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195/352

195.魔女様、ミラクをお湯に沈める。そして、とんでもないことをしてしまったことに気づく


 サジタリアスの一件以降、村に戻った私たちは静かな日々を過ごしていた。

 ハンナとクレイモアはモンスターハントにでかけ、リリは学校の先生として再スタートだ。


 エリクサーは荷物を持ってくるとか言って、いつの間にか現れたサルと一緒に戻っていった。

 こっちの村に戻る際にメテオとドレスを連れてきてくれるという。ありがたい。


「ふぃいい、極楽だよねぇええ」


 私はというと、戦い疲れを癒すための温泉三昧である。

 朝夕晩と三回も入って温泉の良さを噛みしめる。


 いくら空間袋にお湯を入れられるからといって、全く同じとは言えない。

 こうやって広い空間の中で温泉につかることこそが格別なんだよなぁ。


 ふふふ、温泉リゾートの開発もしっかり行っていかなきゃね。

 実をいうと、あれから色んなアイデアが浮かんできているのだ。



 ミラクはというと、あれからずっと眠り続けていた。

 辺境伯は私たちに彼女の身柄を預けてくれると言ってくれたので、村まで運んできたのだ。

 

 リリは毎日、ミラクに回復魔法をかけてくれている。

 いつかきっと目をさましてくれると信じていている。

 この村はいい場所だから、きっとミラクも気に入ってくれるだろう。




 数日後の夕方。



「ご主人様! ミラク様が目を覚まされました!」


 今日もお仕事、お疲れ様というタイミングでララが駆けこんでくる。

 彼女は微妙な表情で、単なるいいニュースとは言えないようだ。


 執務室にいた私とララとクエイクは慌ててリリの治療所に駆けこむのだった。



「私を殺してくださぁああああい! 生まれてきてすみませぇええええん!」


 そこにはギャーギャー叫んでいるミラクがいた。

 せっかく意識を取り戻したのに、殺してくれとは穏やかじゃない。


「ミ、ミラク、一旦、落ち着こう!?」


「ユオ様、私、飴ちゃん、もってるで!」

 

 クエイクが懐からピンク色の飴を取り出すので、わぁわぁ泣き出しているミラクにあげる。

 彼女はそれを口に含むと、徐々に落ち着いていくのだった。



「お姉さま、本当に、本当に申し訳ございません! 全部、私が悪いんですぅうううう! 私のせいで世界がめちゃくちゃに。ひぐっひぐっ、実は……」


 それからミラクは自分に起きたこと、自分のしでかしたことについて話し始める。

 一言で言うと、私に会いたくて右往左往してたら魔族に利用された、ということだった。

 簡単すぎる要約だけどそんな感じ。


「私はいろんな人にご迷惑をおかけしたのです! もうこの体を四散させて死ぬしかありませぇええん。私なんて眼鏡をかけたゴミクズですぅううう、唸れ轟音の刃、斬り裂け私の腹」


