192.魔女様、突然の偉い人、登場にビビる。あんまりにも「イケメン」だったので見とれていると、え、え、ええええ!?
「やりましたぁ! 魔女様ぁああああ!」
「さっすがなのだぁ!」
「ユオ様、ありがとうございますぅうう!」
「やったのじゃ!」
ベラリスを小石に変えると、村のみんなが笑顔で駆け寄ってくる。
もみくちゃにしてくれるのは苦しいけど、嬉しい。
「あのぉ、最後に投げたの何ですか? え、うそ、ほんま? あわわわ」
その隣でクエイクは呆然とした表情。
その一部始終をエリクサーに聞くと、さらに青ざめる。
倒れなきゃいいけど。
ミラクは意識を失っているから、そのまま救護班の人が連れていってくれた。
内心複雑かもしれないけれど、今の戦いを見てた人なら分かるだろう。
彼女はただ肉体を乗っ取られていただけだって。
そして、私にはまだやるべきことがある。
「ひぃいいい、ベラリス様がやられただとぉおおおお!? こんなはずではぁあああ!」
上空には大慌てで逃げる魔族が一人いるのだ。
ベラリスの手下だった、性格の悪いおじさんである。
おそらくはこのおじさんがベラリスを復活させたんだろうし、きつく説教しないといけない。
それに城を壊したことを賠償してもらう必要がある。
「逃がさないわよ?」
相手はヘロヘロした速度でどうにかこうにか逃げようとする。
しかし、こっちは温泉パワーで元気がたっぷり。
どぎゅんっと熱を入れると、すぐに追いつきそう。
「ひ、ひ、ひぃいい。付いてくるなぁ!? この化け物がぁあああ」
私は彼を捕まえようとするも、相手は逃げ出してしまう。
しかも、ちょこまかと動き回るから、逆戻りして城の上の方まで来てしまった。
ええい、こうなったら仕方ない。
無傷で捕まえるには熱失神で気絶させるしかなさそうだ。
あとは墜落するおじさんを回収すれば一件落着ってわけである。
大丈夫、初めてでも優しく気絶させてあげるから怖くないよ。
私が熱失神を発動させようとした矢先、それは現れた。
「な、なぁああああ? なぜ、なぜ、ここにぃいいい!?」
おじさんは足首を持たれて、真っ逆さまに吊り下げられていたのだ。
その足首を持つのは真っ黒い服を着た人だった。
黒いマントで全身を覆っている真っ黒コーデである、只者じゃない。
「はわわわわわ」
その人を見た瞬間、私は凍りついてしまう。
生まれて初めてみるぐらいの、それはそれは美しいイケメンだったのだ。
いや、美男だった。同じか。
紫色がかった銀色の長い髪の毛、切れ長の瞳、肌は褐色に近い。
ちょっと無表情だけど、その顔はあんまり整いすぎていて怖いぐらいだ。
身長も高そうだ。
見ているだけで、はぁああと溜息が出てくる、その姿に私は呼吸するのも忘れそうだった。
いや、別にイケメンが好きってわけじゃないよ?
ただ美しい景色を見たら息を吞むよね?
それと同じ原理だよ?
「ドグラ、久しぶりだな……」
その褐色の美男子は魔族のおじさんを捕まえたまま口を開く。
その声は想像よりも高くて、セクシーな声質だった。
「ひ、ひぃいいいいいい、第一魔王さまぁあああああああ!?」
おじさんは情けない叫び声をあげる。
そして、その言葉に私たちは凍り付くのだった。
おじさんは言った。
第一魔王、と。
すなわち、禁断の大地のさらに北にある、魔王の治める国からやってきたっていうのだろうか。
確かに雰囲気は強そうだし、真っ黒だし、魔王っぽいのかもしれない。
でも、角は……生えてないみたいだ。耳はとがっているけど。
えぇええ、うっそぉお、魔王って実在したの?
いや、知ってたけども、いるってことは。
でも、わざわざ、こんなところに出張ってくるようなものなの!?
そもそも何のために!?
私に世界の半分をやろうとか言いださないよね!?
