186.魔女様、ご到着あそばすも、ことごとく知ったかぶりが外れる。リース王国の女王様は開いた口がふさがらない
「ちょっとぉおお、エリクサー、このトゲトゲ植物、燃やすけどいいよね!!?」
一難去ってまた一難とはことのことだ。
迷いの森での足止めされたあと、私達はトゲトゲの植物に絡め取られていた。
そのトゲ部分は鋭くて、危うく私達の服が破れそうになる。
もう、燃やすしかない。
素っ裸でサジタリアスに到着なんてしたら、一生の恥だ。
「森を大切にするのじゃ! こやつらは希少な水虫の薬なのじゃ! うぅむ、この魔植物は【とげとげ】じゃ! 普段はトゲトゲしいじゃが、褒めてもやっぱりトゲトゲしぃのじゃ!」
「はぁ!? それじゃ、救いようがないじゃない!? どこにそんな需要が」
つんでれだか、とげとげ、だか知らないが、植物にそんな性格があるのだろうか。
もはや燃やす以外に抜け出す方法はないと思うだけどなぁ。
植物をむやみに殺傷したくないというエリクサーの気持ちもくんであげたい。
私はため息をついて打開策を考え始めるのだった。
わぉおおおおん!!
その矢先、私達のところにあの白い狼がやってくる。
そう、私の乗り物かつペットであるシュガーショックだ。
クエイクたちと一緒にサジタリアスに行ってもらったはずなんだけど、どうやらお迎えにきてくれたようだ。
「シュガーショック! 偉いよ!」
つるに絡まった状況ながら、とりあえず顎の下をなでてあげる。
ふふふ、お迎えごくろうさま。
しかし、私達はといえば、不甲斐ない状況だ。
トゲトゲに絡まれて、容易には抜け出せない。
よし、ちょっとぐらいなら燃やしていいかな。
ぐるるるるるる……
様子を見ていたシュガーショックは、トゲトゲ植物に唸り声をあげる。
その顔は私から見てもちょっと怖いぐらいである。
するとどうだろう。
私達に絡んでいた植物はすすすーっといなくなってしまうではないか。
なるほど、トゲトゲしいのには威嚇すればよかったのか。
「ふぅむ、聖獣はすさまじいのぉ。厳しさも必要ということじゃな」
エリクサーは感心の声をあげる。
確かに、もうちょっと厳しく植物に接することも大事だと思う。
そういう優しいところもエリクサーのいいところではあるんだけど。
優しいといえば、リリは大丈夫だろうか。
彼女もクレイモアやハンナと一緒にサジタリアスに向かっていったのだ。
人一倍気の弱い彼女のことだ。
モンスターの群れを前に失神しちゃったりしていないだろうか。
でも、たぶん、きっと大丈夫だろう。
デスマウンテンの一件以降、彼女の心はめきめきと強くなってるって気がするし。
「よぉし、シュガーショックに乗っていくよ!」
「おぉっ、これは速いのじゃ! いや、速すぎるのじゃぁあぁああああああ!?」
そんなわけで、私達はシュガーショックに乗り込む。
森を風のように駆けるのは怖い。
だけど、それ以上になんだか快感だった。
ごめんね、エリクサー。
◇
「な、なにあれ? 何が起きてるの?」
森を抜けると、サジタリアスの城壁が目に入る。
しかし、その光景が異様なのだ。
今は昼下がりのはずなのに、サジタリアスの周囲だけ真っ暗なのだ。
しかし、それにも関わらず、お城の上には暖色系の光のドームができている。
そして、その上空には大きな魔法陣。
見たこともない景色に私はびっくりしてしまう。
そして、ピンとくる。
あれはイルミネーションってやつだ、と。
それは光魔法を使って街や城を彩る飾りで、お祭りの日にだけ施されていた。
私はリース王国の王都に住んでいた頃のお祭りを思い出す。
色とりどりの光が街全体に溢れ、市民たちはうきうきわくわくと楽しんだものだ。
驚くべきことは、女王様の夜の魔法。
女王様は魔法で昼間のうちから夜空を出現させていたのだ。
その見事さに皆が皆、女王様を褒め称えたものだ。
だから私は知っている。
魔法で夜を出現させることができるってことを。
おそらくサジタリアスはモンスターを撃退して有頂天になったのだろう。
昼間なのに夜っぽくなる魔法をあの上空の魔法陣で作り出して、あのきれいな光のドームでお祝いをしているのだ。
ふふふ、王都のとは違うけど、案外、おしゃれじゃん。いい感じ。
「ふぅむ、違う気がするのぉ。わしは猛烈に嫌な予感がするんじゃが」
私の推察にエリクサーは疑問げに首をかしげるけれど、人間社会のことは私のほうが知っている。
ふふふ、こう見えても王都育ちの都会っ子ですもの!
