178.サジタリアス攻防戦:剣聖のサンライズ、迫りくるモンスターの大群を蹴散らし続ける。そして、あいつらもやってくる
——場面はユオが魔族の村に到着する、その前日にさかのぼる
「父上、モンスターの大群です! 見たことがないほどの異常な量です!」
サジタリアス辺境伯の息子レーヴェは父親リストの執務室に駆け込む。
その顔色は青白く、これが非常事態であるとリストは悟るのだった。
ここ辺境のサジタリアスは禁断の大地と接している、人間側最北端の防衛都市の一つだ。
これまでも沢山のモンスターが襲来してきたし、そのことごとくを撃退してきた。
レーヴェも最近ではめきめきと腕を上げており、辺境の魔物の出現に声をあらげることなどほとんどなかった。
「大群だと!? 規模はどれぐらいだ?」
「少なく見積もっても千はいきます!」
しかし、今日の相手は明らかに異なる。
これまでは多くて数十匹の魔物の群れが現れるだけだった。
千を超えるモンスターの大群など、前代未聞の状況だ。
まるでダンジョンからの魔物の大氾濫であるスタンピードという現象を示しているかのようだった。
まさか辺境の村のダンジョンからのスタンピードだろうか?
「いえ、ユオ様の村の方角から来ているわけではないようです! どちらかというと、敵は北北西の方向から来ており、どんどん増え続けています!」
「禁断の大地のモンスターが千体……。未曽有の危機というわけか……」
リストは城壁から、黒々としたモンスターの群れを眺める。
土煙こそ上がっていないものの、迫りくるモンスターの量が尋常ではないことがわかる。
サジタリアスの騎士団が迎撃するも、相手は一匹であっても油断できないモンスターたちだ。
人間一人がやすやすと押しとどめられるものではない。
リストとレーヴェは固唾をのんで状況を見守る。
「ご覧ください! サンライズが先頭に立ち、モンスターを圧倒しています!」
それでも異彩を放つのが、黄昏の剣聖サンライズだった。
彼は老齢でありながら、騎士団を鼓舞し、モンスターの群れに斬りこむ。
馬を自在に操る様子はかつての伝説を彷彿とさせるものだった。
当然、騎士団の士気もうなぎのぼりにあがる。
サンライズに訓練された騎士団たちは連携を取って魔物を始末していく。
「よし、サンライズに合わせて魔法部隊を投入せよ! 援護をしながら相手を削っていけ!」
リストの命令に合わせて、シルビアを筆頭とする魔法騎士団が投入される。
魔法使いたちは攻撃魔法・補助魔法をまんべんなく使い分けて、魔物の数をさらに削っていくのだった。
しかし、それでも、敵は多い。
陸ドラゴンやアークドラゴンをはじめとする凶悪なモンスターの姿も見える。
強力なモンスターの相手ができるのはサンライズだけであり、騎士団の面々は負傷し、城の中にどんどん運ばれてくる状況である。
サンライズは不眠不休の勢いで戦うのだった。
「辺境伯様、これは非常にまずいですぞ」
一晩明けて、モンスターの数が減ってきたこともあり、サンライズは剣と鎧を交換するために城へと帰還する。
皆が剣聖の獅子奮迅の働きに心を躍らせる。
しかし、当のサンライズの表情は険しかった。
「これはモンスターの大波でも、スタンピードでもありませんぞ」
サンライズはふぅーっと息を吐き、前線で感じたことを伝える。
「あやつらは明らかに組織されています。まるで魔物の軍勢です」
「魔物の軍勢だと? それでは、まるで……」
「はい、おそらくですが、敵の親玉は魔族でしょう」
リストもレーヴェも言葉を失ってしまう。
サンライズは魔族がモンスターを率いて人間側に攻めてきているというではないか。
人間側との不戦協定が結ばれて百年近くたつ。
もしも、魔族が組織的に攻めてきたというのではあれば、百年の協定が破断されたことになる。
それはすなわち魔族との全面戦争が勃発しかねないことを意味していた。
「もっとも、相手が魔王軍かは分かりません。ここ百年に何回かあった頭のおかしいはぐれ魔族の暴発かもしれません。それでも、難儀な戦いになりそうですがのぉ」
サンライズはかつて魔族と交戦したことが何度かある。
多くの場合、魔族はモンスターを使役し、ヒト族の生活圏を脅かしてきた。
ある時は辺境で、またある時は大胆にも都市域で。
彼は仲間たちと協力し、そのことごとくを斬り伏せてきた。
だが、それでも一筋縄ではいかない相手だ。
魔族の魔力・生命力は人間のそれを遥かに凌駕していた。
たとえ首を斬り落としたとしても、死なない相手などざらにいたのであった。
「それでは行ってまいりますぞ。うぅ、九十肩は辛いのぉ」
サンライズは肩をぐるぐる回し、首をぽきぽき鳴らす。
そして、再び、戦場へと降り立つのだった。
