198.魔女様、ラインハルト家の国名を聞いて絶句してしまいます。しょうがないので、国づくりに精を出したいと思います
「よかったぁ……!」
ミラクが村を発ってから1週間、早馬で手紙が届いた。
差出人はミラク。
その内容は、
・彼女は生きていること
・バツとして女王のお世話係になったこと
・弟子として女王の魔法を引き継ぐこと
・元気であること
などが私の見覚えのあるミラクの文字で書かれていた。
女王のお世話係に、弟子かぁ。すごいなぁ。
勉強も仕事も忙しそうなので、なかなか会えないかもしれない。
だけど、それでも処刑されなくてよかった。
女王様って寛容な人格者みたいだな。
そう言えば、私の送ったプレゼントの反応はどうだったんだろう。
「ぐぅむ、まさかの賢者メイド爆誕ですか……。強力なライバルですね」
私の話を聞くララはそんなことを言うが、お世話係っていうのならメイド服でも着ているのだろうか。
ふーむ、見てみたい気もするけど。
まぁ、ララにはライバルなんていないよ、こんな腹黒なメイド、なかなかいない。
「お褒め下さり、ありがとうございます。これからも粉骨砕身がんばります」
しずしずと頭を下げる、ララ。
いや、褒めてないからね?
頑張らなくてもいいからね?
「ユオ様、大変ですぅううう!」
ミラクからの手紙を見てほっとするのもつかの間、今度はアリシアさんが屋敷に駆け込んでくる。
この人もトラブルメーカーというか、トラブルによく居合わせるので注意が必要だ。
もともとは会議のために呼んでいたんだけど大声を出すほどのことがあったんだろうか。
「ユオ様のっ、ご実家の、えーと、元・ご実家のラインハルト家がリース王国から独立して、く、国を立ち上げましたぁああ!」
アリシアさんの口から思いもかけないことが飛び出す。
えぇえ、私の元実家が独立した?
なにそれ、今、大陸で国づくりが流行ってるの?
「にしし、ほんまに親子そろって半端やないなぁ。リースの女王様もびっくりしてはるのとちゃうん?」
メテオはそう言って軽口を叩く。
しかし、これに関しては私はまったく訳が分からない。
うちの家は代々、リース王国に仕えることを誇りにしていたはず。
それを投げだして独立するだなんて、よっぽどのことだと思うけど。
とはいえ、私にとっては勘当された実家であって、交流はこれからも一切ない。
「そ、それが、独立したのはヤバス地方です! どっちかというと、お隣り同士になります!」
「げげ、最悪じゃん……」
アリシアさんが説明するには、私の父親は仲の良かった諸侯を連れ立ってリース王国から独立。
広大な面積を誇るヤバス地方に国を定めたとのこと。
ヤバス地方ってあれだよね、めちゃくちゃ治安が悪くて、一日に二回も山賊が出てくるところ。
もともとはうちの領地だったと思うけれど、大丈夫なんだろうか。
そもそも、この村に人口がだいぶ流出しちゃってると思うんだけど。
「そうですね、もはや村の人口も千人以上いきますから。ほとんどがヤバス地方からの難民ですし、今後も増えるかもしれません」
ララはさらりと言うけれど千人ってすごい規模だ。
スタートが100人だからね。
それにしても、うちの村まで移民してくる人がこれからも増えるだろうか?
幸か不幸か、ヤバス地方の方には街道なんてないから、遠路はるばる荒野を突き進まなきゃいけないし。
「しかもですよっ、その国の名前が超スーパーウルトラ神神神ラインハルトと最強勇猛諸侯連合国っていうんですよ! 物騒すぎる名前です!」
「超スーパーウルトラとりぷるごっど……?」
「超スーパーウルトラ神神神ラインハルトと最強勇猛諸侯連合国ですっ!」
アリシアさんは真剣そのものという表情だ。
よくもこんなに長い名前を噛みもせずに言えると感心してしまう。
私に至っては後半はもうほとんど忘れている。
「ほぅ、スーパーウルトラ神神神ですか……。たいしたものですね」
ララはネーミングセンスに一癖も二癖もある女だ。
彼女はこの素っ頓狂な国の名前を褒め始めるではないか。
どう考えても、10歳前後の男の子が好みそうな名前にしか思えないんだけど。
私としては超とスーパーって同じ意味なんじゃないかとか、神って文字が3つとか、そういうのに反応してしまう。
「ぷひゃひひぃいっ、お、親子そろって、ネーミングセンス爆裂してるやろ……。あかん、うちもう限界や、ひゃはははは」
メテオに至っては、笑いすぎて悶絶し、言葉が続かない。
いやぁ、向こうだって一生懸命に考えてるんだからいいじゃん、別に。
……ん? ちょっと待って!? 親子そろってって何よ?
よく考えたら、私たちの国って「まじてんごくおんせんていこく」になってるんだっけ!?
