれをぴしゃりと一蹴。
正論と言えば正論であり、側近の人たちは、「ぐむむ」と唸るのみとなる。
「あぁ、あと、今回の後援にはビビッド商会についてもらいますさかい。皆さんの安全で、快適な旅を保証させてもらいますわ」
メテオは笑顔で言葉を続ける。
彼女の口からは、この間、お世話になったお母さんの商会の名前が飛び出す。
ふぅむ、お母さんのこと苦手だと言っていたのに珍しい。
「ビビッド商会だと!?」
「安全で快適な旅……!?」
その商会の名前を聞くと、ざわざわとし始める側近の皆さん。
「ビビッド商会は儲からない仕事には一切手を出さないはずだ! どうして、後援などというただ働き同然の仕事をするわけがない!」
「そ、そうだ! 貴様のような怪しい猫人がどうしてそんなことができる!?」
さきほどから反対意見ばっかり言っている大臣がメテオに疑いの声をかける。
確かに、お母さんはメテオと同じように何よりも損をすることを嫌う感じだった。
ボランティアみたいなことをしてくれるかどうかは疑わしい。
がやつく人たちの中にはメテオの存在自体に疑いの目を向ける人もいるようだ。
「あぁ、そりゃあ、メテオはビビッド商会の会主の娘だもんなぁ。後援ぐらい余裕だよな」
「せやな、うちは溺愛されてるからなぁ」
しかし、ここはドレスがぴしゃりとシャットアウト。
側近の中には「た、確かにあの悪辣フレアにそっくりだぞ、この娘」などと言い出す人も現れる。
フレアさん、異国でも有名らしい。あんまりよくない意味で。
ざわついていた人たちも、次第に言葉少なくなっていく。
「……ふむ、結論が出たようだな。それでは、この度の王位継承者のための素材戦は禁断の大地の未探索ダンジョンで行う。開催は1か月後。詳細は追って知らせるが、くれぐれも正々堂々と競うように」
王様の言葉によって、素材戦についての議論は終わりを見せる。
ありえないと思っていたのに、メテオはうちの村へと誘致してしまったとも言える。
とはいえ、これで本当に儲かるんだろうか?
そもそも、素材戦までダンジョンを封鎖するっていうのも結構な損失だと思うし。
「くふふ、まぁ、見てのお楽しみやな」
当のメテオは私に含み笑いをしてみせる。
その顔はいつもの彼女のもので、明らかに何かの策がある様子だ。
それはそれでちょっとだけ安心する私なのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「大悪商って、もしかして……」
「魔女様の周りがどんどんきな臭くなっていく……」
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