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【WEB版】灼熱の魔女様の楽しい温泉領地経営 ~追放された公爵令嬢、災厄級のあたためスキルで世界最強の温泉帝国を築きます~【書籍化+コミカライズ】  作者: 海野アロイ
第11章 魔女様の独立国家の作り方! 悪い魔族をふっ飛ばして、もののはずみで独立宣言しちゃいます
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189.魔女様、ベラリスのしたことに『久しぶりに』キレる。そして、ついに新技を開発してしまう


「ふん、愚か者め、魔族が人間に手を貸すとは!」


 エリクサーがサジタリアスの人たちを治療していると、あの空飛ぶ魔族の憎まれ口が聞こえる。

 あのおじさんはまだ反省していないようだ。

 本当に性懲りもない。


「さっさと降りてきなさい! 今からならまだ罪は償えるわよ!」


「ふはははははは! 何を言っている! 貴様の相手はベラリス様だ! 生まれてきたことに絶望するがいい、人間どもよ!」


 私の言葉をおじさんは断固拒否。

 そして、ベラリス様とやらを呼び出すとのこと。

 ふぅむ、あの魔族一人だけではなかったってことか。


「ひぃいいい、奴が来るぞ!」


 エリクサーの悲鳴が響く。

 そういえば、彼女はこう言っていた。


 二人の魔族に村を襲われた、と。



「……貴様、面白い技を使うな。驚かせてもらったよ」


 そして、城の破壊された一角に現れたのが、そのベラリス様とやらだった。

 その姿は人間の少女のように見える。

 でも、頭には魔族特有の角が生えていて、目は緑色に光っている。


「……は? え? うそでしょ」

 

 しかし、私はそんなふうに冷静に観察するどころの騒ぎじゃない。

 だって、私の目の前にいるのは。


「ミラク? あなた、ミラクだよね?」


 そう、目の前にいる、その【魔族】は私の学生時代の親友、ミラク・ルーだったのだ。

 眼鏡をかけてはいないけれど、私は彼女のその顔をしっかりと覚えている。


 実家を追放されて半年以上たち、久しぶりの再会。

 それがまさかこんな形になるなんて。


 どうして、こんなところにミラクが?

 どうして、彼女がサジタリアスを襲っているの?

 ミラクはそもそも魔族だったの?

 

 私の頭の中で思考がぐちゃぐちゃに回っていく。

 どうして、どうしてと考えるだけで、胸が苦しくて痛い。

 

 そして、私はふたたび、ぴんと来るのだった。



「グレた……!? ミラク・ルーが、グレちゃった!?」


 人間にはおそろしい時期がある。


 それは思春期。


 14歳ぐらいになると、人はこの世のものがすべて憎らしく思えたり、あるいは、自分にものすごい闇のパワーがあると実感したりするのだ。


 ミラクの場合、不良になるのを選んだのだろう。

 そして、どうにかこうにか魔族のまねごとをやっているのだ。

 たぶんきっと、そうだ、そうにちがいない。


 思えばミラクは14歳、どんぴしゃの年齢のはず。


 私はふがいなさに拳を握りしめる。

 彼女の近くにいれば道を踏み外す前に支えてあげることができたのに。

 一緒に黒闇波紋(ダークストレングス)の継承者とか言って、笑い合っていられたのに。


 彼女を更生させるのも私の責任なのかもしれない。



「魔女様!! やつこそが魔族です!」


「そいつは危険ですよ!」


 後ろから聞こえる、辺境伯やレーヴェさんの言葉。

 もはや叫び声に近いことからも、危険な存在なのだろう。


 確かにミラクのスキルは賢者、すなわち膨大な魔力を持っている。

 彼女が暴れまわったら周りの人を傷つけるのは確かだよね。


「大丈夫、私に任せて」


 それでも、私は歩み寄るのだ。

 今だって彼女の親友のはずだから。



「……死ねえっ!」


 ミラクは対話を拒否するように、私に城壁の断片を飛ばしてくる。

 それは悲しさと怒りの入り混じった攻撃。

 普通にしていたら肉も骨もずたずたにされるだろう。


 だけど、私はひるまない。

 こういうものはもう役に立たないってわかっているから。

 

 じゅじゅじゅっと音がして、城の破片は瞬時に蒸発。


「ミラク、どうしちゃったのよ!? あんた、そんなことする子じゃなかったじゃん!」


 私は魂から会話をするのだ。

 必ず、彼女が自分を取り戻してくれることを信じて。



「ふはははははは! 何を言ってる、愚か者め! その小娘の体はベラリス様に捧げられたのだ! もはやもとの人格など残ってはおらぬ!」


「捧げられたって何よ!?」


「ベラリス様が乗っ取ったのだ! 愚か者め!」


 しかし、空飛ぶ魔族おじさんの言葉がすべてを変える。 

 つまり、どこかの魔族がミラクの体を奪ってしまったのだ。


 そんなこと、そんなこと、許されるわけがないじゃない!!


