191.魔女様、みんなと力を合わせて魔族のベラリスを盛大におもてなしする。とどめにはあれをプレゼントしちゃうので、メテオもドレスも失神不可避!
「くははは! どんなに不可解な力を持っていようが所詮は人間よ! お前たちはその下らぬ感情によって死ぬのだぁああああ!」
ベラリスの猛攻は続く。
何百発もの火炎弾が私に飛んできて炸裂する。
そよ風みたいなものだし痛くも痒くもないんだけど。
「はしゃいでいるところ悪いけど、ミラクの体は返してもらうわ!」
私が取り出したのはデスマウンテンで見つけた空間袋だ。
その中にとっておきのアレが入っているのである。
「ふはははは! なんだ、そのゴミは? 今さら足掻いても手遅れだ! しねぇえええ!」
奴は私の空間袋を盛大に笑う。
ゴミとまで言ってくれる。
「残念だったわね、あんたはそのゴミによって世界の素晴らしさを知るのよ」
確かにララたちにもボロボロだってと言われたもんなぁ。
私、この戦いが終わったら、このバッグに刺繍をしてきれいにしてあげるんだ。
「おしゃべり中、悪いがのぉ、死ぬのはお前じゃ!」
空間袋をもって対峙しているところ、魔族の後ろに現れたのが村長さん。
ほとんど音もなく、いきなり現れた。
えぇえ、城からジャンプしてきたってわけ?
彼はベラリスに斬りかかる!
「ちぃいいっ!?」
しかし、ちょっとだけ飛距離が足りない。
あと少しのところで刃が届かない。
悔しそうに「やっぱり膝がつらいのぉ」と言って、城へと降下していった。
膝がつらいのにあんなにジャンプしていいんだろうか。
村長さんの飛び入りには驚いたけれど、それは敵だって同じ。
ありがたいことに、隙ができたのだ。
「喰らえっ!」
私は空間袋の口をベラリスに向ける。
そして、あれを噴出させるのだ。
それは子供の遊ぶ水鉄砲みたいな勢いで飛び出し、奴の顔に直撃!
村長さんの助けのおかげだよ、ありがとう!
「ぐぅおぉぉおおおおおお!? なんだ、これはぁぁああああ!?」
それを浴びたベラリスは顔を抑えて、空中なのにのたうち回る。
しまいには城の方までひょろひょろと落ちていく。
ふふふ、効いてる。
やっぱり思った通り、効いてるじゃん!
私は会心の一撃に気を良くして、ベラリスを追いかけるのだった。
「き、貴様、何をしたぁあああ? その地獄のようなにおいのする邪悪な水はいったい何だ? 聖女の結界すら越えられる私を苦しめるとはぁああああ!」
城になんとか着地したベラリスは顔からしゅーしゅーと水蒸気をあげて恨み言を言ってくる。
邪悪な水とはずいぶん失礼な奴。
独特なにおいはするけどもさぁ。
とはいえ、そろそろ種明かしをしてあげてもいいよね。
「ふふふ、これこそ、うちの魔地天国温泉のお湯ちゃんよ!」
私のアイデアとは我が愛しの温泉ちゃんのお湯をぶっかけることだった。
シルビアさんの一件や、エリクサーの村の一件で私は学んでいた。
このお湯には偽装魔法を無効化したり、魔法によって操られた精神を解放したりという効果があるのだ。
ミラク・ルーの肉体を乗っ取った魔族にも効果があるのではないかと踏んだのだった。
そして、結果は大当たり。
温泉のお湯をかぶったあいつは大喜びしてくれている。
「さっさとお湯につかってしまいなさい! 言っとくけど、私がお湯につけようと思って、逃げられた奴はいないのよ!」
空間袋を向けて見えを切る。
ふふふ、これはまだ序の口だよ。
「お湯ちゃんだとぉおおおお!? この期に及んでふざけるなぁああああ! 城の連中ごと地獄に送ってやる! 闇の蝙蝠!」
ベラリスはかなり往生際の悪い性格らしい。
背中の真っ黒な円から、大量の真っ黒こうもりを飛び立たせる。
ぎゃあぎゃあとうるさいコウモリたち。
中には人間ほどもある大きなコウモリもいて、凶悪そうな牙を見せる。
「人間どもがぁああああ!」
ばっさばっさと襲い掛かる蝙蝠たち。
さらにはベラリスは強力な魔法攻撃をしてきて、お湯の噴射を寄せ付けない。
このままじゃ、お湯を当てるのは難しそうな雰囲気。
「魔女様、助太刀、いたしますぞ!」
「魔女様、コウモリを排除します!」
「でっかい奴はあたしがもらうのだっ!」
思案していると、村の三人が援護に入ってくれる。
相変わらずのすごい剣技でコウモリの数を減らしてくれる。
ありがたい。
「聖者の盾よっ! 仲間を守れっ!」
敵の魔法攻撃はシルビアさんがなんとかしのいでくれている。
失神から立ち直ったらしい。
すごいよ、ありがとう!
