203.魔女様、素材戦なる珍妙なバトルに巻き込まれる
「かかってこい! お前が騎士にふさわしいか、俺がテストしてやる!」
ヘンテコな武器らしきものを持った大男はそう言った。
「おぉお、あれは最新の魔導兵器!」
「あれは敵をハチの巣にする武器らしいですぞ。恐ろしい……」
王様の側近たちが、ざわざわし始める。
対する私は、どうやれば相手を殺傷せずにやっつけられるかを考える。
うーむ、どうしてこうなったのか。
——話は1時間ほど前にさかのぼる。
◇
「ドレスよ、よくぞ戻った!」
ドレスの故郷に帰ってきた次の日、謁見の間に私たちは通される。
私はドレスの騎士として、メテオはドレスの商人として目通りを許されたのだ。
謁見の間というと豪華絢爛というイメージがあるけど、さすがはドワーフの国、ちょっと違う。
至る所に歯車があって、しゅこんしゅこぉんと音を立てている。
おそらくは何らかの機械が置かれているんだろう。
王様はやっぱり昨日倒れていた人で、頭には大きなこぶがあった。
ひぃいい、一日じゃ治らなかったんですね、大丈夫だろうか。
「ドレス、わしからの手紙を受け取って都に戻ったということは、王位につく準備はできたということだな?」
ドワーフの王様は単刀直入にものをいうタイプらしい。
挨拶もそこそこにさっさと本題に入る。
しかも、ドレスを王位につける気が満々だ。
顔はずいぶんほころんでいて、ドレスが返ってきたことを喜んでいるようだ。
「いえ、申し訳ございませんが、国王陛下。あっしは王位につくつもりはありませんっすわ」
ドレスは国王陛下にぴしゃりと言ってのける。
いつものフランクな物言いとは違って、一応、丁寧語じみた口調にはなっている。
ちょっと間違っているけど。
「王よ、失礼ながら、ドレス様は王位継承権第5位でございます! 他の継承者を差し置いて、王位に据えることなどあってはなりません! 序列一位のルドルフ様をぜひ、お願いします!」
「何を言うか、血統にのっとりレオパル様こそがふさわしい!」
「イリーナ様を差し置いて、なんということをおっしゃるのですか!」
王様がドレスを王位につけると言い出したからか、側近っぽい人たちが声をあげる。
ふぅむ、他にも王位継承者がいて、その取り巻きが権力争いをしている感じなのだろう。
「や、やめろ、ドレスに煽られるぞ?」
「ひぃいい、かつての天才児に雑魚扱いされるぞ。恐ろしい……」
側近の人たちからはそんな声も聞こえる。
どうやら、相当の有名人だったらしい。
しかし、どんだけ人を煽ってきたんだろうか。
「……さて、ドレスよ。お前は禁断の大地の蛮族の王のところにいるらしいな。私はあの独立宣言の様子を見たが、あの女は危険だ、さっさと国に帰ってくるがよい」
側近の人たちが鎮まると、王様は再び言葉を続ける。
しかも、その話題は私に関するものだった。
うひぇええ、危険とか言われてるし、私みたいな人畜無害な生き物に対して!
ちょっとカチンとくるけれど、同じ出来事でも人によって受け取り方は様々だよね。
魔族と共存しますなんて言われても、すぐに受けいれられないのも事実だろうし。
「残念だが、国王陛下、あっしは戻らねぇぜ。あの大地にはここにはないものが沢山あるんでねっすわ」
ドレスの口調が少しずつ乱れ始める。
その言葉遣いに顔をしかめる側近の人たちもいるようだ。
ドレスちゃん、もしかして、「〜っすわ」っていうのを尊敬語だと思ってないよね?
「あっしは自分の作りたいものを作るために生きさせてもらいます。……誰かさんみたいになりたくないんで」
ドレスはさらに言葉を続ける。
感情的になることの少ない彼女だけれど、ちょっと言葉がきつい。
「ドレス様、国王陛下に不敬ですぞ!」
もちろん、今の発言はアウトだ。
礼儀にうるさそうな側近の人たちに怒られてしまう。
「さぁて、王位継承権はいらないって伝えたし、あっしらは帰らせてもらうぜ」
ドレスは言うべきことは言ったという素振りで、謁見の間から出ていこうとする。
ぴりぴりした空気が背中に突き刺さる。
だけど、これ以上いたら絶対に衝突する予感があるわけで、さっさとお暇するのが賢いだろう。
「……ドレス、お前は本心から王位はいらないというのか?」
「何度も言っているでしょう。王位なんていらないと。自由にものを作れないなんざ、お断りっすわ」
王様は去ろうとするドレスに、その真意を問いただそうと低い声で尋ねた。
私はその言葉に少しだけ寂しげな響きを感じる
しかし、ドレスの返事は変わらない。
彼女もまた、しっかりと王様の目を見て返事をするのだった。
「それならば仕方あるまい。……どうしても抜けるというのなら素材戦に参加してもらう」
王様の口から飛び出したのは、素材戦なる、聞き覚えのない言葉だった。
「マ、素材戦だって!?」
その言葉に驚いた顔を見せるドレス。
王様の側近の人たちもガヤガヤと声をあげる。
「ドレス、お前も知っていると思うが、素材戦とは一定の期間内に、一定の場所で最も価値のある素材を獲得したものが全てを総どりする競争のことだ。もしも、お前が王位継承権を辞退するというのなら、素材戦で勝利したのちに放棄せよ」
王様は親切に素材戦なるものの方式を教えてくれる。
ふぅむ、いかにも素材に目がないドワーフっぽい戦い方だ。
しかし、側近の人たちはどう思うんだろう。
向こうからしたらドレスを引き留めるメリットなんかないはずで。
「ふふふ、いいではないですか! 私たちの推すルドルフ様がすべてを手に入れるでしょう」
「がはは、我々のレオパル様が一番に決まっておる」
意外なことに彼らは素材戦とやらに賛同の意を示す。
どうやら、自分たちの推す王位継承者に相当の自信があるらしい。
「……わかった。素材戦、受けようじゃないか」
側近の人たちの圧力もあったのだろうけれど、ドレスもそれに同意する。
つまり、ドレスはその戦いに勝利しなければならないのだ。
王様にならないために勝利するなんて、ちょっとややこしいけど。
「ただし、私の騎士と商人は外してください。私個人で参加するっすわ」
思わず、「えっ!?」と声が小さく出てしまった。
ドレスは私たちを巻き込まないために、その戦いに一人で参戦するというからだ。
相手は悪巧みをしてそうな大臣たちだ。
ドレスがいくら優秀だと言っても、どう考えても分が悪い。
ドレスは大切な仲間であり、家族みたいなものだ。
こんなところで別れるわけにもいかない。
私は敢えて、大きく出ることにする。
「ドレス様、私はあなたの騎士です。たとえ何が起きようと、必ず、あなたをお守りします」
「うちもやで! ドレス様の作ったもんを一生、商うって決めてますわ!」
国王の前で不遜とは思うけれど、これは逆にドレスに対する誓約にもなる。
彼女に対する私の精いっぱいの気持ちを伝えたかったのだ。
メテオもそれに同調したのは驚いたけどね。
よぉし、素材戦とやらに打ち克つぞ!
しかし、私がそう決意した矢先、横やりが入るのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
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