 私の中でぷちっと音がした。

 何かの鎖が切れるような、外れるような、そんな音が。



「……絶対に許さないわ、あんたたち」


 私は外道な行いをしてくれた二人の魔族をきぃっとにらみつける。


「理想の自分になりたいのなら、そこにいるシルビアさんみたいに魔力操作で理想の体を手に入れなさいよぉおおおっ! 人の体を乗っ取るなんて、そんなの……ふざけるな……」


 生きていれば理想の私と現実の私のギャップに苦しむことはある。

 それでも、みんなどうにかこうにか折り合いをつけて生きている。

 ある人は能力を磨くことで、ある人は魔力操作で。


 それなのに、この魔族のベラリスがやったことは他人の体を奪うという安易な方法。

 確かに可愛い女の子になりたいっていう気持ちはわかる。

 もう一度、14歳からやり直したいっていう気持ちもわかる。

 

 ……だけど、こんなの許されない、許されちゃいけない。



「おいっ、シルビアが倒れたぞ!? 救護班、早くしろ!」


「あわわ、いきなりミニビアになってるのだ!?」


 後ろの方ではシルビアさんが魔力切れか何かで倒れたという声。

 ますます許せない。

 シルビアさんのためにも、私はこいつらにお灸をすえなきゃいけない。

 


「ここじゃ物が壊れる。城の外へ来なさい……久しぶりに……キレちゃったわ。死ぬほど嫌いだわ、あんた達みたいに一方的にふるまう奴らが……」


 とはいえ、私の頭はいつになく冷静だった。

 こんなところで戦えば、お城が追加で破壊される可能性が高い。


 私はシュガーショックに乗って、城から離れた場所に移動する。

 そこは見事なぐらいに更地になっていて、地面に穴が開いても大丈夫だろう。



「ますます面白い。この時代にもいるようだな、おかしなスキル持ちが。しかし、お前程度が私をどれぐらい楽しませてくれるかな?」


 ミラク、いえ、ベラリスという魔族は不敵な笑みを浮かべて、私の指定した位置まで飛んでくる。


 その顔と体はミラクそのまんまだけど、その性格はやけに戦闘的だ。

 クレイモアやハンナみたいに戦うことを純粋に愛しているって感じの目つき。

 

 だけど、やってはいけないラインを超えたら、天に代わってお仕置きするしかない。



「人間よ、貴様ら軟弱極まりない存在だ。深淵の蝙蝠(アビスフラグメント)!!」


 ベラリスは背中に真っ黒な円を発生させる。

 そこから現れたのは大量の蝙蝠。

 それは私とシュガーショックをばばばっと覆い隠してしまう。


「人間よ、どうして魔族がお前たちよりも優秀なのか教えてやる。お前たちは浮かぶことさえできない。例えば、こうなれば何をすることもできないのだ!」


 奴がそういうと、私の体は一気に空に舞い上がる。

 私の体を覆う真っ黒な蝙蝠は特殊なものらしく、私が熱鎧を作動させていても燃えてくれない。

 魔法かなにかでてきているのだろうか?

 そうこうするうちにどんどん舞い上がり、そして、突然、蝙蝠が消えた。



「ひきゃぁああああ!?」


 当然、空に放り出された私は直立姿勢でそのまま落下する。

 その先にはサジタリアスのお城。

 あの魔族のやつ、性格最悪。

 城の上に落下させようとするなんて!



「ふはは! お前の自慢の聖獣は封じさせてもらったぞ!」


 奴の言うとおり、シュガーショックは荒野で蝙蝠に襲われ必死にもがいている。

 なんていうか、背中にノミがいて、かゆいかゆいってやってる感じ。

 これじゃ私のことを助けにこられそうにない。



 だけど、私には奥の手があるのだ。

 着地する瞬間ぐらいに足の裏に熱を込めれば反動でどうにか無事に済むかもしれない。

 

 うぅむ、それだとサジタリアスのお城が壊れちゃうかな?