彼の視線の先には、雄たけび声をあげるモンスターの群れ。
おそらく千以上はすでに屠ったはずなのだが、その勢いは依然とどまらない。
つまり、禁断の大地から送り込まれていることを意味する。
「ハンナ、無事でおってくれよ」
サンライズは村に残した孫のことを思い浮かべるのだった。
◇ 魔族のベラリスとドグラ視点
「ほほう、敵にも面白いものがいるのではないか。あれはまるで百年前の生き残りのようだ」
最初に反応したのはベラリスだった。
人間の少女の体を乗っ取ったその魔族は、宙に浮かびながら戦況を見守っていた。
彼が注目したのは、戦場の中心で一人気を吐く老人の姿だ。
顔に刻まれた深いシワから、その年齢はおそらく90を超えているだろう。
それなのに一振りの攻撃で複数の魔物を攻撃し、あの巨大なアースドラゴンでさえ一刀両断にする。
その姿はかつて魔王大戦で魔族を屠ってきた、剣聖と呼ばれる人間の動きにそっくりだった。
剣聖のスキルは遺伝することも多いので、血縁の可能性もある。
「もしかして、あいつの息子か何かか? 運命を感じるな」
ベラリスは自分に傷をつけた過去の剣聖のことを思い出す。
そして、自分の血液が煮え始めるのを感じる。
強敵の出現に否が応でも、笑みがとまらない。
「問題ありません。こちらの戦力はさらに拡充しております。本日中にサジタリアスを落とすことができるかと。あの老いぼれは私にお任せください!」
その隣にかしずいているのは、ベラリスを解放した魔族、ドグラだ。
彼はベラリスの第一の臣下として、モンスターの軍勢を率いていた。
彼の手には特製の魔道具が握られており、その操作によってモンスターを操っているのだった。
「ここはお前に任せよう。あれは所詮は老いぼれだ。私がわざわざ相手をする価値もないだろう」
「ははっ! 必ずやいい結果をお見せいたします」
ドグラはベラリスの言葉に勢いよく返事をする。
彼には必勝の秘策が控えていた。
現状のモンスターの大群はあくまでもその一つにしか過ぎない。
ドグラは想像する。
サジタリアスを落とした時の人間側の絶望を。
都市の住民をすべて生ける屍に変えるときの達成感を。
そして、彼の両親を殺した、あの老人を八つ裂きにすることができることに、彼は無限の喜びを感じるのだった。
◇ リリアナ視点
「ひぃいいいいいい!?」
「ひきゃああああ!?」
「相変わらず、最高なのだぁあああ!」
「これ楽しいぃいい!」
ユオ様の村を出てから数時間。
シュガーショックは風のようなスピードで山を越える。
ユオ様の作ってくれたトンネルのおかげでデスマウンテンをぎぃんと通過。
シュガーショックに乗っていた私とクエイクさんは悲鳴をあげる。
クレイモアとハンナさんだけはどういうわけか笑顔。
これが楽しいとか人間として間違ってると思います。
「おぉっ、見えてきたのだぞ! ほら、あそこにモンスターがたくさんいるのだ!」
「本当です! あ、おじいちゃんが戦ってますよ!」
開けた場所に到着すると、北西の森の方から大量のモンスターが押し寄せているのが目に入ります。
おそらくは禁断の大地のモンスターだろう、とても強力な化け物です。
「それじゃあ、あたしは行ってくるのだ! ひっさびさの大暴れなのだ!」
「私だって負けませんよ! 今度はちゃんと死んでくれる敵ですからね!」
クレイモアとハンナさんはシュガーショックからひらりと飛び降る。
そして、ものすごい勢いでモンスターのところへ走っていくではありませんか。
すごく、元気。
「リリ様、味方の一部が潰走しています。怪我人も多いかもしれません……」
クエイクが戦場を指さして、つぶやくように言う。
彼女の顔は青ざめていて、その声は震えていた。
そう、サジタリアスは明らかにモンスターに押されている状況だったのです。
だからこそクレイモアとハンナさんの二人は急いで駆け出していったのでしょう。
騎士団には私の知っている人だってたくさんいます。
お兄様やお父様もケガをしているかもしれません。
私だって覚悟を決めなければ……。
「クエイクさん、急ぎましょう!」
私たちはサジタリアスの城へと向かいます。
私たちは私たちにできることをするのです!
「あきゃああああ!?」
だからといって、シュガーショックさん、城まで一気にジャンプしなくてもいいんですよぉおおおお!?
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「九十肩って、四十肩の数倍きつそうやな……」
「シュガーショックは微妙に言うことを聞かないよね……」
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