いろんな思考が脳内を駆け巡る。
そうこうするうちにその第一魔王とやらはサジタリアスの城へと降りていった。
人間の前においそれと姿を現していいのだろうか。
「レーヴェ、今の言葉、聞いたか?」
「き、聞きました。もう今日は何が起きても驚かないって決めていたんですが……」
当然のごとく、皆、目を丸くしてざわついている。
辺境伯たちに至っては完全に顔色が悪い。
「灼熱よ、この男はうちの国宝を盗んだ大罪人だ。悪いが、もらっていく」
魔王はそういうと、魔法か何かでおじさんを小さな小瓶に閉じ込めてしまう。
まるでおもちゃみたいに小さくなって騒いでいるおじさん。あんがいかわいい。
しかし、いくら相手がイケメン魔王だからって、好き勝手にされちゃ困る。
サジタリアスだって甚大な被害を受けているのだ。
「ちょっと待ってよ。そのおじさんには色んな迷惑をうけてるんですけど! せめて、賠償金ぐらいもらわないと気が済まないわ」
魔王って、かなり偉いとは思うのだけど、ここは思い切ってタメ口で話す。
だって、あまりにも突然の話だよね。
私がそのおじさんを捕まえたようなものなんだし。
ハンナとかクレイモアなら問答無用で斬りつけかねないぐらいだよ。
「ふむ、賠償金か。これで足りるか? 両手を出すがいい」
魔王はそういうと、腕輪や指輪、あるいは首から下げた宝石を私に手渡してくる。
「お、おもっ!?」
それは高級品ぞろいなのか、ずっしり重い。
いや、重いどころじゃない。
両手で支えるだけで精一杯なぐらい。
「ひぃいいいいい、こりゃ、半端やないでぇえええ!? こんなんお釣りがいるやん! そもそも、サジタリアスの城はユオ様にやられた分の方が被害甚大なんやでぇ、いや、これは言わんとこ。へひひひ、おおきにぃ」
クエイクが素早く現れ、即興で鑑定してくれる。
ふぅむ、賠償金としては十分な価値のある宝石らしい。
さすがは魔王様、十分な財力をお持ちのようですね、ふっくっくっくっ。
ちなみにクエイクの言葉の後半の方は聞いてないふりをする。
いや、不可抗力みたいなものだろうし。
「待つのだ、魔王! あたしはあんたと手合わせしてみたいのだ!」
「私もです! 魔王とか言ってニセモノかもしれません! 新手の魔王詐欺です!」
取引が成立したかと思ったら、今度は世界を理性で見ていない奴らが二人。
我らが村の村人Aと村人B、クレイモアとハンナである。
こいつら強い相手にケンカ売ることしか考えないからなぁ。
しかし、ハンナの言っていることも当たっているかもしれない。
あの魔族のおじさん以外、この美男を魔王って呼んでないし、角だって生えてない。
「ならんぞっ!」
しかし、二人の熱気をいきなり冷ます人がいる。
後ろから、大きな声を出したのは村長さんだった。
さっきまでの戦闘でへたり込んでいたけれど、もう元気になったようだ。
「ほぅ、久しぶりだな、サンライズ。まだ生きていたか」
「お前もな、イシュタル……」
何気なく挨拶をかわす二人。
その会話の素振りから言って、なんと二人は知り合いだったみたいだ。
私たちが入れる空気でもなく、その様子を固唾を飲んで見守る。
「姉上殿は元気か? ……いや、今はこう呼ばれているのか。白薔薇の女王と」
「そりゃそうじゃろう、あんなの元気以外のなにものでもない。相変わらず化け物じゃぞ」
「ふくく、私の代わりに魔王をやってほしいぐらいだな」
「まったくじゃのぉ、そっちのほうが似合う」
二人はぼそぼそと言葉を交わす。
不運なことに風がびゅうびゅう吹いていて、何を話しているのか聞き取れない。
おそらくは因縁のある相手との深刻な会話なのだろう。
はっきり聞こえない中で白薔薇という単語だけは聞こえた。
実はあの魔王、お花が好きなんだろうか。
確かに背景にバラの花を背負ってそう。まつ毛長いし。
はぁ、会話してるだけなのに美しすぎる。
心なしか村長さんの背景にも花が咲き始める。
「まおぉおしゃまぁあああああ!」
見とれていたらもう一人、後ろからエリクサーが大きな声を出して駆け寄ってくる。
なるほど、彼女も魔王と知り合いだった可能性は高いよね。
だって魔族なんだし。
「おぉっ、エリクサーか。この度は私の監督不行き届きだった。大変な目に合わせてしまったな」
「しょ、しょんなことはないのじゃですぁあああ! だいしゃんまおうだいりほしゃみずやりががりとして頑張りましたぁああああ!」
魔王の足元に寄り添ったエリクサーはわぁんわぁんと泣き叫ぶ。
しかし、魔王はエリクサーを抱っこしてあやすではないか。
その表情は柔和そのもので、最初に見た冷徹な瞳とは大違いだった。
やだもう、この魔王、性格までイケメンなの?
「え……」
この時、私は凍ってしまった。
私の心が。
私の思考が。
だって!
だって!!
だって!!!
私は見てしまったのだ、魔王がエリクサーを抱っこした時にマントから露出した、その体を。
すらっとした脚。
きゅっとしまった腰。
そして、びっくりするぐらい、大きなお胸があったのだ。
なんていうか、クレイモア以上。
ぼぼんって大きなものが突き出しているのだ。
マントで隠れていてさっぱり分からなかった。
えぇえええええええええ。
この魔王の人、女だったのぉぉおおおお!?
うっそぉおおおお!
◇ その頃、ララはシュガーショックに乗りこんだ
わぁおおおおおおん!!
その頃、ララはシュガーショックの背中に乗り、大急ぎでサジタリアスに向かっていた。
村の防衛戦に成功し、ひと段落ついた際にシュガーショックが迎えに来たのだ。
その表情は何かを言いたげで、ララはすぐにピンとくる。
サジタリアスでとんでもなく面白いことが起こる気がする、と。
居ても立っても居られなくなった彼女はシュガーショックに飛び乗る。
風がびゅんびゅんっと頬を切る。
その快感にララはわくわくするのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「優しく気絶させてあげる……?」
「初めてのイケメンキャラだと思ったのにぃいい……」
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