202.魔女様、ドレスの黒歴史が明らかになり、戸惑いを隠せない。しかし、一番、煽られてるのは魔女様だった
「ひぇええ、なんでじいさんが倒れとんねん……」
ドレスの実家兼工房に戻っていたら、ドワーフのおじいさんが倒れていた。
ずんぐりしていて、とても頑強な雰囲気だけど、頭を殴られたのかコブがある。
だけど、この人、普通のおじいさんじゃないよね。
「おい、じじい、こんなところに寝てると風邪ひくぞっ!」
ドレスはおじいさんを仰向けにすると軽く顔をはたく。
ひぃいい、そんなことやっていいの?
リース王国だとたぶん、処刑されると思うけど。
「ぐ、む、む……? おぉ、ドレスか、よくぞ戻った」
ビンタの質が良かったのか、おじいさんは目を覚ます。
あぁよかった、命は無事みたいだ。
しかし、とんでもなく不穏な現場なのである。
家は荒らされまくっていて、おじいさん (おそらく国王)が倒れている。
こんな時に兵士がやってきたら、私達どうなっちゃうんだろ。
「おい、ここか!?」
「国王陛下、いらっしゃいますか!?」
そう思った矢先、ドワーフの兵士の皆さんがどどどっと入ってくる。
私たちの足元には意識を回復させたばかりの国王。
そして、その頭には大きなこぶがあった。
「貴様ら、な、なにをしている!?」
「ドレス様、あなたいったい!?」
血相を変えて叫ぶ兵士の皆さん。
やばい、これ、ゼッタイ。
兵士の人たちに連行されて、私達全員、牢屋に入れられるパターンだ。
メテオは「第一発見者がいちばん、怪しいんやで、あ、うちらや」と顔を青ざめさせる。
今から第一発見者を辞退することはできそうにもないし。
「うぐぐ、こやつらは関係ないぞ……。犯人は他におる……」
しかし、国王陛下がその場をとりなしてくれたおかげで、私たちは無罪放免ということになった。
はぁ、よかった。
寿命が縮むかと思ったよ。
それにしても、どうしてドレスの実家にいたんだろうか。
謎が謎を呼ぶ事件なのであった。
その後、私たちは街の宿屋へと移動することになった。
ドレスは家の片付けをするから戻りたいと言ったけれど、さすがに危険な気がする。
私たちはドレスを無理やりにでも引き留めて、彼女と一緒にいることにした。
家の惨状については、明日、警備兵のところに行ってみればいいし。
「まったく疲れたぜ。工房はしっちゃかめっちゃかだしさぁ」
はぁと肩を落とすドレス。
それにしても故郷に戻って来て早々、アンラッキーだったね。
彼女は口数少なく考え込んでいるような表情をしているので、こういう時は気分転換が必要だ。
「うっま! これ、うっまいやん!」
心が落ちこんだら、とにかく美味しいものを食べるに限る。
私たちは美味しそうなレストランを探し出して、舌鼓を打つのだった。
ドワーフの国は海も近いらしくて海の幸も豊富。
メテオは特に喜んで、クエイクに干物を売りつけると意気込んでいた。
いや、姉妹なんだし、素直にお土産にしようよ。
「おぉっ、ドレスじゃないか! 帰ってきたのかよ!」
美味しくご飯を頂いていると、後ろから声をかけられる。
振り返れば、普段のドレスそっくりのお姉さんが立っていた。
髪の毛をツインテールにするのはドワーフの人たちの標準的な髪型なのかもしれない。
ドレスよりもちょっと年上の雰囲気。
顔が赤いところを見るにお酒を飲んでいたのだろうか。
「ドリューじゃねぇか! えぇと、この人はあっしのいとこのドリューっていうんだ。んで、こっちがユアさ……んで、メテオだ」
なんと話しかけてきた人は、ドレスのいとこだったらしい。
ふぅむ、道理で顔が似ている。
ちゃきちゃきしている様子もそっくりだ。
「ドリューだ、よろしくな! ふふ、ユアさん、かっこいいぜっ。この後、時間あるなら私の工房に来なよ! いい剣を見繕ってやるからさぁ」