さぁ、私達もお祭りに参加しよう!
りんご飴食べたい!
うごがぁあああああああ!
そう思ったのもつかの間、サジタリアスに沢山のモンスターが向かっているのが見える。
あいつら、性懲りもなくサジタリアスを襲おうっていうつもりらしい。
せっかくお祭りをやっているって言うのに、水を差すようなことをしちゃいけないよね。
屋台が早く閉まっちゃうかもしれないし。
内政不干渉っていうのが私の基本的な方針。
だけど、私にはあれがある。
リリの婚約破棄の時につけていた鉄の目隠しだ。
これで目を隠したら素性がバレないし、ちょっとぐらいモンスターをやっつけても大丈夫だよね。
「シュガーショック、モンスターの前に割り込んで!」
わぁおおおおおおんっ!!
号令をかけると、シュガーショックは再び風のように走る。
それはモンスターたちのドタドタしたブサイクな走り方とは大違い。
まさに走るために生まれてきたかのような走り方なのだ。
「ひ、ひぃいいい!?」
エリクサーは悲鳴を上げるけど、ちょっとだけ我慢してね。
すぐにサジタリアスに届けてあげるから。
近づけば近づくほど、サジタリアスの城の周りは真っ暗だった。
それになんだかしっとりして、変な感じ。
じめっとしているというか、霧っぽいというか。
ふぅむ、これが夜っぽいものを作り出す魔法なのだろうか。女王様のとは随分違う。
あんまり気分がいいものじゃないな。
まぁ、私はいっつも熱鎧を出せるから、カラッとしてて気分爽快だけど。
うごげぁああああああ!
そうこうするうちに、私の目の前には大量のモンスターたちがやってくる。
トカゲにアナトカゲに、イノシシに、牛に……、とにかく沢山。
おそらくは100体以上はいるんじゃないだろうか。
「あんたたち、お祭りの邪魔しちゃダメでしょ!」
私は横一列に細長い熱平面を生み出し、モンスターに向けて放出する。
この間の反省を踏まえて、森にぶつからないように注意するのも忘れない。
すなわち、ちょっと角度をつけて地面にぶつかるように細工したのだ。
結果。
ちゅどがぁあああん!!!!!
「あれ、爆発した!?」
そう、なんだかよくわからないが、爆発してしまったのだ。
私の予想ではしゅぼっと消えるはずだったのに。
ふぅむ、私の気が立っていたのが原因だったのだろうか。
ちょっと派手な感じの爆発になってしまった。
相変わらず使い勝手の悪いスキルだよなぁ、これ。
とはいえ、モンスターは全部いなくなってしまったし、これでサジタリアスの面々も安心してお祭りを続けられるだろう。
さぁ、お祭りに参加しよう。
ふふふ、異国のお祭りってどうしてワクワクするんだろうね。
「うげげ、これって、あれじゃん!?」
お城近くを見渡すと、私はあることに気づく。
なんと、城壁の近くの方にあの木の化け物が倒れていたのだ。
私の温泉リゾートの入り口に使っているやつである。
しかも、ここに倒れているのは私が倒したやつよりももっと大きい。
ピクリともしないから生きてはいないのだろう。
改めて見ると、やっぱりこれってただの木だよね、うん。
……しかし、なんでこんなところに倒れているんだろうか。
「あ、わかった!」
おそらくは辺境伯の仕業だろう。
あの人、温泉リゾートであいつの顔を見て驚いていたけれど、内心、羨ましくて仕方がなかったに違いない。
そこで自分たちでも大型の素材を手に入れたのだ。
もう、一言言ってくれれば村のを無料であげたっていうのに。
でも、大きなのが手に入ってよかったよね。
「ふぅむ、明らかに邪悪なにおいがするがのぉ」
エリクサーは相変わらず眉間にシワを寄せるけれど、こいつはあぁ見えても高級素材なのだ。
たぶんきっと、どこからか入手したに違いない。
さぁ、お祭りだ!
