204.【悲報】魔女様には機銃掃射が効かないことが判明しました
「私は賛成いたしかねます! 国王陛下!」
ドレスと私達の決意に水を差す人もいる。
それは先ほどから、ドレスに罵声を浴びせてくれていた人だった。
大臣っぽい服装をしていて、位もちょっと高そうだ。
彼は続ける。
「ドレス様はそもそも数年間も国を留守にしていらっしゃり、我が国の内情に詳しくありません。さらに言えば、ドレス様の連れてきた二人をご覧ください。顔だけで選んだ、ひょろひょろの騎士と、いかにも詐欺師然とした猫人。そんなお方にこの国の王が務まるでしょうか? 栄誉ある素材戦に参加させることなど、もってのほかです!」
おうおう、たいした演説だこと。
ひょろひょろの騎士で悪かったわね、えぇ、瘦せ型ですけど。
そりゃあクレイモアみたいにぼんぼん出てりゃあよかったんでしょうよ。
うぅう、突然の煽りに僻みっぽくなってしまった。
なんなのこの人、私たちに嫌味が言いたいわけ?
メテオは「えぇ、うちみたいなかわいい子にそんなこと言うとグレるで?」などとぶつくさ言っている。
この子の煽り耐性は凄いなぁと今さらながら感心する。
「その通りだ! 外見だけで騎士を選ぶなどもってのほかですぞ!」
「実力を見せてみよ!」
側近の人たちの中には、今の言葉で煽られる人もチラホラ。
どうやら頭に血の上りやすい種族なのかもしれない。
実力を見せろって言われてもねぇ。
なんで私って、ここまで言いがかりをつけられるんだろうか。
ララに筋肉を盛ってもらって、村長さんみたいにしてもらえばよかったのかな。
「よぉし、俺が稽古をつけてやろう」
そして、ずずいと現れたのが大男だった。
ドワーフの人って、どっちかというと小柄な人が多いんだけど、彼は横にも縦にも大きかった。
手には何やらヘンテコな武器を持っていて鼻息も荒い。
やる気満々といった表情だ。
「おぉっ、レオパル様の騎士のお一人、ドッドウェル殿!」
「新しい武具をお持ちだ!」
「ぐふふ、貧弱な騎士では太刀打ちできまい」
側近の人たちは、どうやら私たちに戦って見せろと言ってるようだ。
王様は頭を抑えて、「しかたない、闘技場に移り、実力を示してみせよ」と言う。
ふぅむ、騒ぐ側近の人たちを抑えきれないって状況なのだろうか。
私の頭の中に、弱気な王様のもとで権力争いをする大臣たちの構図が浮かび上がる。
ドレスが王位を継ぎたくないのも不思議ではないのかもしれない。
「厄介ごとに巻き込んじまって申し訳ないぜ」
闘技場までの途中、ドレスはうんざりした表情で謝ってくる。
その顔からはいつもの陽気が嘘のように引っ込んでいた。
「あと、奴の武器には気を付けてくれ」
彼女いわく、さっきの大男が持っている武器は特殊なものだとのこと。
ふぅむ、確かに剣とか斧とか、そういう類いじゃないようだ。
なんだろ、あのへんてこな筒……。
◇
「ドレスの騎士、ユア・タリーよ。ここでお前の実力をみせるがいい!」
私たちは闘技場なる場所へと案内される。
兵士を訓練するような場所らしく、床は石づくりになっていた。
どちらかが「参った」と言えば負けとのこと。
「ぶっ壊さない範囲でお願いするぜ」
「念のためやけど、とかすのはナシやで? めっちゃ補修代かかるらしいから」
ドレスとメテオから破壊せずにやっつけよとの指令が下る。
私は床を溶岩にして怒られた経験がある。
こっちだってあんまり派手にやるとダメだって学習しているのだ。
「大丈夫。さくっと終わらせる」
はぁと溜息をついて、私は目の前の大男を見つめる。
どうすればこの人を傷つけずにやっつけられるだろうか。
そして、王様立会いの下での腕試しがスタートするのだった。
「くはは! これを喰らえっ!」
大男はそういうと、筒のようなものを私に向ける。
ドレスが気を付けてと言ってくれた、あの不可思議な筒だ。
だぁんっと、何かが破裂する音!
ついで、私の後ろにある石の壁がぱらりと崩れる。
大男は筒の先からこちらに何かを飛ばしてきたのだ。
しかも、超高速で。
あんまりにも早いものだから、目で何が飛んできたのかを確認することはできなかった。
ただし、私は感じたのだ。
あの筒の内側がめちゃくちゃ熱くなっていることを。
「がはは、これぞ魔導銃の威力だ!」
あの筒は魔導銃というらしい。
離れた相手を攻撃をするための武器なんだろうか、まるで魔法みたいだ。
しかし、詠唱時間がないし、こっちの方が早いかもしれない。
「今日は訓練用の弾にしておいてやるっ! 身のほどをわきまえて、田舎に帰るんだなっ!」
さらに、だぁん、だぁんっと破裂音。
ついで、足元にばすん、ばすんと小さな衝撃。
なるほど、大男の武器は連射することだってできるらしい。
すごい技術だなぁ、これ。
「どうだ、ドレス! お前の作った武器で愛する騎士をめっためたにやられる気分はよぉ!? お前の王子様を半殺しにしてやるっ!」
大男はもう私など眼中にないらしく、ドレスを煽り始める。
なるほど、ドレスがこの凄い武器を作ったのか。
「ほら、貧相な優男、降参するなら今のうちだぞっ!」
大男はそういって私にその筒を向けてくる。
顔には品のない笑顔を張り付けて、弱い者いじめを楽しんでいるようだ。
だぁんっ!
