200.魔女様、ドレスが王族だと聞いて驚くも、絶対に手放せないと先手を打つ。あと、ドレス、自分の王様を「じじい」と呼ぶな
「な、なんで、宣戦布告されてんの?」
あなたは宣戦布告なるものをされたことはあるだろうか?
私はある。今された。
見ず知らずの人からのお手紙にて『ドワーフ王国ドアンはまじてんごくおんせんていこくに宣戦布告する』などと書かれていたのだ。
たちの悪いイタズラにしか思えない。
いきなり他人の国にケンカ売ってくる人なんていないよね。
しかし、品格のある印証がぽんと押してあるのが気にかかる。
紙の素材もいいし、一抹の不安を感じてしまう私なのである。
差出人はドレープ・ドレスデン・ドアン。
ドレスデン、ドレスデンねぇ。
この名前ってもしかして……。
私は手紙を湯上がりでぼんやりしているドレスに見せる。
「ありゃ、うちのじじいからの手紙じゃないか。……え、宣戦布告?」
私がピンと来たのは、ドレスデンという部分だ。
これってドレスとまったく同じ姓であり、おそらくは血縁者かなぁと思ったのである。
まったく宣戦布告だなんて冗談にもほどがあるよ。
しかし、要件にそれだけしか書かないなんてことがあるだろうか。
「ふふ、ユオ様、この紙はこうやって操作するのさ。ほら」
ドレスが手紙を両手で持つと、手紙の半分に文字が浮かびあがる。
「はぇえええ、すごぉい、なにこれ? 魔道具?」
「ふふふ、あっしのじじいは腕のいい魔道具職人だったんですわ。まぁ、今は半分引退しているみたいなもんですが」
ドレスが言うには、他人に見られたくない事柄を伝えるために活用する魔道具なのだそうだ。
本人の魔力にだけ反応するって話だけど、私の場合は魔力がないし使えそうもないな。
それにしても、おじいさんも職人さんだったなんてドレスはそういう一家に生まれたんだなぁ。
彼女の仕事を愛する心は代々、受け継がれていたものなのだろう。
「さて、さて、要件はっと…。えぇえええ、うわ、だるいなぁ」
最初はニコニコ顔で手紙を読んでいたドレスだが、途中からだんだん顔の表情が険しくなっていく。
読み終わるころには肩を落として、はぁああと溜息をつくのだった。
「これ、魔女様も読んでみてくれよ」
「ふむふむ、……えぇええ!?」
ドレスが手紙を渡してくれたので読んでみると、その内容に驚いてしまう。
簡単に言うと、そこにはこう書いてあった。
・ドレスがドワーフ王国の王位継承者の最終候補の一人になった
・もろもろの手続きのためにドワーフの国に戻ってこさせよ
・戻ってこない場合、無理に引き留めていると見て、お前の国に宣戦布告する
「って、ドレスって王族だったのぉおおお!?」
私が一番驚いたのはこれである。
ドレスと言えば、うちの村で一番、汗と泥と鉄と火花の似合う女子である。
普段はハンマー振り回しているし、王族っていう響きとは最も遠い気がする。
いや、顔はかわいいし品はあるけどさぁ。
「いやいや、末端中の末端だよ。親父は早いうちに死んじまったし。うちのじじいが子沢山だったからな。あぁ、めんどくさい話だぜ」
ドレスは「あのくそじじいめ」などと言って笑う。
だけど、その「じじい」って普通のおじいさんじゃないよね?