挨拶もそこそこにドリューさんは私に工房デートのお誘いをしてくる。
彼女の胸が私の肩に当たり、不覚にもドキッとしてしまった。
ぐむむ、ドワーフの女性って積極的なんだなぁ。
「そんな風に髪を降ろしてるのひっさびさに見たぜ? あのドレス様が丸くなったもんだぜ」
ドリューさんは「えらい、えらい」とからかうようにドレスの背中を叩く。
ドレスは「うるせぇ」なんて言って、それを振り払う。
幼馴染っぽいし仲はいいんだろうけど、ちょっと気恥ずかしいっていうのもあるのかな。
それにしても、丸くなったっていう表現は面白い。
もしかして、ドレスって昔はちょっと不良だったとかなんだろうか。
「いやいや、そんなやわなもんじゃないのさ」
私の疑問を聞くと、ドリューさんはワインをがぶっと飲む。
ふぅむ、いい飲みっぷりだ。
ドレスは「こら、止めろ、話すな」というけど、お構いなしらしく話を続ける。
「こいつ、工作の腕だけは一流だろ? だから、いっつも周りの大人を煽っててさぁ。『あれぇ、おじさん、大人なのにこんなのもできないのぉ? ひょっとして、バカぁ?』なんてやってたんだよ」
うわー、すごい歴史が来ちゃった。
つまり、子供のくせに大人を煽りまくっていたってこと?
「特にレオパルおじさんなんか、20歳上なのにザコパルなんて煽られててさぁ、涙目になってたよなぁ。私、あのおっさん好きじゃないからせいせいしてたけど」
わはははと笑うドリューさん。
うーむ、今のさっぱりしたドレスとは違って、子供時代はかなり性格悪いらしいぞ。
これっていわゆる黒歴史ってやつだよね。
相当の恥辱を受けたのか、ドレスは下を向いて真っ赤になっている。
それにしても、レオパルおじさんって人が一番の被害者だよね、かわいそうに。
「にゃははは! これは傑作やで! 村一番のイケメンのドレスが、実はクソ生意気なガキやったなんて!」
そして、メテオが狂ったかのように大笑いする。
まずいよ、最も秘密を聞かれてはならない相手に聞かれちゃったよ。
誰かこいつの口を封じないと。
「ただ子供だっただけだってば! それに、メテオだって、昔はずいぶんなママっこだったそうじゃないか? クエイクが言ってたぞ。学校の先生に「ママ」って話しかけてたって」
「なあぁっ!? それはちょっとちゃうやろ!? 子供特有のかわいいもんやろがい!? それに長女いうんわプレッシャーえぐいんやで?」
そんなこんなで暴露合戦を始める二人。
もはや収集がつかないほどうるさい。
ドリューさんはいつの間にかいなくなっているし。
「ちょっと、二人とも静かにしなさい。誰にだって恥ずかしい歴史はあるでしょ! お互いに思いやりを持ちなさい!」
とっくみ合いになって店から追い出される前に、私は仲裁に入るのだった。
楽しくご飯食べてるんだから、周りの皆さんに迷惑にならないようにしなきゃいけないよね。
それに黒歴史とまで言わなくても、みんな恥ずかしい記憶の一つや二つは持っているはず。
笑いに変えちゃダメだよ。
「……せやな。現役の人がいう言葉は重いわ」
「……だな。反面教師として、気を付けなきゃいけないわな」
私の言葉に納得してくれたのか、二人はすっと静かになる。
さっきまでの熱気が嘘のようだ。
ケンカするほど仲がいいとはいえ、お互いを煽るのはよくないよ。
ん?
メテオ、さらっと失礼なこと言わなかった?
それに、ドレスもめちゃくちゃ失礼に同意してない?
その夜、私は久しぶりに怒ったのであった。
豪華ごつ盛りパフェでなんとか機嫌を直してあげたけどね。
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「あぁあ、貴重な常識人が失われた……」
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