 なんせ結構な高さからの落下なのだ。

 ある程度、大爆発させないと無理だよね。



「魔女様ぁぁあああ! 私のところに来てくださぁああい!」


「大丈夫、打ち返してやるのだぁあああ!」


「何言ってるんですか! 私ががつんとライト方向にやります!」


「あたしの剣なら一発で場外なのだ!」


 しかも、ハンナとクレイモアが着地地点に集まっている。

 あわわ、打ち返すってなによそれ。

 どいて欲しいし、クレイモアのでっかい剣で打ち返されたら絶対死ぬ。


 ……いっそのこと、こいつらごと爆発させる?


 いや、いや、いくらなんでも、それはダメだよね。


 どうにか、どうにかできない?

 

 私の体を浮かせてくれる方法はどこかにない?

 

 どこかに、どこかに、温めて、浮かぶ方法が。


 ぼわぼわぼわっとスカートが膨らむ。

 ドレスを裁縫してくれたララいわく、「特殊な素材を入れているから、どんな強風でもめくれ上がることはない」とのこと。

 ありがたいけど、やたらと膨らんで変な感じ。

 

 これってまるで……、そう、気球にそっくりだ。

 王都にいた時、気球の実験を見たことがあった。

 下から空気を温めることで、ものが浮くとかいう実験。

 

 ……そっか、空気を温めれば浮くんだ。

 


「どぉおりゃあぁあああああ!」


 私は背中や足元に思いっきり熱を込める。

 お願い、通じて!



 どどっどどどどっどどどどどどどどど!!!



「はへ?」


 そして、気づいた時にはドレスのスカートから大量の炎らしきものが出ているのだった。

 よぉく見ると、私の靴の下からも小さく炎が出ている。


 スカートも靴も焦げていないみたいだけど、なんなのこれ。

 幸運なことにスカートはめくれ上がったりすることはなく、そのまんまの形をキープ。

 炎のおかげで多分、スカートの中を見られることはなさそうだ。これ、すごく大事。


「浮いてるじゃん!」


 すごいよ、熱の力!


 私は城に衝突せずにすんだのだった。

 しかも、口から破壊光線よりかっこいいでしょ。



「な、なんだと!? 貴様、どうして、飛べるぅうううう!?」


 あの性格の悪いおじさん魔族が驚きの声をあげる。

 理由は簡単。

 空気は温めれば膨らんで、もの持ち上げる力になれるのだ。

 人間は飛べないものだって思わないでほしいわ。



「ふふふっ、これって楽しいかも!」


 十秒もたてば、私は自分の体を十分に制御できるようになった。

 方向転換のためには足裏の炎の調節が大切らしい。

 これなら、あのベラリスとも渡り合えそうな気がする。


「さぁ、今度はこっちの番よ!」


 私はミラク、いや、ベラリスの方へと一気に飛んでいくのだった。

 待っててね、ミラク、絶対にあなたを取り戻して見せるわ。




◇リース王国にて


「と、飛んでます!」


「飛んでる……」


 絶界魔法陣を崩す人物が現れた以上、もう何にも驚かないと女王は決意していた。

 しかし、それはものの見事に崩されてしまう。


 王都に浮かぶ巨大なスクリーンの中には、スカートから大量の炎を出して空を飛ぶ人間が映し出されていたのだ。

 

 飛翔魔法あるいは浮遊魔法とも呼ばれる、その技法は繊細な魔力操作を要求する。

 そのため、空を飛べる魔法使いは人間界にはほとんど存在しなかったのだ。

 例外として、ごく少数の天才が血のにじむような鍛錬を積むことで、それが可能になるのだった。


「わ、私以外に飛翔魔法を使うだと? し、しかし、何なのだ、あの髪は!?」


 飛翔魔法を使うことだけが女王を驚かせたわけではない。

 もっと驚いたのは、その魔法の使い手の少女である。


 その黒髪の中には火炎のように真っ赤な髪の毛が揺らめいていた。


 その色を見ているだけで、女王の心はひどく揺さぶられる。

 歴戦の彼女でさえ、動悸が収まらない。

 女王は固唾を飲んで戦況を見守るのだった。



【魔女様の発揮した能力】

熱飛行:熱の力を利用して体を浮かばせる飛行術。通常、人間は魔力で浮かぶことはできないが、魔女様はそれを魔力ゼロの状況で実現。ちなみにぎりぎり見えそうであるが、凝視すると目がやられる。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「シルビアさんに盛大な流れ弾が……、息できてるのか?」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークやいいねもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] This way…
[一言] シルビアさんに流れ弾の直撃弾が… ん?言葉が矛盾しているような…まあいいか
[一言] 魔女様って魔法使えんのだけど、このまま勘違いさせておいた方が面白い…かな?
感想一覧
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