188.魔女様、エリクサーのために仲間パワー(含む:脅迫)で人間と魔族の壁をぶっ壊す
「魔女様のご到着ですぅうううう!」
シュガーショックに乗ってサジタリアスに到着すると、ピンク色のドームは消えていた。
はてさて、あれは一体何だったんだろう。
きれいな色をしていて、いかにもイルミネーション風だったんだけど。
「ユオしゃまぁあああああああ!」
まっさきに駆け込んできたのは、リリだった。
ボロボロの服で、なんだかとっても苦労してそうな顔。
「ユオしゃまぁ、お待ちしておりましたぁああああ、ひぐっひぐっ」
リリは涙を流して泣き叫ぶ。
いきなり真っ暗にされて、魔法陣なんかで脅かされたらたまったもんじゃないよね。
「リリ、よく頑張ったね。えらいよ。あなたを誇りに思うよ」
私は彼女の背中をとんとん叩く。
彼女は何度も私の名前を呼んで、わぁわぁ泣いているのだった。
「やっと登場なのだ!」
「お待ちしておりましたぁ!」
それからクレイモア、クエイクと続く。
服がボロボロだけど、なんとか無事でよかった。
まったく、あの魔族のおじさんにはしっかりお説教してあげなきゃ。
「うしし、黒髪魔女のあれすごかったのだ。空をどぎゅんと貫いて、でんせつの化け物みたいだったのだ!」
「クレイモア、その話はしてはいけないんです! 口からががぁーっとか言っちゃダメです!」
どうやらクレイモアはあれを私の仕業だと見抜いたみたい。
さすがは剣聖、彼女でなければ見逃しちゃうだろう。
だけど、すぐさまハンナが訂正に入ってくれる。
いや、訂正っていうか、盛大にばらしてない?
「えぇ? どういうことなのだ?」
「ほら、魔女様は今、あの鉄の目隠しで別の人になっているのです」
「あぁ、あのかっこいいやつ。ふぅむ、黒髪魔女はこの城にくるといっつもあれをはめるのだな」
クレイモアは腕組みをして、うんうん頷く。
よぉし、これで大丈夫そうだ。
「魔女様! 助かりましたぁああああ!」
「ありがとうございますぅうううう!」
それなのに。
どういうわけか、辺境伯とレーヴェさんも私の名前を叫びながら現れる。
おのれ、クレイモア、おしゃべりが過ぎるよ!
「あのぉ、失礼ですが、私はただの通りすがりです」
「は? いや、あの、魔法陣を破壊して空に穴を……」
「私はと・お・り・す・が・りです!!」
辺境伯たちが分かっていないようなので念を押す私。
感謝してくれるのは嬉しいけど、今の私は魔女じゃない。
いや、そもそも魔女じゃないけど。
「ひぃいい、そ、その通り! 親切な通りすがりの人です!」
「ありがとうございましたぁああ! 通りすがりの人様!」
私の意思が通じたのか、二人は納得してくれたようだ。
はぁよかった。
僻地の村の領主がまたしゃしゃり出てきたとか思われたくないし。
「それにしても、かなりひどい有様ですね」
周りを見回すと、私はその惨状に驚いてしまう。
城壁の一部は崩れ、沢山の破片が転がっている。
けがをした人、具合が悪くて倒れている人もいるようだ。
向こうの方では村長さんが真っ白な灰みたいになっているのが見えるし。
まさか戦いながら天寿を全うしてたりして……。
じわじわと嫌な予感がする。
「そうだ! エリクサー、薬草を持ってきてたよね。みんなに配ってあげて!」
こういう時こそ、備えあればうれいなし。
エリクサーは村を出発するときに希少な薬草をいくつも持ってきていたのだ。
それに途中で足止めを食らった時も辛抱強く採集していた。
「おぉっ、そうだったのじゃ! 人間よ、これを使うがよい! 頭がしゃっきりして、疲労が飛ぶのだぞ」
植物に詳しい彼女の薬草の効果は折り紙つきだ。
きっとお城の人たちをすぐに回復させてあげられるだろう。
ふくく、人間に強い不信感を持っていた彼女だったけど、変わるものだなぁ。
「ひぃいいい、こ、このものは魔族ではないか!? なぜ、この城に!?」
しかし、恐れていたことが起きてしまうのだった。
「あわわわわ、やばいのじゃ、まずいのじゃ」
そう、あまりにも忙しかったので、エリクサーは偽装魔法をつかわずに、そのままの姿で城に来てしまったのだ。
つまり、いきなり魔族が目の前に現れたって構図である。
「おのれ、魔族め! よくもサジタリアスを!」
「ゆ、許さんぞぉおお!」
「ユオさん、悪いけど、こいつは敵よ! 話を聞く気にはなれないわ!」
城を壊された騎士団の面々は憤怒の表情。
問答無用で斬りかかろうとさえしている。
シルビアさんも魔法の詠唱を始め、一触即発の雰囲気。
魔族だからって人間に必ずしも敵対するわけじゃない。
それが分かっているのは、はっきり言って、私の村の一部の人たちだけだ。
だけど、エリクサーの優しさと信頼を踏みにじるわけにはいかない。
「みんな、話を聞いてください。この子が私を運んでくれたんです。この子がいなかったら、あのヘンテコ魔法陣だって壊せなかったんです」
私はエリクサーをかばうべく大きな声をあげる。