次の瞬間、私の太ももあたりで、ぽすっと音がするではないか。
これはおそらく、大男が放った弾が私の熱鎧で燃えた音だろう。
つまり、相手は明らかに私を害するつもりでいるらしい。
この戦い、威嚇では終わらないってことみたいだ。
「なぁっ!? 当たったはずだぞ!?」
大男は狙い通りに打ちぬいたと思ったらしく、驚きの声をあげる。
ふぅむ、どうするべきか?
私の頭にはいくつかの選択肢が浮かんでは消えていく。
熱爆破、相手が爆散するからダメ。即死するし。
熱視線、これは相手を真っ二つにするからダメ。即死するし。
口から熱放射、たぶん城ごと消えるからダメ。即死するし。
足元溶岩、メテオから止められてるからダメ。
熱の円とか、熱の直方体とか、そういうのは論外。たぶん、大勢死ぬよね。
とはいえ、大ジャンプして体当たりをしても、こっちが痛そうだ。
ううぅ、もっとこう死なない方法はないのだろうか。
「よぉし、かかってきなさい!」
そこで、私が選択したのは、相変わらずの熱失神だった。
芸がなくてごめんなさいね。
でも、これなら相手は死なないはずだから。
「かかってこいだと? このバカがぁあああああ!」
大男は煽り耐性がゼロらしい。
彼は叫びながら魔導銃とやらを連射する。
タタタタタタタ、と大男の武器が大音量をあげる。
普通にしてたら、体中にアザがたくさんできてしまうだろう。
だけど、私はとりたてて怖くない。
ぽすぽすぽすぽすぽす……
私の体から数センチ離れたところで、なんとも情けない音がする。
大男の撃った弾が、私の熱鎧に触れて燃える音なのである。
もっとかっこいい音で燃えて欲しいなぁ。
「なぁっ!? な、な、何だ貴様はぁああああ!」
大男はさらに武器を連射する。
ふぅむ、かなりたくさんの弾が撃てるらしい。
「どこを狙ってるんだ? かすりもしないぞ、このへたくそ」
私は『相手が狙いを外している』というアピールも忘れない。
だって、当たっているのに平気な顔してたら変な奴だと思われそうだし。
あくまでも、私には偶然当たっていないという体を装うのがいいだろう。
かすっ、かすっ………
そして、ついにその時がやってきた。
魔導銃とやらの弾切れである。
そりゃそうだよね、何百発も撃ってくれたんだから。
「ひ、ひぃいいいいい、嘘だ、直撃したはずだぞぉおおお!? なぜ、貴様、立てるのだぁ?」
笑顔で近づくと、大男の人は信じられないという顔。
よぉし、これで降参してくれれば話が早い。
熱失神だって体に負荷がかかるかもしれないし。
倒れる角度によっては大怪我するかもだし。
「この化け物がぁあああ」
しかし、往生際は悪いらしく、彼は筒状の武器で殴ってくる。
「えいっ」
私はそれをひらりとかわすと、武器の筒部分をがしっと握る。
手のひらにじゅわっとした感覚。
ふぅむ、ちょっと温かくなっているようだ。
これなら都合がいいと私は熱を通してぐにっと曲げる。
温まっているのもあって、包部分は飴細工みたいに加工できた。
「あれぇえええ、ここが曲がってるぅう!? なぁるほど、だから当たらなかったのかぁあ!」
私は相手の武器が不具合を起こしたんだとアピールすることにした。
これなら周りの人も弾が当たらなかった理由を納得できるはずだ。
「ひぃ、ひぃ、どうして銃身を握ることができるぅううう!?」
私がひん曲げてしまったのを、やたらと驚く大男。
いやいや、男性なら腕力があるわけだし、こんな筒ぐらい曲げることができるでしょ?
「ひぐぉわぁあああああ、ば、ば、ばけものぉおお!」
大男の人は何を思ったのか、闘技場の扉を突き破ってどこかにいってしまう。
そして、彼は二度と戻ってこなかった。
お手洗いでもないようだ。
「しょ、勝者、ドレスの騎士、ユア・タリー!」
というわけで、私はこの勝負に勝利したということになった。
ふふ、傍から見れば、私が威圧して勝利したって感じになっているはず。
「奴は銃身を握っておったぞ!?」
「あいつに弾が当たっていたよな?」
側近の人たちは私が勝利したのでどよめき声をあげる。
格下と思われていた私のまさかの勝利である。
びっくりしてしまうのも無理はない。
でもまぁ、これで一応、実力を示すのはOKかな。
扉は壊れたけど、私がやったわけじゃないからいいよね。
派手なことはしなかったし、セーフ、セーフ。
【魔女様の発揮した能力】
銃身加工:魔導銃の銃身を加熱して加工する技術。連射後の銃身は非常に熱くなるのでよい子は真似をしてはいけません。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「魔女様、こっちの世界に転移してくんなよ……?」
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