よぉし、これならいける?
しかし、私は感じていたのだ。
まだ足りない。
もっとこう、芯から温まるぐらいの威力の温泉にしなきゃいけないってことを。
なんていうか、めちゃくちゃゴージャスな温泉に。
「リリ、エリクサー、ちょっと来て! あのね…」
私は奥にいた二人を呼び出して、ある作戦を伝える。
みんなで息を一つに合わせて、あの魔族をやっつける方法を。
「な、なんということを。正気か!? あの二人が黙っとらんぞ!? いや、やってやれんことはないけども」
「わ、わかりました! 頑張ります! 聖なる力を集めます!」
エリクサーとリリは対照的な反応。
困惑するエリクサーとやる気にあふれるリリ。
それでも、何とか首を縦に振ってくれる。
「よぉし、あいつに温泉のすばらしさを教えてやるわ!」
そう、ミラクの体を取り戻すには、それしかないのだ。たぶん。
あとはとっ捕まえて、うちの村の温泉に2泊3日で至れり尽くせり接待するぐらいしか手はない。
「村長さん、ハンナ、クレイモア、あいつを足止めして!」
さすがは戦いのセンスが抜群な三人だ。
私が指示をだすと、即座に意図を理解する。
彼らはバラバラな動きをして、ベラリスを翻弄。
「くははは! かかってこい、人間どもぉおおお!」
背中から黒い霧を出して3人の達人を相手にしてさえ奮闘するベラリス。
しかし、奴は気づいていない。
真正面に十分な隙ができていることを。
「よぉし、いっくよぉおおおお!」
空間袋から、溜め込んだ温泉のお湯を一気に放出!
どどどっとものすごい勢い。
温度は相変わらずほかほかで、絶対、気持ちいいやつ!
「ぐぅおぉおおおおお!? な、なんだとぉおおお!?」
直撃したベラリスは身動きが取れない。
少しずつ奴の黒い霧も消えていく。
よっし、今だよ!
「喰らえぇえええええ! このシャバ僧がぁあああ!」
そして、次に放たれたのがリリの聖なるエネルギーだ。
暖色系の色をしたそれは私のお湯にまとわりついて、癒しの力をさらにUP!
リリの口調が変わってる気がするけど、感極まってる感じなんだろう。かっこいい。
「よぉし、わしは薬草、詰め合わせセット、今なら健康茶増量中なのじゃ!」
さらにエリクサーが薬草をどんどん追加。
彼女いわく、手持ちの薬草はありとあらゆる症状に対応したものらしい。
温泉やリリの聖なるエネルギーと組み合わせれば、ベラリスの魔法にも対抗できるかもしれない。
「あ、あのぉ、ユオ殿、これはお願いするのじゃ!」
そう言いながらエリクサーが私に手渡したのは、女神の涙と呼ばれる宝石の入った袋だった。
村を救ってくれたお礼に彼女が私たち、特にメテオとドレスにくれたものだ。
それはものすごい魔法の増強効果があるらしく、高級な素材らしい。
確か100粒ぐらいあったはずであり、もらった二人はもう喜んだのなんの。
だけど。
「ありがと! ベラリス、観念しなさぁい!」
私は袋の口を開けると、そのままどぷんっとお湯の中に投げ込む。
袋から零れ落ちたそれはキラキラと輝きながらお湯の中に消えていく。
メテオとドレスに怒られちゃうだろなぁ。
でも、話せばきっと分かってくれるはず。
ごめんね。
しゅぃいいいいいいいいいん……。
女神の涙まで投げ入れると、へんてこな音と共に、温泉のお湯が光り輝き始める。
その光はなんていうか七色に近くて、まるで虹のようにさえ思える。
お湯が、光り輝いている!?
「ぐ、ぐぉおおおおおおおおお………お、お、お……」
大量のお湯を浴びたベラリスはその場に倒れこむ。
さぁ、どうだろう?
「……こ、こ、は? ……あ、れ、お、お姉さま……!?」
そして、倒れこんだ彼女は潤んだ瞳でそういうのだった。
間違いない、あれはミラクだ。
私のミラク・ルーが戻ってきたのだ。
倒れた体の上方には真っ黒な霧のようなものが漂っている。
ってことは、あの霧みたいなのがベラリスの本体だってこと!?