「あぁ、一応、今の王様のドレープっていうじじいで」
「だから、じじいって言うのやめて!」
ドレスは口が悪いというか、ぶっきらぼうなので、頭が混乱してしまう。
あのねぇ、いくらなんでも、王様なんだし。
彼女いわく、ひょんなことから工房に現れた年寄りの職人と意気投合。
工房で金づちを打ちながら、お互いに「小娘」「じじい」と呼び合っていたそうだ。
そして、気づいたらその「じじい」は自分の血縁で、さらにその国の王様だったとのこと。
今さら「じじいを国王陛下なんて呼べねぇよ」なんていうけれど、呼んであげて。お願い。
しかし、これは困った事態なのである。
ドレスは言わば、この村の屋台骨。
どっちかというと、数少ない常識人の一人だ。
ララは何か企んでるし、ハンナ、クレイモアは戦闘狂だし、メテオにクエイクは銭ゲバだし。
常識人チームは私を筆頭に、リリとドレス、アリシア先輩ぐらいかな。
あと、エリクサーはこっちのチームだろうか。
もし、ここでドレスが抜けてしまったら大変なことになる。
これまで平衡を保っていた光と闇のバランスが崩れてしまうことになる。
それだけじゃない。
これから控えている住宅の建設計画に大きな支障が出る。
さらに言えば、温泉リゾートの改築も頓挫してしまうだろう。
特に私が危惧しているのは、今回の湯船の設置ができなくなることである。
これができるのはエリクサーとドレスしかいないわけで。
私の将来的な野望の一つである、温泉街の再現も難しくなるだろう。
あのヘンテコな木造建築の街並みを作れるのはドレスぐらいしかいないだろうから。
そして、何より、ドレスという一人の人間がいなくなるのは非常に寂しい。
なんせ村人が掘っ立て小屋に住んでいたころから、一緒に村づくりをしてきたからね。
いわば苦楽を共にした家族なのだ。
「ドレス、私は絶対、あなたを手放さないからねっ!」
とにかく、先手を打って身柄を押さえておくことにした。
ズルいという人もいるだろう。
まぁ、王位継承なんて情に訴えてなんとかなるとは思えないけれど。
「おぉっ、そう言われると嬉しいぜ。あっしもこういう堅っ苦しいのは嫌なんだ。よぉし、じじいの戯言なんざ、すっぽかしちまえばいいや!」
ドレスは満面の笑みでそう答えてくれる。
よぉし、よく言った。
あんたの言う通りよ!
えっ、ちょっと待って。
私は最後の一文を思い出す。
そこには『戻ってこない場合、お前の国に宣戦布告する』と書いてあったのだ。
「宣戦布告を気やすく使うんじゃないよ、この野郎!」という品のない言葉が喉まで出かかる。
うぅ、ドレスのぶっきらぼうな言葉遣いがうつっちゃったよ。
つまり、無視を決め込むのはまずいことになる。
だって、うちの国がドワーフの国に敵意アリってことで宣戦布告されるってわけでしょ。
建国して一か月も経っていないのに、他の国からケンカ売られるのって非常に印象が悪い。
私だったらそんな国、近づかないわ。
「ふむ、それではドレス様には一旦、お戻り頂いて、王位継承権を辞退してもらえばいいのではないでしょうか?」
温泉脇でてきぱき仕事をしていたララが的確な提案をしてくれる。
なるほど、自分から王位なんて要らないって言ってくれればいいのだ。
最終候補の一人ってことは、他にもたくさん候補がいるんだろうし。
やる気のある人にさくっと譲っちゃえばいいんだよね。
しかし、私は嫌な予感がする。
この間のメテオの件を思い出したのだ。
メテオとクエイクの姉妹を実家に帰らせたら、トラブルに巻き込まれてしまったのだ。
二人とも非戦闘員だったからってのもあるけど、ドレスだけで帰らせるのはマズい気がする。
「それなら、ユオ様はあっしの騎士として一緒に行ってくれよ。変装すればいけるだろ?」
「な、騎士?」
ドレスが言うには、王位継承者には一人ずつ護衛の騎士がつくのが習わしなのだそうだ。
なにそれ素敵かっこいい。
これなら余計なトラブルを避けることができるし、ナイスなアイデアだと思える。
しかも、このナイトっていうのは女でもOKらしい。
あの魔王様みたいに男装するのもありかなって思ったけど。
よっし、生まれて初めてドワーフの国に行ってみようじゃないの。
私とドレスの常識人チームなら、つつがなく事態を収拾させられるはず。
「ふくく、話は聞かせてもらったでぇっ!」
だが、しかし。
耳のいい悪らつ猫娘が乱入してくるのである。
その名はメテオ。
うちの村、きってのトラブルメーカーである。
「ドワーフの国に行くんやろ? せやったら、絶対、うちも行くでぇ! いろんなもの仕入れて一山当ててやるんや! うひひ、んでもって、こっちの珍しい素材を高値で売りつけてやなぁ」
メテオの瞳にはお金のマークが浮かび上がり、少しだけ涎も垂れている。
彼女は普通にしてたら美少女なのに、何がどうしてこうなったのか。
……お母さんがあぁだもんなぁ、しょうがないか。
「そんじゃ、ユオ様とメテオとあっしと、あとはうちの工房の何人かで帰るとするか! いやぁ、久しぶりの里帰りだぜ」
無理やりにメテオを引きはがすと、秘密裏に追ってきそうでもある。
はぁと溜息をついて、彼女を受け入れることにした。
村のことはララもハンナもクレイモアもいるし、大丈夫でしょうよ。
ふふ、ドワーフの国かぁ。楽しみ。
今度はシュガーショックでお城を壊すなんてことは絶対にしないようにしよう。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「魔女様が闇のチームの筆頭なのでは……?」
「メテオ顔負けのトラブルメーカーがいた気がするんですが?」
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