199.魔女様、ドレスとエリクサーが開発してくれたものに夢がふくらむ
どんどんどんどんっ!
それは私が温泉に入っている時だった。
相も変わらず、仕事が順調な時ほど、私の屋敷のドアを叩くひとが現れるのだ。
とはいえ、私が温泉でまったりしすぎるとトラブルが発生するのは、お約束に近い。
むしろ、問題発生を待っていたってぐらいなのである。
べっ、別にヤケをおこしてるわけじゃないからね?
「ユオ様! ついにやったぜっ!」
「ユオ殿、すごいもんができたぞ! ひゃははは!」
ドアを思いっきり叩いていたのはドレスとエリクサーだった。
彼女たちは、なんだかやたらと興奮していて、私を無理やりにでも外に連れ出そうとする。
ドレスとエリクサーのちょっと意外な組み合わせである。
ハンナとか、村人だったらモンスターが発生しましたぁとかなんだろうけど。
「わかったわ、ドレスがまた妙な兵器を作って、燃え吉が暴走したんでしょ?」
この村の領主を長年やっていると、大体のことでは驚かなくなった。もっとも、まだ1年もたっていないんだけど。
「ちげぇってば! 良いから、来ておくれよ! びっくりするから!」
「わしとドレスの共作なのじゃ!」
ドレスとエリクサーは予想など一顧だにせず、とにかく外に連れ出したいらしい。
サプライズイベントを用意したってことなんだろうか。
この子たちのサプライズかぁ、嫌な予感しかしない。
変な蔓状の触手の生えた私の石像とかだったら、秒で燃やす自信がある。
とはいえ、あまりの熱量に私は押し切られてしまうのだった。
「これを見てくれ! ついにできたぜっ!」
辿り着いた先はドレスの工房だった。
ドレスが工房の魔石ライトをつけると、その姿が浮かびあがる。
そこにあったのは、木材を組み合わせた真四角な箱だった。
あたりにはすがすがしい木の香りが立ち込めていた。
「こ、これは……お湯を入れるやつじゃん! あの古文書にあったやつだよね?」
そう、なんとドレスたちは、古文書に描かれていた、木でできたお湯を入れる箱を作り上げていたのだ。
いつぞやの会議の際に、これを湯船と呼んでいたのを私は思い出す。
以前、リゾートを建築する時にこれを作れないか頼んだのだけれど、ドレスの話では木材の材質的に難しいとのことだった。
「ふふふ、わしの植物操作でのぉ、防水性をマシマシにしてのぉ、精油成分をコントロールしてのぉ、まぁ、ちょちょいのちょいなのじゃ!」
エリクサーは鼻息荒く、湯船のための木材づくりを担当したことを教えてくれる。
一体どういう工程で成り立ったのかは分からない。
だけど、とにかく彼女がいなければできなかったのも事実なのだろう。
「本当にエリクサーってすげぇんだぜ! 植物の成分まで操作すんだから!」
「それを言うなら、おぬしの大工仕事も見事なもんじゃぞ!」
二人はお互いをたたえ合う。
ふぅむ、職人肌のドレスと研究者肌のエリクサー、二人が組み合わされば温泉の可能性をもっと引き出せるかもしれない。
「ユオ殿、わしはもっともっと色んな研究をしてみたいのじゃ!」
エリクサーは目をキラキラさせて、そんなことを言う。
この子、見た目は10歳ぐらいなんだけど、けっこうしっかりしてて頭もいい。
ふぅむ、これはまたすごい人材を獲得してしまったらしい。
「よっし、エリクサーの研究所をドレスの工房の隣に建てるわ」
「えぇっ、わしの研究所だと!? よいのか?」
急な話だけど、私は基本的に即断即決なのである。
そもそも、私は温泉自体を研究してみたいとずっと思っていた。
温泉を楽しく快適にするためにはお金も手間も惜しまない。
それにうちの村の周辺にはいろんな資源が眠っているのだ。
この間の聖域エリクサーもそうだし、未知の素材も生まれるかもしれない。