 彼女は自分の腹部に攻撃魔法を仕掛けようとするので慌てて止める。

 もともと彼女は責任感の激しい人物だった。

 もはや罪悪感と相まって、錯乱しているといってもいい状況だ。


 彼女のしたことは大きな被害をもたらしたし、罪の意識が消えるものでもないだろう。

 だけど、自分の命を絶つほど思い詰めるほどのものかは分からない。


 幸いにも世界樹の村にもサジタリアスでも死者は出なかったみたいだし。



「ミラク、あんたに見せたいものがあるわ」


 彼女の心の内側を完全に理解することはできない。

 だけど、私にはあれがある。


 どんな心の傷もちょっとだけ埋めてくれる、素晴らしいものが。


 リリの回復魔法のおかげでミラクは歩くことができたので、私はそこに連れていくのだった。





「ひぃいいいい、何なんですか、ここは!? ……わ、わかりました、ここが私の処刑場なんですね!?」


 到着したのはもちろん、私の館の温泉である。

 とはいえ、ミラクは滅茶苦茶な勘違いをしてくれる。

 この子はこの子で勘違いが甚だしい。


 こんなに素晴らしい処刑場があるかっていうの。



「いいから、服を脱ぎな」


「ひ、ひぃいいいいい、服を脱いでから処されるのですか!?」


「ララ、お願い」


 大騒ぎするミラクにちょっと辟易した私はとりあえずララにお任せすることにした。

 彼女の瞬間早脱がしの技の前には、ミラクであっても手も足も出ないだろう。


「ミラク、これが温泉だよ。入ってみて」


 私は彼女に温泉に入ることを促す。

 今日は初心者でも入りやすいように少しぬるめのお湯だ。


 ふぅ、疲れが吹っ飛ぶぅうう。


「わかりました、これに入ると私だけが溶けるんですね? クソザコナメクジにはぴったりの末路ですぅううう」


 ミラクはお湯の前でぷるぷると震える。

 個人だけをピンポイントで攻撃できるほど、うちのお湯は器用じゃない。

 塩分はあるかもだけど。


 彼女は「お姉さまに看取っていただけるなら本望です、しみるぅううう」などと言いながら、ちゃぽんとお湯に入ってくる。


 さぁ、その変な思い込みを捨てるがいいよ、ミラクちゃん。



「は、はぇぇええええ!? なんですか、これは!? まるで高度な魔法術式を一滴のお湯に込めたような最高の肌心地です。イスラカンタの大魔法陣のような快感です!」


 温泉につかったミラクはその快感にびっくりした様子だ。

 イスラなんとか何だか分からないけど、きっと褒めてるんだよね。


「ミラク、無理にしゃべらなくていいよ。ゆったりしてな」


「え、だって、私は……お姉さまに処刑を……」


「いいから」


 ミラクはその後も何かを言いたげだったけれど、私は目を閉じる。


 頭の中にたくさんの情報が行きかっているときは温泉にゆったり浸かるのがいいのだ。


 お湯に浸かると頭がちょっとぼんやりする。

 だから、考え事をしようにもそこまでうまくはできない。

 でも、その代わり、余計なことを考えて後悔したり、不安になったりすることもない。


 温泉から上がるころにはスッキリして、案外、いいアイデアが出てきたりするものなのだ。


 彼女の罪の意識や傷が消えるとも思えないけれど、少し立ち止まることはとても大事なことだと思う。



「温泉、気持ちいいでしょ?」


「はい……」


 私たちはしばし言葉少なく、お湯に浸かってまったりするのだった。



 その後、温泉に入って緊張がとれたのか、彼女はすぐに眠ってしまう。

 その寝顔は憑き物が落ちたようにスッキリした表情だった。


 今は思い悩んでいても、時がたつにつれて少しずつ現状を整理できるだろう。

 ずっとうちの村にいてくれていいんだからね、ミラク。


  





「お姉さま、いえ、ユオ様、私はリース王国に帰らせていただきます」


 次の日。


 ミラクの口からとんでもない言葉が飛び出した。

 朝だって普通に挨拶をかわしたのに、何をそんなにいきなり。


「えぇええ!? 温泉が肌に合わなかった? いや、うちの村にはね、いろんな種類の温泉があってだね? 料理だってそりゃもう格別のものが」


「いえ、温泉も料理も最高でした。素晴らしかったです!」


「だったらなにゆえ……!?」


 混乱のあまり口調がかわってしまう私なのである。

 だって、ミラクが村を出るなんて言い出すから。


 美味しい料理と温泉以外に人間が必要としているものってあるのかしら。



「ミラク様、今は止めておいた方がよろしいかと。おそらく、リース王国でのミラク様の立場はかなり危ういものと思われます」


 ララが少し冷たい雰囲気を発しながら忠告をする。

 昨日のミラクの話を聞くに、彼女は騙されていたとはいえ勝手に魔族と国を出て、ベラリスってやつの復活に加担したわけで、おとがめなしとはいかないだろう。


「そうだよ、外交的にどうにかできないか探ってみるからさ。私たちに任せなさいってば」


 サジタリアスの被害については第一魔王の賠償金でなんとかなった。

 だけど、ミラクの所属するリース王国については話は別だ。

 私たちは交渉を通じて、彼女の身を守らなければならないのだ。



「いいえ。私のまいた種です。自分で償わなければ気がすみません」


 ミラクは私の目をしっかり見て、きっぱりとそう言う。

 その瞳は昨日の悲しみに沈んだ状態のものではなかった。

 

 これから自分にどんなことが起きようとも、受け入れるという覚悟をもった瞳だった。


 この子は昔から意志の固い人物なのだ。

 一度決めたらテコでも動かないってことを私は知っていた。



「わかったわ。でも、自分の命を大事にするのよ。また、私に会いに来るのよ?」


「はい……」


「約束だからね、ぜったいに」


「はい、お姉さま……」


 私は彼女をがっちりとハグする。

 前までは身長差がかなりあったのに、今では5センチぐらいしかなくなっていた。

 短期間の間に人間って成長するものなんだなぁと私は感じるのだった。



 その後、私はミラクの処遇のためにリース王国の女王様に手紙を書く。


 彼女は罪を反省しているということ。

 賠償金をたっぷり支払う準備があるということ。

 辺境送りにする場合には私が責任をもって受け入れるということ。

 絶対に処刑するのは止めて欲しいということ。


 これらをユオ・ヤパンの名義で丁寧に書いておいた。

 

 そして、女王様に心ばかりの贈り物を送ることにした。

 私はそれをリボンでしっかり飾る。

 きれいな箱に入れれば、かなりかわいい雰囲気。

 

 ふふふ、これで女王様の心象もだいぶ良くなるはず!