この世界には優しい魔族だってたくさんいるってことを伝えなきゃいけない。
それが彼女に助けられた私の使命でもあると思うから。
「大切なのは人間か魔族かってことじゃなくて、目の前の人に親切にできるかってことです。どうか私を、彼女を信じてください!」
もちろん、私の言葉は一方的かもしれない。
悪い魔族に傷つけられた人に届くかわからない。
だけど、魔族と人間の負の連鎖はどこかで断ち切らないといけないわけで。
「お父さま、彼女には危険がないと保証いたします!」
事情を知っているリリが叫ぶようにして駆けこんでくる。
彼女は辺境伯の娘だ。
その言葉ならみんな耳を傾けてくれるかもしれない。
しかし、場の空気は凍ったまま。
辺境伯もレーヴェさんも苦い表情。
「二人ともいいのじゃ、いきなり魔族がのこのこと現れたんじゃ驚いても仕方のないこと。わしはもう帰るのじゃ、ユオ殿、お世話になったのぉ」
エリクサーは寂しげな表情でそう言う。
人間と魔族の間にはまだまだ大きな壁がある。
だけど、その壁は絶対的なものじゃない。
少なくとも、私は、私たちは彼女を本当に大切な仲間だと思っている。
「この小娘はいい奴なのだぞ! 言うこと聞かない奴はぐーぱんちなのだ、お腹だから大丈夫!」
「私からもお願いします。彼女はいい子です! ……聞く耳を持ってないっていうんなら、そぎ落とします!」
「この子、めっちゃ希少な薬草持ってきてはりますよ。この子のことは、うちの姉の命にかけて保証します!」
クレイモアとハンナ、それにクエイクも私たちに参加してくれる。
クレイモアとハンナのそれは懇願って言うよりも、脅迫に近いと思う。特にハンナのは怖すぎる。
それにクエイクはしらーっとメテオの命を差し出しているし。
「う、うぐぐ……。しかし、ザスーラ連合国の方針は、そのぉ、魔族は排斥するというものであってだなぁ……」
苦々しい顔をする辺境伯。
偉い人には偉い人なりの問題っていうのがあるのだろう。
「サジタリアス辺境伯様、私からもお願いしますじゃ。人間だ、魔族だの負の連鎖は我々の世代で終わりにしましょうぞ。トトキアにはわしから十分に言って聞かせます」
困惑の空気を一変させたのが、村長さんだった。
彼はハンナの隣で頭を深々と下げる。
ボロボロの鎧を着た老戦士の言葉は重く、ざわついていた空気が静まり返る。
そして、この村長さんの言葉が決定打になった。
「け、剣聖様が言うなら、俺は言うことを聞くぞ!」
「辺境伯様! 怪我人が続出しております! 今はその魔族の娘を信じましょう!」
次々と賛同者が現れ、空気が少しずつ明るくのなるのを感じる。
さすがは村長さん、生ける伝説。人望がものすごい。
「父上、ここは一つ特例ということで」
「うぐぐ……、わかった。とりあえずは今回限りだ! 魔族の娘に感謝して治療を受けよ!」
辺境伯は苦渋の決断といった雰囲気でエリクサーのことを認めてくれる。
村長さんの一押しと、そして、騎士団の人たちの一押しが効いたのだろうか。
「おじいちゃん!? ありがとぉおおおお!」
「ふふふ、かわいい孫娘のために一肌脱いでやらんとのぉ。疲れたのぉ」
ハンナは村長さんに抱き着くと、わぁんと泣き出すのだった。
さっきは耳をそぎ落とすとか言ってたけど、やっぱりかわいい女の子なのだ。
「よぉし、それなら大盤振る舞いなのじゃ! 皆のものに処方するぞぉ!」
エリクサーは弱っている人たちに薬草や毒消し草などをどんどん配っていく。
その手際は見事なもので、次々に顔色がよくなっていく。
さっきまで顔色の悪かったリリたちもだいぶ良くなったようだ。
私はそれを見て確信するのだ。
大切なことは、誰かに親切にしてあげたいっていう気持ちだということを。
そして、それをあの魔族にも分からせてあげなきゃと決意するのだった。
◇ リリ視点
「もう、ダメ……」
体から全ての魔力が抜け、体が少しずつひび割れていくような感覚。
もはや立っていることがやっとで、耳の感覚さえもおかしい。
私がここで結界をやめたら、サジタリアスは終わる。
でも、それでも、もう無理。
いくら気合を入れても、歯を食いしばっても、敵の魔族の力は強すぎてかないっこない。
あんなにたっぷりあった自信もどこかに行ってしまった。
しかし。
彼女は現れた。
猛烈な爆発をもってモンスターを蹂躙。
さらには青白い光で上空の魔法陣を破壊。
黒い霧さえどこかに吹き飛ばしてしまう。
そして、傷一つない優雅なドレスで登場した彼女は私を優しく抱きしめてくれる。
頑張ったねって言ってくれる。
私の体から失われた熱が、彼女の熱で満たされていく。
あぁ、私は生きてるんだって実感したのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今さらですけど魔女様の仲間、やばいの多すぎない?」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。