それらの効果を最大限に引き出すためには研究所は欠かせないよね。
クエイクに頼んで最新の実験器具を仕入れてもらおう。
「よぉし、それじゃ、この湯船はユオ様のところに運んでみようぜ!」
ひと段落すると、ドレスが素晴らしい提案をしてくれる。
彼女いわく、この湯船はまだまだ試作品で三人程度がキャパシティーだそうだ。
リゾート用にするのなら、最低でも20人ちかく入れるものを作るのだという。
なにそれすごい、わくわくが止まらない。
ドレスが指示を出すと、ドワーフのおじさんたちが台車で湯船を運んでくれるのだった。
◇
「おっしゃあ! 設置工事は気合入れて終わらせちまうぞ!」
湯船をうちの屋敷に移す工事が始まる。
お湯を持ってきて、きちんと排水できるように工事するとのこと。
どかん、ががががなどと音を立てて、ドレスは仲間たちと一緒に内湯を作ってしまうのだった。
「この配管はこっちでいいんですかい?」
「おうよ、ちょっとばかり注意してくれよ」
ワイワイと工事に励むドレスとドワーフのみなさん。
彼女の横顔は本当に楽しそうで、ドレスは今の仕事が大好きなんだなぁって伝わってくる。
ドワーフの皆さんがこの村にいてくれることを私は心から感謝するのだった。
「できたぜっ! お湯を張ってくんな!」
「うわぁあああ、すっごぉおおい!」
できあがった温泉の部屋は岩風呂と続きになっていて、半屋外なので換気もばっちり。
木の湯船はまたいい感じの風情を放っていて、お湯もなんだかとろっとして見える。
白い湯気が立ち上る様もまたかっこいい。
むむむ、私のお湯ちゃんが喜んでいるのを感じる。
「うひぃいいい、これはこれは、さいっこぉおおおお!」
満を持して、お湯に入ってみると、これまた最高なのである。
木の温もりというべきか、肌に当たる感覚が岩風呂とはぜんぜん違う。
それに何より、この香りがすごいのだ!
清涼感のある香りが鼻腔をくすぐり、ついで体の内側まで駆け巡っていく。
温泉のお湯の香りとも相まって、不思議なハーモニーを奏でている。
体だけじゃなくて、心までほぐれていくのがわかる。
「ドレスも、エリクサーも入っちゃいなよ!」
こんなにいいもの一人で占領してたら良くないよね。
私は今回の最大の功労者である、二人にお風呂をご案内するのだ。
いや、これはもう入ってもらわなきゃ絶対損だよ。
「おぉおおお! 我ながら、いい感じだぜ!」
「ほひょぉおお、香りがいいのじゃぁあああ!」
二人とも完全にとろけきって、ご満悦の様子なのである。
ふぅむ、木にお湯をプラスするだけで、また新しい発見をしてしまうとは。
温泉って奥が深いなぁ。
エリクサーいわく、さらに改良したものを温泉リゾートには配置するとのこと。
これ以外にも植物をお湯に入れる実験なども考案中だとのこと。
そしたら、いつの日かナイスバディのお湯とかも作れたりして!?
楽しみすぎるでしょ、この子たち、本当に。
エリクサーのアイデアと、それを実現するドレスのコンビによって、温泉がさらに盛り上がっていくのを確信する私なのであった。
どんどんどんどんっ!
しかし、楽しみというものは、そう長くは続かないもので。
お風呂上りに届いた手紙に私は度肝を抜かれるのだった。
差出人はドレープ・ドレスデン・ドアン。
そこにはこう書かれていた。
『ドワーフ王国ドアンはまじてんごくおんせんていこくに宣戦布告する』
はぁあああ!?
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「ヒノキ風呂っていいよねぇっていうホッコリ回だと思ったのにぃ……」
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