「それでは、行って参ります!」


「気をつけてね!」


 ミラクはその日の昼のうちに、サジタリアス経由で帰っていく。

 彼女いわく、魔法で身体強化をすれば馬並みに速く走れるとのこと。

 うぅむ、すごい。


 私は彼女の背中を頼もしく眺める。

 去り際のはじけるようなミラクの笑顔はちょっとまぶしいぐらいだった。

 待ってるからね、ミラク。





「ただいま、戻ったのじゃ! これから人間を理解するために、お世話になるぞ!」


「うちらもお帰りやでぇ!」


「ただいまぁ! エリクサーの植物操作、これってすげぇぜ!」


 次の日。


 ミラクと入れ替わるようにエリクサー、メテオ、ドレスの三人が村に戻ってくる。

 メテオとドレスはどうなったことやらと心配していたけど、無事で何より。

 話を聞く、あの世界樹の機械を壊してくれたそうで、えらすぎると褒めちぎる。


 もちろん、女神の涙を消費したについては、しっかりと謝っておく。

 そりゃあもう、地面に額をつける覚悟で。



「ええんやで。ユオ皇帝陛下に謝られることなど一切あらへんわ」


「そうだぜ! また珍しい素材が出てくるはずだろ、ユオ皇帝陛下!」


 二人の反応は予想外のものだった。 

 てっきり激怒して口をきいてもらえないんじゃないかと思っていたのに。


 しかも、私のことを皇帝陛下なんて呼んでふざけている始末。



「なによ、その皇帝陛下って? 流行ってるの?」


「ふふふ、自分で魔地天国温泉帝国って名乗ってたやん?」


「何でそれ知ってんの? あ、エリクサーから話を聞いた?」


「あはは、あっしらもユオ様の戦いぶりを見てたんだよ、あの世界樹の村で。そしたら、独立宣言までしちゃうんだもの、しびれたぜ!」


「は、え、うそ……?」


 ぽかぁんとする私なのである。

 だってあの第一魔王とのプライベートな会話が誰かに聞かれている、いや、見られているなんて思わないし。

 うわぁ、魔族の人に知られちゃったわけ?

 あんなのただの冗談だよ、恥ずかしいなぁ、もう。



「ご主人様! 大変です! あの独立宣言ですが、おそらくは大陸中に知れ渡っているとのことです。ザスーラやリース王国の複数の冒険者からあれを見たと報告が上がっています! ふくくく」


 そして、タイミングよくララが現れて、とんでもない報告をしてくれる。

 なんと魔族の村だけじゃなくて、人間の国にも知れ渡っているらしい。


「どぇえええ、うっそぉおお、ただの茶番につきあっただけなのに!? って、ララ、あんたなんで笑っているのよぉおおおお!?


「笑ってなんかいませんよ。ふくく」


「笑ってるよね?」


「それで、アリシアさんによれば、ユオ様が戦っている一部始終も知れ渡ったとのことです。非常に困った事態です! ふくくく、ひぃっひぃっ、お腹が痛い」


 ララはやっぱり笑っている。

 いや、笑いすぎて腹痛を起こすレベル。

 あんた、ぜったいに困った事態だって思ってないでしょ!



 やばいじゃん、これ、どうするのよ!? 


 っていうか、ミラク、こんな状況で帰っちゃって大丈夫なんだろうか?

 

 リース王国の方角に禍々しい黒い雲が流れていく。

 私はそれを眺めることしかできなかった。


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「え、私、独立宣言なにかやっちゃいましたか……!?」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークやいいねもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 久し振りにアリシアぱいせんの名を見た気がする。 [気になる点] イスラカンタの大魔方陣って何?と思ってついついggちゃったよ...(^^;) [一言] ガガン一家崩壊、遂に秒読み...た・…
[一言] リース王国の冬が近い? 魔女様帝国の春も近い?
[一言] やっちゃった発表からのきっかけでどうなることやら
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