綿あめ食べたい!
「き、貴様ぁあああ、何者だぁ!?」
心を躍らせるのも、つかの間、私に怒声を浴びせる人がいる。
ふと空を見上げると、真っ黒い闇の中におじさんが浮かんでいるではないか。
えぇえええ、どういう原理?
聞くところによると、浮遊魔法というのは使える人間が5人もいないという。
ってことは、この人がその一人?
しかし、このおじさん、やたらと怒ってるし、なにか悪いことをしちゃったのだろうか?
もしかして、さっきのモンスターって何かの余興だったとか?
「や、奴はうちの村を襲った魔族じゃ!」
後ろの方からエリクサーが叫ぶ。
なんと、この浮かんでるおじさんはエリクサーの村を襲った犯人だという。
ってことは、この魔族がモンスターでサジタリアスまで襲っていたってことらしい。
こいつのおかげでエリクサーの村の人達も、サジタリアスの人達もひどい目にあったのだ。
そう考えると、ムカムカしてきた。
このおっさんにはお説教してあげないと気がすまない。
「あんた、降りてきなさいよ! モンスターもいなくなったし、あんたの野望も終わりよ!」
このおっさんのモンスターは私がさっきやっつけた。
かなりたくさんいたのを爆発させたから、もう手駒はないと見ていいだろう。
私は彼に尋ねなければならない。
どうして、こんなひどいことをしたのかと。
あの魔族は何らかの裁きを受ける必要があると思うし。
「くはははは! 裁きだと? 何を粋がっている! サジタリアスはもう終わりだ! 見よ、あの魔法陣を。まもなく城もろとも吹っ飛ぶのだ!」
おっさんはそう言ってやたらと笑う。
結論から言えば、私の言葉に従うつもりはないとのことだ。
それどころか、あの上空の魔法陣はサジタリアスを破壊するためのものだったらしい。
えぇええ、あれってイルミネーションじゃないの!?
……なんていうことでしょう。
私は自分の盛大な勘違いに恥ずかしくなる。
確かに黒い雲の上に赤い線で魔法陣を描くなんて、ちょっと趣味悪いかなぁとは思ってた。
分かってはいたんだよ、ちょっと違うかなぁって、うっすら感づいてはいたんだよ? 本当だよ?
「だから言ったのじゃ! いるみねぇしょんではないと!」
うぅぅ、エリクサーは私のことをジト目して見てくる。
人間社会のことは私のほうが知っているなんて、鼻高々だったのがバカみたい。
は、恥ずかしぃいいいい。
ゆ、許さないわ、この魔族!
私に恥をかかせてくれたわね!
私は邪悪な魔族のおじさんに宣戦布告するのだった。
◇ リース王国にて
「じょ、女王様、あれは、あれは……」
リース王国の王都に現れた魔法の映像を見て、女王の側近は声をあげる。
そこには一人の魔族が映し出され、魔王としての君臨を高らかに宣言していた。
100年前の魔王大戦のときと同じような構図であり、大陸全体を揺るがす大事件だった。
魔族と確執のある女王も険しい顔でその映像を見ていた。
「これは、ま、まことのことなのか?」
しかし、女王たちが驚いたのは宣言の内容だけではない。
問題はそこに映し出された魔族の姿にあった。
「あやつは……ミラク・ルーではないか」
そう、映像の中に現れたのは、リース王国のミラク・ルーだったのだ。
魔法学院に在籍しながら、女王のもとで魔法の研鑽を行っている人物だ。
ただし、ここ数週間、姿を見せていなかったのも事実で、どうしたものかと女王は身を案じてもいた。
それがこんなところでひょっこりと魔王になって現れたのだ。
「ど、どういうことだ!? サンライズは若返るし、ミラク・ルーは魔王になるし!?」
女王は普段のクールさを装うことさえできない。
彼女は困惑に顔を歪めるのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「魔女様、それって八つ当たりっていうんですよ……」
「血祭りが好きってこと……?」
と思ったら
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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
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