「そうですよ、ご主人様が大声でおっしゃいましたし」
ララは平然と言ってのける。
いや、どっちかというと、あんたにそそのかされて名乗ったんだけど。
しかし、嘘でしょ。
…………うわぁ、私、ヤバいやつだと思われるじゃん。
「ええい、とにかく無視よ! 実家とはもう何の関係もないし、基本的に無視する方針で行くわ! 私たちの村だって問題が山積みなんだから!」
とはいえ、よその国について心配できるほど、お気楽ではないのだ。
「せやで、よそはよそ。うちはうちや」
メテオの言うとおり、うちの村はうちの村でやるべきことがたくさんある。
「まずは法律の整備ですね。ここは私が専門家を率いてやっております」
さすがはララ、私が考えるより前に仕事を進めてくれているらしい。
法律作りって、考えるだけでも難しそうだから、ここは一つララに丸投げしたい。
「基本的なルールはこれまでのものを採用しておりますが、追加でご主人様、いえ、皇帝陛下を侮辱したら即死刑、あとは、皇帝陛下の前では息をせずに地面に頭をこすりつけること、破れば即処刑」
「は? ちょ、待って、待って、待って」
「さらに朝昼晩の一日三回、皇帝陛下を称える歌を必ず歌うこと。歌わない人間は即処刑。他には、皇帝陛下のお湯を盗んだものは舌を」
「待ってってばぁああ!」
ララはすらすらととんでもないことを言い出し始める。
どこぞの恐怖政治国家も真っ青の身勝手な法律のオンパレード。
そもそも皇帝陛下って、私のことだよね!?
人口千人の国で皇帝を名乗るって恥ずかしすぎるからやめて欲しいんだけど。
それに処刑とか怖すぎるからやめて!
あと最後に何か言い出したけど、怖すぎるから詳細は聞かない。
「えぇ、でも、ご自身で帝国と名乗られましたし……。あ、帝王がよろしいでしょうか。湯けむり帝王とか」
「湯けむり帝王……、それいい……、いや、却下!」
一瞬いいかと思ったけれど、湯けむり帝王はポンコツっぽいにおいがする。
それにどっちかというと、私は女帝なのではないだろうか。
ええい、そんな問題じゃないのだ。
とりあえず、ララには物騒な法律はつくらないように十分に念を押す。
私はみんなとフランクに付き合いたいし、多少、バカにされても気にならない。
法律の条文もしっかりチェックしなきゃね。
「あと喫緊の課題は住宅問題やで、そろそろ村を拡張する頃合いかもなぁ」
メテオにしては珍しく、次の課題に移ってくれる。
あぁよかった、彼女にまでふざけられたら収拾がつかなくなる。
今、うちの村は短期間の人口増で過密状態にあるのだ。
そもそもが100人単位の村だったのである。
村の面積だって狭いし、ほとんどが農地だ。
それがとんとん拍子に人口流入したため、村人たちは狭い中で生活している。
このままでは生活の質が下がるのではないかと危惧しているわけである。
畑を潰すわけにはいかないので、村の塀を拡張して、魔物除けを置いて可住範囲を増やさなければならない。
それにみんなのための温泉だって拡張・増設しなきゃいけない。
「よぉし、そこらへんはアリシアと一緒にうちがやっとくわ!」
「ちょっとぉお、仕事を勝手に決めないでよね、やるけど!」
この仕事はメテオとアリシアさんが担当してくれるとのこと。
アリシアさんが冒険者の皆さんに仕事を割り振ってくれれば、さくさく開拓作業も進むことだろう。
これ以外にも食糧問題などなど、たくさんやることはある。
だけど、やってやれないことはないよね。
「ふふふ、皆さん、大活躍ですね!」
仕事終わりに温泉に浸かりながら、ララは嬉しそうに笑う。
ここに来て、村の歯車がいい感じに回っているのを感じる。
話によると、リリは学校の大人気教師になっているって言うし、クエイクは街道を利用して効率的に物資を運ぶ運び屋チームを組んでいるそうだ。かっこいい。
ふふふ、人材ってこういうことを言うんだなぁ。
ハンナとクレイモアだけは相変わらずで、「おーい、ハンナぁ、モンスター狩りに行くのだぁ!」なんて、やってるみたいだけど。
まぁ、仲良きことは美しきかなだよね。
私はこの村、いや、国の発展をひしひしと感じる。
この調子で発展すれば、人口が一万人ぐらい行っちゃうかもしれないよ。
そしたら、念願の湯けむり温泉街を作っちゃうのだ!
しかし、こういう時こそ、トラブルはやってくるもので……。
◇ おまけ:女王とミラクの会話
「あ、あのぉっ、ユオ様から女王陛下に贈り物があるそうです」
「贈り物か。どうせ、つまらぬものであろう。開けて見せるがよい、な、なんだ……こ、これは!?」
「……なんですか、これ?」
「触るな! これは廃魔結晶、魔族の核にあたる魂の結晶だ。迂闊に触ると取り込まれるぞ」
「ひ、ひぃいいい。しかし、ユオ様はなぜこれを女王陛下に!? リボンまでつけて」
「わらわへの挑発だろう。お前も油断してたら、こうなるぞ? という……」
「そ、そんな!? お姉さまは、ユオ様はそんな暴力的な人ではありませんっ!」
「ふん、知らないのか、貴様。あの女はこれまでに……」
女王はミラクにユオの伝説ともいえる噂話を吹き込む。
ゾンビ化したドラゴンを一掃したこと、
荒れ狂うモンスターの群れを薙ぎ払ったこと、
そして、魔族を聖水で退治したことを。
「わ、私の知っているお姉さまじゃない……」
ミラクは愕然とした表情でその話を聞くのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「小学生の男児にピンポイントで刺さるネーミングセンス……!?」
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