「く、くそぉおおおおぉお、人間のくせにぃいいい」
奴はひょろひょろと逃げ出そうとするけれど、そうは問屋が卸さない。
城を破壊してくれたことや、ミラクを乗っ取ったことをしっかり償ってもらわないと。
そして、温泉の気持ちよさについても一言伺いたい。
「さっさと負けを認めなさいっ!」
私が追加で温泉のお湯をぶっかけてやると、霧は完全に消失。
そして、残ったのは真っ黒な小石だけ。
ふーむ、なんなのこれ。
拾い上げてみるも、別になんとも感じない。
つまり、敵は完全に沈黙したってわけだよね。
なるほど、これが私たちの温泉パワーってわけね!?
◇ 気の迷い的なおまけ:燃え吉、逃げちゃダメだ!
「ララさん、モンスターが来ましたぁあああ!」
さかのぼること数時間前。
ユオの村に大きな声が響き渡る。
村人からの知らせを聞いたララは眉間にしわを少しだけ寄せる。
やはり、予想していた通り、この村にもモンスターが押し寄せる事態になったのだ。
敵はハンターがいつも狩っているイノシシやトカゲを主にしている。
数は多いが、こちらの戦力から言えば大したことはなさそうだ。
油断しなければ、必ず勝てる相手である。
しかし、次の知らせにララは表情を険しくする。
「サイクロプスが出ましたぁぁああああ! 魔断の渓谷にいる奴です!」
「しかも、2頭います!」
見張りをしていた村人たちは血相を変えて飛び込んでくる。
サイクロプスとは一つ目の巨人のことで、遠くの渓谷に住むモンスターだ。
人間を好んで食することで知られており、その大きさは10メートルを遥かに超える。
禁断の大地を代表する化け物の中の化け物の一つだった。
「ひいぇえええ、あれを相手にするのかよ!?」
「イノシシだけじゃねぇとはなぁ」
歴戦のハンターたちも苦い顔をする。
サイクロプスが大木のような腕を振るうだけで、村が破壊されるのは簡単に予想できることだった。
しかし、ララは冷静だった。
幸いにもサイクロプスの歩みは遅く、村に到達するまで時間はまだある。
彼女はドワーフの工房に向かうと、ドワーフたちと打ち合わせをするのだった。
そして、彼女は村の前に陣を構えると、防衛作戦を決行する。
どどどどどどどと、遠くから音を立てて進軍してくるモンスターたち。
そして、その後ろには巨大な一つ目の巨人が二頭。
ハンターたちが弓矢を射るが、サイクロプスには効果は薄いようだ。
「やはり皮膚が固いんでしょうか?」
「えぇ。あいつに対し通常攻撃では役に立ちませんよ」
ドワーフとララは村の塀に立って、サイクロプスをにらみつける。
そして、ララは陣の片隅に燃え吉を呼び出すのだった。
「燃え吉。これに乗りなさい」
「は? ええ? こ、これっていうのは、これですかい? しかし、前よりも大きくなってませんか?」
燃え吉の前にあるのは、ユオの石像だった。
しかし、先日のものよりも二回りほど大きくなっている。
「うしし、ドレス団長がしっかりチューニングしてるから大丈夫だぜ!」
「ピーキー過ぎるかもしれないけどな!」
ドワーフたちは嬉しそうな顔をしているが、とても正気とは思えない。
燃え吉は前回、消滅しそうなほど大変だったことを思い出す。
「む、無理でやんすよ!」
「乗らないなら、帰れ、ダンジョンに」
不安になった燃え吉は抗議するも、ララには取り付く島もない。
冷徹なまでに断られるのだった。
「燃え吉が乗らないのなら、……もん吉、行けるか?」
ララはそういうと、近くになぜか近くにいた珍しい動物を掴み上げる。
燃え吉が乗らないのなら、その動物を乗りこませるというのだ。
もん吉という名前はその場で適当につけただけである。
ウキッキキキキキイキぃ?
その珍獣はけたたましく鳴くがララは聞く耳など持たない。
彼女が試しているのは燃え吉の覚悟なのである。
ドワーフたちの視線が燃え吉に集まる。
「あ、あっしが乗るでやんすぅうううう!」
しばしの沈黙の後、燃え吉は答えた。
そして、サイクロプスどころかモンスターさえも焼き払ったのはまた別のお話である。
【魔女様が発揮された能力】
聖なる湯+薬草湯:魔女様のお湯にリリアナの聖なるエネルギーとエリクサーの薬草をブレンドした、効果マシマシのお湯。今回は女神の涙という魔力増強の宝石までもあわせた。普通の人間が入ると効果がありすぎて天国にいくことになる場合もある (比喩ではない)。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「地獄みたいなにおいのする邪悪な水……」
「メテオ、ドレス、魔女様を責めてもいいと思うよ……」
と思ったら
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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
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